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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の一 ソラ強化編
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第467話 新たな力 ――問題発生――

 ソラの新武器作成についてアイデアが纏まった翌日から、オーアは鍛冶場に篭もりソラ用の武器の製作に取り掛かっていた。それから数日。実際にソラが試用してみる事になって、一つの問題が浮かび上がった。


「……なんっすかね……なーんか力が入りにくいんっすよ」

「具体的には?」


 奥歯に何かが詰まった様に歯切れの悪いソラの言葉に、オーアが詳細を問う。オーアがまず一番初めに取り掛かったのは、篭手だった。一番時間が掛かり、尚且つソラが居ないと繊細な調整が出来ないが故に、ソラが居る間に仕上げようと思っているのである。そして試作品が出来たのが、今日なのであった。

 ちなみに、この間ずっとソラも桔梗と撫子と共にオーアの鍛冶場に詰めている。フルプレートアーマーを作る対価として、彼女が使う道具や素材等をかき集めるべく使いっ走りを行っていたのだ。


「んー……詳しくは言えないんっすけど、なんか篭手に魔力を通す時に突っかかる様な、堰き止められてる様な……」

「成る程……小僧、一度加護を使って力の譲渡を行ってみな」

「はぁ……<<風よ>>」


 ソラはオーアに言われるままに、加護の力を篭手に集中させる。すると、更に違和感が強くなった。今度ははっきりと突っ掛かる様な印象を受けたのだ。それは横で見ていたオーアにもしっかりと把握できたらしく、彼女の方はきちんと問題と原因を把握していた。


「んー……成る程ね。どうにも魔石と相性が悪かったわけか」

「魔石の方っすか?」

「ああ、小僧は本来的には水属性が得意らしくてね。それで水系統の魔石にしたんだが……それで風の力を通すとそれが過干渉しちゃってるみたいだね」

「水属性が得意?」

「そっちは帰ってからミースにでも聞きな」


 オーアはソラの疑問をスルーして、どうするべきかの対応策を練り始める。専門家が居る事は専門家に任せれば良い、それが彼女の方針だ。まあ、と言うより、所属していた『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』全体の方針であるのだが。

 ちなみに、彼女が魔石との相性が悪い、と言った様に、本来鉱石等との相性が悪い、という言い方はオーアの言う魔石の属性との相性が悪い場合を指すのが正確である。なので、ソラが数日前に鉱石が合わない、と言ったのは間違いなのである。彼は自分の力と鉱石の相性が悪い、と告げたのであった。


「さて……どうするかな」

「やっぱ難しいっすか?」

「んー……と言うより、材料の方だね、問題は」


 オーアが顎をさすりながら、ソラの問い掛けに答えた。オーアの方には今のままでも幾つか代替プランは浮かんだが、いまいち乗り気では無かった。

 理由は様々だが、何より自分が気に入らないというのが大きい。完璧に出来る手立てがあるのに、それをしないのはいまいち気に入らないのだ。というわけで、オーアは結局自分が一番納得が出来る方法を取る事にした。


「んー……やっぱり取りに行くしか無いね。小僧、あんた武器は使えるんだったね?」

「そりゃまあ、一応は冒険者なんで……」

「代替品の片手剣貸してやるから、ちょっと魔石取りに行ってこい」

「へ?」

「冒険者だろ? 無い材料は自分達でかき集めてこい。基本だろ? じゃ、人員集めたらもう一回来いよ。その間に片手剣見繕っておいてやるから」

「んぎゃ!」


 オーアはそう言うと、ソラの尻を蹴飛ばして鍛冶場からたたき出す。そうしてがさごそと音の鳴る鍛冶場を尻目に、ソラは蹴飛ばされて痛む尻をさすりながら公爵家別邸に居るであろう他の面々に相談しに行くのであった。




「つーわけなんっすけど……」

「良し、行こう」


 そうして公爵邸に戻り、丁度居た全員に事情を説明した所、剣道部部長の藤堂が二つ返事で同意した。そんな藤堂に、ソラが目を丸くする。ほとんど考える事なく、即断だったのだ。


「へ?」

「最近戦闘も無く自己鍛錬だけだったからな。偶には戦闘をしないと、何時までもあの領域にたどり着けん」


 唖然となるソラに大して、藤堂が苦笑して告げる。確かに彼とて生きて来た時間の違いは把握している。把握しているが、それでも一歩でも近づきたいと思うのは当たり前だった。


「木更津、天ヶ瀬行くぞ」

「はぁーい」

「はい」


 藤堂の言葉を受けて暦は若干嫌そう――まあ、普通は活火山の中に入りたくは無いだろう――だったが、木更津は一つ頷いて立ち上がる。木更津は真面目そうな少年である。


「すんません」

「いや、いい。こういう理由でも無いと、奥に入れてもらえないだろうからな」


 藤堂が苦笑してソラの礼を受け入れる。実は里の更に奥にはドワーフ達が鉱物を取る為に使っている坑道があるのだが、そこには魔物も出没するし、場所によっては溶岩も流れている。耐熱の為の結界は展開されているが、それでも危険過ぎる為、腕に信頼の置ける冒険者か熱に耐性がある種族でないと普通は出入り出来ないのだ。


「まあ、お前はそれ以前に熱中症には気を付けろよ」

「あはは、わかってるっす。んじゃ、用意出来たらオーア族長の鍛冶場で集合お願いします」

「ああ」


 そうして、一度ソラも自室として与えられている居室に戻り、自身のフルプレートアーマーを装着する。ただし、今回は篭手は無しだ。それを見た由利が首を傾げる。


「ソラ、篭手はー?」

「ん? ああ、オーアさんから試作品借りる事になってる」

「試作品?」

「新武器」


 嬉しそうなソラが由利に告げる。秘密にしておきたい、と新武器については一切秘密にしているのだった。そうして、そんな嬉しそうなソラを由利は微笑ましく思いながら、二人は連れ立って歩き始めたのだった。


「ほら小僧、使いな。片手剣はウチの鉄とクロムの合金製だ。まあ、魔法銀(ミスリル)なんかも含んでるから、純粋な金属だけで出来た合金じゃない。使い勝手は問題無い筈だよ」


 一同が連れ立って鍛冶場にまで行くと、丁度ソラ用の予備の片手剣を見繕ったオーアが鞘入りの片手剣をソラに投げ渡す。

 ちなみに、鉄とクロムの合金はステンレス鋼と呼ばれて地球でも使われているが、魔法銀(ミスリル)を含んでいる為に地球のステンレスよりも遥かに強度が増していた。


「あれ……ちょっと重い?」

「それは諦めな。あんたが今まで使ってたのは中津国の玉鋼製。ウチとは作り方やら構造やら何から何まで違う」


 受け取ったソラが呟いた言葉に、オーアが頷く。今まで使っていた玉鋼製の武器よりも、少しだけ重く感じたのである。

 まあ、それもそのはずで、オーアが渡したステンレス製の片手剣は今まで使っていたのよりも、少しだけ肉厚だったのだ。これは単純に用法の差で、桔梗・撫子達の中津国で出来た剣は基本的に『斬り裂く』だ。それに対してオーア達ドワーフの作る武器はどちらかと言えば『叩き斬る』だからだ。

 別にオーア達の武器が切れ味で劣るというのでは無いが、中津国製の武器と比べれば劣るのであった。その分強度では中津国製のそれを上回る為、荒々しい使い方をする冒険者達に好まれていた。


「で、こっちがあんた用に改良した<<亜式噴射腕二世ロケットパンチ・セカンドダッシュ>>だ。受け取りな」


 オーアはそう言うと、試作品として一応の完成を見た篭手をソラに渡す。完成品というわけでは無いのだが、データを取るには十分な性能を有しているらしい。そうして、ソラは受け取った篭手を腕に装着する。

 今までの物と異なり、手の甲の部分に緑色の魔石が取り付けられた物だった。ソラは何度か手を握って装着感覚を確かめ、問題無い事を認める。そうしてソラの顔から違和感を感じていない事を見取ると、オーアが頷いて一同に告げる。


「ん、大丈夫そうだ。さて、今回小僧達に取って来て貰いたいのは、その篭手の上部に取り付ける用の魔石だ。大きさはそれと同じぐらいじゃないと、篭手に着けられないから注意しな」

「魔石ならなんでもいいんですか?」

「いや、そう言う訳じゃない。今回は水と風の力を含んだ魔石がいるんだが……これが数も少ないし、あんまり使わなくてね。あいにくと里の在庫が切れるんだ。別段高い物ってわけじゃ無いんでどっかで取り寄せてもいいんだが、それだと時間が掛かる。そこで、小僧達に取りに行って貰おう、って話さ」


 藤堂の質問を受けて、オーアが仕事内容を伝える。ちなみに、二つの属性を含んだ魔石を使わない理由はきちんとある。二つの属性の力を含んだ魔石は単一の属性を含んだ魔石よりも使用した際の効果が落ちてしまうのだ。それ故、単一の属性のみの魔石の方が多用されるのであった。


「で、一応メモに形や形状、大きさなんかを纏めた。坑道の地下3階にオヤジが居る筈だから、オヤジに渡すのが手っ取り早い。あの階層には更に下で採掘した鉱石や魔石の貯蔵庫があるからね。気をつけるべき相手としちゃ蝙蝠共だ。まあ、硬い奴はなんとかしろ。最悪道具屋で爆裂の呪符なんかを買っても良い。そこら辺の準備はなんとかしな」

「わかりました」


 藤堂はそう頷くと、メモを受け取ってソラに渡す。何故ソラなのかというと、ソラが持つのが最も安全だからだ。彼の場合は堅牢で、水等が染み込まない鎧の中のポケットにメモを入れる事が出来る。メモやガラス製品等破れやすかったり壊れやすい物を持つには最適なのである。そうして外に出ようとした所で、ふとオーアが思い出した様に一同に告げる。


「おっと、忘れてた。地下は7階まであるけど、3階までだからね。間違っても4階以下に立ち入るなよ。出来れば4階の階段にも近づかない方が良い」

「? なんかヤバイんっすか?」


 引き止められて立ち止まったソラが、後ろを振り返って問い掛ける。オーアはそれに頷いて、更に捕捉を付け足した。


「魔物自体がそっから強くなるってのもあるが、地下4階にちょっとした客人が居るかもしれなくてね。まあ、気ままな御方だから居ないかもしれないけど……どっちにしろあんまりお騒がせしちゃまずいんだ。なんで、出来ればあまりでかい技やって坑道自体を揺らすのもやめとけ。別に坑道そのものが崩れる様なことは無いし文句を言う様な方じゃ無いが、気を付けるに越したことは無い」


 オーアが頭を掻きつつ一同に告げる。その様子から、どうやらかなり高貴な来客が来ているのだと一同は推測する。


「まあ、必要無いんなら、行く気無いっすよ」

「まあ、そうだろうね。どっちにしろ必要な魔石は4階に続く階段とは少し離れた所にあるから近づかないとは思うけど、注意してくれ。そう言っても最悪道中でお会いする可能性もある。あったら挨拶を絶対に欠かすな。礼を尽くしておいて損な方じゃ無い」

「どんな人物ですか? 相手の尊顔もわからないと、どうしようも無いのですが……」

「それもそうだね……えっと、小僧とおんなじちょっと短めの黒髪で長身、体躯はかなり良い。顔もかなり整っている。ドワーフじゃ無いから、会ったら直ぐに分かる筈だ。まあ、それ以前にとんでもない武人だから、ひと目で分かるはずだ」


 藤堂の疑問に、オーアがその人物の特徴を上げる。藤堂はそれを自身の持つメモにしっかりと記載して、忘れない様に心に刻む。メモしたのは念の為だ。そして藤堂がメモを取り終えたのを見て、オーアが更に注意を続ける。


「で、4階の階段は時々4階から魔物が上がってくる事があるから、近づかない方がいい、ってことだ。まあ、別の階の階段にも言える事だから、注意はしておけ」

「うっす。まあ、最悪篭手(こいつ)の<<風噴射(エア・ブロウ)>>でなんとか押し返しますよ」

「あはは! まあ、そうか。そうだったね。それも有りだ」


 ソラが両腕の篭手をぽんぽん、と叩いて見せたので、オーアも自身が追加した機能を思い出して笑う。最悪何らかの事情で階段に近づいても、ソラの篭手に追加された強風を生み出す力で押し戻してやればよかったのだ。

 この機能は何か特殊な手法を必要としているわけでもなく、ただ単に腕を前に突き出して機能を作動させてやれば良い。更に両腕で使えば更に威力を増す。ただ単に強風で押し戻しているだけなので障壁に影響されず、距離を離す事だけを見れば十分だった。


「良し、じゃあ、行って来い。こっちはその間に小僧用の片手剣と盾……って、危ない。小僧、盾も持ってけ」

「? 盾は自前であるんっすけど……」


 オーアから渡された盾を手に持って、ソラが首を傾げる。盾の方は問題が無く、敢えて予備を使う必要が無かったのだ。


「盾の方はあんた用に調整してやるから、参考に置いてけってことだ。で、仕込み盾を使った事が無いってんなら、感覚を慣らす為に使ってみないとダメだ」

「ああ、なる……で、どうやってこのブレード出すんっすか?」


 ソラは自分が持って来た盾をオーアに渡して、仕込み盾を左腕に装着する。だが、何処にもスイッチの様な物が見当たらず、首を傾げる。


「魔力通しゃ出て来るよ」

「あ、ホントだ。有難う御座います」


 ソラが頭を下げる。それに、オーアが頷いた。ソラは何度か仕込みブレードの射出具合を確かめ、最も自身の感覚に合致する場所に盾を調整する。


「ん、こんなとこっすね」

「一応ブレードも刃渡り50センチ程のステンレス製だ。そいつは小僧の盾の試作品だから、帰ったら返却しろ」

「うっす」

「良し、じゃあ今度こそ行って来い」

「では、行ってきます」

「いってきまーす!」


 オーアの言葉を背に受けて、今度こそ、一同は立ち去る。その後まず立ち寄るのは、この里にある道具屋――グレイス商会とは別――だった。


「おう、何が必要だ? 採掘に行くんなら、ひと通り必要なモンは揃ってるぜ。まあ、人間のガキが採掘に行くとも思えねえけどな!」

「あはは……えーっと、爆裂の魔石なんか有りますかー?」

「ん? 魔物討伐用か?」

「そうー。あ、後回復薬も幾つかー、それと……」


 こういう場合に表に出るのは由利だ。買い物は大抵彼女に任せておけば安心である。


「取り敢えず回復薬10個あれば十分かなー。あ、毒瓶貰えるー?」

「毒瓶は……ああ、これだな。何だ、お嬢ちゃん、弓師か?」

「うんー」


 何時ものんびりとした口調の由利だが、今日は輪をかけてのんびりそうだった。というのも、由利は少し暑さに弱いので、里に居るだけで体力を奪われるのであった。

 とは言え、彼氏――に加えてその他面々――が行くのに行かないわけにもいかないので、気合を入れて来たのである。なので何時もより少しだけ軽装備であった。と、そんな少し気怠げな由利を見て、店主の男が告げる。


「姉ちゃんら、ここらの出身じゃ無いなら、冷却の呪符でも買うか? 有るのと無いのとじゃあ、坑道で結構違ってくるぜ?」

「なにそれー?」

「まあ、要は暑さを防いでくれるつー便利なモンだ。無いと坑道じゃ困んぜ?衣服の裏側に貼っつけるだけだから、大して面倒な操作もいらねえ。効果は一枚で1日。当たり前だが、貼ってる奴にしか効果は無い」

「あ、そんなの有るんだー……じゃあ、それ5個お願いー」

「おう、まいど!」


 そうして代金を払い終え、お試しで一つおまけしてくれたので由利が試しに使ってみると効果は直ぐに現れた。


「あー……涼しいー……」


 至福の表情で衣服の内側に呪符を貼り付けた由利が、一同の所にやって来る。何処か元気になった由利を見て、暦が首を傾げて問い掛ける。


「あれ? 先輩少し元気になりました?」

「あ、これ買ったんだー」

「呪符? なんです、それ」

「服の内側に貼っつけると気持ちいいよー。」


 それを受けて、暦も受け取った呪符を服の裏側に貼り付ける。


「あ、涼しい……」

「ねー」


 それを受けて、配られた呪符を男子陣も服の内側――ソラは鎧の内側――に貼り付ける。


「ああ、成る程。これで動きやすい」

「ですね。じゃあ、行きましょう」

「よっしゃ! んじゃ、出発!」


 一同が呪符の効果を実感すると、ソラの掛け声で里の奥にある坑道へと侵入していくのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第468話『新たな力』

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