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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十三章 合同演習編
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第420話 秘密の夜会 ――発覚――

「……まあ、予想外の出来事もあったが、これで貴公らにもマクダウェル公の帰還は実感してもらえたかと思う」


 メイド服姿の大精霊達が消えた皇城の隠された一室にて、若干固くなった皇帝レオンハルトの言葉が響く。


「……ええ、そうですね。今のを見せられては、私もマクダウェル公と認めるしかありません」


 皇帝レオンハルトの言葉に、リデル公が頷く。どう足掻いても否定しようのない事実を出されては、如何な否定も無意味であった。というより、大精霊とじゃれあえる存在がそう何人も居てほしくはなかった。


「それでか……」


 此方も若干固さが残るアベルだ。彼はカイトの正体を把握するや、ここ最近皇都で起きた一連の裏を悟る。これはこの場にいる全員が気付いた。そうして、彼らはハイゼンベルク公ジェイクの方を注目する。そうして、アベルが口を開いた。


「爺だろ、あのリストの大元を作ったの。妙に自信有りげだ、と思ったんだよ。ハインリッヒの敗北と同時に俺達に動け、だからな。妙に敗北を確信しているな、とは思ったんだが……それはそうか……」

「然りよ。まあ、実際にリストを完成させたのはイリスで、捕えたのはアベルじゃがな。」


 アベルとハイゼンベルグ公ジェイクが告げたリスト、とは嘗てシアがハインリッヒに突き付けた貴族達のリストの事だ。シアはあれの写しを手に入れていただけ、だった。

 彼らは奴隷の売買を皇国内で行うことはせず、商人や他国貴族達を交えて行っていたのである。まあ、最終的な大本が盗賊達の国――更に正確には隣国であるルクセリオン教国――にたどり着くのだから、当然ではあった。

 とは言え、そのため、他国とのコネの強い彼と商業的に強いリデル家の所に情報が来たのだ。後は金銭の流れを見張れるリデル公がその貴族達の資金源などを内偵し、関係者のリストを作り上げ、そのリストを元に軍が動いた、と言うわけであった。

 

「ハイゼンベルク公はマクダウェル公の帰還には気付いていたのか? 妙に自信ありげであったが……」


 アストレア公が口を開いた。そう、誰もが気になったのは、ここだった。始めからハインリッヒが御前試合に出場し、そして負ける事迄確信して動いていたのである。カイトの性格と心情を理解し得るがゆえに、アンリをけしかけ、カイトを出場させたのだった。

 まあ、そんなハイゼンベルグ公ジェイクにとってもまさかハインリッヒが瞬に負けるとは思っていなかったのだが。そうして、再びハイゼンベルク公へと注目が集まる。


「それはそうよ。そもそも儂はこの悪がきの片割れの事を伝説となる前から知っておる。喩え幼き姿を取ろうとも、わからぬ筈があるまい」

「公にとってはかのウィスタリアス陛下でさえ、悪がきですか……」


 どこか楽しそうに告げたハイゼンベルク公ジェイクに対して、苦笑いを浮かべたリデル公イリスが呟く。彼女の場合はまだ在位50年少しなので、その領域には至れていないのであった。

 ちなみに、今は皇太子が未定だから参加していないが、本来ならば、皇太子もこの場に参加するのが通例であった。と言うかそうしないと、跡継ぎに情報を教えられない。


「まあ、知るまいよ。ほれ、そこの深い穴。あれはどこぞの皇太子とどこぞの英雄がふざけ合ってビリヤードで勢い良くショットした結果よ」


 楽しげなハイゼンベルク公の言葉に、カイトに注目が集まる。それに、カイトは少しだけ照れた様子で、こくん、と小さく頷いた。


「いや、あれは、まあ……いや、待て! けしかけたの爺だ! これが出来るか、とか何とか言って自慢気にバックスピン掛けたバウンドショットしやがったんだろ!」

「おや、そうじゃったかな? もう300年も昔じゃ。覚えとらんなぁ……いや、最近老化がひどくてなぁ……」


 すっとぼけてみせたハイゼンベルク公ジェイクだが、その顔には肯定を意味する笑みが浮かんでいた。


「ちっ……嘘言いやがれ……まあ、いい。爺はどの時点で気付いた?」


 これ以上何を言ってもすっとぼけられるだけなので、カイトは気を取り直して本題に戻った。ハイゼンベルク公ジェイクはまだ少し茶化したかったみたいだが、楽しげに笑いながら答えた。


「恒例行事の時点でよ。あの時、密偵を一人襲撃に参加させてな。密かに監視用の魔道具を置いてこさせた」

「何?」


 これには、カイトも驚いた。当然だが、カイトとティナにとって弱点となりかねない学園の周囲には、盗撮等を防止する為のかなり強固な防備を敷いている。それを掻い潜って、今の今まで発覚しなかったのだ。それは驚くべき事であった。


「おい、ティナ。お前見過ごしてたのか?」


 自身もそれなりに出来ると思っているが、専門家のティナには及ばない。なので、カイトは専門家に尋ねる事にした。が、当然、いきなりの問い掛けに再び公爵達が目を見開いた。


「いや、気づかんかったが……」


 答えたのは、先ほどカイトとハイゼンベルク公を相手にディーラー役をしていた金髪のメイドだ。実は彼女も密かにこの部屋に潜り込んでいたのであった。


「爺さまよ、それは本当か?」

「ふん、挨拶にも来ぬ様な娘に、答えてやる必要は無いな」


 少しだけ拗ねた様なハイゼンベルク公ジェイクは、メイド姿のティナの問い掛けに答えなかった。彼が言うのは、カイトに密かに会いに行った時に来なかった事に対する苦言であった。

 実はバックレられた事を少しだけ根に持っていたのである。まあ、ティナの事は一方的に非常に目を掛けているのだ。致し方がなくはある。


「いや、その前に……貴殿は?」

「おお、申し遅れたな。マクダウェル公カイトが婚約者が一人、ユスティーナ・ミストルティン。挨拶が遅うなった事を詫びよう」

「何? かの魔帝殿か? 何故貴殿までこの部屋に入れる?」


 優雅に一礼するティナに問い掛けたのは、アストレア公だ。ティナが平然と入室していることに驚いていた。当たり前だが、カイトの婚約者、いや、婚約したとしても彼女はこの場に入室する権利は持ち合わせていない。彼女の今の公な身分は元魔王というだけの一般市民だ。そんな権限があろうはずがなかった。


「それについては、申し訳ないとしか言い様がない。戦後にこの部屋の術式を整えたのは彼女だ。ばれない様に勝手に覗かれるぐらいなら、端から参加させたほうが良いというのがウィル……15代陛下の考えだ。今代のレオンハルト陛下にも了承を頂いた。駄賃代わり、と納得して欲しい」


 ティナに代わって、カイトが今代の公爵達に実情を説明する。ちなみに、この部屋の防備を整えたのは確かにティナだが、当然、皇城側からの監視も居たため、別に変な細工はしていない。まあ、目の前で平然と細工していても皇城側の面々には気づくことは出来ないだろうが。


「そうか、それでこれだけ強固に変化しているのか……」


 アベルが部屋を見通して、納得したように唸る。彼らには、当たり前の様に見て取れていた。この部屋は元々、300年前のティナがこれまた当時の基準で強固に張り巡らせた防諜の術式を使用しているのだ。それは本来、未だに現役として使えるレベルで、現に彼らが前回使用――前回は天桜学園が転移してきた時の対応の相談――した時もそのままであった。

 が、今は違う。ティナは二つの世界の魔術の知識を用いた、もはや既存の魔術体系には属しない独自体系とさえ言える魔術を用いて、防諜を施していたのであった。魔王の面目躍如、だろう。


「勝手に覗かれて、おまけにわからないぐらいなら始めから参加させたほうが良いわ。隠れてこそこそとどんな悪巧みをするのかもわからんからな」


 実情を把握しているハイゼンベルク公ジェイクが、一同に実情を語る。それに全員もっともだ、と頷くしかない。そうして、全員から納得が得られた所で、再び本題に戻った。


「何故気付いたのか、じゃが……まあ、それは簡単よ。あのレーメスの馬鹿の襲撃から数人逃げ出しておろう?」

「まあ、何人かは、おたくらとの繋がりがあったらしいけどな」


 ハイゼンベルク公ジェイクの言葉に対して、くく、とカイトは悪辣な笑みを浮かべる。当たり前の如く、カイトは逃げた面々や密かに監視していた貴族達の密偵の裏取りを進めていた。

 ハイゼンベルク公ジェイク以外は誰も明言はしないが、この場にいる全員がレーメス伯爵による襲撃に密偵を放っていたのだった。

 ちなみに、当然だが、密偵たちは襲撃には参加していない。遠く離れた場所で、密かに監視していただけだ。マクダウェル家に喧嘩を売ってまで欲しい技術は存在していなかった。


「襲撃に参加したと思われる冒険者の中で、オレが始末出来なかったのはおよそ5人。手出しせず監視していただけのが13人。その中で今まで裏も不明で逃げ延びているのは現状3人だ」

「腕利きを送って始末されたのは、そういうことか……」


 ファメル大公レイルが苦々しく呟いた。彼もまた、襲撃に監視要員を配置していたのだが、早々にステラ、ストラ兄妹に発見され、記憶を消されて送り返されていた。


「強固な防壁を張っておったぞ、貴公ら大公の密偵共は。おまけに実力の違う者を複数配置するとは思わなんだろうよ」


 ティナはどこか褒めそやす様な口調だ。が、隠れていた面々を全て見つけ出したのは、ほぼ彼女だ。ティナの張り巡らせた魔術の監視網に、ほぼ全て捕えられたのであった。

 それでも、やはり人手不足と学園の復旧に直ぐに回らざるを得なかったので、不十分な結果に終わったのだが、これは致し方がない事だろう。そんなティナに対して、ハイゼンベルグ公ジェイクが事の裏を続ける事にした。


「まあ、その中に逃げおおせた者にセツ、と言う冒険者がおってな。其奴に小型の録画用の魔道具を投げ捨てさせたのよ。時間があれば別じゃろうが、逃げる際に落とした物が敢えて落とされた物の中にそんな仕掛けがあるとは、お主らも気づくまい。後は儂が密かに立ち寄って、回収すれば仕舞いじゃ」


 そう笑って、ハイゼンベルグ公ジェイクが懐から投げ捨てられたらしい小型の魔道具を取り出した。かつて彼が回収した魔道具だ。一見すると単なるアクセサリーだが、よく見れば盗撮用の魔石が取り付けられていた。時間があれば、簡単に気付ける様な代物であった。だが、その時間が無い事を把握して、投げ捨てさせたのであった。

 と、セツ、と言う名前を聞いて、カイトが思い当たる人物に気付いた。嘗て、瞬が敵対した鎌鼬を使うランクBの冒険者の少年だ。彼は妙に引き際が良かったのだが、どうやら始めから指示されていた物だったのだろう。一目散に逃げ出した冒険者――金で雇われただけの冒険者にそこまで文句を言うつもりがなかったのも大きい――と思い、見逃したのが痛かった。


「ぐっ……あの時か……そういえば、爺の飛空艇が空港に補給に入っていた、っつってたか……あれはブラフだったわけか……」


 カイトは回収されたであろう大まかな日程を悟る。襲撃の後数日間、カイトもティナも学園の救護に忙殺され、マクダウェル家の面々にしても周囲の死体の処理に忙殺されたため、襲撃者達の遺留品の回収までは手が回らなかったのだ。


「何もかもをお主らで回したが故の失敗じゃな。これを肝に銘じよ」

「ちっ……だから爺は苦手なんだよ……」


 どこか言い含めるようなハイゼンベルク公の言葉を、カイトはしぶしぶに見えて、その実真剣に心に刻む。まあ、今はそうはならないが、それでも、失敗は失敗であった。受け止めておくのは、重要だった。


「まあ、それは置いておいて……その後かなり動きがなかったが?」

「ふん。どこかの誰かのやり過ぎをもみ消すのに奔走しておったわ」


 カイトの問い掛けに、ハイゼンベルク公ジェイクがかなり辛辣な顔を向ける。


「やっぱりな。助かった」

「ふん。後先構わず暴れおって。どれだけもみ消しに要したと思っておる」


 ハイゼンベルグ公ジェイクが、大半はわかっていただろうカイトの言葉に少しだけ不満気に口を尖らせる。当然、他国の密偵たちも皇国の様々な場所で活動している。ならば当然、天桜学園への襲撃は耳に入っていただろう。調査に走るのは当たり前だ。

 だが、二人共、とある理由から、まだ、カイトの存在は他国からは隠しておきたい所であった。つまり、カイトの違和感とは、他国からの干渉が妙に少なかった事に対してなのであった。

 200人もの盗賊に加え、密かにではあるが正規軍まで加わっていたのだ。それがものの数分で壊滅すれば、当然誰だって疑問に思うだろう。それがないのだから、疑問も当然、だった。


「さて、では本題に入るか」


 二人の話が漸く本題になったのをみて、皇帝レオンハルトは発議する。


「では、貴公らに1つ提案しよう。マクダウェル公と魔帝殿の帰還は、我らの総意として、秘すべきとしたいが、どうか」


 これこそが、今日話し合う本題だ。だからこそ、この部屋で招集が掛かったのである。こんな話題は表沙汰に出来ない。出来ないからこその、この部屋での夜会だった。


「儂はそもそもそれを隠す為に動いておったからな。異議は無い」


 外交上の切り札とするため、ハイゼンベルク公ジェイクは隠しておきたい側だ。だから、反対しない。


「ふむ……私としては、公にしたい所ですね。」


 それに対して、リデル公イリスは公にしたい側だ。彼女は内政、特に商業系を担うので、カイトという経済の活性化の起爆剤となり得る手札を活かしておきたい所だったのであった。


「此方はどちらでも構わん。が、まあ、どちらかと言えば、甥の事もある。晒す方が得策ではないか? ファメル公はどう考える?」


 リデル公イリスに支援を入れたのは、ロコス大公ニコラだ。彼の甥というのは、現陸軍元帥の一人であるトランだ。軍事上の抑止力として、公にしたいのであった。


「そうかね? 私としては、隠す方が得策と見るが……ブランシェット家の若造はどう見る?」


 ロコス大公ニコラから水を向けられて、ファメル大公レイルが否定を入れる。彼の従兄弟が、現宰相ヴァルハイトだ。此方は事情を聞かされた際に、宰相から、隠しておきたいと聞いていたのである。


「俺は隠す方に賛成だな」


 ファメル家当主レイルの言葉に、アベルが賛同を示す。彼は軍人として、確かにカイトとティナという優秀な指揮官の助力は欲しい所だ。しかし同時に、二人の今抱える案件が二人にとって見過ごせぬ物である事は把握出来ていた。

 弱点を抱えたままの英雄よりも、完全に弱点が消えた英雄の方が、軍事的に有難いのは当たり前であった。そして、更に彼は続ける。


「おまけに、今の時点ではまだ、教国との戦端を開きかねない案件は伏せておきたいのが、皇国軍の実情だ……マクダウェル公。一つ聞いておきたいが、良いか?」

「ああ、良いだろう……が、英雄譚なんかなら、後にしてくれよ?」

「そういうことでは無い。まあ、それは後の楽しみにさせてもらおう」


 カイトの茶化すような言葉に、アベルが苦笑混じりに笑いながら答える。そうして、更に話し合いは深みへと突入するのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第421話『秘密の夜会』


 2016年4月22日 追記

・誤字修正

 『英雄』が『英油』になっていたのを修正しました。

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