第34話 昨夜の成果
ティナの合図とともに開始されたゲームであるが、カイトとティナによる援護によってなんとか未プレイ三人が一緒でもクリアすることが出来た。
『これでエンディングじゃな。』
最後のボスを倒し終わってそう言うティナ。すでにカイトの方はクリアしていた。
『終わったか。じゃあ、ティナ先に出るぞ。』
律儀にゲーム内で待っていた三人はログアウトを選択して現実へと帰還した。
「ふぅ、なかなかに面白かったですね。」
カイトと一緒にプレイできてご満悦なクズハだが、殆ど見ているだけだったユリィは不満気だ。
「え~。今度は私も活躍できるのやりたい~。」
さすがにあの舞台で妖精が攻撃できることはしなかったのである。
「すまんのじゃ。次はもう少し多人数プレイ可能なゲームを作っておくとしよう。あ、カイト、次はこの弾幕をやるのじゃ、モニターを頼む。難易度は当然月な。」
カイトらに続いてログアウトしたティナが済まなそうにそう言う。気合避け派のカイトは、相変わらずこいつ頭おかしいだろ、と思いながらも準備する。
「魔王様、此方が先のテスト結果となります。」
そう言ってクラウディアはテストをモニターしていた使い魔から資料を受け取りティナへ渡す。
「使い魔は新調されたのですね?可愛らしい容姿ですね。」
「そのうち歌も歌えるようにするつもりじゃ。」
カイトはあえて突っ込まなかったが、どう見ても某ツインテールの歌姫達であった。が、何故か一人足りない。
「あ、カイト。その時はお主も歌うのじゃぞ?」
ニヤリ、ともせずに資料を真剣に読み込みながらそう言うティナ。どうやらカイトに代役をさせるつもりらしい。
「絶対に断る。」
ティナは反応しないが、当人の頭の中の並列思考の一つはすでに歌詞の作成が開始されている。
「で、お前、いい加減にこのカオス何とかしろ……。」
一息ついた所で、カイトが呆れ返りながら周囲を見渡し、クズハもようやく研究室の状況を把握する。
「一晩でこれだけの物を作り上げられましたか……さすがはお姉様。天才魔王の名は伊達ではありません。」
周囲には数々の開発品が並び、今もゴーレム達が整備や製造を行っていた。資料を読み込んだティナは顔を上げる。
「うむ、設計図はできあがっておったからの。後はゴーレム達に作らせるだけじゃ。」
ゴーレム達は自己での判断は苦手だが、単純作業や力仕事に向いていたため、作り上げた部品の組み立てや素材の錬成等を任せ、ティナ本人は細かな調整や重要な部品の調整を行っていた。
「おい、ティナ。いくらなんでもここまで作りまくることは無いだろ……。」
どこかで見たことのある機体や兵器、遊具が並ぶ研究室だが、元ネタの分からない三人は興味深げにティナが作った作品を観察している。
「あれ?これって飛空艇?やけに三角っぽいね。」
「うむ、変形機能を搭載予定じゃ。」
「へ、変形?」
「うむ。変形じゃ。変形後は大型の魔導鎧タイプになる予定じゃ。」
ユリィは地球の戦闘機に似た飛空艇を指したのだが、変形すると言われてポカン、としている。カイトから見れば歌姫の曲でも聞きながら宇宙へ飛び出しかねないフォルムである。
「あれも、大型の魔導鎧ですか?あれだけ作ってもかなりの魔力量がないと扱え無いのでは?お兄様やお姉様、私達なら問題はありませんが……専用機には見えませんし……」
大型の魔導鎧は10メートルを超える魔導鎧を指すのだが、15メートルを超えたあたりから使用する魔力が急激に増加するため、皇帝直属の魔術師でさえ稼働時間が10分余りしか使えない鎧であった。その代わり戦闘能力の増加は絶大で天龍相手にも単体での戦闘を可能とするほどの代物で、各国の攻城戦の切り札として開発されていた。
「うむ、あっちの双剣持ちの青い奴がカイト用じゃな。お主双剣も使えるじゃろ?」
「ああ、使える、というかメインウェポンの一つだな。まあ、あの双剣なら銃にもなるからな。相性はいいだろう。」
様々な武器を使いこなすカイトだが、主には刀や双剣、マシンガンや双銃といった手数と動きやすさ重視の選択をしている。それ以外にも動きながらの無詠唱魔術を併用しているため、両手持ちの武器は必要なとき以外は使用していなかった。
「こいつは隣の戦闘機と合体機能を備えておる。更に後ろの数が多いのは量産機じゃ。一応量産機でも普通の大鎧に比べて稼働時間が3倍以上に伸びておるはずじゃ。」
「ああ、量産型だからあのデザインか……。」
横にある同じ色の戦闘機をさしてそう言うティナ。何時かは空間転移しそうだ、と思ったが、使用予定者がすでに生身で可能な為、問題なかった。ティナは更に一際大きな赤い機体をさして解説する。
「あっちは三人乗りの機体じゃな。とりあえずカイト、お主一番上の奴な。キレて暴走するあたり、お似合いじゃ。」
「それ、最後は行方不明確定かよ……。で、他は誰が乗るんだ?」
「というか、永遠に戦い続けるんじゃな。後は余が真ん中、一番下は……ソラでも乗せるか?」
突っ込むのも疲れてきているカイトであるが、実は操縦することはやぶさかではない。当然だが、カイトとてこういったロボットに心惹かれるのであった。
「で、振動なんかへの対処は?」
カイトは地球で巨大ロボットが作られない理由の一つのうち、操縦するに当たって問題となるのが振動であった。カイトも巨大ロボットに乗って車酔いになるのは御免である。
「うむ。重力系魔術と飛空魔術の併用で振動をキャンセルしておる。まあ、重力系の魔術は自重制御などにも使用しておるがの。お陰で空中での高速戦闘も可能じゃ。具体的に理論を聞くか?」
「いや、いい。」
カイトでは聞いても理解できない事受け合いなのでスルーすることにする。ティナもわかっていたので別段なにも問題にはしなかった。
「じゃろうな。」
その後ティナはこれもまた大きな機体をさして自信満々に胸を張った。
「あれが今回の力作じゃな。ほぼ全ての装甲が緋緋色金で出来ておる!」
「な!緋緋色金製ですか!」
緋緋色金はエネフィアで発見されている限り最高強度を誇る金属で、生成、変形と言った加工全ての工程が困難であるので、取れる量に反してヒヒイロカネで作られた武具は圧倒的に少なかった。魔素への親和性の高さから神への供物などとして利用されていたので別名、神儀合金とも言われているほど魔術的親和性が高く、強度の高い素材である。
「これって……もしかしたら現存する全緋緋色金製武具の総量超えてない?」
かなり引き攣った顔で、ユリィが30メートル以上はあろうかという巨体を見上げる。
「む?そうかの?」
ユリィの指摘通り、この機体に使用されているヒヒイロカネの総量はエネフィアに現存している全緋緋色金製の魔導具の重量の数倍に匹敵している。まさに魔王の面目躍如であった。
「まあ、公爵家としても高価な割に使い道のない素材でしたので、いいのですけど……。」
さすがのクズハもドン引きしているが、素材を入れていたクラウディアは大歓喜である。
「さすがは魔王様!緋緋色金でこのような巨大鎧をつくり上げるとは!素材を持ち込んだかいがあります!」
「おお!そうじゃろ!」
褒められて嬉しいティナは有頂天である。が、当然カイトから突っ込みが入る。
「お前、こいつ作ったのはいいけど、邪神召喚なぞするなよ……」
原作に沿った性能なら、安全性に配慮されているため機体には問題なさそうであったのだが、敵のほうが問題ありすぎなので、念のために注意しておく。彼女ならまかり間違ってヤバイ神でも呼ぶことが可能なので、念のため、注意しておいたのであった。
「やる場合はいつもニコニコの方じゃから、大丈夫じゃ。」
元ネタが同じ作品を持ちだして安心させるが、どっちでも安心できるわけなかった。厄介さの方向性が変わるだけである。
「普通の魔導鎧もありますね。」
そう言ってクラウディアが指さしたのは一見すると普通の青と赤の魔導鎧である。
「遠距離型の青い奴と近距離型の赤い奴じゃな。おすすめは赤い方じゃ。」
「お前が使えよ、同じ金髪だしな。おすすめ理由は大怪我負って行方不明でも帰ってくるからか?」
作中何度か体の大部分を失っても行方不明になるだけで完全復活するとんでもキャラである。
「うむ。青い方はお主じゃな。ひきこも……ゲフン、戦うことの意味でも探すと良いのじゃ。」
ネタ的に間違えておいて言い直すティナであるが、デザインは一般に知られているデザインでは無かった。
「こっちはRPGの方だから大丈夫だ。だが、なんでこっちなんだ?」
そちらでは殆ど熱血系真面目主人公をやり通したため、引きこもる心配はない。
「システムはなかなかに面白かったし、アーマーも良いデザインじゃったのでな。……なぜ売れなかったのかのう。」
「知らん。」
シリーズを全てをプレイしているので購入したカイトであるが、やってみて予想外の出来にティナに薦めたのであった。
「あんだけ地雷臭しておったら普通は手をださん。……が、なかなかに……」
アクションゲームをRPG化したので即座に切り捨てたティナ。予想外の出来にプレイ後は大満足であった。
「まあ、オレも地雷臭は分かっていたからな。まあ、そう言う意味ならオレも……」
二人でゲーム談義に移ろうとするが、そこでクズハが声を上げる。
「あ!お兄様、朝ごはん!」
ここに来てようやく当初の目的を思い出した一同。全員大慌てで用意する。
「おい、ティナ!大急ぎで着替えろ!」
そう言って持ってきた制服を手渡すカイト。ティナはそれに着替えようとするが入らない。
「なぜか着れないのじゃ!昨日の宴会で食い過ぎたか!」
「縮め!」
ティナは焦って縮むのを忘れていたので全体的にサイズが合わず、着用出来なかった。
「おっと、そうじゃった。」
そして不用意にもその場で変身してしまったのであった。
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