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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二六章 新たなる一歩編
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第461話 飛躍のための一歩

「これではどうでしょうか……」


 冒険部のギルドホームにある鍛冶場に、鉄を打つ音ではなく、桔梗と撫子の二重奏が響く。彼女らは一振りの片手剣を打ち終えた所だった。


「……ちょい使ってみるか……」


 そうして幾度か魔力を通してみるソラだが、やはり、魔力の乗りが悪い。何が、とは明言出来ないが、何かが、身体にしっくりと来ないのだ。


「やはり、ダメですが……」


 二人の残念そうな声が響く。奥歯に何かが挟まった様なソラの顔を見て、何かがしっくり来ていない事を見て取ったのだ。


「ごめん……」

「いえ、これが、私達の役目ですから」


 二人は片手剣を再び受け取ると、元の素材に変換する。元の素材となったのは、低練度の魔法銀(ミスリル)だった。低練度であっても魔法銀(ミスリル)には違い無いのでそれなりに高性能な代物だったのだが、ソラはそれが合わないのだ。

 かと言って、これを高品質の魔法銀(ミスリル)に変えると、今度はソラの腕がそれに及ばなくなり、使い物にならなくなってしまう。では逆に低練度の魔法銀(ミスリル)より下にしてしまうと、今度はソラの力に耐え切れなくなり、再び御前試合と同じ結果になってしまうだろう。痛し痒しの現状だったのだ。


「お館様に一度相談してみましょう」


 それから暫くソラも含めて三人で相談したのだが、結局出た答えはカイトに相談、であった。


「まあ、今回はあいつ持ちだし、そうするかな」


 ソラの片手剣は、相変わらず破損したままだ。それ故、予備の片手剣を使っていたのだが、それではカイトの沽券に関わる。

 なにせ、皇帝レオンハルト直々に片手剣を見繕い、ソラへと下賜しろと命ぜられているのだ。否やはない。そうして、三人は一度執務室で書類仕事をしているはずのカイトの元へと向かうのだった。




 一方、その頃のカイトはと言うと、桜、瑞樹から相談を受けていた。


「と、いうわけですわ」

「何か、良い手筈は有りませんか?」


 二人がカイトに問い掛ける。先日行った学園での定時報告で受けた学園側の問題について、カイトに相談していたのだ。


「学園で使う修理素材が足りない、か……鉱物系は高いからな……」

「鉄鉱石も銅鉱石も貴金属では無いですが、それでもインゴットに錬鉄してもらうとかなりのお値段になりますものね……」

「学園施設にしても消耗品ですし……かと言って、外注しようにも技術が秘匿されていては、作れませんし……」


 桜の言葉に、カイトと瑞樹も溜め息を吐いた。学園施設は当たり前だが、今でも場所を除いた大半が秘匿されている。レーメス伯爵家が掴んだ情報についてはすでに皇帝が間に入り完全に破棄されていた為、今のところその設備の概要等を正確に掴んでいるのは、公には公爵以上の信頼が置ける名門家だけになっている。つまり、修復しようにも業者を呼べず、自分達で修復しないといけないのだ。


「学園内に張り巡らされた電線にパソコン関連の修理部品、電球に体育館のネットなどなど……頭が痛い……電球に竹とかならまだしも、学園全部LEDライトだもんな……」


 カイトでさえ、頭を痛める。カイトやティナが速攻で終わらせて良いならば、それで済む。だが、当たり前だがそんなことは出来ないのが、現状だった。修理の為の人員も育ってきているし、彼らにも仕事を割り振らないといけないのである。

 おまけに、彼らの練習のための素材も必要だ。こんなことはマクダウェル公爵家ではやったことのない事で、カイトにしても前例の無い事だった。やったことの無いのは至極簡単な話で、もともと修理なぞ片手間に出来る、という様な巫山戯た者達が彼の配下に始めから居たから、だ。ゼロからの人材育成の必要が無かったのである。


「まあ、取り敢えず、素材が必要か」

「ですね。業者の方に納品を依頼しますか?」

「椿、今馴染みの行商人達はどうなっている?」


 どちらにせよ、素材が切れかかっているのは切れかかっているのだ。修理するにせよ新たに作るにせよ、素材を入手しなくては始まらない。そこで、カイトは懇意にしている業者を当たろうと考えたのは、至って普通だった。

 それを受ける前からそこに思い至っていた椿はすでに手帳を開き、確認を行っていた。が、どうも芳しくないらしく、椿の顔には少しだけ申し訳無さそうな表情が浮かんでいた。


「……申し訳ありません、御主人様。どうやら馴染みの業者は出払っているようです。特に、ドワーフの北の山への業者が出払っています」

「んぁ、マジか……」


 これはカイトとしても少し予想外であった。何時もなら何処か一つは残っているのだが、偶然出払っていた様だ。と、そこへシロエが入ってきた。当然、ドアからではなく、壁からだ。


「マスター!お客様が来られました!」

「知り合いか?」

「いえ、少し訳ありらしく、ミレイさんがマスターに連絡しろ、と!」


 どうやら相手は依頼人らしい。カイトは衣服を正し、桜達は一度相談していた来客用のソファからどいた。


「入ってもらってくれ」

「はーい。じゃあ、どうぞー」

「失礼します」


 シロエの案内で入ってきたのは、褐色の肌を持つ、耳の尖った男性だった。見た目は二十代後半から30代前半だったが、必ずしも見た目通りでは無いだろう。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 カイトは依頼人の男性に席を薦め、ソファに座った所で自分も座ると、椿にお茶を用意させる傍ら、対話を開始する。


「それで、お仕事のお話ですか?」

「あはは、まあ、そんなとこです」


 話し方に関西訛りに似た訛りが見受けられた男性だった。それは関西出身のカイトにとって馴染みの深い物であったが、エネフィアではその話し方をする種族を一つだけ、カイトは知っていた。それ故、まずは問いかけてみる。


「もしかして、焔魔族の方ですか?」

「ああ、わかります?」


 どうやら当たりだったらしい。焔魔族の男性が人懐っこい笑みを浮かべる。


「ええ、私も本来は似たような話し方をする所の出身ですから、興味本位ですが調べたのですよ」

「ほ、そりゃあれですか? 関西とか言う所ですか?」

「ええ、偶然ですが、かの勇者と同じ出身でした。まったく、意外な偶然もあるもんですよ」

「失礼致します」


 ひょうきんな顔を見せた魔族の男性に、カイトも本来の素の話し方で応えてみせる。相手の男性はそれが演技等では無いのを見て取ると、少しだけ心を許した。演技では無いになら、雑談もしやすいのだ。そうして、そんな二人の所に、椿がお茶を持って来た。


「お、こりゃえらいべっぴんさん……って、こりゃ懐かしい茶やな」


 魔族の男性が、椿から差し出されたお茶を口に含んで少しだけ目を見開く。


「ここらは行商人も多いですからね。きっと気付いていただけると思いまして。少々伝手で入手したんですよ」

「なかなかに美味い奴やな。うん、こりゃ美味い」


 どうやら気に入ってもらえた様だ。カイトが供したのは、魔族領――焔魔族は魔族の一つ――で一般的に嗜まれているお茶だった。行商人ならば故郷のお茶やお酒などは滅多に楽しめないだろうと思い、様々な土地の地酒やお茶を入手しておいたのである。そうして暫くの雑談の後、ようやく本題に入る。


「それで、依頼でしたね」

「おっと、えらいすんません。まるで商人みたいに口が……って、またずれるところやった。ええ、仕事です」


 そうして魔族の男性は、一枚の紙を取り出して、カイトに差し出す。


「ん? ノース・グレイス商会支社長プロクス? グレイス商会の北部支社の社長さんですか……」

「あはは、今まで名乗らずえろうすんません。そこの支社長を社長からやらせていただいとります」


 プロクスはひょうきんな笑顔を浮かべる。それに、カイトは食わせ物の印象を得る。そうして、彼は真剣な眼をして、話し始めた。


「さて……それで仕事の話に入りましょか。欲しいのは護衛。人数はおよそ30人ほど。仕事内容は積み荷を買って、こっちに戻るまでの護衛や。それ以降は空輸で皇国のいろんな所に荷を送るから、必要無い」

「目的地は?」

「公爵領北方の『魔女たちの庭園』や。途中3つほど経由するから、正味で3週間ほどの依頼やな」


 カイトはそろばんを弾き始める。そうして経路に当たりを付け、問い掛ける。


「その日程ですと、ドワーフ達の里を経由しますね?」

「ほっ。そこら辺は調査済みか。そやな、そのルートや。道中でカイナ村やらミナド村やら幾つかの農村で生鮮食品を購入して、マクスウェルから持って行った荷物を売買するから、そこで若干の手待ちが生ずる。ドワーフの里でも品こそ違うが、同じやな。まあ、つっても今度の積み荷は生鮮食品やから、少しだけ行きは急ぎや。で、ドワーフの里で生鮮食品の半分をウチの従業員が売り払っている間に、そのまま半分が離脱。残る方には護衛はいらん。ドワーフの里やしな。帰りに合流する予定や」

「そうですか……人数が30人。なるほど。お勉強させてもらいましょう」

「あはは、これは予想以上に話がわかるなぁ。こっちも個別に交渉せんで済むし、話がわかって助かるわ」


 カイトの言葉に、プロクスが笑う。彼が冒険部に依頼に来た理由は、ここにあった。個別に依頼の交渉を行っていれば当然その分の時間も掛かるし、依頼費用も個人に応じてまちまちだ。交渉にもそれだけの人員が必要になるし、場合によっては、移動先で離脱、という事もあり得る。

 往復で頼むのなら、ギルドに所属している面子の方が良い場合もあるのだ。それに一括で経費を計上出来る上、ギルドに依頼出来れば書類上も簡単で済む。様々な面でも彼にもメリットがあったのだ。


「それで、どのような人数構成で?」

「そやなぁ……一応キャラバンやからあんま敵のおらん道を通るつもりやけど……ランクBが一人でもおりゃ安心やな」

「わかりました。では、いくつかプランを練っておきましょう。また、明日来て頂けますか? お見積りをお渡し致します。それに、そちらも色々用意が必要でしょうし」

「ほっ。さすが日本人、つーとこか。見積もり出してくれる所はすくなぁてなぁ……そやな。頼んます」


 カイトから出た見積もりという単語に、プロクスが心底有難そうな顔で笑い、話を終える。そうして、彼を見送った後、椿が口を開いた。


「どうしますか? 御主人様が出られますか?」

「いや……ティナ。聞いてただろ? 偶には里帰りしてこい。ババ様が気を揉んでるだろ」

「むぅ……そうじゃな。偶にはババ様にも挨拶してくるとするかのう」


 ティナが暫くの黙考の後、カイトの指示を了承する。元々彼女は魔女族だ。それ故に偶には里帰りを、と思ったのである。ちなみに、ババ様とは魔女族の族長のことだ。


「これで、ランクBは問題なし、と……」

「あ、カイト。できれば俺も遠征に行きたいんだが……」


 そうしてカイトが色々とプランを練っていると、瞬が口を開いた。元々彼が志願するつもりだったのだが、カイトが勝手に決めたのだ。


「ん?……んー……そりゃ、明日の相談次第だな。さすがにどれだけ費用が出してもらえるかにもよる」

「そうか。じゃあ、まあ、それで考えておいてくれ」


 瞬は別段強いて遠征に出たいというわけでは無いのだろう。それでいいかと納得する。と、そこへソラ達三人が来た。そうして、告げられたのはソラの武器に良いのが出来ない、という事であった。


「なる程な……素材の方に問題か……」

「はい。どうにもこうにも素材の相性が悪いらしく、ソラさんとの相性が悪いみたいです」

「いや、素材もそうだろうが、ソラそのものに特異性が出てしまっているな」


 そうしてソラを見極めていたカイトだが、彼の方が答えを出した。


「は? 俺、なんか変な事になってんのか?」

「お前、最近加護……いや、シルフィ達の加護とは別に、生まれ持ってのスサノオの方の産土神の力を使いまくってるからな。少し前は感じなかったが、極僅かにスサノオの力を感じる。それ故、若干お前の龍族としての力と、奴の竜殺しの力が干渉しあってそれが何かよくわからない影響になっているんだろう。別に身体に影響が出るわけじゃないだろうな」

「それ、大丈夫なのか?」


 カイトの話を聞いて、ソラが若干不安げに問い掛ける。が、カイトは笑って大丈夫だと太鼓判を押した。


「当たり前だろ。なんで生まれ持っての力で死に至らないといけないんだよ。蛇が自分の毒で死ぬわけないだろ。それと一緒だ。お前の身体にゃきちんと抗体みたいなのある」

「そか……マジビビった」


 ふぅ、と額に流れた汗を拭い、ソラが一安心、といった感じで安心する。


「まあ、とは言え……オレには起こりえない事だからな。定期健診では一応ミースに告げておけ。オレは所詮にわかだからな。専門医に頼むに限る」

「おう」

「っと……若干脱線したが、本題に入ろう。丁度今仕事が入ってな。それでドワーフの里にまで行く……あ、そうだ……桜!」

「はい?」


 途中で何かに気付いたカイトが、自席に戻っていた桜に声をかける。


「確か鉱物系の素材が足りないんだったよな!?」

「はい、そうですね」

「良し。じゃあ、いっそウチで購入するか。椿、馬車の手配を頼む。すぐに見積もりを出してくれ。明日のさっきの社長さんが来られた時に見せたい」

「分かりました。では、取り掛かります」


 椿が自席に戻り、カイトに指示された仕事に取り掛かる。そうして、カイトは再度ソラに問い掛ける。


「と、言うわけで……桔梗、撫子。悪いがドワーフの里にまで行ってくれるか? 鉱石の購入をお願いしたい。お前達なら、良質な素材を見繕ってくれるだろう」

「わかりました、お受け致しましょう」

「ソラ、お前はその護衛に一緒に里まで行ってくれ。仕事内容については後で連絡する」

「え、なんで俺?」


 疑問を浮かべたソラだが、カイトに説明されて納得する。まあ、必要だとその理由も聞けば納得もするだろう。


「あー、そういや市場のおっちゃんがちょっと南の方で祭りがあるから、そっち行くって行ってたっけ……」


 そうして、説明を受けたソラが思い当たる節を呟いた。実は商人たちはマクスウェルから南方にあるとある街での祭りで集まる人を目当てに、行商に行ってしまったのだ。祭りがあれば、人が集まる。それを目当てに商人も集まるのである。


「そういうことか……なら、尚の事当分は帰って来ないか。やはり手配はそのままだな」


 一台馬車が増えたところで、護衛するのは此方だし、その分の人員を此方で負担すると言えば、向こうも拒絶はしないだろう。帰りは一緒に帰って来させれば良いのだ。


「で、結局なんで俺なんだ?」

「途中にミナド村があるから……じょーだんだって、じょーだん」


 半眼で睨まれたカイトは、ソラに対して笑いながら手でまあまあ、と制止する。当然だが嘘だ。理由は最終目的地の方にこそあった。


「ドワーフの族長。むちゃくちゃすげえ奴だから、ちょっと相談して来いって話だ」

「凄い?」

「オーアって女の子なんだが……はっきり言ってティナが認めるレベルの技術屋だ。同時に組ませちゃいけない奴でもあるけどな。あの二人が暴走を始めると止めるのに苦労する。まあ、それでも腕は確か、だ。お前らだけで手に負えないのなら、相談してくると良い」


 当たり前であるが、カイトとてきちんと色々と考えている。そんな説明を受けたソラはそれもそうか、と納得して、由利と共に準備を始めるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第462話『刻印魔術』


 2016年6月2日 追記

・誤字修正

『シロエ』が『クロエ』になっていたのを修正しました。多分妹とかそんなん。褐色美少女と予想。

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