表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十四章 冒険部・皇都編
459/3877

第438話 遺跡調査 ――恋する乙女は強い――

 依頼人ロックの裏切りによって、身動きも封じられて周囲を漆黒の獣達に取り囲まれる事になったソラ達であったが、そこに、一つの柏手が響いて、体の自由を取り戻した。


「つっ!」


 体の自由を取り戻すと同時に、全員一気に身を屈めて飛び上がり、エントランスホールへと飛び込む。そしてそれと同時に、襲いかかっていた獣達が一気に一同の居た場所になだれ込んだ。


「月花さん! ありがとうございます!」


 ソラの感謝の声が広いエントランスホールに響く。柏手は月花の物だった。それと同時に、月花も地面に落下してくる。


「いえ、別に構いませんよ。ええ、構いません」

「ほう……やはり、何らかの高位の存在だったか」


 月花の柏手一つで身動きが出来るようになった一同を見て、ロックがゆっくりと降下して、一同と同じくエントランスの床へと着地する。そうして、再びロックが剣を振るう。


「来い」


 ロックが剣を振るうと、それだけで3階部分に居た漆黒の獣達は再び漆黒の霧に戻り、今度はロックの前で一体の巨大な獣の姿に変わる。


「つっ……」


 10メートル程の巨体に変わった漆黒の獣を見て、ソラが息を呑む。今のロックから放出されている圧倒的な気配と合わせると、この獣もかなりの強さ、多分自分達では勝てない程だ、と理解出来た。


「まったく……抵抗しても無駄だ。今のお前達では、勝ち目は無い」


 ロックの言葉は、確かだった。今のソラ達では、どう足掻いてもこの状況を覆す事は困難だった。確かに、ロックに対しては月花で戦えるだろうが、その場合は、この巨大な獣は自分達で相手をしなければならないのだ。となると、苦戦が簡単に予想出来た。

 そうして、ロックが身を屈めて剣を構え、こちらに肉薄しようとした所で、月花が先んじて、飛び出した。流石にロックを相手にしては、ソラ達では一瞬で肉塊に変わるだけだ。


「ふっ!」

「おっと……やはり見立て通り、並の実力者では無い、か。300年前の大戦期の英雄格か」


 どうやらロックは月花のことは知らないまでも、大戦の事は把握しているらしい。彼が何者なのかは未だに不明だが、少なくとも、厄介な事だけは把握出来ていた。


「ふーむ……まあ、良い。では、当初の予定通り、お前にはあの子供達を相手にしてもらうとしよう」


 一瞬で月花と打ち合うこと、数十合。どうやら一瞬で勝負を付けることは諦めたらしいロックは、視線だけで漆黒の巨大な獣に合図を送る。


「来るぞ! 全員、加護は最大に使え! 温存はするな! したら負けだ!」


 瞬が一同に号令を掛ける。流石にこの状況で月花の援護が貰えるとは思っていない。なので、その声には僅かばかりの固さがあった。そして、相手は圧倒的な格上だ。出し惜しみは一切無し、だった。そしてその瞬の判断に、全員従う事にした。


「つっ!」

「凛達が来れば、もう少し手の出しようがあるが……取り合えず、なんとかするぞ!」


 瞬の顔に苦味が浮かぶ。素直に、戦力の分散が痛かった。とは言え、ここらもまた、ロックの目論見通り、なのだろう。とは言え、その僅かな時間をもたせられるかは、完全に不明だ。


「俺が前に、ぐあっ!」


 一瞬。それで、ソラが吹き飛ばされる。なんとか防御は出来た様子だが、それだけだ。そして、更に敵の攻撃は続く。


「きゃあ!」


 次に狙われたのは瑞樹、だ。なんとかギリギリ反応は間に合ったが、それでも一撃で相当なダメージを負ったらしく、膝が笑っていた。そしてそれに、桜が思わず目を見開く。


「賢い!? つっ! 一条会頭!」

「わかっている!」


 この一撃は自分では貰えない。それを判断した瞬は、桜の言葉と同時に自らも次に狙われるのは自分だ、と判断して加護の力を強引に取り込んで、<<雷炎武・弐式(らいえんぶ・にしき)>>を発動させる。

 攻撃力が最大の瑞樹と、防御力が最大のソラを狙い打たれたのだ。ならば次に狙うのは、指揮官役の彼に違いない、と判断したのである。だが、<<雷炎武・弐式(らいえんぶ・にしき)>>てもなんとか、回避がギリギリ行える程度、だった。


「つっ! なんだ、こいつの速さは!?」

「一条会頭! 援護しま、きゃあ!」

「くそっ!」


 援護に入ろうとした桜だが、瞬の相手をフェイントにした漆黒の獣に、一撃で防御の上から気絶させられる。瞬を倒せないと見て、漆黒の獣が倒せそうな者から倒していく事にしたのだ。

 そこからは、ほぼ一瞬だった。どうやらソラ達を吹き飛ばした一撃と速度でさえも手加減していたらしく、漆黒の獣はもはや瞬でさえ援護が出来ない圧倒的な速度で、残る面々を気絶させていく。

 幸いなのは、手加減されているからかそれとも攻撃力はそこまででは無いからなのか、気絶や立ち上がれなくなっている程度で、まだ復帰の見込みがある程度、だろう。復帰するまで敵が待ってくれるかは、残る瞬と弥生に、賭けられていた。

 あまりに、圧倒的。それに、瞬の顔に苦々しい物が浮かび上がる。少しでも自惚れ――決して瞬は自惚れていないが――を見せたら、このざまに陥るのが、この世界。それをまざまざと見せ付けられた感じだった。


「ちぃ……残るのは神楽坂だけか……」

「まあ、やっぱりダメよね」


 悪態を吐いた瞬に対して、弥生が何処かため息混じりにつぶやいて、前に踊りでた。それに、瞬が顔に驚きを浮かべて、制止を掛けた。


「神楽坂! 安易に」

「じゃあ、ここからは、私の出番ね」


 安易に前に出るな、と言った瞬に対して、弥生は漆黒の獣から視線を逸らすこと無く、告げる。どうやら彼女は漆黒の獣の速度に対応出来ているらしい。そして、瞬が思わず、息を呑んだ。


「……は……?」


 瞬でさえ目で追えない速度で、弥生が一瞬で消えたのだ。そんな彼女が何処に行ったのか、というと、漆黒の獣の前に居た。


「はっ!」


 単なる回し蹴り。瞬や他の面々ではどうあがいても止められなかった漆黒の獣を、弥生はそれだけで止めてみせる。

 とは言え、それだけでは、弥生の行動は終わらない。これは単なる挨拶代わり、だった。そうして、弥生が漆黒の獣の周囲に4人に分身する。


「ふふふ。この程度は足止めよ? <<四重奏(ソード・カルテット)>>!」


 4体に分裂した弥生は、同時に何処からとも無く取り出した短剣を投じる。投じられた短剣は即座に分裂して、短剣の雨となり、漆黒の獣へと逃げ場のない包囲網を展開する。

 とは言え、この程度で、どうにかなる相手でも無い。漆黒の獣が大きく息を吸い込む動作をすると、一瞬の溜めの後、大きな遠吠えにも似た音が響き渡った。


「ぐぅ!」

「うるさいわね……まあ、とりあえず布石はこれで良いかしら」


 思わずのけぞった瞬に対して、自らの短剣の雨が全て吹き飛ばされたというのに、弥生は至極平然としていた。まあ、布石、というぐらいなのだから、これは織り込み済み、だったのだろう。

 とは言え、そんな呑気な弥生に対して、瞬が大声で注意を促す。漆黒の獣の口に、同じく漆黒の光が収束していたのである。


「神楽坂! 口に気を付けろ!」

「あら。結構高威力そうねぇ……えーっと……あ、あったあった……<<偽・最硬の盾(イージス・レプリカ)>>!」


 呑気な弥生は、そのままのテンションでマフラーの中から一つの盾を取り出して、口決と共に投じる。どうやら先の短剣もここから取り出したのだろう。そして、漆黒の光は盾に衝突して、完璧に防ぎきる。


「はい、回収。ありがと」


 投じた盾は攻撃を防ぎきると、そのまままるでブーメランの様に弥生の手元に戻ってきて消える。再び異空間の中に片付けたのである。


「さすがにその威力じゃあ、連発は出来ないわよね?」


 今の一撃は、明らかに殺しに来る一撃だ。それも、結構チャージした一撃、だった。これは当たり、だろう。というわけで、弥生は今度はこちらから、行動に移る事にした。そして再びマフラーに手を突っ込んで、今度は双銃を取り出す。


「さ、じゃあ避けてみなさい?」


 弥生は笑顔を浮かべながら、横っ飛びに駆け抜けながら双銃を構えて、引き金を引く。それに、漆黒の獣が身を屈めて飛び上がろうとする。当たり前だが、そのまま居れば全方位から魔弾を浴びて蜂の巣だ。

 だが、その瞬間。がん、という大きな音が鳴り響いた。それに、何が起きたか理解出来ず、漆黒の獣が驚いた様な気配を発する。


「何が……?」

「あら、残念。カルテットは足止め、って言ったでしょう?」


 彼女の物言いからすると、おそらく周囲に撒き散らされたままの短剣が何かをしているのだろう。とは言え、身動きが取れない漆黒の獣へ向けて、一斉に双銃の魔弾が迫っていく。

 それに、漆黒の獣は一瞬で判断を下す。取れる手段は、転移術で転移出来ない限りは、障壁で防ぎきるか、魔力を全方位に放出して全ての魔弾をかき消すぐらいしか無い。そして漆黒の獣が取ったのは、後者だった。とは言え、それは弥生の読み通り、だった。


「まあ、動けないんだから、そうよね。そして、障壁はそこまで強くはないのだから、ね」


 まるで、舞い踊る様。気絶していなかった瞬だけではなく、気絶から復帰した一同がそう思う。それほどまでに、弥生の戦い方は素晴らしかった。

 そうして、そんな弥生は自らの魔弾が全て防がれたのと同時に、くるりと回転して足を止めて、次の行動に移る。次に取り出したのは、金属棒だ。それを、弥生は振り回しながら、跳び上がる。


「はぁ!」


 ぶおん、と振り回した金属棒で、弥生は上から思い切り漆黒の獣を叩きつける。それで、障壁を破砕すると同時に、地面に漆黒の獣をめり込ませる。


「あら、沈んでちゃダメよ? まだ、終わらないんだから」


 着地した弥生は、着地と同時に今度は3つに分身する。そして分身した弥生は三角を描く様に三本の金属棒を地面に突き刺した。


「<<デルタ・フォース>>!」


 弥生の口決を受けて、三角の内側に下から光が迸る。そしてそれは、一気に漆黒の巨体を上に吹き飛ばした。それを受けて、弥生はマフラーを伸ばした。


「空中一本釣り、ってね」


 為す術もなく、漆黒の獣はマフラーに包まれて、空中で玉になる。そして、弥生はまるで次で終わり、とばかりに、一振りの細剣を手に取る。


「じゃあ、最後はルルちゃんの得意技……<<次元斬(じげんざん)>>!」


 弥生は手に取った細剣を一振りすると、それで、白銀の閃光が生まれる。そしてそれは避けることの叶わぬ漆黒の獣が包まれたマフラーを切り裂いて、更にはその中の漆黒の獣を両断する。そして、その斬撃に、月花と戦っていたロックが気付いて、感心したようにうなずいた。


「ほう……あれを倒すかね……はっ!」

「つっ!」


 どうやらロックは月花では無く、弥生に興味を抱いたらしい。大剣を大きく振りかぶって吹き飛ばすと、今度は弥生の方に向けて、身を屈める。が、その次の瞬間、再び、柏手が鳴り響いた。


「流石に少々やり過ぎです。ええ、やり過ぎです」


 月花の呆れた様な声が響いて、再びロックが動作の入りを潰されて、立ち止まる。そしてそれを受けて、ロックが大剣を消すと、先ほどの獰猛さは何処へやら、殺気を消失させて、苦笑した。


「そうか? まあ、様子見なのだから、この程度で良し、とするか」

「そうしてあげてください。十分に、痛い目を見たでしょう。それにしても……さすが弥生。相変わらずお見事な腕前です。ええ、感心に値します」

「こんな物よ、まあ」


 月花の礼賛を聞いて、弥生が細剣を振るって謙遜する。そうして振るわれた細剣は彼女の愛用するマフラーへと早変わりした。

 そうしてそんな弥生へと、ロックが声を掛けた。それも先ほどまでとは違い、戦いが始まる前と同じく何処か優雅な気配で、だ。


「いや、俺も素直に少し驚いた。まさかここまで、とはな」

「……え?」

「あら、嬉しいわ。恋する乙女は強いのよ」

「えぇ?」


 ロックの言葉に一同が首を傾げ、更に続く弥生の笑みに更に困惑を浮かべる。何が起こっているのかさっぱりだった。と、それと同時に、彼らが入ってきた3階部分から、魅衣と凛が顔を出した。どうやらようやく辿り着いたらしい。


「皆、無事!」

「ふむ。どうやら彼女らも来たのか」

「えーっと……あの、ロック……さん? 一体何が……」


 弥生と月花の様子からロックがどうやら敵では無いらしい、という事がようやく理解出来たソラが、身構えを解いて、まだ少しだけ警戒しつつも、問いかける。それに、月花が答えた。


「彼は敵ではありませんよ。ええ、敵ではないです」

「は?」

「いや、すまないな……まあ、すまないついでに、もう一つ。俺は実はシャーロックと言う名前では無く、シャムロック、というのが本名だ。そこの弥生は知っていた様子だがな」


 困惑する一同に、ロックが謝罪して、更には自分が偽名だった、と明言する。そうして、困惑する一同へと、ロック達から、事情が語られ始めるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。弥生、圧勝です。

 次回予告:第498話『遺跡調査』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ