第35話 続く狂乱
今日で一応本編の連投を終了します。
光りに包まれてすぐに幼くなったティナが現れる。突然の事態に事情を知るクズハ以外が呆然となるが
「うむ、これで良いのじゃ。クズハよ、すまぬがそこの服などは後で洗濯しておいてくれ。」
「はい、お姉様。洗濯した服はお姉様のお部屋へ入れておきますね。」
そう言ってクズハはティナが脱ぎ散らした服を集めていく。そこで再起動を果たしたユリィが爆笑する。
「あーはははっー!なにそれぇ!ティナってば、いくら若い人が羨ましいからって……ってごめんってば、そんな目で睨まないでって……。ぷっ、くくく。」
笑うのを止められないユリィは遂にカイトの肩に座って大笑いしている。
「人の上で暴れるな。耳元で大声を出すな……。」
カイトは自分の耳の近くで大声を出すユリィを心底迷惑そうにしているが、ユリィはお構いなしであった。一方、クラウディアはブルブルと震えるだけでなんの反応もない。今、この瞬間までは。
「可愛らしいです!魔王様!」
音さえ無く、一瞬にしてティナの背後に回りこんで後ろから抱きしめるクラウディア。ティナでさえ反応できない一瞬の出来事であった。
「うわぁ、転移なしだったぞ。」
「え?ホント?」
小声で見たままを言うカイトに見えなかったユリィが聞き返す。が、そんな二人をお構いなしにクラウディアはティナの薄い胸に頬ずりする。
「やめるのじゃ!ああ、そこは!んぁ……。」
暴走したクラウディアによって体のあらゆる所を撫で回されて嬌声を上げてしまうティナだが、クラウディアは静止も聞かずにいつまでも撫で回す。
「あぁ……お美しい魔王様が幼くなられるとこんなに愛らしいお姿とは……。もう一生ついていきます!」
今ならカイトと戦ってもいい勝負が出来そうなほどの魔力―ただしピンク色―を撒き散らしながら、さらなる忠誠を誓うクラウディア。
「んうぅ……。……いい加減にせんかぁ!」
このままでは貞操が危ない、そう考えたティナは真っ赤になりながら、遂に全身から魔力を放出してクラウディアを強制的に吹き飛ばす。
「ああ!魔王様!どうかもう少しだけ!」
「もう貴様は黙るのじゃ!」
そう言って倒れこんでいるクラウディアを足蹴にするティナだが、クラウディアは段々嬉しそうになってくる。
「あ……これは……いいですね……魔王様!もっときつくお願いします!」
「は?……こうかの?」
若干強めに足蹴にするティナに更にクラウディアが注文をつける。
「ああ!いいです!できれば更に罵ってください!」
段々調子が乗ってきたティナは快くクラウディアの願いを聞き届ける。
「よかろう!……ほれ、これが良いのか?まったく、こんな幼いおなごに踏まれて喜ぶとは……。今代の魔王は変態じゃな……。これでは歴代の魔王様もさぞお嘆きのことじゃろう。これでは喜ぶだけか。仕方ない、もっときつくするしか無いようじゃな。」
「ああ!そうです!クラウディアは変態です!ですからどうかもっとお仕置きしてください!」
そう言ってクラウディアをゲシゲシと足蹴にするティナだが、クラウディアは非常に満足していた。
「これもひとつの主従愛なのでしょうか……?」
置いてきぼりを食らう三人。確かに主従共に満足しているので、問題ない……のかもしれない。
「さぁな……。」
心底どうでもいい、そんな気持ちがありありと表情にあらわれているカイト。
「今度やってみよっかな……。」
妖精らしい好奇心から自分もやってみようか考え始めるユリィ。
「オレはやらんぞ!」
踏まれて喜ぶ性癖なんて無いカイトは即座に否定する。どちらかと言えばティナをお仕置きしていることのほうが多いので、お仕置きする側の方が性にあっているのかもしれない。
「ええ~。たまにはいいじゃん。きっと違った視界が見えるよ?だから、ね?」
「あ、その際はぜひ、私もご一緒に。」
「やらないからな……。」
呆れるカイトだが、そこにフィーネから念話がやってくる。
『ご主人様、クズハ様とはお会いになられましたか?』
『ん?今一緒にいるが?』
フィーネからの念話に何事か、と思ったがすぐに思い出す。
『あぁ!すまん!すぐに戻る!』
「おい、そこの変態主従!朝飯だ!戻るぞ!」
そう言ってお楽しみの真っ最中の主従を強制的に終了させる。
「むぅ、楽しくなってきたところじゃったのに……。」
「はい……。」
主従は二人共若干未練がましかったが二人共尚も続けようとする。
「馬鹿、いくらここの時間が狂ってるといっても長居しすぎだ。これ以上いると外の面子に不審に思われる。……それと、ティナ。そんなにお仕置きに興味があるなら、してやろうか?」
カイトは一瞬でティナの後ろへと回り込み、耳元で小声で語りかける。ニタリ、といやらしい笑みを浮かべ、後ろからティナの薄い胸に手を伸ばそうとするカイトに、ティナが危険を察知。即座に行動を停止した。尚、外ではクズハが呼びに来てから20分程度しか経っていないが、中ではすでに半日程度が経過している。
「……ま、まあ、殆どは後ゴーレムに任せるだけで済むものじゃから、よいか。」
そう言って緑の髪の使い魔を呼び寄せて何やら指示を残していく。
「うむ、歌詞はこれな。……後、衣装は……」
研究開発の真面目な会話かと思ったカイトは聞こえてくるセリフにガクリと肩を落とし、ティナへとずんずん近づいていく。
「そんなことやってる場合か!」
スパン、という音を出してティナの頭上にチョップを降らせ、更にティナの首根っこを掴んで強制的に引きずっていく。
「ああ!まて!まだ終わってないのじゃ!あと、曲と振付はそこのパソコンに入っておるからなぁー!」
カイトは名残惜しそうに大声を上げるティナを無視してずんずんと進んでいく。
「はぁ。他になにか忘れ物は無いな?」
朝から疲れ果てたカイトは最後に確認する。ティナが何かを言いたそうに口を開きかけるが、即座に羽交い締めして手で口を塞ぐ。
「これ以上いらんことするなら、後でお仕置きだ。」
完全に据わった目をしたカイトにティナはコクコクと頷く。どうやら要らんことだったらしい。そうして一同は転移魔術で研究室を後にしたのであった。
「いや、悪い。部屋を確認しようと入ったら出られなくなるとは思ってなかった。」
食堂へ戻ってそう謝罪するカイト。
「うむ、まさか入って出られんとは盲点じゃった。」
ティナも同じ言い訳をする。これは打ち合わせ通りであった。
「いえ、此方こそ、戸締まりを忘れて申し訳ありません。いつもは鍵をかけているので、殆ど人の出入りは無いのですが……。」
逆にクズハに謝罪されたので他の一同は強く言えない。
「いえ、此方こそ本校の生徒がご迷惑をお掛けしまし……な!おい!天音!肩!」
雨宮がそう謝罪しようとしてカイトの肩の上のユリィに気づいて指差す。
「ん?私?」
指差されたユリィは首をかしげるがソラが補足する。
「ああ、センセは知らなかったっけ。えっと確かユリィって言う妖精でなんかカイトと一緒にいるら
しいっす。」
「は?なんで一緒にいるんだ?」
「本人曰く、なんとなく、らしいです。」
その言葉を肯定するようにユリィも頷く。雨宮も地球での妖精の印象から気まぐれか、と判断してスルーすることにした。が、更にスルー出来ない人物が一行の最後尾で入室した。
「きゃあ!なんて格好をされているんですか!というか、カイトくん、なんでそんなに平然としているんですか!」
そういって即座にカイトへ近づき目を手で覆う桜。最後に見えた桜の顔は真っ赤であった。
「あ、おい、桜、一体何があった?」
戸惑うカイトであるのだが桜はカイトの近くで大声を上げた。
「後ろの女性です!」
そう行って指差す―カイトには見えていないが―のは後ろの女性、つまりはクラウディアであった。
「おや?何かおかしいですか?」
「いや、どこもおかしくないと思うのじゃが……。」
そういって自分の身だしなみを確認するクラウディアはティナにも確認してもらう。豊満ながらも引き締まった肉体を殆ど布地の無い服で、重要な部分のみを隠している。淫魔族のサキュバスとしては普通の服である。が、当然地球出身の男性陣は目線を逸らすしか無い。
「ああ、生きててよかった。」
「くっそ、なんで俺、ケータイもってないんだ……。」
「いや、よく考えろ。この場にこれたことだけでもとんでもないラッキーなんだ。写メれないってことは他の奴は見れないってことだ!俺達はラッキーなんだ!」
生徒会の男子陣は、一瞬焼き付いたクラウディアの姿を脳内に永久保存することを決定する。が、そんな男性陣を見た楓ら女性陣は軽蔑の視線を送るが、男性陣は全く効果が無い。女子の侮蔑よりも美女の艶姿のほうが重要なのであった。桜田校長も居心地悪そうにしながらも年長者としてクラウディアへと頼んでみる。
「済まないが、お嬢さん。できればもう少し露出を抑えた服などをお召になってくれませんかな?」
言われた理由が理解できないクラウディアは小首をかしげた。
「はぁ。構いませんが、そんなに変な格好ですか?」
再度自分の格好を確認するが全くわからない。
「ああ、そういえばクラウディアさんはサキュバスですからね。」
そう行ってパーカーらしき服を取り出してクラウディアへと差し出すクズハ。
「そうですが、それがどうかしましたか?」
戦闘能力の高さから滅多に、どころか全く吸精行為を行わない上、吸精は掌をかざすことで吸い取るというサキュバスらしからぬクラウディアはよく忘れられるが、これでもサキュバスの中でも最高位の存在で、現魔王なのであった。
「いえ、学生さん方にはクラウディアさんの格好が刺激的すぎるのでしょう。日本にはサキュバスはいないそうですからね。」
「ああ、そういえばそうでしたね。では、羽織っておくとしましょう。」
さっきまでティナに足蹴にされて光悦に浸っていた姿はどこえやら、秘書的なクールな性格の美女として振る舞うクラウディアであった。クラウディアがパーカーを羽織って何とか全員が直視可能となり、ようやく朝食が開始されるのだった。
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