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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十五章 異世界のメッセージ
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第455話 閑話 父と子

 時は少しだけ、遡る。動画が送られてすぐのこと。覇王や武達天道家の面々に動画の閲覧許可が下りると同時に、神宮寺家に対しても動画の閲覧許可が下りていた。神宮寺家も曲がりなりにも天道財閥と同クラスの大財閥だ。片方に許可を下ろしている以上、日本政府としては、許可を下ろさざるを得ない。


「……そうか」


 神宮寺家の当主、即ち瑞樹の父が、娘からのメッセージに、くすり、と笑みを零す。彼は瑞樹と同じく、日本人離れした容姿、だった。年の頃はおおよそ40前後。彼女らの係累なのだから、髪や眉の色は金色だ。髪型は少し長めの髪をオールバックにしていた。顔立ちは、当然だが良い。

 とは言え、それは天道財閥総帥である覇王とは違い、何処か鋭さと威圧感のにじみ出た男だった。眼差しは強く、意思の強さがにじみ出ていた。まさに、天道財閥と双璧となす神宮寺財閥の総帥足りうるだけの覇気を持つ男、だった。


「……アレクに電話を繋いでくれ」

「はぁ……よろしいのですか?」

「幸いにして、かの男のおかげで、そんなものが必要でないぐらいには、日本と英国の繋がりは深まっている。必要があるか、と問われればあるが、同時に、絶対に必要か、と言われれば、そうではない」


 瑞樹の父は、苦笑混じりに秘書の男の質問に答える。ちなみに、アレク、とはイギリスに居る彼の妹の夫、即ち義弟だ。正確にはアレクセイ、という。つまり、瑞樹の許嫁と言われている少年の父親、だった。


「この動画は出して良いのか?」

「確認を取ります」


 自らの義弟であるアレクセイに連絡を取る傍ら、瑞樹の父は別の秘書に確認の電話を行わせる。まあ、答えはわかりきった事だったのだが、敢えてわかっていることだから、とスルーする必要もないだろう。許可を取っておいて損は無い。


「……はい。社長。アレクセイ殿にならば、許可する、と」

「わかった」

「社長。アレクセイ殿はもう暫くお待ち下さい、と」

「ああ」


 瑞樹の父は幾つかの報告を受け取って、少し時間がある、と仕事に戻る事にする。と、そうして30分ほどすると、秘書がアレクセイから返答があった、と報告し、瑞樹の父は執務室の机に取り付けられたテレビ電話を起動する。

 そうして映ったのは、これまた金髪の若い男、だ。若いと言っても30代中頃、だろう。こちらも美丈夫と言って良い顔立ちだ。彼が、過日にカイトと瑞樹が話し合った事のあるフィルマ家の当主だった。


「ああ、アレク。すまないな」

『いいよ、ミカゲ。で、どうしたんだい?』

「いま、日本に向けて、娘から連絡が届いた」

『っ……凄いね。どうやって?』


 当たり前だが、カイト達からのメッセージボックスの話は日本国だけの秘密、だ。数年前にカイトが関わったある事件以降警戒度が桁違いに跳ね上がった日本政府からの漏洩は困難、だったわけである。

 まあ、それでもイギリスは身内と言うか現状では密かに日本の同盟国となっているので、御影――瑞樹の父――を通して、少しだけ情報を教えておこう、という判断だった。


「……というわけらしい」

『なるほど……分かった。じゃあこちらも捜索隊は打ち切りを確定させて良いね』

「ああ。日本政府に代わり、協力に感謝する」

『いいよ。ブルーくんからの依頼でもあったし……それに、そこまで本気でやっていたわけじゃあないしね』

「ブルーか……我々よりも更に前から、知っていた、か……相変わらず凄まじい男だ」


 アレクセイと御影は、同時に苦笑を浮かべる。ちなみに、ブルーとはカイトの裏でのコードネームの様な物、だ。名前が無ければ呼べないので、便宜的に海外ではそう呼ばれているのだった。

 実はカイトの使い魔――と言っても誰も使い魔である事は知らないが――から、密かに協力者達に対してはかなり早々に異世界にいるので、真剣に捜索はしなくても良い、と連絡が入っていたのである。まあ、そう言ってもこれが本当かどうか判別が出来ないので、捜索隊は一応組まれていた、というわけだ。

 とは言え、彼の言う通り、本格的では無かったのは、事実だ。カイトが嘘を言わない事を知っていたからだ。なお、協力者だけにしか言っていないのは、敵には存分に無駄な力を浪費してもらおう、という策略だった。


『まあ、彼を僕らの基準に当て嵌めるべきではない、というのはわかるけどね……わかった。じゃあ、女王陛下にもお伝えしておくよ』

「頼んだ……それと、もう一つ、頼みがある」

『君が、頼み? 珍しいね』


 御影の言葉に、アレクセイが少し驚いた様に目を見開く。演技でも何でも無く、本当に少し驚いた様子だった。


「ああ……この動画を見てくれ。瑞樹から送られてきた物だ」

『瑞樹ちゃんから……?』


 まあ、血のつながりは無いとは言え叔父と姪の関係だ。それに、許嫁、と決めたのは彼ら――正確にはお互いの一族での会議だが――だ。知らないはずがない。そうして、御影は瑞樹の動画をアレクセイにも閲覧させる。


『あはは。そう、いや、良いよ、僕は。ブルーくんのおかげで、別に今さら必要とも思えないしね』

「すまないな」


 笑ったアレクセイの言葉に、御影が少し苦笑気味に頭を下げる。何を願い出たのか、というと、瑞樹の許嫁の解消、だった。瑞樹の動画には、名前こそなかったがカイトについて言及があり、好いた男が出来た、と述べていたのである。そこから、言外の意図を読み取った、というわけだった。


『僕の方こそ、昔を思い出すよ。フィルマの娘は情熱的。その男の子には、ちょっと可哀想だけど、ね』

「む……反応し難い話題を出すな……」

『あはは』


 御影の苦笑した様な言葉に、アレクセイが笑う。アレクセイの妻は、瑞樹の叔母、即ち御影の妹だ。が、彼らはかつて瑞樹もカイトも述べた様に、日露戦争の時の日英同盟の名残で、フィルマ家の血が入っている。既にかなり血は薄れているというのに、アレクセイの妻はフィルマの女そのものの性質だったのである。

 とは言え、御影もやられたままでは終わらない。相変わらず笑うアレクセイに対して、こちらからも攻撃に出る事にする。


「それで? 本家のフィルマの娘はどうなんだ?」

『……あはは……はぁ……』

「相変わらずブルーにお熱、か」


 アレクセイの乾いた笑いとため息に、御影が笑う。既に発覚しているが、アレクセイの娘もまた、カイトに惚れていたのである。それも瑞樹よりも更に暴走気味に、だ。


『もうさ……陛下も超乗り気なんだよね、あの一件以降……ぜひとも奴の血を取り込んで英国に貢献しろ、ってもう……親の心労を考えてほしいよ……』

「そうか」


 愚痴混じりのアレクセイに対して、今度は御影が笑う。そうして、暫くの雑談の後、二人は連絡を終える。アレクセイは女王陛下とやらに報告をする必要があるし、御影は仕事中だ。ただ単にこれも仕事だったが故に、二度手間にならない様に私的な連絡も入れただけだ。


「ああ……何処かで時間は空いているか?」

「はい、既にご用意させていただいております。場所は本邸の執務室でよろしいですか?」

「ああ、構わん」


 秘書の言葉に、御影が満足気に頷く。そうして、彼は仕事を終えて、瑞樹へのメッセージを取る事にするのだった。




 それから、時が進むこと、暫く。瑞樹は緊張気味に、一人、夜のパソコン室で動画を見る事にしていた。伝えたは良いが、受け入れられるかもわからず、どんなメッセージが届いているのか、というのもわからず、で一人になるまで見れなかったのだ。そうして、震える指で、瑞樹は動画の再生を開始する。


『……話は聞いた。許嫁関係については、こちらで解消しておいてやった』

「……は?」


 動画が始まるなり告げられた父からの言葉に、瑞樹がきょとん、と呆ける。事情を知らない彼女は、つい叱責されるものだ、とばかり思っていたのだ。


『あまり長くは言わん。帰って来たら、ブルーという男に感謝しておけ。奴のおかげで、婚約の必要が無いぐらいに、日英関係が深化した』

「なっ……ぷっ……くくく……」


 父から出された言葉に、瑞樹は思わず吹き出した。というのも、ブルーというのは、どう考えてもカイトだ。疑うまでもない。そんな馬鹿げた事を個人でなし得る上に『(ブルー)』のコードネームを持つ男なぞ、彼女はただ一人しか、思い至らなかった。そうして、密かに笑っていた瑞樹の笑いは、静かに、涙に変わる。


「う……うぅ……」


 ただただ、不安だった。どんな事を言われるのか。見放されるのではないか、等様々な事が、彼女の胸中に渦巻いていた。敢えてカイトの名前を出さなかったのは、そのためだ。実家に迷惑が掛かるのではないか、と不安だったため、名前を出せなかったのだ。


「……」


 静かに涙を流す瑞樹を、カイトは少し離れた所から、見ていた。瑞樹が夜中に一人部屋を後にした、とステラから聞いて、心配になりついてきた、というわけだ。


「声を掛けなくて良いのか、主よ」

「構わんさ……それに、報告は彼女からさせるべき、だろう?」


 これで、後は自分が帰ってから御影とケジメをつければ問題はない。そして自らが繋がりを得ておけば莫大な利益を差し出せる男だ、というのは覇王だけでなく、御影も承知している。人柄や色々とあるだろうが、最終的には、押し通せるだろう。


「このために、オレは力と栄誉を手に入れた、わけでね。愛する奴を幸せにするためなら、全力でやってやるさ」


 去来するのは、愛しながら、愛せなかった少女だ。愛していると言えたのは、たったの数度。愛しています、と聞いたのも、たったの数度。

 それを再び迎え入れるために、カイトは努力を始めた。他の少女らがおまけ、というわけではないが、その結果として、他の少女も幸せに出来るのだ。結果としては、満足、だった。


「全く……主には恐れ入る。全力を出すのは常に女のため、か」

「おいおい……」

「否定出来るの? シャルにティナにってむちゃくちゃ頑張ってない? あれほどの頑張りあったら、って良く思うんだけど……」

「……ひ、否定出来ない……」


 ユリィのため息混じりの言葉に、カイトが膝を屈して落ち込む。ユリィは横に常に居たために、カイトの頑張りの分配は良く知っている。否定出来ない事は一目瞭然、だった。

 そうして、落ち込んだカイトは立ち上がると、そのまま歩き始める。このまま動画を見る瑞樹と密かに一緒にいても良いだろうが、カイト達にしても、そこまで無粋をするつもりはなかった。


「……帰って寝よ……」

「あ、一応念の為に使い魔は残していくね」

「そうしてくれ」


 歩き始めたカイトに対して、ユリィが一応念の為に使い魔を残していく事にする。瑞樹は美少女で、戦う力はあるといえども、今は夜だ。何が起こるかはわからない。なので一応念の為、だった。そうして、カイト達は密かに、その場を後にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第456話『新たなる一歩』

 次回から新章です。

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