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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十三章 合同演習編
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第422話 合同演習・エピローグ

「……あ?」


 間の抜けたアベルの声が、皇都近くにある研究所の一室に設けられたパーティ会場の風に乗って消えた。


「どうされました、准将?」


 そんなアベルに対するのは、第8研究室所属の蒼眼蒼髪のテスト・パイロット、即ちカイトである。彼と少し遠くの皇帝レオンハルトは悪戯が成功したような楽しげな笑みを浮かべていた。

 実は二人共これを狙って昨夜の会議では一切カイトがテスト・パイロットをしていた事を伝えなかったのであった。


「いや、待て……何故公がここにいる?」


 頭を押さえ、今までの状況を思い出し始めたアベルだが、何故、カイトと対面する事になったのかわからなかった。

 ちなみに、昨日の会議と異なり、この場は公なので、アベルはカイトの事を密かにではあるが、マクダウェル公と呼んでいた。


「……はぁ。察しが悪いな」


 一方、隠すことをやめたカイトは、アベルに敢えて少しだけ失望を見せると、更に続けて笑って告げる。


「次代のブランシェット公。今回、我がマクダウェル家が試作した魔導機は、魔王ユスティーナの残した設計図を元に密かに開発された物だ。それで察しろ」

「……ああ、なるほど。それは勝てぬわけだ」


 それだけで、彼も納得する。簡単な事だ。そもそも残された設計図などではなく、魔王その人の作った新作だったのだ。

 カイトに技量では勝てぬ事は昨日の時点で明らかだし、魔導機にしてもティナの完全新機軸の作だ。それ故、勝てぬのを道理と感じたわけだ。だが、これはカイトに言わせれば違うかった。


「いいや、違うな。オレの見立てではあの大型魔導鎧の出力も機動性もまだ、完成しきってはいない。が、それは此方の魔導機にしても同じこと。そこに差異は無い。現に、オレの魔導機もまだ、切り札を隠しているぞ?」


 その勝てぬ理由の勘違いを悟ったカイトが、アベルの目を射抜く。それは戦闘中、あれだけふざけ合っていながらも下した冷静な判断で得た結論だった。そうして、彼は更に続ける。


「ならば、ただ単に勝敗を分けたのは、両者の判断の差だ。まあ、あまり褒められた手では無いが、総当りでやるという判断をしたが故に、最後まで魔刃が届かなかっただけだ。だが、そちらのその後の砲撃は、準備が整うのが遅かったからな。見たところ、あれは切り札だろう。切り札を切ると考慮に入れたなら、その段階で準備しておけ。準備が整った上であのタイミングならば、なんとか勝てただろうよ。まあ、その後の戦いも念頭に置いたのだろうがな」

「そうだが……耳の痛い事だ。が、まあ、軍属であればそれぐらいは求められるか。心に刻もう」


 アベルには耳が痛い話だった。彼は実はあの口腔からの雷撃弾を考慮に入れたのは、分身を使った段階からだ。その為、十分に準備する時間はあったのである。

 だが、チャージした状態での制御の難しさと分身を保つ余裕、次に控える敵が居た場合などを総合的に考慮して、押し倒した段階での魔力のチャージを選択したのだ。

 これが、カイトとの勝敗を分けた。超至近距離からの雷撃弾の射出による獣人機へのダメージによる相打ちを僅かに逡巡したのが、判断への影響が大きかった。


「と、そうだ。1つ聞いておきたかったのだが……あの漂った魔力は何だ?」


 そうして、若干耳に痛い話があったアベルだが、気を取り直して本来自分が聞きたかった事を尋ねる。


「ん? ああ、単なる余波。魔刃作るのに、あれだけ出さないと使えないんだよな、あれ。と言うか、魔刃そのものが余波だからな」


 単なる余波によって自分の攻撃が防がれたのを知り、アベルがぽかん、と口を開ける。そんなアベルの顔にカイトは笑いながら、更に続けた。


「と言うか、あの魔刃自体がそもそも武器として考慮されてない単なる試験飛行で出来ただけの副次品だ。武器じゃないぞ」

「……何?」

「イエス。あれは単に本機の背面ユニットに大剣翼が取り付けられた事により起きた想定外の産出物です。当然ですが、どのような巨大物質でもマスターと言う莫大な魔力の持ち主が放出する莫大な魔力を機体内部に蓄積しきれません。その為、マスターの魔力は多くが余剰として排出されるのですが、その際、強制排出口から排出された余剰魔力が行き先を求め、背面ユニットの飛翔機近くの大剣へと収斂し、擬似的な刃となったのが、あの魔刃です」


 既に研究所ではその存在が明かされていた為、アイギスがカイトに代わって説明を引き継ぐ。それを受けて、少し興味深げにアベルが更に深く問い掛けた。


「ほう、ではあれは何らかの魔術で構成されたわけではないのか? あれはなかなかに良い技術だと思ったのだが……」

「イエス。その為、マスターやマザーと言った特殊な人材以外では再現不可能な術技かと。ですので、准将の機体に搭載する場合はその部分をオミット。単に刃の部分に擬似的な魔刃を創り出す機構を兼ね備えた武装を開発することを推奨します」

「むぅ……」


 アイギスの提言を考えるように、口に左手を当ててアベルが唸る。まあ、アベルでなくてもソラ達であっても、数メートルサイズでなら、刃の延長として魔刃として創り出すことは当然出来る。

 だが、この場合想定するのは、全長30メートル前後の巨大な魔導機が使う巨大な剣だ。当然、その必要魔力は超が付く程莫大な物となり、並大抵どころか高位の操縦者であってもまず、作り出せない。

 なので、一応は今回の一件で使った魔刃も実は魔術によって生み出した先端部分にしか当たり判定の無い魔術だと報告していた。


「それなら腹の部分がおすすめだな。あの可変式魔導鎧の腹は殆ど開いているだろう? あの部分に双刃剣を分離して両脇腹に接続出来るようにして配置。更には向きを可変にしておけば爪が振るえぬ状態での斬撃、突撃による刺突、平時は格納出来る様にすれば良いだろう」


 唸るアベルに、カイトが更に助言を与える。それに、更にアベルがどうすべきか、を考える。使用者の側から意見を述べるのも、テスト・パイロットを兼任する彼の仕事だ。聞いておいて損はなかった。


「なるほど。一度持ち帰って技官共に精査させよう。公よ、感謝する。」


 更に数度の質問の後、アベルは頭を下げると、自分が率いている研究室の面々の所に足早に去っていったのだった。




 そうして、アベルが去った後、カイトはアイギスを伴い、皇帝レオンハルトや軍高官と会談し、酒が切れたので調達に繰り出すことにした。


「アイちゃーん!」


 と、それを見計らったかのように、大声と共にマイに飛びつかれたアイギスが吹き飛んでいく。どうやら酔っ払ったマイによってタックルじみた強襲を受けた様だ。


「あーん、かわいいわー。こんな妹欲しかったー」


 ぐりぐりとアイギスを撫で回しながら、酒臭いマイがアイギスを抱きしめる。ちなみに、彼女の妹は現在皇都の学校に通っている。


「ちょっと、やめて下さい」


 アイギスが若干――というかかなり――嫌そうな顔で、かなり酒臭いマイを引き離しに掛かる。が、体格差と設定された力の関係上、撫でくり回されるが引き離すのは困難そうであった。


「……ほっとこ」


 少しの考慮の後、吹き飛んだ先はティナの方が近くに居た為、カイトは放っておく事にする。酔っぱらいに絡まれては碌なことがない。


「よう、カイム。准将も陛下も行ったみたいだな」


 そんなカイトに、ラウルが声を掛ける。どうやら彼は皇帝レオンハルト達――アベルの後に彼らが来た――との話し合いが終わるのを待っていた様だ。まあ、積極的に話に入り込んで行って皇帝と話したい奴がいるのか、と言われれば、出世欲が強く無ければ居ないだろう。


「まあな。何だ、見てたのか」

「まあなー。で、最後のあれは卑怯じゃん」


 どうやら自身が破れたパイルバンカーについてを言いに来たらしい。そんな恨みがましいラウルに、カイトがニヤリ、と笑みを浮かべた。


「恨みっこ無し、だろ?」

「いや、そうだけど……まさかあの時点で誰も武器残して来るとは思っちゃいないだろ」

「作戦勝ちだ」

「いや、つーか俺達でさえあのすだれが大剣だなんて聞いちゃいないぞ」


 二人の会話に、ハインツが割り込む。彼もお酒に口を付けて居た。そうして、アベルや皇帝レオンハルトが去ったからなのか、多くのテスト・パイロット達と数人の研究者達がカイトの周りに集まり始めた。


「武器は殆ど聞いていないな。少尉、結局最後の武装は何だったのだ?」

「ああ、隊長……あれは単なる杭打ち機ですよ。障壁をまるごとかち割るなら、あれが一番威力が高いですからね」

「それはもしかしてあれか? あの<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>を打ち上げる時に使っていた右腕の兵装か?」


 興味深げにルーズが問い掛ける。当然だが、皇国の会議でも確認されたかなり画質の粗い映像と同じ物をカヤド達テスト・パイロットや、ルーズら研究者達も確認していた。

 その時、右腕が衝突し、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の障壁を打ち破ったのを見たのである。まあ、画質が粗すぎて何だったのかは、ついぞわからずじまいであったのだが、カイトと共に戦った大型魔導鎧の部隊の一部が何か杭打ち機に似た物を腕に装着していたのを、確認していたのである。

 ちなみに、海沿いにあるという皇都の位置の関係上、皇都も蹂躙される可能性があったため、カヤドやラウル達研究所所属のテスト・パイロット達にも実験機を用いての出撃命令が下りていた。カイト達マクダウェル公爵家が魔導機を発進させた様に、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>相手に出し惜しみをすることは有り得なかったのだ。が、出撃準備中にカイト達が討伐してしまった為、途中で取りやめになっていた。


「ああ、便利ですよ。ゼロ距離まで近づかないと使えませんが……それでも、でかい、ごつい、硬いだけの魔物相手なら必中ですし、まあ、最後の切り札の1つです」


 実際、今回のラウルとの最後の戦いでも、カイトは最後の切り札として使用している。魔導機に搭載されている武装特性上完全に不意打ちで使える上、一撃が強いパイルバンカーはまさに切り札としては最適だったのである。


「<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の障壁を打ち砕けるだけの出力か……」


 ほんの僅かだが、ルーズの賞賛混じりの言葉が漏れる。大型魔導鎧の開発は<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の様な超大型の魔物との戦いを主眼とした物だ。

 そして、それはなんとか、一定の成果が上げられていると言ってよかった。そう確かに、現行第5世代の大型魔導鎧でも、一定の効果が上げられているのだ。

 だが、今はまだ、喩え第6世代機が量産ベースに乗ったとしても、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>を相手にしては数で取り囲んでも劣勢にあると言っていい。

 いや、それどころか。量産機のもつ安全性が高く、信頼性の高い平均的な出力の武装では、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>クラスの相手の障壁にさえ、傷をほとんど付けることは叶わないのだ。

 あのクラスを相手に出来るのは、抑えだけだ。だからこそ、捕縛弾という武装をメインとして、あの『ポートランド・エメリア』の戦いで使っていたのである。あくまで、抑えがメイン、だったのである。

 だが、こんな現状は巨躯を誇る軍艦とて変わらない。それ故、決戦兵器として、エネフィアでは戦艦は未だ現役で、更には大艦巨砲主義にならざるを得ないのであった。


「まあ、勝てる勝てないは別にしても、必要ではあるんじゃないですか? あれ、結構構造は簡単ですよね。構造が簡単だ、という事は裏返せば、整備性が高い、って事でしょう?」


 思慮に沈み始めたルーズへと、コールが僅かに苦笑しながら提言する。皇帝も出席している会場で思考に沈むのは、些か問題だろう。ルーズもそれに気付いたのか、若干はっとした顔で気を取り直した。


「ふーむ。まあ、確かに必要ではあるか。ああいった障壁破砕に特化した兵装が……」

「まあ、だが……あれは人を選ぶ」


 カヤドがパイルバンカーのデメリットを見抜く。確かに、構造は簡易だし、効果も抜群だ。だが、それと同時に最大のデメリットが存在していた。どうやら使い手側の心情が理解できないらしく、研究者達が首を傾げたのを見て、カヤドがパイロット側に質問した。


「ハインツ、あれを使いたいと思うか?」

「絶対に嫌っすね」

「ラウルは?」

「どーかんです」


 カヤドに問い掛けられた遠距離代表ハインツと近接代表ラウルは二人共首を横に振った。


「中尉、それは何故ですか?」


 ルーズは自分の所のテスト・パイロットであったが故にラウルに問い掛ける。すると、彼の意見は単純明快であった。


「だって、あれ、超近接だぞ? 大量に魔術が降り注ぐ様な状況で、んな化け物みたいな奴に突っ込んでいくってどういうことかわかるか? こっちだってデカブツ操ってんだ。邪魔なだけだぞ、普通。おまけに、敵としても、んなでかいの見逃してくれる筈は無い。敵にとっても味方にとっても、良い的だぞ?」

「……ああ、なるほど。自殺行為ですね……と、いうことは……」


 そこで、ゴクリ、と研究者の誰かが息を呑んで、カイトに注目する。


「カイム少尉って、どんな化け物だ……」


 現場で戦った軍の大型魔導鎧のパイロット達だけで無く、映像を見たテスト・パイロット達は、まずこの点に気付いていた。

 カイトはあの無数の砲撃と<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の攻撃をかいくぐりながら、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>に最後まで隣接し続けたのだ。それが出来てこその、神業だった。

 テスト・パイロット達の全員が、そんな神業の芸当を命が懸かった戦闘中に、いや、喩え訓練中でさえ出来るとは、露とも思っていなかった。


「……な、何か考えます……」


 これは却下だ。ルーズ達研究者一同が引き攣った顔で自らの提案を取り下げた。確かに、良い案ではあったのだ。手持ち式にしなくてもよく、おまけに切り札としても使える武装だ。

 構造は単純で整備性はよく、使い勝手にしてもただぶん殴るように突き出せば良いので、悪くはない。搭載するだけ損ではない、と研究者達は思ったのだが、使う方から言わせれば、こんな物を使わせられるというのは、まさに狂気の沙汰であった。


「まあ、でも、使えないわけじゃない。つい昨日のー、えーっと、何だっけ? 異世界からのお客さんがやってるギルド。カイム知らないか?」

「冒険部か?」


 ラウルは単純に、カイトがマクダウェル家の者だから尋ねただけだ。そして、カイトは当然知らないはずはない。そしてその答えを受けて、ラウルが頷いた。


「ああ、それそれ。それがぶっ倒した『石巨人(ストーン・ギガンテス)』なんか相手なら、いまいち銃撃は効きが悪い。でも、普通俺らのメインの相手はあいつらだろ? 杭打ち機でもあれば楽だ。『鉄巨人(アイロン・ギガンテス)』ならもっと便利になるはずだ。鉄を切るって大型魔導鎧でもかなり難しいからな」

「あー、あれウチでも出撃したしね。まあ、あの闘技場で活躍した子らが活躍して討伐したらしいけど」


 そういうのはアイギスを撫でくり回す酔っぱらいことマイだ。皇都近辺に現れた巨大な魔物に、研究所から実機訓練を兼ねて出撃命令が下ったのであった。


「ま、何かあったら使用感覚ぐらいは話すさ」

「その時は頼みます、カイム少尉」


 カイトの言葉に、ルーズが頭を下げる。そうして、この日は殆ど訓練もなく、終了したのであった。こうして、訓練のお疲れ会のような感じで、パーティは終了する事になるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。明日からは新章に突入です。

 次回予告:第423話『活動再開』


 2016年4月22日 追記

・修正

『。実は~』となっていた部分があったのを修正しました。

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