第31話 当たり前の行方不明
後書きのラストは本当に単なるネタなので、やりません。多分。
宴会が終わり、一部そのまま宴会場で眠ってしまいつつも、多くが各々の部屋や領地へ戻っていった。そして翌朝。当たり前だが、宴会場では後片付けが行われていた。
「あ、まだお兄ちゃん寝てる。邪魔だからどけときますねー。」
そう言って壁際の兄を強制的に排除した妹のユハラ。兄への配慮は一切存在していなかった。コフルはカイトに気絶させられた後復帰するも、今度は酒に酔って眠ってしまったのであった。そこへメイドが一人やって来る。誰かを探している様子である。
「此方にもいませんか。」
「どうかしましたかー?」
入ってきたメイドが自分の指揮下にあるメイドであったため、ユハラが近づいて話しかける。
「あ、ユハラさん。それがですね、天桜学園からのお客様のお一人が行方不明なんです。朝食にお呼びしに部屋へ行くといらっしゃらず……。」
(絶対、ティナ様ですねー。昨夜はかなり鬱憤溜まってたみたいですし。貫徹して魔道具作ってますね。)
そう聞いて誰かをすぐに察するユハラであるが、顔にも口にも出さない。
「あれれ。どなたが行方不明なのかな?」
「えっと、確か、ユスティーナとおっしゃる方でしたね。金髪碧眼の小柄な少女です。」
予想通りに行方不明になっているのはティナであった。居場所の予想も付いているがそんなことはオクビも出さず色々と質問することにした。
「部屋は探した?」
「はい……。中庭の和室かとも思いましたが、そこにもいらっしゃいませんでした。」
「クズハ様へは?」
「すでに伝わっています。」
ティナはユハラを含めた家臣団では到達できそうにない領域に引き篭もっている可能性が高いので、カイトかクズハに頼むしかなかった。
「大変です!行方不明がまた増えました!」
そこに更にメイドが入ってきてそう言う。
「え?今度は誰が?」
ユハラはティナの予想は出来たが、もう一人は予想出来なかったのだが、名前を聞いて納得する。
「カイト・アマネ様です!」
(ご主人様でしたかー。大方ティナ様を見つけた所でテスターをさせられて、今度はご主人様が熱中パターンですねー……いつものパターンですけどー。)
そこにもう一人メイド―ちなみに、このメイドも昨夜の出席者―がやって来て
「研究室へ奥様が探しに行かれましたが、他の方は屋敷内をもう一度捜索するように、とのことです。」
と、言って探しに来た二人に指示を出す。指示を受けて再度探しに行った二人を送り出して、ユハラと後から来たメイドは二人して溜め息を吐いた。しかし、顔は何処か晴れ晴れとしたものであり、懐かしさを感じているようであった。
「はあ、ご主人様達は相変わらずね。」
全く変わらない二人にため息を吐くメイドに、ユハラも同意する。
「まあ、変わってても寂しい気がするけどねー。」
「まったくね。あ、でも、少しご主人様の女癖は収まってたほうがいいかもね?」
本人は全く意図していないが、公爵家の家臣団の内、特に公爵邸は女性比率がかなり高かった。それもカイトがいた300年前からいるメンバーの女性率は70%と他家の追随を許さない。一部貴族ではマクダウェル公爵家は公爵代行をはじめとして美女が多いので、勇者は色好みか、さすが英雄、や、勇者ハーレム御殿などのやっかみが浴びせられていた。男もいないわけでは無かったものの、コフルのように領地警備を務めていたり、ストラのように自分の組織を治めていたりといないことのほうが多いため、比率がなおさら高く見えるのであった。それを聞いていた部屋の他のメイドや執事も笑いながら同意し、カイトが帰ってきていることを改めて確認したのであった。
ユハラらがカイトの話をする少し前、天桜学園一同とクズハが昨夜と同じ食卓へ集まることになっていたが、一番早かったのはクズハ、桜の二人であった。
「クズハ様、おはようございます。」
「おはようございます、桜さん。」
「昨夜はあの後、大丈夫でしたか?かなり飲まれていたようですが……」
昨夜の醜態を思い出して顔を朱に染める桜。彼女ははっきりとは覚えていなかったのだが、一部は覚えていた。
「ええ。大丈夫です。それで、昨夜の事ですが、できれば……。」
暗に秘密にしてくれるよう頼む桜。さすがに法の支配がない上、状況に飲まれたとは言え酔っぱらいカイトに絡みまくっていたことは秘密にしておきたかった。
「ふふっ、構いませんよ。」
にこっと笑って了承するクズハ。そこへちょうどソラとカイトが入ってくる。
「お、桜ちゃんとクズハさん、おはよ。」
「ん?ああ、二人共おはよう。」
「はい、お二人共、おはようございます。」
「おはようございます。あのカイトさん、昨日はすいませんでした。できれば昨日のことは……」
挨拶を済ませてすぐに昨日のことを口止めする桜にカイトもソラに笑い了承した。
「ああ、わかってる。オレも酒を飲んでいたなんてバレたくないからな。」
「だよな。雨宮センセにバレたら何言われるか……」
「はい……。楓のおじいちゃんにバレたらと考えると、ぞっとします……。」
と、いうことで、昨夜の一件は三人の秘密となったのである。尚、ソラも酔っている間の事は殆ど覚えていなかった。
「お前も、分かったな?」
小声で肩の上で船を漕いでいるユリィに口止めするカイト。悪戯する気の無い時のユリィは別に早起きでは無かったので、かなり眠そうである。もしかしたら、昨日の仕事の疲れが残っているのかもしれない。
「んぅ~。りょ~か~……。」
コテン、と再び寝入りそうになるユリィ。が、肩の上の妖精を見て驚いたのは桜とソラだ。
「昨日の妖精さん!」
「そいや昨日からなんでカイトの肩に乗ってんだ!?」
カイトはいつもの癖でユリィを肩に乗せていたが、よく考えればおかしいことであった。
「あ、いや、昨日の宴会で懐かれて……な?」
二人は昨日の宴会がどういう理由でどういう面子が集められていたかを知らない上、妖精の年齢など全くわからないので、勝手にユリィが幼く人なつっこい妖精と判断した。
「そ、そうですか……いいなぁ。」
落ち着いた印象のある桜であるが、歳相応に可愛い物が好きなのであった。
「じゃあ、飯の間はそっちに……。」
気づいたら悪戯されかねないので常に視界に入れておきたいカイトはそう言うが途中で慌てた様子のメイドが入ってきてクズハに耳打ちする。
「奥様、少々お耳に入れたいことが。」
昨夜の宴会で楽しみに取っておいた料理を執事の一人に食べられて報復ビンタしていたメイドだが、今は冷静なメイドを振舞っていた。報告を聞いたクズハは内心、そうですよね、と思いつつ驚いた顔を作る。
「まあ、そうですか。……申し訳ありません、皆さん。ティナさんがいらっしゃる場所などにお心当たりはありませんか?」
カイトとユリィは遠い目をするが、この発言を不審に思うのは残りの二人である。
「えっと、ティナちゃんがどうかしましたか?」
ティナの行方を聞かれて疑問に思ったソラは事情を聞く。
「実はお部屋にいらっしゃらないらしいのです。」
驚愕に目を見開く二人だが、ソラは自分も捜索に加わる事を選択する。
「じゃあ、俺も探すの手伝います。昨日案内してもらった所だけだったら道覚えてますし。」
「では私はここでティナちゃんが来るのを待っていますね。入れ違いになってもいけませんし。」
桜は入れ違いになっても大丈夫なように待機することを選択する。
「じゃあ、俺も探しに行こう。クズハさんもここで桜と待っていてください。おい、起きろユリィ。行くぞ。」
当然だがカイトとクズハ、ユリィ以外の面子にティナを呼びに行くことは出来ないので、カイトも捜索を願い出る。カイトは相変わらず眠そうなユリィを起こしてソラとともに探しに出発した。
部屋を出てすぐ、ソラがカイトに話しかける。
「で、お前、なんでその子と一緒にいるんだ?」
事実は300年前からの仲間であるから、であるのだが、ごまかして答えるのは非常に難しかったので適当にはぐらかす。
「だから、言っただろ、昨日何故か懐かれた。」
つまり、理由は無いと答える事にしたのであった。
「懐くって、人をペットみたいにいうなぁ!」
ようやく目が覚めたユリィはカイトのペット扱いに頬を膨らませて抗議する。次にユリィはソラを見て頭を下げた。
「あ、そういえば君には自己紹介してなかったね~。はじめまして、ユリシア・フェリシアって言います。カイトの友人ならユリィって呼んでもいいよ~。」
さっきの怒りはどこへやら、のほほんと自己紹介されて自分が名乗っていないことに気づいたソラも自己紹介を行う。
「あ、うん。俺は天城 空。ソラでいい。で、なんでユリィはカイトと一緒にいるんだ?」
カイトの答えが要領を得ないので今度はユリィに聞いてみるソラ。ユリィはカイトが隠していることを知っているので、適当に答える。
「ん~?なんとなく?」
本人にそう言われてはソラは納得するしか無い。更にユリィが妖精であったので、地球での妖精の印象から、妖精らしい気まぐれなのかも、と思うことにした。
「で、探すって言ってもどこ探すよ。」
カイトに相談するソラ。
「とりあえずお前が3、4階、俺が1、2階でいいだろ。」
ティナの研究室は1階と地下にまたがって存在しているので、この分担にしたのであった。
「んじゃ、それで探すか。一旦15分後にさっきの部屋に集合でいいか?」
探す場所に拘りが無かったのでソラもそれで同意する。
「まあ、飯の時間になったら来ているかもしれないからな。それでいいだろう。……お前こそ迷子になるなよ?」
ニヤリと笑いそう皮肉るカイト。ソラも笑いながら皮肉を返した。
「お前こそ迷子になるなよ?」
そうして階段を上がっていくソラを見て、カイトとユリィは同時にため息を吐いた。
「やっぱ、こうなったか。」
「だね。じゃ、行こっか。」
そう言って二人の姿は掻き消えたのであった。
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