表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十五章 異世界のメッセージ
472/3867

第451話 メッセージ ――到着――

 今日から数日は地球編。まあ、メッセージを追ってるだけ、なんですけど。

 天桜学園からのメッセージが届く数日前。日本で最も有名な老人の一人が日本国首相官邸の総理執務室を訪ねていた。本来ならばアポ無しの来訪なぞ許可が下りるはずは無いのだが、その老人の本来の姿を知るのなら、許可が下りるのは当然であった。


「と、言うわけじゃ。頼めますかな?」


 高級な来客用のソファに腰掛けた村正流妖刀鍛冶師の開祖の片割れである蘇芳翁が、数枚の手紙を日本国総理大臣に差し出した。

 急な来訪と、蘇芳翁の正体を知るのなら気圧されかねないが、日本国の現総理大臣、ソラの父親である天城 星矢(あましろ せいや)は一切の戸惑いも尻込みも無かった。そうして差し出されたメモを見て、彼は少しだけ黙考して、結論を出した。


「……わかりました。このままでは無駄に資金と労力を浪費するばかり。わずかながらでも情報が得られるのなら、お引き受け致しましょう」


 カイト達が居なくなった後の地球では、予想通りに大騒ぎになっていた。当たり前だろう。なにせ、学園一つが消えてなくなり、代わってまるで元からあったように草原が現れたのだ。

 だが、この草原がまた、問題だった。いくつかの動植物は日本に、否、地球には存在しておらず、まったくの未知の存在だった。更には地質調査を行った所、まったく未知の鉱物が発見されており、それが余計に混乱を招いていた。

 元々ここに学園設備があった事がわかるのは、学園に繋がっていただろう上下水道や送電線などのインフラ設備がそこで寸断されており、各種のトラブルを引き起こしていたぐらいだ。


「では、天城総理。それで頼みますぞ」

「引き受けましょう」


 ソラの父親は、蘇芳翁から手渡された手紙を受け取り、それを即座に鑑識に回す。それは大至急かつ確実を以って行われ、結果はその日のうちに出た。


「総理。失礼します。筆跡鑑定の結果が出ました」

「どうだ?」

「メモの表にあった文章は99%の確率で、ご本人と」

「そうか」


 ソラの父親は、感情を滲ませずに頷いた。まあ、彼も自分の息子の文字を見間違えるはずは無い。だが、一国のトップとして、確実を期したのだ。


「必要だから、やる、か。言うようになった」


 そうして、一人、ソラの父親は笑みを零す。嘗ては無かったことだ。息子が成長している事が嬉しくもあり、その成長を引き起こした事件が疎ましくもあり、その成長が見れない事が、残念であった。


「総理。それで、ご子息からはなんと?」

「見ろ」


 だが、返す言葉は言葉数が少ないし、感情が滲んでいるとは思えなかった。ちなみに、ご子息というが、そこの文字は彼の息子、ソラの物ではない。


「これは……送り状ですか?」

「ああ」


 秘書が手紙代わりに渡されたメモ用紙のコピーを見る。そこには、ソラの字で書かれた『必要だからやる』という文字と、郵便物の送り状だった。カイトが密かに地球に送った送り状だった。

 表向きはこちらの超一流の魔術師に頼んだ、という事にしておいた。自らが出来る、とは明言出来ないからだ。まあ、現にアウラならば、不可能では無いだろう。


「送り主は……天桜学園! 場所は……異世界エネフィア? あの異世界はそういう名前、なのですか?」


 その言葉が出た瞬間。その場に居た何人もの秘書官達がざわめいたのは無理もないだろう。


「物品は……精密機械? お届け先は天道 覇王……天道家のご当主? 一体何が……」

「メモの裏を読め」


 秘書は指示されるままに、メモのコピーの裏を見る。そちらにはソラとは別の綺麗な字で文章が書かれていた。それは送り状の文字と同じだった。


「天桜学園の現状を内包したSSDを送る? 密かに回収されたし? 後の手筈は全て一任する? 一体これは……」


 混乱する秘書を前に、星矢が口を開いた。


「天桜学園は異世界に飛ばされていたらしい事は知っているな?」

「ええ、まあ……」


 秘書が頷く。実は彼らも彼らで密かに天桜学園の行方は捜索しており、それが地球上には無い、という事は把握済み、だったのだ。


「『紫陽の里(しようのさと)』と『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』は知っているだろう?」

「はぁ……如何な手段でかそれを知った、と?」

「我々さえ、異世界の存在の確証を得た。ならば、不可能では無いだろう」


 ここにいる面々とて、日本の裏の裏まで知り尽くした者達だ。当然だが、日本に潜んでいる異族達の事も、自分達の血筋の事もよく知っていた。それ故、魔術という存在についても認知していた。だが、そうであるが故に、疑問があった。


「ですが何故、彼らの側に届いたのでしょう……」

「聞いたことは無いか? 蘇芳正宗……いや、蘇芳 村正は元は異世界の出身者だ、と」


 星矢が問いかける。それはまだ日本が戦国時代と言われた頃から噂されていた話だ。妖刀村正の開祖は、異世界の存在だ、と。


「おそらく、それが真実なのだろう」

「なるほど……」


 言われれば、納得が出来た。星矢の言葉には確かに筋が通っている。そうして、納得を見て、星矢が指示を下す。


「可能な限り天道本家に各種の検査官達を密かに入らせろ。天道のご当主と先代には話を通せ。特に先代に伝えろ。向こうから協力を依頼してくるはずだ」

「わかりました。では、手配します。マスコミ等に嗅ぎつけられた場合は?」

「適当にあしらえ。如何に大企業と言えど、そもそも天道家は一般市民だ。プライバシー等を理由に適当にあしらわせろ」


 理由なんぞ色々付けられる。なにせ、此方は国家だし、送り先にしても世界一の大企業だ。突発で起きた水漏れ工事の延長、とでもなんでも言い張れるし、最悪スポンサーとして文句を言うことも出来る。

 如何にマスコミがごねた所で、さすがにスポンサーには勝てないのだ。そうして、彼らも半信半疑ながら、動き始めたのだった。




 そして、数日後。ついにその時が訪れた。やはり、2つの世界の時間差があったのか、カイト達が送り出した時には朝一だったにも関わらず、届いたのは夜が更けてきた頃だった。とは言え、この程度で済んだのだから、御の字、と言うところだろう。

 届いてすぐに、各種の検査官達が動き始める。どんな細菌や毒物が付着しているとも限らないし、未知の放射線がある場合も有り得るのだ。その場から動かす事も出来ないし、万全には万全を期されていた。

 この場には、天道財閥が誇る研究者達が駆り出されており、その場で即座に検査が終了する様に手配が整えられていた。事の次第を聞いた桜の祖父が、大急ぎで国内有数の研究者達をかき集めたのだ。


「早く、早く開けろ!」

「ご当主、少々、お待ちを」


 届き先として指定された天道家本家の桜の木の前が見える桜お気に入りの一室に、桜田校長と同程度の老人と星矢、そして何人かのスーツ姿の男達が居た。スーツ姿は全員、天道に関わる企業の重役達だ。それも、天桜学園に子供を通わせていた重役たちであった。


「検査、終わりました。未知の細菌などは一切検知されませんでした。放射線共に問題無し」

「そうか! では、早く開封しろ!」


 桜の祖父の急かす声が天道邸に響き渡る。そうして、カイト達が送り出したメッセージ転送ボックスが開かれた。そうして、一番上にあったのは、桜直筆の手紙だった。


「ご隠居。桜様からのお手紙です。宛先はご隠居宛です」

「なんと! 渡せ!」

「はい」


 大声を上げてひったくる様に桜の祖父が手紙を受け取る。ちなみに、一応念の為に言っておく。桜の祖父は世界で最も恐れられる老人で、冷静冷徹、どんな仕事にも私情を挟むことは無いし、そもそもは感情を滲ませる事もない。それこそ、まだ、星矢の方が感情を滲ませると言えるほどだ。

 だが、こと桜の事になると異なる。この老人にここまで血が通っていたのかと周囲に驚愕させるほどに好々爺の表情になるし、桜に危機が迫ると全ての優先順位が桜優先になってしまうのであった。

 まあ、そういうわけで手紙の存在を知ってからは、ここ数日は全ての予定をキャンセルして自宅に待機して、桜のお気に入りの部屋から今か今かと届け物を待ちわびていたぐらいだった。


「……む」

「どうされた、ご隠居?」


 横に居たスーツ姿の男が、停止した桜の祖父を訝しんで問い掛けた。大慌てで手紙を読んだ桜の祖父だが、その瞬間に顔を赤らめて停止したのだ。


「ん、んん。こほん。いや、すまん。少々取り乱した」


 桜の祖父が赤面して、咳き込んで詫びる。少々では無いのは誰が見てもわかる。そういうのは野暮だろう。

 さて、桜の手紙だが、なんと書いてあったのかというと、彼がすぐに停止した事からもわかるように、長くは書いていない。では、何が書いてあったのかというと、こうであった。


『お祖父様。私は無事ですので、まずは落ち着かれて下さい。天道の当主たるもの、いつ何時でも動揺してはなりません』


 これはまだ桜の曾祖母が存命であった時に、桜に関する事で取り乱す彼を見て曾祖母が彼に告げていた言葉だった。それを間近で聞いていた桜もいつしか覚え、曾祖母が存命の時には彼女と共に、亡くなってからは桜一人で、彼が取り乱した時には、そう言うのが常だったのだ。そして、それは彼が当主を引退し、息子である桜の父に跡目を譲ってからも同じ文言だった。

 そうして、溺愛する孫娘の文字を見間違える筈も無い桜の祖父は、流麗で、しっかりとした筆跡から無事を確認し、更には窘められては彼としてはそうするしか無い。なので彼は努めて冷静に、部下に問い掛けた。


「では、報告しろ」

「はい。SSDのデータは抽出中。ですが、物品は天桜学園に納品されたPCルームのパソコンのSSDで間違いありません。シリアル、型番等全てが一致しました」

「そうか。中身のデータの方は?」

「破損ファイルはありませんでした。内訳は文章ファイルが数点、動画ファイルが数百。動画ファイルの方はおそらく、各生徒達の無事を知らせる物だと。文章ファイルはまだ精査出来ていませんが、タイトルからして異世界の現状と、天桜学園の現状を伝える物だと」

「すぐに精査しろ」

「すでにとりかかっています」


 桜の祖父はその言葉に頷くと、一度部屋に戻り、部屋から解析結果を待つ。それに、星矢は一つ、ため息を吐いた。


「悪いな、ウチの親父が」

「申し訳ありません、天城総理」


 そんな星矢に、2つの声が掛けられた。2つとも男の物だ。違うといえば、片方の声質は何処か荒っぽく、片方の声質は丁寧だった。

 そうして、その声に星矢が振り向いた所、そこには二人の青年が居た。片方は着物を着崩した荒々しい印象の男で、もう片方は品の良い服を着た若い男だった。


「ハオに春真君か」


 その二人は、共に桜の係累だ。片方は、桜の父天道 覇王(てんどう はお)で、もう片方は天道家嫡男にして桜の異母兄天道 春真(てんどう はるま)である。尚、桜の祖父の名は天道 武(てんどう たける)である。

 ちなみに、桜と嫡男春真の母親が違うのは離婚などではなく、春真の母親が逝去して、その継母が桜の母親だから、である。それ故、桜以下の弟妹達は春真ともう一人居る次兄とは、少しだけ年齢が離れていた。


「だから俺は覇王だって」

「ハオだ」


 敢えて『はおう』と言い直させようとする覇王だが、覇王と名乗るのも間違いではなく、彼自身に出会った者は皆、彼の事を『覇王(はおう)』と言うだろう。名前に負けぬだけの覇気が身に溢れていた。

 現に見た目としても息子である春真と比べても、年分の若さが少しも劣った印象は無い。いや、それどころか身に纏う雰囲気から、彼の方が若く見られても不思議では無かった。息子の春真が落ち着いた印象があるのも、それに余計拍車を掛けている。


「偶然、俺が居た時で良かったな。外で張ってたうるさい馬鹿共が全員引っ込んだ」

「あ、いえ、別に何か危ない事をしたわけではありません。単にプライバシーを説いただけです」


 覇王の言葉に少しだけ、ほんの僅かに眉をしかめた星矢に、春真が大慌てで解説を入れる。これも、常だった。


「そうか」

「相変わらず無愛想だな。って、まあ、そりゃいい。来たのか?」

「ああ」

「で、親父のあの慌てっぷりか……」


 酒を呷り、覇王がため息を吐いた。そうして零れたのは、真紅の魔力だった。それに気付いた春真が、大慌てで注意する。


「父さん」

「っと、いけね。家だと油断しちまうな」

「気を付けろ」


 酒を飲む時は気分が良いからなのか、いつもは抑えている筈の魔力が漏れでていたのだ。いや、漏れるのは何も、魔力だけではなかった。


「すぅ……はっ」


 そうして、一度気合を入れるとすぐに彼の本来の姿が現れる。現れたのは、龍の角に龍の目だ。


「おい」

「かてぇこと言うなよ。お前らと違って、俺は時たま気を抜かねえとやってらんねぇんだから」


 覇王は星矢の言葉を軽くスルーする。そう、彼は所謂祖先帰りだったのだ。桜の魔力と才覚が高かったのは、これ故もある。

 それと、もう一つ。桜がカイトに惚れた理由は、彼と覇王が似ている事にもあるのかも知れない。別段これは容姿云々という事ではない。

 いや、確かにお互いに末端と本筋という違いはあれど同じ血を引いている。それ故に若干容姿に似ている所はあるのだが、それ以前に二人は龍族の因子を色濃く宿しているが故に、雰囲気そのものが似ていたのだ。もし、二人が出会えば、まず間違いなく似ている、とお互いを評するであろう。

 それぐらい、二人はその身に纏う風格や、その言動。その所作のは端々には同じ荒さや強引さ、そして人としての感情があり、その強引さに端を発するであろう不可思議な魅力が存在していたのだ。


「な、なんじゃとー!」


 そうして、今まで桜の送ったビデオレターを見ていた筈の武の絶叫にも似た叫び声が天道邸を揺るがせた。そうして次に天道邸を揺るがせるのは、武が大慌てで駆けまわる動きと、それを喰い止めんと身体を張って止めるお付きの家人達の動きだった。


「い、今すぐ儂も異世界に行くぞ! 準備せい!」

「ちょ、ご隠居! 無理言わないでください!」

「えぇい! 儂の知らぬ間に悪い虫が付きおったか! 成敗してくれん! 覇王! 今すぐ蔵から妖刀『村正』を持ってこい!」

「はぁ……」


 祖父・武の言葉に何があったのかを理解した父・覇王は、ため息一つ吐いて懐からキセルを取り出し、それを手首のスナップだけで投擲して、見事に武の眉間に命中させる。ちなみに、彼は非喫煙者なので、キセルは単なるオシャレ道具だ。


「落ち着いたか、親父」

「ぐ、ぐぐぐぐ……これが落ち着いていられる場合か! さ、ささささ桜に、か、かかかかか彼氏が出来たじゃと! それも、けっ結婚を前提に、じゃと!」


 どうすればここまで動揺出来るのかと思うほどに、武は動揺しきっていた。それに、息子は頭を抱えて道理を説く。


「で、親父。異世界までどうやって? 俺は無理だからな。それに桜もお年ごろだろ。いい加減彼氏の一人も出来るって」

「ぐっ……」


 覇王は実は未だ存命の彼らの始祖を除けば、『秘史神(ひしがみ)』の中でも最優の魔術の使い手だった。その彼が、無理というのだ。どうあがいても彼らには無理ということに他ならない。


「おい、さっさと次の行動に入るぞ! 時間、限られてんだ!」


 手をパンパンと鳴らして、覇王は全員に号令を掛ける。そう、彼の言う通りに時間は無い。なにせ、カイト達が送ったメッセージ転送装置は自動で帰ってしまうのだ。それは前もって伝えられていた。

 彼らにはそれが正確に何時起きるかわからないが、此方からメッセージを送るならば、早いうちに行動を整えねばならなかった。


「で、残ったメッセージはどうするんだ?」

「家族に見せる。書類にはサインさせてな」


 覇王の問い掛けに、星矢が答えた。そこに感情は無かったし必要な事も告げられていなかったが、覇王にはそれで理解出来た。


「相変わらず必要ならやる、か」

「貴様もだ」

「仕事だからな」


 覇王の顔に浮かぶのは苦い笑みだ。だが、星矢の方には一切の苦味も無く、感情が感じられない。そうして、即座に天桜学園に子供を通わせる家族へと、連絡が行くのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。桜の祖父が外伝とは打って変わって全くの別人になってます。が、これが正解です。こういう人物です。


 次回予告:第452話『メッセージ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ