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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十四章 冒険部・皇都編
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第427話 遭遇 ――キャラバン――

「すげー……」


 ネームド・モンスターと言われる程の強大な力を持ち合わせた魔物をあっさりと屠った旭姫が冒険部の生徒たちの下に戻ると、そんな彼女を出迎えたのは感嘆と畏敬だった。


「どや」


 胸を張ってVサインでドヤ顔をする旭姫に、万雷の拍手が贈られる。これだけ圧倒的な武芸と戦闘技能を見せれば、誰もが彼女のドヤ顔も頷けたのである。


「あの……小次郎様。今のは何連撃ですか? 268までは見切れたのですが……」


 拍手が収まってまず口を開いたのは、月花だ。彼女は自身の眼で見切れた数を述べたのだが、旭姫は少しだけ残念そうだった。


「月花ー、鍛錬怠ったな?昔のお前だったら、300ぐらいは見切れただろ?」

「ぐ……申し訳ありません。怠ったつもりは無い……いえ、無かったのですが……」


 ちょっとの溜め息と共に旭姫から告げられた指摘に、月花が自身の不出来を恥じ入る。とは言え、彼女が見切れなかったのは実は彼女が鍛錬を怠った所為ではない。

 二人の経た時間が違ったが故に若干旭姫の腕前の上昇が高く、旭姫の予想よりも見切れた数が少なかったのである。まあ、少し正確では無いが地球でたった3年しか経過していない月花に対して、エネフィアで300年経過した旭姫だ。少々腕に差が出て当然、と見做せたが、そこらはまだ旭姫は把握しきれていない。仕方がないだろう。

 ちなみに、そんな旭姫の問い掛けを一切理解出来なかった冒険部の生徒たちは、月花に恥じ入られてしまってはどんな風な表情をすれば良いのかわからなかった。


「いちおー、450回だ。まあ、練習だからな。あの程度でいいだろ」

「あの……何ですか? その数」


 ヘンゼルは実は初手から数撃は何が起きたか見えていたので少しだけ理解できていたのだが、それでもかなり嫌な予想であったので不安げに問い掛けた。それに、旭姫が平然と答えを告げる。


「んー? オレが振るった剣戟の数」


 その言葉に、誰もが唖然となる。400を上回る連撃がコンマの刹那をも遥かに下回る刹那の一瞬で振るわれたのだった。


「今ので……練習ですか?」


 桜がカイトやティナが時々見せるぶっ飛んだ技量を見た時と同じ引き攣った顔で問いかける。今の彼女達カイトの正体を知る者達にとって、『蛙の子は蛙』ということわざが身に沁みて理解出来た。


「まあなー。だって刀研ぎ直してもらったから、ついうっかりやりすぎてもいけないし。かるーくにしとかないと、って」


 うんうん、と自身の考えを肯定するように頷く旭姫だが、そんな旭姫に一同はドン引きするしかない。軽く、で自分達をまさに軽く超えたのだ。こちらもまた、仕方がない事だった。


「<<燕返し(つばめがえし)>>とは、超速の連撃を繰り出す技なのですか?」


 藤堂がもはや拝みかねないレベルの畏敬の念と共に問いかける。もはや神仙の領域にまで到達している旭姫の武芸に、同じ剣の道を進もうとする者として、彼には神仙と同等に見えたのである。


「いや、違うぞ?」


 その藤堂の問い掛けを、当たり前だろうと言わんばかりに否定する。そして、重ねて問い掛けた。


「そんな単純な技巧をウチの秘技にするわけないだろ?」


 まあ、当たり前だ。確かに、彼女の領域にまで達した連撃であれば奥義足りえるが、単なる連撃だけでは、彼女が謳う日の本一の流派の秘奥義足り得ないだろう。そうして、そんな旭姫の返答に、藤堂が更に問い掛けた。


「では、如何な物なのですか?」

「教える筈ないだろ。ウチの流派でもないし。と言うか、ウチの流派でも完全に<<燕返し(つばめがえし)>>を使えるのカイトぐらいだしな。もし知りたかったら、ウチに入門するか、見切れるだけ腕を磨け……いや、滅多に弟子取らないから教えないけどさ」


 どこか申し訳無さを滲ませながら、旭姫が語る。奥義<<燕返し(つばめがえし)>>を使える者は確かに数人居る。旭姫の弟子はカイトだけでは無い。武蔵ほど多数では無いが、彼女にだって他に弟子は居る。

 だが、旭姫と同程度となると、使える者は他にカイトしか居なかった。それほどの使い手に自身の秘技を教えられた事は、密かに彼女の誇りであった。


「うっ……それもそうですね……」


 旭姫の言うことをもっともだと考えた藤堂は、教えを請おうとした自身を恥じる。他流派の奥義中の奥義を聞き出そうなぞ、武人として恥じ入るべき事だった。

 かと言って、既に長年今の自らの流派を学んだ者として誇りを持つ藤堂は、そちらに転向して学び直そうとは思わない。


「その意気やよし。じゃあ、頑張れ」


 自身に学ぶではなく、見切ってやろうという気概を見た旭姫が大きく頷く。自身の流派に誇りを持たぬことは、独自でない限りは師や開祖、その流派を学ぶ同胞への不敬でもある。それ故、彼女はこの部長の気概を認め、一人の剣士と扱う事にしたのであった。

 と、そんな一同に対し、大声で問いかける声が響いた。それは冒険部に関連する者や、ユニオンの職員、軍人の物では無かった。


「おーい! 何かあったのかー!」

「ん?」


 声に気付いて、旭姫が声のする方向を伺う。するとそこには10数台の馬車や竜車からなる商隊らしき一団が止まっていた。


「大丈夫か?」


 数人の武装した護衛が少し警戒しながら近づいてくる。まあ、こんな道端で軍隊でも無く武装した百人弱もの集団が屯していたのだ。商隊が警戒するのも無理は無い。


「あ、申し訳ありません」


 そんな商隊の護衛らしき人物に、月花が一同を代表して頭を下げる。さすがに警戒していた護衛らしい男達も、童女姿の月花が出てきては多少警戒を解かざるを得なかった。


「えーっと、お嬢ちゃん、こんな所で何やってんだ?」

「はい、実はここらで出たらしいネームドの討伐を小次郎様が行われまして。ついでに後学の為、見学させて頂いていたのです。ええ、頂きました」


 若干緩んだ警戒だが、それでも警戒されていることには違いがない。おまけに彼らはどうやらそれなりに高位の使い手らしく、警戒を緩めているが、隙が無かった。


「コジロー?」


 月花に示された旭姫を見た男達は、どうやらこの間の御前試合を見ていたらしい。少しだけ驚いた表情を浮かべると、おもむろに頭を下げた。


「失礼ですが……もしや、かの勇者の師、小次郎・佐々木様ですか?」

「ああ、そうだぞ」


 問い掛けられた旭姫は別に隠す必要は無かったので、即座に認める。そして、問い掛けた彼らとて、相手の嘘と実力がわからぬ愚者ではない。なので、直ぐに納得する。

 ちなみに、旭姫はエネフィアではなにかの貴族等の高貴な身分ではないが、伝説にまで謳われる勇者の師である。十分に敬意を払うに値する存在であったので、彼らの応対が非常に丁寧なのであった。

 まあ、丁寧な応対が出来るので、おそらく冒険者であってもかなり高度な教育が施されているか、商隊がどこかの貴族のお抱えで、護衛もその貴族から派遣された騎士達である可能性――実際そうなのだが――があった。


「失礼致しました。彼らは貴方様の弟子ですか?」

「いや、そうじゃないけど、故あって彼らの面倒を見ているんだ」

「そうでしたか。おい……」


 こちらへ来た中でも最も地位が高いらしい男が、横の一人に命ずる。すると直ぐに男の一人が立ち止まっている馬車の一団へと戻っていった。実は商隊の方では警戒して今も大規模な捕縛術式を待機中で、それを停止させに行かせたのである。


「失礼致しました。直ぐに術式を停止させますので、今しばらくお待ちください」

「いや、こんなとこで集まっているこっちが悪いんだ。気にしないさ」

「有難う御座います」


 元々はこんな人目の付く様な街道の直ぐ側で集まっていたのだ。最悪野盗等と考えられても可怪しくはない。なので、此方の失態を詫びこそすれど、旭姫としても文句を言うつもりは無かった。


「小次郎殿、捕縛術式は解除しました」


 しばらくすると、先ほど立ち去った男がもう一人、男を連れて戻ってきた。この言葉はその彼の言葉だ。


「そうか、ありがとな」

「いえ、此方こそ、ご迷惑をお掛け致しました。かの小次郎・佐々木様とは露とも思わず、いらぬ警戒を強いて強いてしまいました」

「いや、こんな所で集まってたんだ。邪魔だったな、謝罪するよ。済まなかった」

「いえ……それで? お前たちは?」


 旭姫からの問いかけに、男達も自らの自己紹介を忘れていた事を思い出して、隊長格らしい後から来た男が頭を下げた。


「ああ、これは申し遅れました。私はこのキャラバンの警備隊長を務めている者です。皆さんはこれから皇都へとお帰りですか?」

「ああ」

「そうですか。でしたら……」


 隊長格らしい男の言葉を受けて、旭姫が納得する。そうして、旭姫がキャラバンの警備隊長と名乗る男と話している後で、キャラバンに興味を持ったらしい生徒たちが口々に話し合っていた。


「キャラバン、って何?」

「キャラバン、は商隊とも隊商とも訳せますわね。所謂旅をしながら商いを行う行商人の集まりですわ」


 ある生徒の質問に、瑞樹が説明を行う。多くの生徒はキャラバンについてを知っていたのだが、どうやらこの生徒は少しだけ不勉強だったらしい。まあ、地球では今では見かけ無い物ではあるのだ。知らないでも無理は無いかも知れない。


「地球では盗賊等の略奪・暴行等から身を守る為、集団的に集まった商人や運送業者達の事ですわ。物語などで最も有名なのは砂漠を行くラクダのキャラバンですが、別に砂漠だけではありませんわね。まあ、砂漠が選ばれたのはキャラバンに有利なラクダは起伏を苦手とし、平坦な地形を選んだ結果、砂漠となった、ということですわ。ラクダが選ばれた理由は簡単で、馬は耐久力……この場合は持久力ですわね、に劣る為、長距離での運輸には向いていませんわ。それに対してラクダなら餌等が廉価な上……」

「瑞樹ちゃん、話がそれ過ぎてます」


 長々と続きそうになった解説を、苦笑した桜が遮った。そうして脱線しかかっている事に気付いた瑞樹が若干照れながら、軌道を修正する。


「あ、あら……申し訳ありません。まあ、本来はラクダが選ばれるのが地球の常識に照らし合わせると正解なのですが、此方では違います。魔術によるブーストがありますわね。そのおかげで、本来は不可能な筈の量と距離を運ぶことができますわ。また馬は特性そのものが竜車に近く、併用が可能。なので、必然として、馬車をメインとするのが発達したわけですわね」


 ちなみに、瑞樹がこう説明するが別にラクダを使ったキャラバンが存在しないわけではない。砂漠は当然存在しているし、そう言う場所ではラクダの方が利があるのである。ただ単に、エネフィアでは馬車の方が使える、というだけだった。


「はい、それで良いかと存じます」

「じゃあ、それで」

「有難う御座います」


 と、そんな解説をしていると、旭姫と月花、そしてキャラバンの警備隊長の男の会話が終了したらしい。旭姫と月花が此方を向く。


「おーい、全員ちゅうもーく」


 話し合いを終えた旭姫が号令を掛ける。そうして、全員の注目が集まった所で、旭姫が口を開いた。


「こっから帰りはキャラバンの護衛しながら帰るぞー」

「仕事ですか?」

「うんにゃ、単なる安全に帰る為だから、仕事じゃない。まあ、基本的にオレは上で見ておくから、各自警戒しながら帰る様に。帰るまでが遠征だからなー」


 瞬の問い掛けを否定して、旭姫が馬車の上に乗る。更にヘンゼルがその横に座り、月花が二人の横に滞空する。

 ちなみに、旭姫と月花がこれを依頼としなかったのは、こちらも帰る上でもし魔物に遭遇すれば、その際にキャラバンの結界が使えるから、だ。お互いに協力しあう方が得だ、と判断したのである。

 まあ、それ故カイトに提出した報告書が簡素になった結果、後にカイトが訂正を行う事になるのだが、言っても仕方がない事、だった。


「おーし、全員馬車の先頭を行くぞ!」

「うっす!」


 旭姫の言葉を受けて、瞬が号令を掛ける。そうして、その瞬を先頭として、元々のキャラバンの護衛達と共に、改めてキャラバン護衛隊形が組まれたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第428話『キャラバン護衛任務』

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