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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十五章 異世界のメッセージ
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第449話 メッセージ ――騒動の始まり――

「おーい! 全員、順番来たぞー!」


 魅衣やティナ、更にはイクサまで交えたバスケットの最中、2年A組の撮影の順番が回ってきたとソラが呼びに来た。


「ラストシュート!」


 そういったのは、ソラの声を受けた魅衣だ。彼女は元来の身体能力の良さを利用して、相手ゴールのゴールネット下から思い切りフリースローの要領でポイントを狙う。

 そうして、投げ放たれたバスケットボールは放物線を描き、吸い込まれるようにゴールネットへと直進し、そのままネットを揺らした。


「さっすがー!」

「やった!」


 チームメイトの少女とハイタッチを交わし合い、魅衣が大喜びであった。そうして、それと同時に、カイトが指をスナップさせる。そうして、何故か鳴り響くのは笛の音だ。


「え?」


 それに全員が唖然となるが、当たり前だろう。なにせ指のスナップで鳴ったのはパチン、という音ではなくピピー、という笛の音だ。驚かない方がどうかしている。


「試合終了だ……どうした?」

「笛……そういえば持ってない」


 そう、一番初めからカイトはホイッスルの音を鳴らしていたが、一度もホイッスルを咥えていないのだ。それどころかホイッスルを持ってさえいない。今までは試合中で気付かなかったのだが、試合が終われば違和感を感じるのは当たり前であった。


「……ずっと気付いて欲しかったんだよね」

「……うん」


 ちょっとだけ嬉しそうになったカイトに、ユリィがぽんぽんと頭を撫でる。二人共無駄な所に努力するあたり、似た者同士である。


「さて、行くか」

「いや、ホイッスルは……」


 何処? という全員の疑問を他所に、カイトはスタスタと歩き始める。ちなみに、ホイッスルの音を作り出しているのではなく、実際に鳴らしている。

 まあ、鳴らしているのはいつも通りに密かに横に並んで歩いているステラなのだが。彼女は主の悪乗りに乗せられて、彼女がかわりに吹いていたのであった。そんな彼女の呆れた顔は、誰にも悟られる事なく、終わるのだった。




「はーい。次、天道さん入りまーす」

「では、お願いします」


 そうして、カイト達も集合したことで、2年A組の撮影が開始される。一番初めは桜であった。が、のっけからクラス全員を巻き込んだ大騒動を起こした。


「今、そちらは何時頃でしょうか。此方は地球で言えば海山の恋しい季節といったところで、この間は海にも行って参りました」


 そうして、桜は良家の子女らしく、時候の挨拶から入っていく。まるでお手本の様なメッセージに誰もが感心するしか無いが、一人だけ違う。


「あの『海山の恋しい季節』とは一体何なんだ?」

「所謂時候の挨拶だ。まあ、畏まった言い方だと『盛夏の候』や『残暑厳しい』、なんかを使う」

「ふむ……言葉からすれば夏の挨拶、というところか。畏まっていないのはご家族向けだからか?」

「そういうことだな」


 未知なる文化に触れて、イクサが感心した様に頷く。ちなみに、桜の使った『海山の恋しい季節』とはおおよそ7月に使われる時候の挨拶だ。

 実際にはエネフィアでは1年48ヶ月、夏だけでも12ヶ月なので厳密に当てはめる事は出来ないが、夏を三分割すると今はまだ夏の初旬なので、その言い回しを使っただけだ。


「ほう……察するに、彼女は何処かの貴族の子女なのか?」

「いや、地球……日本には貴族はもうない。大企業の令嬢に当たる」


 誰もがぽかん、となっていたのを見て、イクサが尋ねる。カイトが地球ではなく日本と言ったのは、まだ英国などでは貴族位が存在しているからだ。一概に地球としては後々に面倒だと思ったのである。


「貴族でなくとも礼儀を教えこまれるのは何処も同じか」

「ほう……訳知り顔だな」


 イクサの苦味を含んだ口調に、カイトが少しだけ視線を向ける。そうして、カイトが彼女の顔を見ると、そこには彼の予想通りに苦笑が浮かんでいた。


「さて、な」

「そうか」


 二人が顔を見合わせたのは、この一度だけだ。そうして、更に桜の畏まった言い方や季節候の挨拶等への解説を行っていたカイトだが、最後の方になり、ついに爆弾が投下された。


「そういうわけですので、私は大丈夫です。頼りになる仲間や、友人が一緒ですので、お祖父様も心配なさらないで下さい」


 ここまでは、良かった。誰の目から見ても良家の子女として、満点を下されるメッセージだろう。しかし、次の瞬間。誰もが――地球に居る祖父達を含め――凍り付く一言をまさかの桜から投下される。


「あ、それと、結婚を前提にお付き合いしている方が出来ました。帰ったら紹介しますので、楽しみに待っていて下さい」

「ぶっ!」


 思い切りカイトが吹き出した。それを見て、桜が笑う。確かに付き合っているのは事実だし、挨拶には行かないとな、とはカイトも思っても居る。覚悟も決めていた。だが、まさかこんな形で暴露されるとは思ってもいなかった。


「……はい。5分終わりです。で、天音」

「三猿で」

「聞くと?」

「だよな」


 その瞬間。カイトが音も無く消失したのは言うまでもない。全員、付き合っていることは知っていた。だがまさかそんなに深い仲とは予想外だったのである。ちなみに、三猿とは見猿言わ猿聞か猿、日光東照宮にある三体の猿のことである。


「追え……って、その必要は無いよな」

「すぐ帰って来るしか無いもんな」

「帰って来たら問い詰めりゃいいだろ」


 いつもならここで逃走劇が始まるのだが、彼らも自分の撮影があるし、そもそもでカイトも撮影があるのだ。帰って来ないといけない。まあ、カイトの場合撮影は教室では無いので帰って来なくても良いのだが、シアの件やイクサの件、シアの護衛達との応対や他の撮影の監督もある。なので教室にとどまらないといけないのであった。


「逃げる必要無いのになー……」

「ユリィ」

「出来た?」

「うん」


 と、そんなカイトを呆れ顔で見ていたユリィだが、そこでふと、小柄な女の子が声を掛けた。彼女の背には、純白の翼があった。それに、ユリィが笑みを浮かべる。


「じゃあ、後は密かに、だね」

「おー」


 二人は密かに頷き合う。その顔は非常に良い笑顔であった。




「あら、帰って来たわね」

「そりゃー、何処かのお姫様が来てるからな」


 そうして10分して、大方の予想通りにカイトは教室に帰還する。ちなみに、彼は道中で瑞樹の所を覗いて、同じような爆弾を投げつけられたので脱兎の如く逃げ出したのであった。あちらは付き合っている事自体がそこまで広がっておらず、大騒動に発展しかけたのである。


「別に一人でも問題は無いのだけれど」

「そう言われてもな。後で教師たちが煩い……で、魅衣は終わった所か」

「うん。別に大して言うこと無いしね」


 魅衣だけは実家が異族の存在を知っているであろうことは確証を得ていたし、カイトの存在を密かに知っている者が二人居た。なので、大して不安になっていないだろうとさっさと終わらせたのである。そんなサバサバとした魅衣に、カイトが思わず笑みを浮かべる。


「相変わらずだな」

「ま、そんなもんでいいでしょ。ウチにはお姉も竜馬もいるしね」


 竜馬とは、彼女の姉・亜依の婚約者の事だ。実は彼は異族の血を色濃く引いていて、魔術についても若干使い熟せるのである。それ故、実家に何があっても彼がどうにかしてくれるだろう、という安心があったのだ。


「あ……帰る時には子供用の服でも買って帰ってあげよ」

「そりゃいいな」


 結婚してすでに数年が経過している二人だが、異族の血が混じっているからなのか、まだ子供は出来ていない。とは言え、兆しが無かったわけでは無いのだ。此方に転移する前には姉の体調が優れておらず、檸檬等の酸味の強い物を欲していたのだ。魅衣はもしかしたら、ぐらいには感づいていた。

 ちなみに、子供が出来ないと二人から相談を受けていたカイトの方は、実は亜依が妊娠している事を竜馬から聞かされている。なので密かに世界各国の子ども用品を送っていたりしているのだが、さすがに魅衣には当人達の口からと思い秘密にしてある。


「おい、次、天音の番だぞ」

「ん? あ、ああ。って、学校で撮影する奴はもう全部終わったのか?」

「ええ、取り敢えず学内の撮影は問題は無いわ」


 どうやら、知らぬ間にかなり話し込んでいたようだ。撮影の最中の監視を行っていたシアがカイトの問い掛けを認める。カイトはティナも居るしなにかとやりやすいか、とギルドホームでの撮影を選んだのだ。そうして、移動出来る者は連れ立って移動を始める。

 尚、撮影を監視しているのはシアだけではなく、皇城から派遣されてきた役人たちが撮影中に何か変な行動をしないか監視している。一人ひとり順番に行っていては日が変わっても撮影が終わらないであろうことは誰にでも容易に想像が出来たからだ。


「あれ? ユリィは?」

「あら、ユリシア女史なら随分前にふらー、と出て行ったわよ?」


 そうして移動していたのだが、ふと、カイトがロングコートのフードの中に見知った重さが無い事に気付く。ユリィが居なかったのだ。答えたのはシアだ。彼女はユリィを昔から知るが故か、『ユリシア女史』と呼んでいた。


「ふーん……」


 まあ、別にユリィがふらりといなくなるのは珍しい事ではない。なので、カイトは若干嫌な予感はしながらもスルーすることにする。まあ、それは大失敗なのだが、今の彼にわかるはずもない。




「えーと、取り敢えず、こっちは元気にやってます」

「余も、同じく元気じゃ」


 二人は兄妹でも無いが、一応は居候として――そしてティナの後見人扱いはカイトの両親であるため――同時に撮影している。そうして、撮影を開始して早々。どよめきが漏れる。


「……なあ、おい、あれ……」

「……かわいー……」

「ん?」


 ざわめきに気付いてカイトとティナが後ろを振り返る。すると、そこには、確かに、可愛らしい童女達が居た。


「おー」

「やほ」

「おじゃましてます、おにいさま」


 居たのは、小さな天使と小さな妖精、明らかにエルフ耳の少女だ。まあ、紛うこと無く300年前のアウラ、ユリィ、クズハの三人であった。


「何してやがる、この馬鹿共!」

「きゃー!」

「おー!」

「懐かしいです!」

「……はぁ」


 ティナのため息が漏れる。そうして始まったのは、追い駆けっこだ。往年の様に悪戯をしたユリィをカイトが追う格好だが、今回は悪戯っ子が二人増えていた。そうして逃げまわる幼女二人と妖精一匹を確保して、カイトは全員を座らせる。


「いいじゃんいいじゃん。私達だってカイトにはお世話になってるんだしさー。ご両親にご挨拶ぐらいさせてよー」

「んなことじゃねえだろ、この馬鹿!」

「ですが、おにいさま! 一度ぐらいはご挨拶を、と思うのは当然です!」

「おー。と、いうことで、カイトの義姉です」

「義妹です」

「……何だろ」

「知るか! と言うか、義妹はともかく義姉とか混乱するだけだろうが!」


  カメラに向かってVサインでアウラとクズハの自己紹介に続いて、ユリィが自己紹介をしようとして、カイトとの関係性に悩んで、カイトに問い掛ける。

 まあ、言うなれば相棒だろう。そうして、謎の幼女達の襲来によって呆然となる生徒たちを他所に、更に襲撃は続く。


「じゃあ、僕らも失礼しようかな」

「あ、アルさん。いいところ……に?……あれ? 誰?」


 そこでふと、撮影していた生徒達が呆然ながらにアルらしき人物を発見し、止めてもらえると少しだけ期待感を滲ませる。だが、どうやら何かが可怪しいらしい。


「あはは。まあ、その辺でいいんじゃないかな」

「……おい、待て」

「どうした?」


 そうしてカイトはふと、違和感を感じて振り返り、この状況下においては非常に有り難くない者を発見するのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。バレる心配が無いので、友人枠として登場。これぞ本当の友情出演。

 次回予告:第450話『メッセージ』

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