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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十四章 冒険部・皇都編
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第433話 遺跡調査 ――出発手続き――

 旭姫の指示の下で訓練を開始した冒険部であったが、残念な事に、ソラ達は実力が高すぎたが故に、別行動を命じられる。というわけで、丁度入った依頼であった遠征に赴く事になっていた。

 そうして依頼人である考古学者ロックに従って皇都近郊にある馬車乗り場に向かった一同だが、そこで出迎えたのは、普通の馬車だった。


「内部には生活スペースもある。風呂やトイレ等も完備しているから、安心してくれて大丈夫だ……まあ、実は風呂等があるのは、私が嫌なだけなんだがな。ここばかりは、我儘を言っていてな。実はこの馬車は私の所有物だ」


 聞けばどうやら彼は通常はこの馬車を基点に生活しているらしい。なので一通りの生活が可能な馬車を特注で誂えてもらった、との事だった。キャンピングカーの様な物、なのだろう。

 後にカイトとティナに聞けば300年前の大戦期に義勇軍の移動拠点――本拠地は試作飛空艇船団――とする為、キャンピングカーに似た物を開発した事があったらしく、それが今では一般に出回るぐらいには量産体制が整っていたのである。と言っても、高価ではある。聞けば、とある遺跡でそれなりに価値のある遺物を手に入れた事があり、その費用で買った、との事だった。

 ちらりと中を垣間見ると、どうやら空間を弄くっているらしく、見た目以上に内部は広そうだった。キッチンは完備されていたし、水にしても問題はなさそうだ。人数分のベッド、とまではいかないが、十分に全員が寝泊まり出来るぐらいのスペースは存在していた。


「馬車に居住スペースを付けると、意外と便利でな。いちいち町中まで食料等を買い込みに行かないといけない、という点を除けば、移動する家に近い。どの街に行っても宿代は要らないし、治安の悪い街なら、逆にここの方が安全だ。私の様に旅をしていると、こういう馬車は重宝するんだ。時折メンテナンスが必要ではあるんだが……これが結構金を取られてな……良し。これで入っても大丈夫だ」


 雑談の片手間に警報装置等を解除していたロックであったが、どうやら警報装置の解除は終わったらしい。というわけで、一同はロックに促されるままに、馬車に乗り込む。


「まあ、お前たちが来る間にいろいろと用意はしているが……足りない物があったら言ってくれ。即座に整えよう」

「えっと、じゃあ、いろいろと見させてもらっても良いですか?」

「ああ、構わない」


 ロックの言葉に応じてソラが申し出ると、それにロックが頷いた為、一同は手分けをして、何か必要な物に抜けが無いかを確認していく。そうして確認をしていた一同であったが、そこでふと、ロックがソラに問いかけた。


「そういえば……ソラだったな。確か武器が壊れていた様子だが、大丈夫か?」

「あ、はい。一応予備があったんで、それ使ってます。仕事は問題無いです」

「そうか、なら、大丈夫だ」


 ソラが腰に佩びた片手剣を身体を傾けてロックに見せると、それを受けて、ロックが安心した様に頷く。当たり前だが、この依頼での彼らは戦いがお仕事なのだ。なのに武器がありません、ではお仕事にならないだろう。

 そして、御前試合でソラの武器が破損したことは、おそらく試合を見ていた国の殆どの者が知っている。となると、問いかけておくのは当然だった。


「えーっと、こっちは問題なし、と。先輩、結界どうでした?」

「ああ、馬車をテント代わりに使うからか、大きさとしては小さい物だったが……まあ、この馬車さえ覆えればそれで良いだけだからな。問題はなさそうだ」


 自らは寝袋の状況を確認していたソラが、結界の数や範囲等の確認をしていた瞬に問いかける。ここが最も重要な所だった為、実は最も遠征慣れしている――訓練好きが高じた結果――瞬に任せたのであった。


「由利ー、食料とかどうだー!?」

「あ、うんー! 一応一週間分あるっぽいよー! 非常食も完璧っぽいー!……あ、うん。水も大丈夫だってー!」


 瞬から結界についてを聞いたソラだったが、そうして更に由利に食料についてを問いかける。それを受けて、由利がキッチン用のスペースから顔を出して答えた。桜、瑞樹と共に、食料や調理道具の確認をしていたのだ。

 当然、この馬車はキャンピングカーに似た物だ。それ故、冷蔵庫等もあったし、コンロも存在していた。更には旅をしている、という事から干し肉等の緊急時の非常食は常備されていた為、食料については、最悪でも2週間、予定の倍は大丈夫そうだった。


「良し……じゃあ、食事は問題は無し、か……えっと、月花……さん? 馬車は?」

「問題はありませんね。ええ、ありません」


 野営用の結界、食料と来れば、次に重要なのは活動拠点となる馬車だ。この3つが完璧で始めて、満足に外を活動拠点として動く事が出来る。

 とは言え、残念ながら、ソラ達にはこんな特殊な馬車の性能を判断出来るだけの技量は無い。ティナの最も得意とする分野なのだが、そのティナも居ない。では次に冒険部の技術班は、となるが、それでも無理だ。こんな物は見たことも無いだろう。

 となると、出来る、と言っていた月花に任せるのが、最善策だった。月花も旭姫から手助けを許可されているし、流石にこれは出来ないだろう、と手を貸す事にしたのである。


「まあ……このタイプの物は私も開発を見ていましたからね。多少変化していても、問題無く、理解出来ます。ええ、出来ますとも」


 月花が外壁を撫ぜながら、苦笑する。彼女はカイトの使い魔達の中でも、最古参の使い魔だ。当然だが、彼女はこのアーキタイプとも言うべき試作品の開発段階から、カイトの横で見てきたのだ。幾ら元は武官といえども、理解出来ないはずが無かった。


「よっしゃ。じゃあ、問題なく出発出来ますね」

「ああ、良かった。何度も冒険者を雇った事はあるがね。その時々に応じて、必要とする物が変わってきてね。一応根本的な物は積み込んでおいたのだが……」

「ええ、その御蔭で、準備はもう必要なさそうです」


 横合いから口を挟んだロックに、ソラが頷く。旅慣れしている、というのはどうやら正解だったらしく、下手をすればソラ達よりもしっかりと用意が整えられていそうだった。


「良し、分かった。では、門番に許可を取ってこよう」

「お供します」

「ああ、頼んだ」


 瞬の申し出を受けて、ロックが頷いて、馬車から外に出て行った。ちなみに、会ったばかりの冒険者を家に残してなんと不用心な、と思うかもしれないが、重要な物は金庫に入っているらしいし、この馬車にしても彼が持つ魔道具が無ければ、動かないらしい。きちんと、そこの所は対処していた。


「門番に言わないと出れないのは面倒だが……まあ、皇都はこんな物か」

「他は違うんですか?」


 門番に対して街から出る手続きをしている間、ロックが呟いた言葉に、瞬が問いかける。今は待ち時間で、終わらない事には動きようがない。それ故、暇だった事もあってロックがそれに答えてくれた。


「街によって……いや、その土地を治める貴族によってそれぞれ、という所だ。例えば皇都なら手続きに時間が掛かる。が、逆にリデル公の土地なら、かなり手続きが早いな。警備は厳重だがね。これは何度かリデル公の治める街に入った事のある者に限った話だが……彼らは商人達の土地だ。時は金なり、と手続きの簡素化と高速化等は素晴らしい物だ。逆に一番警備が厳重なのは、やはり君たちが拠点としているマクダウェル公の土地だろう。それは治安の良さの理由でもある」

「そう……なんですか?」


 ロックの言葉を聞いて、実感の無い瞬が首を傾げる。実は瞬達は何度も出入りしている関係で門番達とは顔見知りだし、彼らの拠点はマクスウェルだ。それ故、ほぼ顔パスに近い状況で、殆ど手続きもおざなりなのであった。

 で、実は皇都にしても旭姫が一緒のおかげで、本来は時間の掛かる手続きは特例的に待ち時間なしで検査が行われ、殆ど待つ必要が無かったのである。


「暮らしていると分からないのか?……まあ、仕方が無いか。あそこはおそらくエンテシア皇国でも有数の警備体制を敷いている。例えば、門番のすぐ横には竜騎士達が控えているだろう? それに、マクスウェル近郊には飛空艇船団の活動拠点となる大規模な軍基地もある。検査こそおざなり、という感があるが……使っているのは国内でも有数の性能を持つ検査用の魔道具だ。危険物は申請なしでは持ち込めない」


 言われて、瞬が記憶を手繰ってみれば、確かに、街の門番達の横には天竜達が寝そべっていた。何時もぐでっと寝ているので全員苦笑していたのであるが、実はそれは瞬達だからこそ、だった。

 馬車を引く地竜達が街に入る際には暴れない様に警戒しているし、強い冒険者達が入る時にも当然だが、何時でも襲い掛かれる様に身を起こしている。

 他にも近くで魔物が出た時には即座に待機している竜騎士が乗り込んで討伐に出掛けるし、町中でもし冒険者が暴れれば、最悪は竜種に乗る彼らが出る事もある。それでも抑えられなければ、ストラ達の出番だ。結構大雑把に見えて、その実、かなり警備は厳重だったのだ。


「大雑把に見せているのは、民達に不安を与えない為だ。あまりに厳重な警備だと、今度は逆に何かあったのか、と民達が勘繰り、不安が蔓延する。適度に手を抜いている様を見せなければ、安心は生まれない」

「過ぎたるは猶及ばざるが如し、という事ですか」

「良い言い方だな。覚えておこう」


 どうやらこの言い回しはエネフィアではあまり一般的では無かった様だ。ロックが少し感心した様に、瞬のことわざを記憶する。そうしてそんな会話をしながらしばらく待っていると、手続きが終わりを迎えた様だ。街から出て良い、という許可が下りる。


「それに、リデル公やブランシェット公等他の公爵家も導入している指名手配犯等を記録し、検査するネットワークを構築したのが、彼らだ。それら数世代先の技術力を以ってこそ、彼らの警備は完成している……ああ、終わった様だな。では、いこうか」

「はい」


 ここは皇都の中だし、流石に街から出る検査の前に揉め事を起こす様な馬鹿は居ない。ということで大した問題も起きる事なく、二人は手続きを終える。

 まあ、やはりそれでも街から出る際には申請通りか検査がなされるのだが、その簡素化の為にも、この手続は必要なのだった。


「さて……というわけで、では、洞窟へと行くことにしよう」


 キャンピングカータイプの馬車へと戻ってきたロックは懐からゴーレム達を動かす為の魔道具を取り出すと、それを操作する。そうしてすぐに、馬車が動き始める。目的地まではこれで自動で向かってくれるらしい。と、そんな動き出した馬車の中で、ふと、ソラが疑問を口にする。


「そういや……これって、どうやって目的地まで誘導するんっすか?」

「ん? ああ、簡単だ。地図には街道は記されている。ならば、それまではオートで動く。それから先は、手動で適時指示を送れば良いだけだ」


 ソラの疑問にロックが笑いながら少しだけ身体をずらしてゴーレム達を操作している魔道具を見せる。それは水晶の様な魔石が取り付けられており、そこには皇都付近の地図が展開されていた。中心に光る点があり、それがゆっくりと動いている所を見ると、おそらくそれがこの馬車のおおよその現在地なのだろう。

 聞けば出発地点と速度から現在地を割り出している為、そこまで精度が優れているわけでは無いのが悩みだ、と言っていた。ティナの様にGPSに似たシステムを開発出来るはずが無いので、致し方がないだろう。


「さて……では、これから先。君たちの仕事だ。魔物が来れば、しっかりこの馬車を守ってくれたまえ……ああ、見張り台はハシゴを登った先だ。自由に使ってくれ」

「はい」


 ロックの言葉に、一同が頷いて了承する。こうして、一同は皇都近郊にある新しく発見された遺跡へと、出発することになるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第434話『遺跡調査』

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