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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十四章 冒険部・皇都編
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第423話 活動再開 ――皇都――

 今日から新章開幕です。


 *連絡*

 本日24時に断章のソートを行います。ご了承ください。なお、今日明日分の断章は22時に投稿します。

「準備が整ったらしいですの。2時間後には、譲渡出来る、と」


 合同演習を終えて少し。カイトの元に、アンリが訪れていた。彼女が言う準備が整ったとは、<<導きの双玉>>の譲渡の事だ。そんなアンリの言葉に、談話室で休憩していたカイトが頷く。


「そうか、助かる」

「約10年ぶりじゃな、双玉を見るのは」


 更に続けたのは、同じく談話室で休憩していたティナだ。この二人は実際に自分達でも使っているので、実物を見ていたのである。

 ちなみに、研究所での活動は休みにしていた。つい数日前の夜会で譲渡は用意が整い次第出来る、ということで、いつ譲渡の準備が整っても良い様にここ数日は冒険部として、此方に待機していたのであった。


「導きの双玉ってどんなのなんですの?」


 二人は見たことがある風だったので、興味が湧いたらしい瑞樹が尋ねる。本来ならば国宝である上に軍事機密として、導きの双玉の外形は隠さなければならない情報なのだが、既に譲渡が確定しており、この数時間後には現物を見ることになるのだ。なので、ティナが別に良いかと判断して答えた。


「大して珍しい物でも無いぞ? 握りこぶし大の青白い宝玉と赤黒い宝玉じゃからな。青いのが対象を送る専用、赤いのが帰還専用のマーカーのような物、じゃな。赤いのが点滅すれば、帰還が近いということじゃ」

「そうなんですの?」


 ティナの解説を聞いて、アンリが少しだけ興味深そうに尋ねる。実は彼女も<<導きの双玉>>については見たことが無かったのである。


「まあのう……転移させる魔道具としては超破格の逸品じゃ」

「そうなんですの?」


 再び瑞樹が問い掛ける。転移させるだけの魔道具なら、それなりにありそうだと思ったのである。まあ、確かにあるにはあるが、これは別格であった。


「当たり前じゃろ。余にカイト、それにルクスら全員を纏めて転移させる代物じゃぞ。4人程度ならば他大陸まででもほぼノーリスクで転移可能じゃ。並大抵の魔道具でもこうはなるまいよ」

「まあ、使用期限があるから、早くウチに貰って帰るか。学園で待ってる奴も多いしな。椿、上層部の奴らに連絡。アンリ、クズハには?」


 別にまだまだ時間はあるが、駄弁っていて向こうを待たせるわけにも行かない。なので、カイトは椿に全員を呼びに行かせて、立ち上がる。


「既に連絡が行ってる筈ですの」

「良し。じゃあ、こっちも準備を整えて、皇城に向かうか」


 カイトは一度用意を整える為、自室に戻る事にする。流石に礼服も着用せずに国宝を受け取る、というのは憚られた。


「そういえば……一応オレはイリス殿と共に皇国側の証人、って事で良いんだよな?」

「はいですの。義兄様はもう公爵として復帰されていますので、そうなりますの」


 カイトの問いかけを、アンリが認める。この授与式は国宝の授与であるにもかかわらず、少人数で行う予定だった。それ故、カイトが証人として、参加する事になったのである。

 というより、証人としてカイトを擁立した上、ここでの皇帝レオンハルトの名代――皇帝レオンハルトは公務で参加出来なかった――が正式な初仕事となるシアとメルの事を考えて、少人数にせざるを得なかったのだ。更にはいくら国宝の授与という本来大きなイベントでも、学園側を全員参加させるわけにもいかない。ならば、と極少人数だけにする事にしたのであった。

 そうして、その返答を聞いて、カイトは特に気負う必要は無いな、と改めて認識して、自室へと戻る事にするのだった。




 アンリから通達を受けて、一時間。今回の授与式に参加する冒険部上層部の面々は、同じく参加する桜田校長達一部教師陣に先駆けて、控室に来ていた。


「あ……この間のイリスさん」


 皇城の一角に誂えられた応接室にて、ソラの呆然とした声が響く。彼だけでなく、瞬や魅衣達の顔にも疑問符が浮かんでいた。

 桜田校長が教師達との打ち合わせがまだだというので、待合室に先に来たのだが、なんと部屋には5公爵の紅一点、リデル公イリスが着席していた。


「皆さん、お久しぶりです。そしてマクダウェル公よ、お久しぶりです」


 彼女はカイト達の姿を認めると、椅子に座りながら優雅に頭を下げる。


 なぜ、この場に彼女がいるのか。答えは簡単だ。さすがに国宝の譲渡なので、皇国の代表として公爵以上の地位の者が二人に加え、持ち主である皇族――<<導きの双玉>>は初代皇王から代々伝わる製法で造られる道具の扱い――からも人が出る事になっている。その皇国側の代表の一人が、カイトと彼女なのだ。彼女が居る理由は大方、もてなし役として、だろう。

 ちなみに、今回は一応は天桜学園への譲渡なので、冒険部は直接は関与しない。冒険部が関与するのは、学園側の桜田校長への護衛の役回りだ。


「それと……皆さんには、先頃はお世話になりました」


 カイトに頭を下げたリデル公イリスがソラ達に微笑み掛けた。どうやら、知り合いらしい。そうして、怪訝な顔をするカイトに対して、微笑みながら彼女が告げた。


「公よ。後ほど、我がリデル家より冒険部宛にお礼を贈らさせて頂きますので、お受取り下さい」


 言われた事が理解出来ず、カイトがきょとん、と首を傾げる。この情報は聞いていなかったのである。


「いや……リデル公。失礼だが、何があったんだ?」

「先頃の石巨人(ストーン・ギガンテス)にて、襲われた我が商隊を助けてくださったのですよ」

「ああ、それ知っている……何故、そこでリデル公が? 後、あまり危うい橋を渡らせるのは止めていただきたい所だ」


 カイトが苦笑してリデル公イリスに告げる。それに、リデル公イリスが微笑んだ。


「あら、あの程度なら、この間の御前試合に出ていた皆さんなら、なんとかなると思ったのですよ。もし、ダメな時は私も居ますから」


 品良く笑う彼女は、まさにお上品な貴婦人だ。が、やったことはかなり危ない橋を若者に渡らせることであった。まあ、やらせた張本人は旭姫だろうという事は理解出来ていたので、カイトとしても強くは出れなかった。


「まあ、先生はいらっしゃいましたし、公がいらっしゃるなら、良いとは思うがな。とは言え、もしも何かあった場合は親御さんに対して、私の面目が立たない。あまり無茶はやめて欲しいな」


 そう言うカイトに、冒険部の面々はどの口が言うか、と思わないでもないが、それは無視する。そうして、相変わらず微笑むリデル公イリスが口を開く。


「ふふふ……まあ、気を付けておきますわ」


 躱すように笑みを浮かべたリデル公に、翔が興味を示した。


「あの……すんません。二人は知り合いなんですか?」

「? リデル公、名乗られなかったのか? と言うか、この中で昼食会で話していたのは……?」

「居ませんよ、この場には……そうですね。では、改めて自己紹介をさせて頂きましょう。エンテシア皇国公爵位リデル家当主イリス・リデル。以後、お見知り置きを、異世界の皆さん」

「なっ……」


 カイト達既に彼女を見知った者以外の冒険部全員が絶句する。それに、彼女はお上品で、どこか、いたずらっぽい笑顔を浮かべて、ウィンクをするのであった。




「全く……公も悪戯が過ぎる」

「まあ……公よりも随分マシだと思うのですが」


 二人は笑いながら語り合う。が、カイトの方を見て、リデル公イリスが笑いを苦笑いに変えた。


「ふふ……クズハ殿にはご無礼かと思いますが、やはり、兄君なのですね」

「はぁ……愚妹と愚姉の暴走は謝罪させてくれ」


 ようやくリデル公イリスから見えるようになったカイトだが、そんなカイトは溜め息を吐いていた。だが、そんなカイトの表情も、リデル公イリスにはどこか嬉しそうに見えた。

 今現在、とある理由からソラ達冒険部の面々が一度迎賓館に戻っており、入れ替わるようにクズハやアウラ達マクダウェル家の面々が来ていたのである。


「カイト、こっち」

「あ! お兄様、ではお飲み物をどうぞ」


 アウラがカイトにバケットを差し出し、クズハが紅茶を差し出す。二人共、長めのソファの中心に腰掛けたカイトの左右に腰掛けていた。今は。今は、なので二人共少し前は別の所に腰掛けようとしていた。


「はぁ……大変だね、成長していると」

「むー、残念」


 カイトの肩の上に腰掛けるユリィが苦笑しながら呟いた言葉に、アウラが非常に残念そうに答えた。そんなアウラに対して、クズハが柔和な、されど目が笑っていない表情で告げる。


「ふふふ……許しませんよ。お兄様の膝上を独占しようなどど……」

「オレの膝の上はお前らの椅子じゃないんだがな……」


 アウラを牽制するようなクズハに、カイトがやれやれ、と肩を竦めて首を振る。以前は、まだ二人同時に膝の上に座ることも出来た。当たり前だ。なにせ、その当時は二人共ローティーンどころかそれ以下だ。張り合った挙句に片方ずつの膝の上に腰掛けるのが通例だったのだが、今はそんな事出来ない。


「むー……やっぱり落ちつかない」


 ひょこ、と少しだけ腰を上げて、アウラがカイトの膝の上に腰掛けようとして、クズハに阻止される。


「ひどい……」

「酷いではありません! そもそもお兄様の膝の上は分け合うことで決着したはずです! それが出来ぬ今、再びルールを作り直すべきです!」


 よよよ、と泣き崩れるアウラに、クズハが怒鳴る。ちなみに、アウラは何時ものポーカーフェイスなので、完全に演技である。


「大丈夫、カイトはお姉ちゃんのだから」

「何が大丈夫なんだ……」

「魔帝陛下は加わらなくてもよろしいのですか?」


 尚も騒動を続ける代行二人を面白そうに見ているリデル公イリスが、我関せずを貫くティナに問い掛ける。ちなみに、元とは言え仮にもティナは皇国とタメを張った一国の城主なので、イリスの呼び方は丁寧なものである。


「構わぬよ。あれの膝の上を取り合うのは何時もよ。まあ、ここ暫くカイトがおらんかったからな。こんな揉め事も起きんかったし、桜らもおった。遠慮と言うかそんなものをしておったんじゃろう。それもまた、良し。たまには童心に返らせるのも悪くはあるまい」

「そうですか」


 見た目相応の少女の様にはしゃぐ? クズハと、見た目は成長しているのに行動が昔のままのアウラを前に、リデル公イリスが楽しげに笑う。と、そんな所へ、再び部屋へと人が入ってきた。


「おーう、おまたせ」


 ソラが一冊に本を持って、カイトに手渡す。それ以外にも桜や瑞樹達も同じような本を持ってきており、カイトに提出していた。

 彼らがカイトに提出したのは、冒険部で付けている依頼関連の報告書の写しだ。ちなみに、何故原本ではなく写しなのかというと、原本は既に皇都のユニオン支部に提出されている為である。


「んじゃ、確認するか」


 全員から報告書の写しを提出させると、カイトが全員の報告書の写しを精査していく。


「すいません、カイトくん」


 桜が少しだけ申し訳無さそうに、カイトに謝罪する。他の面々にしても、少し申し訳無さそうだ。何故こんな事をやっているのかというと、当然、理由がある。


「はぁ……まあ、いい。ウチはそれなりに理路整然と整った報告書を提出してくれる、とユニオンからも有り難がられているからな」


 一同の謝罪に、カイトは少し苦笑気味に冒険部ギルドマスターの署名を入れて、訂正を入れていく。冒険部には、校正用の人員がきちんといる。彼らが校正し、それを提出しているため、ユニオンでもこの情報はなんなのか、と悩む必要が無く、非常に有り難がられているのである。

 ちなみに、実はこの校正用の事務の人員をギルド側で用意しているのは商業系のギルドを除けば非常に珍しく、場所と規模によってはユニオンから派遣された職員が兼任している場合が非常に多かった。


「にしても……同行したなら、誰か商隊の出自はきちんと確認しておいてくれ」


 カイトが記述の精査に加え、ユニオン宛の手紙をしたためていく。実はこの報告書の中には誰もリデル公イリスの事について記述されておらず、公爵との遭遇はどこにも記述されていないのであった。


「何でしたら、お礼を引き上げさせて頂きますわ」


 書類の書き換えを行うカイトに対して、イリスが笑う。だが、それにカイトが手紙から顔を上げて苦笑した。


「きっちり頂いておく。まあ、そちらは商家だ。こういった場合の礼の重要性は理解しているだろう?」


 それに、リデル公イリスも微笑んで頷く。商人とは縁と信頼、そして何より礼儀が重要だ。救われたなら、その分の借りはきっちりと返しておくのが、彼らの礼儀であった。

 なので、この場合は幾らリデル公イリスの達しがあったとはいえ、ソラ達によって救われたのは事実。なので、彼女の家から冒険部宛に進物が贈られる事になったのだが、それに際して1つ問題が起きた。


「はぁ……また経理が面倒になる」

「あら、経理担当を置いていらっしゃいませんか?」

「と、経理の担当者から言われる」

「まあまあ」


 カイトのぼやきを、リデル公イリスが楽しげに聞き流す。と、そうしてカイトは一枚を書き換えた所で、次の一枚の依頼人を見て、こちらの方に問題は無いか、と少し不安になった。


「あ、ロックって奴の書類の方はそっちで一回検閲しといてくれ。そっちも改めて確認するぞ」


 カイトはリデル公イリスが関わった書類を訂正しながら、更にその後すぐに起きた一件についてを言及する。そうして、カイトは書き換えながら、彼らのここ数日の出来事を改めて、読み込んでいくのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:『お目付け役』


 2016年4月24日 追記

・誤字修正

『長め』が『眺め』になっていた所を修正しました。

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