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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十三章 合同演習編
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第417話 合同演習 ――公爵対決――

 森林にてアベルの駆る獣人機と相対したカイトだが、一時の停滞を得た後、二体の新型は同時に地を蹴った。カイトは先ほどと同じく徒手空拳で戦おうとしたが、衝突の直前に考えを変える。


「アイギス! 背面から大剣を!」

「イエス!」


 カイトはアベルが双刃剣を分離して双剣として扱うのを見て、自身も両方の大剣を取り外す。テスト・パイロットとして公表している技量ならば一刀流ならまだ合し得るが、さすがに双剣を相手に徒手空拳で戦う事は出来なかった。

 そして、片方が大剣であると分かれば、必然、相手にももう一方も大剣である事は理解出来る。それ故、カイトは隠す事無く、両方の大剣を使う事にしたのだ。


『やはりその盾は大剣か!』


 どうやら、変わった形であったことから、カイトの前面にすだれの様に展開した物を駆動式の盾ではなく武器だと把握していた様だ。彼はあまり驚く事無く、カイトの振るう双大剣に対処する。

 アベルは獣人族としてのしなやかさを活かし、全身のバネを利用した体捌きで双剣を扱う。それに対して、カイトは自身の武芸を中心とした流麗な剣捌きだ。

 それ故、お互いに押し合うことは無く、打ち合えば直ぐに剣を離し、受け流す様に威力を減衰し合う。カイトは流派の問題から、アベルは大剣を相手に鍔迫り合いを行う愚を悟っており、お互い力では押し合わないのであった。


「所謂カスタム機か……」

「ノー。おそらく、設計思想から異なります」


 カイトのつぶやきを、アイギスが否定する。実際に剣を交えて分かった事があった。普通の大型鎧よりも、獣人機は数段動きがしなやかなのである。

 それ故、カイトが獣人機を大型魔導鎧の高機動用の発展形と考えたのに対し、アイギスは設計思想から異なると考えたようだ。


「獣人機は対大型魔導鎧を主眼として開発されているのだと推察します。本来、大雑把な動きをする巨大な魔物に対するため、あまり大型魔導鎧には繊細さは求められず、重装甲……強固な防御と、高威力の武装の運用を求められます。が、獣人機の質量を算出したところ、本機よりも30%程軽い事が判明しました。武装によっては反動で自機そのものが吹き飛びかねません。おそらくは変形機構を取り入れた事による肉抜きの影響だと思いますが、それでも、かなり防御力を犠牲にしていることは確実かと。更には、本機と相対した二機はどちらも高火力の武装は持っていませんでした。変形した際に邪魔にもなりますので、手持ちの重武装は無理かと……それ故、遠距離兵装は単発ぐらいしか有していないと判断します」


 カイトは斬撃を交わし合う最中に、アイギスの解説を聞く。それが真実かどうかはさておき、情報そのものは有益だ。

 そしてアイギスの推論は道理でもあった。本来、大型魔導鎧は大型の魔物と戦う事を前提としている。小型の魔物には、使えない。的が小さすぎて数十メートルもある巨体では狙えないのだ。アベルの獣人機の設計思想は、少しだけ、現行の大型魔導鎧の方針から外れていたのである。


「そうか……アイギス、双銃を取り出せる様に準備しておけ!」

「イエス!」

『ちぃ!』


 カイトはアイギスの言葉に従い、自身で対処出来ない様な奇怪な遠距離武器を有する可能性は少ないと判断する。

 そうして、一度距離を離す為、カイトは大剣を振りかぶり、そのままアベルを吹き飛ばす。アベルは吹き飛んでいく空中で変形し、獣に変わるが、カイトの方は大剣を再び背面に背負って大剣のブースターを前面に向けて一気に距離を離した。


「撃ちまくりだ!」


 距離を離したカイトは、アベルに向けて双銃を乱射する。が、アベルはそれを左右に移動しながら回避し、カイトとの距離を詰めるべく全身していく。そうして、やはり公爵級を相手に本気を出せぬ不利が祟り、段々とその差は縮まっていく。


『貰った!』


 遂にその距離がゼロになった瞬間、アベルが口を大きく開く。ギラリと鋭い牙が覗くが、その瞬間、カイトが回し蹴りの要領でその横っ面を蹴飛ばした。


「親父に打たれたことはお有りですかね!」

『ちぃ! 素早い判断だ! だが……1つ貰ったぞ』


 カイトは回し蹴りをする瞬間、手応えの無さからクリーンヒットしていないことを悟る。そうして、アベルが着地したと同時に、がらん、と右足の爪から拳銃が落ち、そのまま消失した。

 回し蹴りを食らう瞬間、彼は回避と同時に右足を振るってカイトの双銃の片方を右足の爪で貫いたのである。見た目こそ若干不格好であったが、実利優先だった。

 そうして、二人は再びにじり寄るだけで、近づこうとしない。お互い他にも隠し札があると警戒し、呼吸を整えているのであった。ちなみに、彼は軍の名門の家系の生まれなので、当然のごとく父親に殴られたことはあった。


「ちっ……ユニコーンと同じく空中に足場を作れるわけか。まあ、当然か」

「イエス。録画映像にも空中に足場ができています」


 カイトは再び離れた間合いと停滞を利用したアイギスの解析結果を聞く。映像のアベルはカイトが回し蹴りを放つと見るや、即座に魔力で足場を創り出して強引に身体を後に跳ね上げていた。そうして、カイトは忌々しげに片方だけとなった双銃を見て、脇のホルダーに仕舞い込んだ。


「アイギス。相手に流用されないように、ロックをしっかりしておいてくれ」

「イエス。これ以降使用は?」

「今のところ無いな」

「イエス」


 僅かに肩を竦めたカイトの答えに、アイギスはロックを掛けた上で、更に機体内部に拳銃を仕舞いこんで邪魔にならない様にしておいた。こうすれば即座には取り出せないが、相手に強引に奪取される心配も無かった。


「さって……どうすっかな……」


 カイトは大きく息を吐いた。今のところ、新しい情報は双刃剣は胴体横にも佩びる事が出来るということと、牙が鋭いというぐらいだ。遠距離攻撃が可能な兵装を見極める前に此方の手札を失ったのは、少しだけ痛かった。


「やっぱガトリングもって来りゃよかったな」

「イエス。それかツインロングライフルがあれば楽でしたね」


 ツインロングライフルは第2隊所属のエンリの持っていたロングライフルと同じく、二つに分離して連射力を高めたモードと1つに合わせて長距離射撃用のロングライフルとして使えるモードを兼ね備えた武器であった。

 だが、今回ティナが持ってこなかった――公爵領での一葉達の試験で使う為――とのことで、使えなかったのである。


「まあ、後はやって考えるか!」

「イエス!」


 隠し札を除けばもう近接ぐらいしか手が残っていなかったので、カイトは完全に近接を挑む事に決めて、笑みを浮かべて楽しげに声を上げる。その楽しげな声に反応して、アイギスも楽しげな声を上げる。それを肯定と見たカイトは、一気に飛翔機のブースターも用いてアベルと肉薄する。


「おりゃ!……って、はいぃ!?」


 大剣を振るったカイトだが、アベルの獣人機と接触するやまるで幻の如くに手応えが無かった。いや、幻の如く、では無く、真実、幻であったらしく、斬られた獣人機は露と消えた。


「ちぃ! アイギス! 周囲状況のモニターを!」

「感あり! 右後、来ます!」


 カイトの指示を聞くまでもなく周囲の状況を探っていたアイギスは、即座に反応を見つけてカイトに情報を送る。そのデータを元に、カイトは右手の大剣を振り向きざまに振るう。

 すると、見事、それはアベルの獣人機の姿を捕えた。が、それはアベルによって防がれ、先ほどと同じく少しだけ吹き飛んで、今度は彼はカイトの周囲を円を描くように走る。そこで、カイトはアベルの変化に気付いた。


「何!? 風!?」

『ふん……雷だけだと思うてくれるな』


 アベルは今度は風を纏い、カイトの周囲を駆け抜ける。どうやらあの獣人機は二つの属性を内包し、使えるらしかった。と、そこで二つということから、カイトは違和感の正体に合点がいった。


「なるほど……やっぱ交じり物、ライガーだったか……」


 妙な納得と共に、カイトは口端を苦笑で歪める。たてがみが少ないのはそのはずで、その意匠はライオンではなく、ライオンと虎の間の子、ライガーだったのである。


「ちぃ! どっちも速いんだから、統一しときゃいいだろ!」

「マスター、次は3時の方角から来ます!」


 忌々しげなカイトの怒号と、アイギスのサポートの声が響く。時に雷、時に風を纏うアベルの獣人機は、時に直線、時に曲線を描いて、カイトの魔導機に爪を振るう。


『ちぃ……仕留めきれんか』


 が、忌々しげなのはアベルも同じだ。彼はカイトを中心として、紫と緑の線を刻んでいるが、それでも、カイトの魔導機に爪痕を残すことは出来なかった。

 そこで、彼は更に走る速度を上げて、更に分身も織り交ぜる。分身は1つでは無かった。なんと計6体であったのだ。6体のライガー達は半分は緑色、半分は紫色の光を纏い、カイトの周囲を縦横無尽に駆け巡る。


「ち……アイギス、どれが本物だ?」

「データ……ダメです。音波、熱源、その他すべてが誤魔化されています。かなり高度な分身です」


 周囲を包囲されたカイトは、アイギスにデータの解析を指示するが、どうやら今の状態で正体を掴むことは出来ない様だ。


「如何しますか? 索敵・解析のリミッターを解除しますか?」

「……いや、さすがにそれはオーバースペックだろう。一応、表向きこの機体は魔帝の残した情報を元に再現を試みたデッドコピーだ。明らかな事はやめておけ」


 カイトはアイギスの提言を少しだけ考慮した後、却下する。今回の実験ではカイトもティナも魔導機のスペックをかなり低めに提出していたのが、響いたのである。

 当たり前だが、馬鹿正直に軍用機の本当のスペックを表に出す馬鹿は居ない。アイギスの提言では、その上限を超えれば、感知可能だということだろう。


「イエス……では、如何しますか?」

「……アイギス。背部非常用排出口を除いて、排出口を展開しろ」


 カイトは背面ユニットに大剣を接続し直すと、ブレード・ウィングとして展開する。ちなみに、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>戦の後に知った事なのだが、どうやら背部にあった6対の余剰魔力の強制排出口は真ん中4対が常設の排出口で、最上下の一対ずつが更に非常用の強制排出口だったらしい。


「イエス」


 アイギスは背面にある強制排出口を開き、カイトからの魔力を待つ。すべての用意が整ったのを見て、カイトは深く息を吸い込んで、一気に総身に魔力を漲らせる。すると、一気に余剰な魔力が背部にある排出口から放出される。


『何?』


 その様子を見ていたアベルは、蒼色がかった虹色の光を纏う魔導機を訝しむ。膨大な魔力も警戒すべきだが、周囲に漂う余剰魔力が何を意味するのか、疑問は深まるばかりだ。

 だが、アベルとてこのまま手をこまねいている道理は無い。後は襲いかかるだけの状況まで持って行っているのだ。相手の準備が整うのを待つ必要は無い。だから、彼は6体全てで一気にカイトに襲いかかった。


「ここだ!」


 一気に狭まった包囲網を見て、カイトは大剣の刀身よりも包囲が狭まる前に反時計回りに回転を始める。


『ちぃ、速い!?』


 忌々しげなアベルの大声が響く。アベルの誤算は二つあった。カイトの大剣に備え付けられたブースターの出力が予想以上に高かった事でカイトの回転が速かったことと、カイトが周囲に纏わせた魔力は単に魔刃を形成する為の余波であった事だ。

 だが、これは同時に1つの想定外の幸運ももたらした。警戒したが故に少しだけ攻撃が遅れ、魔刃の直撃はアベル本体が一番最後となったのだ。


「マスター! 4体、全てハズレです!」

「なら、残り2体のどっちかが当たりか!」


 カイトは更にブースターを吹かして回転を加速する。あと一歩まで近づいたアベルだが、魔刃が予想以上の威力を有しているのを感づくや、緑色の光を宿した右手の爪で大剣を迎撃する。


『つぅ! だが!』

「感あり! 右側の一体が当たりです! が、敵機左腕の爪で魔刃を迎撃されました! 同時に右の刃は破損! ブースター機能は有効ですが、魔刃が消失します!」


 アベルは魔刃の直撃を何とか左手の爪を犠牲にして防ぐ。その衝撃で少しだけ吹き飛ばされたが、アベルは即座に立て直して再びカイトへと飛び掛かるべく、距離を詰める。


「もういっちょあるの忘れてないよな!」


 そんなアベルに対して、カイトはそのまま回転を続け、残る左側の大剣の魔刃でアベルを狙う。


『癪だが、これでも猫と同じでな!』


 アベルはにぃ、と虎口の口端を少しだけ歪めると、猫の様にべったりと地面にひれ伏して、魔刃を回避する。虎や獅子は、ネコ科の動物だ。それ故、その獣人である彼にも、柔軟な動きが取れたのだろう。


「まだまだ!」


 そのまま全身のバネを利用して跳び上がってカイトへと迫るアベルだが、カイトはそれに対して、全身のスラスターと大剣のブースターを強引に吹かして回転を逆方向に変更する。


『何!?』


 さすがにこの強引な方向転換は予想外だったらしく、アベルは目を見開いて驚く。だが、まだ対応出来る範囲内だった。彼は仕方がない、と呟いて、残る紫色の光を宿した右腕の爪を使い、向かってくる大剣を防ぐ事にした。

 かっこ良く爪で仕留める事にこだわって、やられれば負け、なのだ。それに、まだ、牙が残っていた。爪を捨てるのは、勝つという事が仕事の軍人にとって、当然の判断だった。


『ちぃ! これで両方の爪が逝ったか!』

「マスター! 両方の刃が破損しました!」


 お互い、主兵装が完全に沈黙したようだ。その反動で再度アベルは吹き飛び、だが今度は強引に空中に足場を創り出して、猫の如きしなやかさで吹き飛ばされた勢いを殺して、再びカイトに飛び掛かる。変形して双刃剣を取り出す事は不可能と判断したのだ。そうして、彼は口を開けて、最後の武器である牙を見せた。

 それに対して、カイトは回転を強引に止めると、空中で強引に着地したアベルに向けて魔力を宿した右の貫手を放つ。


『獣人機を舐めるな! 人と獣、その両方こそが我が力だ!』


 アベルが先に咆えた。アベルは両手を人型の形態に変えると、カイトの貫手を掴み取った。


「猫ちゃんは喉でも撫でられてゴロゴロ言っとけ!」


 次いで、カイトが咆えた。カイトは左手で鋼のライガーの喉へ向けて貫手を放つ。アベルはそれを右手でつかみ捕り、更に全力でカイトを押し倒した。


『褒めるぞ、マクダウェル家のパイロットよ! 貴公が我が軍の軍人である事は我が軍の誇りだ! よくぞ栄えある公爵相手にここまで耐えぬいた!』


 アベルは通信でカイトに大声で告げる。公爵は、内政等の実力と共に、戦闘においても、それ相応の実力が求められる。特に軍の名門であるブランシェット家であれば、それは顕著だ。それ故の称賛だった。それ故、カイトは有り難く受け取っておいて、楽しげに茶化しに入った。


「そりゃ、有難う御座います! でも、押し倒されるなら女の方が好みでね!」

『それは失礼した!』


 二人の応答と同時に、カイトはアベルを蹴り上げようとして、獣人機の口が大きく開いたのを見る。当たり前だが、両腕を組み合った状態では口が届くことは無い。それ故の判断だった。だが、アベルは噛み付く為に口を開いたのではなかった。その口の中には小さいが、高密度の雷球が見えた。


『これを使わせた事を光栄に思え!』

「げぇ! マジかよ!」

「マスター! 超高威力の雷撃、来ます! 回避不能です! 本機が提出しているスペック上、耐え切れる威力ではありません!」

「んなもん、見んでもわかる! 胸部装甲展開!」


 カイトとて最悪は想定していた。だからこそ、アイギスの言葉に、ここで隠し札を切る事にした。それは胸の中心に取り付けられた、高出力の魔導砲だった。


『何!?』


 魔導機の胸部装甲が開いたのを見たアベルが、とっさに危機を悟る。が、当たり前だが、カイトは掴んだ両腕を離さない。これで、立場は逆転した。


「おっさきにー!」


 アイギスの澄んだ楽しげな声が、アベルの耳朶を打つ。それが、彼が演習で最後に聞いた言葉だった。そうして、魔導機の胸部から極太の光条が放たれたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第418話『合同演習』


 2016年4月19日 追記

・誤字修正

『手持ちはの』になっていたのを修正し、それに合わせて、少し文言を見直しました。

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