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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十三章 合同演習編
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第416話 合同演習 ――呉越同舟――

 本日24時に断章のソートを行います。ご了承ください。なお、今日の断章の投稿は外伝があるので、22時です。ご理解ください。

『どうしますか?』


 空中エリアでの戦いでなんとか勝利を得れたものの、次世代機の試作機を駆るフラメルを失った第一部隊。次の行動をどうするのか、ハインツがカヤドに尋ねた。


『ハインツ少尉、山岳地帯の状況はどうだ?』

『……戦闘形跡はありますが、機影は無し。現状は不明です』

『そうか、引き続き索敵を行え。カイム少尉、マイアーズ准尉、狙撃の兆候は?』


 カヤドはカインツに索敵をさせつつ、カイトとマイに対して周囲の警戒にあたらせることにする。


『市街地エリア、敵影無し』

「森林エリア……戦闘音観測! 戦闘続行中の模様!」


 既にアイギスの存在を公にしたため、答えたのはアイギスだ。彼女は魔導機そのものに近いので、カイトよりも索敵等のスキャンは早い。

 ちなみに彼女は戦闘音と言っているが、実は魔導機のスペック上、科学技術の産物である赤外線センサーや音波ソナー、サーモグラフィー等を魔道具として再現して搭載しているため、きちんと機影を捉える事にも成功していた。が、こんな科学技術を搭載している、とは言えないので、そちらは隠しておいた。


『どっちだ?』


 ハインツが急いでカイトの近くまで飛翔し、同じ地面に着地すると同時に問いかける。それに、アイギスが方角を示した。


「10時の方向です」

「あっちだそうだ」


 アイギスの言葉を受けたカイトが指さした方向へと、ハインツが索敵を開始する。すると直ぐに見つかったらしく、全員に映像が送信されてきた。


『敵影9。ただし、どちらかの部隊は半壊状態』


 つまり、片方の部隊は完全に無傷、というわけだ。が、これにカイトへとアイギスから修正が入った。


「マスター、映像と本機の情報を組み合わせました」


 組み合わせた情報は、即座にカイトの前面に展開するモニターに表示される。どうやら狩りの様に周囲を取り囲み、じわりと追い詰める様に一機ずつ仕留めていっている様だ。その表示によれば、一機だけ、座高が低かった。


「これは……しゃがんでいる……いや、四つん這いか?」

「イエス。先ほど得た情報を元に判断すれば、先のブランシェット家の魔導鎧かと。形状、フォルムから推察して、押しているのは次期ブランシェット公アベルが率いる第4部隊。押されているのはラウル中尉率いる第2部隊かと推測します。アベル公はネコ科の獣人だ、とデータに記載されています」

「だろうな……あの素早いのが起点となって狩りをしているのか……变化出来る高位の獣人の為の機体か。獣人機、と言った所か」


 アイギスと自らの推測を重ねあわせ、カイトはただ単に今まで得た情報と見たままを答えたのだが、これは偶然にも正解であった。まあ、獣人のための大型魔導鎧、だ。そんなネーミングになるのは、必然といえば、必然だろう。


「了解。では以降、詳細が把握出来るまで、対象は獣人機と呼称します」

「そうしてくれ」


 意図せず正解を呼称とした二人だが、とりあえずは当たり障りの無い情報を各自に提供する事にした。


「詳細を精査しました。おそらく押されているのは第2部隊。押しているのは第4部隊です」

『ほう、その根拠は?』


 アイギスの言葉に、カヤドが理由を尋ねる。当たり前だが、論拠のない言葉は放言と代わりが無い。それに、アイギスが更に続けて情報を開示した。


「本機に搭載されている集音センサーで追加調査を掛けた所、一機かなり素早い機体が存在しています。形状から言って、おそらく猿の様な機体では無いでしょう。意匠から推測して、該当機は速度よりも腕力を重視した近接戦闘型。先ほど本機が接敵した敵機から推測して、猿では無いかと。対して、数が多い方に対して時折何か岩を投げる様な様子が見えますので、おそらくそちらが猿の様な機体かと」

『ふむ……道理だな』


 全機センサー類はほぼフルで活動していたため、カヤドの耳にも素速く動く機体の音が響いていた。が、敵からの奇襲を警戒しながらなので、それが複数が出す音なのか、単機で出ている音なのかまでは精査出来なかったのである。


『では、どうしますか?』


 マイがカヤドに尋ねる。このまま決着を待っても、第4部隊は全機健在の状態での戦闘となるだろう。それはフラメルを失い、ただでさえ一機少ない状態からのスタートの第一部隊にとって、完全に不利な状況だ。

 そしてこれは演習であるとはいえ、彼らは軍人だ。勝ちに行くのが、普通だ。だからこそ、実は問い掛けたマイだけでなく、カヤドを含めて全員が同じ答えであった。


『ハインツ少尉、ここから森林エリアへの援護は可能か?』

『いえ、さすがに不可能です。木々が深すぎて照準が会いません』

『そうか……では、これより第1部隊は空中より強襲を仕掛ける! 目標、第4部隊! 仕掛けられん限りは第2部隊は無視しろ!』

『「了解」』


 カヤドの言葉に、全員同時に空中大地から飛び降りて森林へと飛び込んだのであった。




『准将!敵襲、上です!』


 第4部隊の索敵を務めていた第5研究所所属の機体が、上から落下してくる第1部隊に気付いて警告を出す。それと同時に、上空から弾幕が降り注いで、間一髪でラウルは狩りから逃れる事に成功する。


『おっと、幸運の女神はまだ見捨ててなかったか!』


 ラウルは自身を逸れて放たれているらしい弾幕を察すると、ホバーの機動力を活かし、木々の間をすり抜ける様に移動して第4部隊から距離を離す。

 この機動力でなんとか、アベルの攻撃から逃れ続ける事が出来ていたのであった。そうして更に残る第2部隊に指示を下し、射撃を開始する。


「第1部隊は第4部隊を中心として、第2部隊と射線がクロスする様に位置取りを! アイギス、各機に情報を送れ!」

「イエス! 各機に最適と思われる位置情報を送信します!」


 落下中、ラウル達が射撃戦を開始したのを見て、カイトが即席で十字砲火を提案する。


『良し! 各機、カイム少尉の送ったデータに従って移動しろ!』


 十字砲火を知っていたわけではないが、長年の経験からその意図する所を即座に見抜いたカヤドがカイトの提案に即座に許可を出す。

 奇襲に加えて視界外からの攻撃であった事が幸いして、なんとか十字砲火が開始される直前には、第4部隊の2機を撃破する事に成功した。が、十字砲火が始まる瞬間前。雷撃を纏う金色の残像を残して、彼の機体が消滅した。


『隊長!?』

『速い!』


 ハインツとマイの驚きが同時に響く。それと同時に、ガシャン、という金属音を上げて、金色の機体が柔らかな落ち葉の上に着地した。


『ほう、次世代機と思ったが、隊長機だったか』


 金色の鎧を身に纏う獅子となった男が、傲然と告げる。彼の獣人機の口には双刃剣が咥えられており、それでカヤドの機体を切り裂いたのだろう。


「馬鹿! 弾幕を絶やすな!」


 アベルの言葉を遮る様に、目を見開いたカイトの怒号が飛ぶ。二人はいきなりカヤドがやられた事で、驚きのあまり銃撃が止んでしまっていた。


『『つっ!』』


 カイトの言葉に、二人はなんとか正気を取り戻す。せっかくの優位を、彼一人に覆されてはいけなかった。そこからは被害無視の銃撃戦だ。お互いに銃火を放ち合い、木々を吹き飛ばしていく。


「とりあえず撃ちまくれ! 十字砲火が効いている間になんとか敵数を減らせ!」


 カイトはラウル達にも合図を送り、自らも双銃を連射する。現状、カイト達ではカイトとアイギスが魔導機を本気で使わなければ、三つ巴になっては勝ち目はなかった。


『ちっ、優秀な副官がいたか。木々を遮蔽物として、各機集合! 盾で背後を庇い合え! 円陣防御!』


 一気に自チーム側にまで下がって、元の人型に獣人機を戻したアベルが号令を下す。ブランシェット家は、軍の名家だ。なので彼は次期公爵として、軍要職も務めていた。戦術・戦略的な目線から指揮は手慣れた物であった。

 彼は指揮官を潰すことで混乱を誘発し、第1部隊側も各個撃破して崩壊させるつもりであったのだ。が、それと思しき次世代機が倒れた後となっては、誰が指揮官をしているのか外からではわからない。

 カイトの事を知っていたのなら、即座に魔導機に相対したのだろうが、知らない以上、安易に魔導機を指揮官と判断するわけにはいかなかった。


『左、第2部隊を一機潰す。俺が第1部隊を抑えている間に、残りを仕留めろ。後は先ほどと同じ狩りだ』

『はっ!』


 円形となって防御をしている間に、アベルは敵の状況を確認していく。そうして見えたのは、第1部隊は殆ど損傷していない、という事実だ。対して、元々第2部隊は殆ど追い詰められていた状態で、かなり手負いであった。

 それ故、アベルはそれを加味して、第2部隊の中で一番破損が多い、自分と同じ獣人機に狙いを定めた。自分と同じ構想の機体だからこそ、その厄介さも一番理解していた為、最も重点的に攻撃を仕掛けていたのであった。


『では、行くぞ!』


 アベルはそう宣言すると、一気に跳び出して再び獅子の形に変わる。手の掛け方が違うのか、その変形は先ほど見たユニコーンよりも更にスムーズで、流れる様に変形した。


『がぅ!』


 アベルは1つ咆えると、一瞬で加速して残像を置き去りにして雷の弾となる。そうして、一気に第2部隊側の獣人機へと肉薄すると、今度は爪で獣人機を切り裂いた。元々のダメージもあり、第2部隊の獣人機はそれで脱落となる。


『うっは! これ無理だわ!……第1部隊! カヤド隊長!』


 完全に数で負けた上、自分達側に集中した攻撃を見て、ラウルがたまらず音を上げる。そうして、即席で同盟を結ぶべく第1部隊側へと通信を繋いだ。このままでは第1部隊共々アベル一人に瓦解させられる事になりかねなかったのである。


「ラウルか! さっきやられたのがそうだ!」

『げっ! ということは初手で指揮官狙いか! さすが准将!』


 やけくそになったラウルが、敵であるアベルの指揮を褒める。やられた方はたまったものではないが、効果は絶大だ。

 普通、指揮官を潰されれば指揮官が優秀であるほど、混乱が生まれるのだ。即座に指揮をくだせたカイトが居なければ、アベルの想像通り、簡単に第1部隊は瓦解しただろう。


『……あれ? じゃあ、今誰が指揮してんの?』


 と、そうして得たのは疑問だ。混乱が殆ど無かったので、まだカヤドが健在で、何処かで機を伺っていると考えたのである。


『居ないわ! 結構即席でカイムが命令してる感じ!』

『うわーお……って、言ってる場合じゃない! そっち、准将行くぞ!』


 マイの答えに驚いたラウルが、再び消失したアベルに気付いて意図を把握する。そして、急いで通信を送る。今もし第1部隊まで壊滅すれば、自分達の負けは確実だ、という事はラウルも理解出来ているらしい。

 呉越同舟、というように、敵同士が強敵に出会って臨時で手を結ぶ事は時折あることだ。それは魔物という厄介な相手が居るエネフィアにおいては、それが地球より頻繁に採用されていた。なんら可怪しいことではなかった。それが終わってからも友誼が保たれるかどうかは、当人達次第だろう。


「もう来てます! マスター、正面、来ます!」

『まずは貴様からだ!』

「見えてる!」


 どうやら次の標的と狙い定めたのは、カイトらしい。獣形態となって一気に肉薄されたカイトだが、獣人機の顔面に掌底を叩き込んで、短剣の軌道を逸らす。盾を持っていなかったことと、同じ格の公爵家の試作機同士とあって、残る面子の中では一番危険視されたようだ。


「ハインツ、マイ、二人は第2部隊の援護へ回れ! このままだとこいつ一機に全滅しかねないぞ!」

『あいよ!』

『了解!』


 アベルが此方に来たとは言え、殆ど無傷の第4部隊三機に対し、今相対しているのはかなり消耗が激しい第2部隊二機だけだ。

 このままでは、折角得た数の利を失いかねない。それを判断したカイトは、即座に自分がアベルを抑え、僚機に援護に回らせる事にする。


『貴様が副官か』


 アベルは即座に離れた残りの二体を見て、カイトこそが第1部隊の次の指揮官であることを見て取った。彼はすれ違いざまに人型へと戻し、機体を急反転させる。反転する場合は、人型の方が良いのであった。

 そうして、両者は暫くの停滞を得る。さすがにアベルは自分の速度に対応でき、指揮官を務める――と判断した――相手に、無策で挑む程愚かでは無かったのである。


「マスター、先ほどまでの情報の解析が終了しました。敵機の変形速度は先ほどのユニコーンのおよそ1.3倍。更には変形速度が早いことからか、人型で助走を付けて、跳び上がっての空中での変形を多用しているようです。更には空中でいくらか滞空していましたので、おそらくそこらで<<滑空(グラインド)>>の魔術でも使っているのかと」


 今まで戦闘を観測し、敵からの情報を得ていたアイギスが暫くの停滞を用いて、纏め上げた情報を提示する。彼女の言葉を示すように、アイギスが空中で変形する獣人機の映像の録画をカイトの前のモニターに表示する。そこには数度の変形が映っていたが、そのすべてが空中に跳び上がった状態での変形であった。


「なるほど。地面にいちゃ、変形はやりにくそうだな……射撃兵器の使用は?」

「ノー。残念ながら、観測されませんでした。が、先ほどのユニコーンの例もありますので、隠し持っていると判断するのが正解かと」

「あいよ。有るとするなら、首筋のたてがみっぽい部分から飛び出すか? それとも胴体か? 横からブレードが展開して、とかありえるかもよ?」

「肯定しかねます。先入観は禁物かと。と言うか、アニメとかゲームの影響は捨てて下さい」


 カイトの何処か茶化す様な問い掛けを、アイギスはバッサリと切って捨てた。まあ、最後の方はネタだったが、実はこれはカイトなりの、違和感から来た物だ。


「母さんがボックス持ってたな……というわけで、シールドで突っ込んで来たらどうするかね」

「マザー以外で大型魔導鎧内部に内装出来て突進に耐え得るだけのシールドを展開出来る魔道具を開発出来た人が居ることを称賛します」

「やれやれ……真面目な時のアイギスは本当に真面目だこって……つーか、ネタじゃねえって。形、変だろ? 薄い、んだよな……単に邪魔だからか?」

「薄い?」

「たてがみだよ。なんつーか、ライオンっぽくねえな、ってな。ライガーっぽいんだよ」


 アイギスの問いかけに、カイトが理由を説明する。現在、アベルが駆る獣人機は人型で、手に獣形態では口に咥える双刃剣を手に持っていた。たてがみとなる部分は人型では、兜の尾や首周りのファーとして垂れ下がっていた。なので違和感はなかったが、獣の姿を取った事で、違和感を感じたのだ。

 獅子ならば、もう少したてがみを多めにする、と思ったのである。確かに邪魔になる可能性はあるが、あの獣人機はアベルという次期公爵が戦場で乗る儀仗に近い以上、たてがみが少ないのは、片手落ち、だろう。少ないのなら、その意味があるはず、なのであった。

 

『では行くぞ!』

「アイギス、疑問は後に回す! 仕掛けるぞ!」

「イエス!」


 敵の形状から性質をつかもうとしていたカイトだが、アベルが動いたのを見て、彼も思考を切り上げる。敵が来るのに、考えてはいられない。そうして、両者は同時に、大地を蹴ったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第417話『合同演習』

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