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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十三章 合同演習編
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第414話 合同演習 ――空中戦・開幕――

『で、隊長。動きます? 待ちます?』


 開始早々。倉庫群として組み直された実験エリアの一角でハインツがカヤドに尋ねる。


『さて……』


 それに、カヤドがほんの僅かな逡巡を見せる。が、それも僅かな時間だけだ。今回の訓練では、各戦場でそれぞれに利点が設けられていた。その為、今居る地の利を捨てるかどうかを逡巡したのである。


『山岳地帯からの狙撃を警戒しつつ、空中エリアを押さえる。遠距離能力が劣る我が部隊は、全部隊でも比較的空中戦闘が可能だ。それ故、山岳地帯より上の地の利を得ておきたい。少尉、最前線を行け。盾は有効に使えよ』


 カヤドはカイトに向かって指示を出す。飛空大地はエリア一帯に渡り足場が浮かび、空中戦闘能力が勝利のカギとなる。山岳――さすがにそこまでの標高は無く、凡そ700メートル強――地帯の山の上は絶好の狙撃ポイントだ。森林は隠密、隠蔽能力の有無だ。市街地は当然、障害物を如何に活かすか、である。


『「了解」』


 カヤドの号令を受けて、第一部隊は防御態勢を取りつつ、移動を開始する。第一部隊の組み合わせから言えば、確かに遠距離能力が少し劣り、それと同時に近接戦闘能力が強い印象を受ける。山岳地帯から狙い撃たれれば一方的な蹂躙となるだろうことは、安易に想像出来た。

 空中大地には山岳地帯からは狙撃不可能なポイントがあり、山の上よりも上となるエリアも多い。が、その特性上、高い木々の多い森林エリアと、場所の問題で障害物の多い市街地は覗けないようになっていた。

 つまり、一方的な掃討は不可能にしていたのである。が、当然、どちらも地の利を押さえ続ければ、決着はいつまでも付くことはない。それ故、動く事も考えるのは、隊長として必然だったのだろう。


「そういえば隊長……狙撃が来た場合は?」

『陛下の御前だ。防いでみせろ』


 楽しげに困難な事を言ってのけるカヤドは、最前線を行くカイトの肩にぽん、と手を置く。


「アイアイサー」


 それに対して、カイトは肩を竦めるような気配を見せる。狙撃を防げと言われて出来るのは稀だが、カイトが出来ぬはずはない。そうして、数歩も行かぬ内に、案の定、狙撃が来た。


「マスター!」

「おうよ!」


 ズドン、と一直線にハインツを狙った一撃は、即座に射線上に移動したカイトが前面に展開した大剣の腹で防がれる。


「山岳地帯からの狙撃。更には遠距離特化のハインツ狙いか……やる」


 舌舐めずりするカイトが口端を歪める。狙撃ポイントを魔導機の望遠機能で確認したが、既にその姿は無かった。魔術を使えるが故に出来る弾丸を食い止めての遅延狙撃か、それとも銃撃と同時に移動したのかは、わからなかった。

 そして、それは遠距離特化型として改良されているハインツの機体の望遠機能でも同じだったようだ。彼の舌打ちが聞こえてきた。


『ちっ……確認出来ず! すんません、隊長。射出後直ぐに移動したかと。少尉の防御行動直前からモニターしましたが、その時には既に』

『構わん! 一気に駆け抜けろ! カイム少尉、空中から各機の援護を頼めるか!? ハインツ少尉、狙撃ポイントを探れ!』

『「了解!」』


 カイトが空中に飛び上がり、時折訪れる高威力の狙撃に対処する。カヤドの号令に全機が急速に鎧の全機能を開放し、大急ぎで移動を開始し始める。このままでは、狙い撃ちにされるだけだった。

 そして速度を上げて加速を始めたカイト達に対して、山岳地帯から有効打にはならずとも連続した射撃が繰り出される。


『ハインツ少尉! 第5研の機体で遅延攻撃と超長距離射撃が可能な機体は!?』


 ハインツの報告を受けたカヤドが該当する機体に記憶があるか尋ねる。ハインツの所属する研究室で開発されていた機体は、現行世代を改良した遠距離での攻撃がメインなのであった。


『少々お待ちを……第2部隊のカーマイン中尉の機体が遅延攻撃可能な実験機です。複数砲台を操り、少数機での多砲塔による援護射撃を実現させた機体です。各砲塔を連結・収束させれば超長距離射撃が可能です』


 どうやらハインツはやばくなると逆に落ち着くタイプの様だ。彼は動きながら冷静な口ぶりで記憶を辿る。そうして、なんとか物陰にまでたどり着いた所で、更にカヤドが尋ねた。


『では、単独で超長距離射撃が可能な機体は?』


 山岳から先ほど一同が居た場所までは直線距離でも10キロ以上はあった。それ故、超長距離射撃が可能な機体を尋ねたのだ。


『本機と第3隊に配属されているエンリ准尉の機体が。第4隊のヘックス少尉の機体はこの距離で有効打を与えられるだけの性能はありません。無視して大丈夫です。第5研の中で最も速射性には優れますが、代わりに有効射程距離が5キロ程にまで落ちます』

「多分、狙撃は部隊だ。威力の低い弾は単なるデコイだな」


 スタン、と着地したカイトが市街地の外周部にある物陰に隠れつつ会話に加わる。そうして出された意見にカヤドが根拠を問い掛けた。


『カイム少尉。その根拠は?』

「空中での防御行動中、複数の機影をキャッチしました。各機に転送します。おそらく、この巨大な砲塔を持つ機体が第2隊のエンリ中尉かと」


 カイトから各大型魔導鎧に転送された映像はかなり荒いが、確かに巨大なロングライフル状の物体を小脇に抱えた機体が映っていた。

 ちなみに、確認したのはアイギスで、カイトは報告を受け取っただけだ。それに魔導機の性能ならば本来は鮮明な画像が転送出来るのだが、スペックを隠す為に敢えて荒く加工した画像を転送している。


『ほう……複数砲台に分離・結合を繰り返した様に見せかけて、他の機体で援護させたわけか。最大威力にまでチャージすれば、10キロの距離でも届くか……単機と油断させ、迎え撃つつもりか……ん? 射撃が止んだ?』


 射撃音はするのに、攻撃が止んだ事に気付いたカヤドがカイトにジェスチャーで指示を送り、カイトは少しだけ物陰から顔を出して、山岳地帯を覗きこむ。すると、山岳地帯では戦闘が繰り広げられているらしい光が飛び交っていた。


「山岳部で戦闘の可能性有り」

『なるほど……どうやら他の隊が攻撃に向かった様だ。今の間に行くぞ!』

『「了解!」』


 カヤドの指示を受けてすぐ、一同は今の戦闘の内に一気に飛空エリアへと駆け抜ける。そうして、彼らが上がると同時に、エリアの反対側でも、空へ上がる機体群が見えた。それに真っ先に気付いたのは、モニターを常に確認出来るアイギスだ。だから、彼女は声を上げた。


「マスター!」

「こっちでも目視確認した!……敵機確認! 数6! 方位は南東!」


 カイトの声掛けを受けた全員が、南東方向を確認する。すると、確かにそこには6機の魔導鎧が存在していた。


『此方でも確認した! 各員、戦闘隊形を整えろ! カイム少尉、私と共に戦端を開くぞ。銃器は?』

「双銃を」


 カヤドの問い掛けを受けたカイトは、手持ち武器の拳銃を脇のホルダーから二丁取り出す。


『良し……少尉、その魔導機には出来ればもう少し射程の長い武器がいるな。進言しておけ』


 少しだけ眉を顰める様なカヤドの声が響く。カイトの武器構成は殆どインファイトだ。遠距離からでは嬲り殺しになる可能性があったのである。

 まあ、カイトが乗らなければ、という前提が付くが。なにせカイトは『ポートランド・エメリア』にて、無数の砲撃を全て避けられるのだ。この巨体で弾幕を全て回避することなぞ、造作もなかった。


「突進力高いんで」

『その為の駆動防御か』


 カヤドはカイトの魔導機の背面ユニットに接続された大剣を、可動式の盾だと判断した様だ。前面からの防御を盾で全て防いで、その盾を犠牲にして突進、距離を一気に詰めるというアナクロな設計だと判断したのだろう。

 まあ、これは間違いでは無い。アルが使っていた試作機の武装の一つには、これを応用した駆動防御が存在していた。


『じゃあ、それはパージ出来るわけ?』

「まあな……あれが何処か分かるか?」

『……あれは第3隊ね。ウチんとこのピースの機体がある』


 カイトの問いかけに、マイが答える。流石にカイトではどの研究室の誰がどの大型魔導鎧に乗っているのかわからないので、尋ねるしかなかったのだ。


『便利ですね。でも、パージ前だと邪魔になりませんか?』

「まあ、多少はな。が、命を賭けるよりマシだろ」

『違い有りませんね』

「まあ、それ以外の使い方なんですけどね」


 フラメルに対してカイトが吐いた嘘を聞いて、アイギスが苦笑しながら告げる。だが、その声には騙している罪悪感などは皆無であった。


「まあな。手札は隠せ……隠せる間はな。じゃあ、使うとするか」

「イエス!」


 アイギスの同意を得て、カイトは手筈を整えるべく背面ユニットに接続した大剣を左右に移動させる。だが、翼にはしない。見せるのは、一つだけだ。他の手札はまだまだ隠しておく段階だ。


「隊長。本機の速度で突貫しますが、構いませんか?」

『合わせよう。本機も次世代型の近接仕様だ。少尉の機体には劣らないはずだ』


 自信有りげなカヤドの返答を受け、カイトは笑みを浮かべる。そう言われたならば、その自信を叩き潰したくなるのが、人情だ。なので、適度に全力でやる事にした。


『フラメル! ハインツ! マイ! 貴様らは背後から射撃で援護しつつ、浮かぶ足場を上に進撃せよ! 山岳地帯での狙撃には十分に気をつけろよ! カイム少尉、言ったからには遅れるな! 空中戦になるぞ!』

『「了解!」』


 カヤドの号令と同時に、カイトとカヤドが先陣を切って突撃する。それに合わせて、第3隊からも近接仕様の2機が前に突進してきた。

 どうやら、相手側も同じ考えのようだ。前に出てきた2機に合わせて、周囲の機体から援護射撃が放たれた。カイトとカヤドはそれを回避しつつ、相対距離を詰める。


『ほう、速いな』


 カヤドの感心した様な声が通信機から響いてきた。カヤドの機体は次世代の試作機として、今世代機である第5世代機よりも全体的に高スペック纏められている。

 更に言えば、次世代機の中でも近接型として、機動力と防御力は特に強化されており、おそらく、全ての実験機の中でも頭ひとつ飛び抜けた加速力を有している。それと互角の速度で移動しているのだから、目を見張っても良い、と考えた。

 が、カイトはまだ、背面ユニットの飛翔機だけだ。脚部のスラスターも、大剣の飛翔機も使っていない。それにこれ以外にも、追加装甲も使っていない。まだまだ、速く出来た。なので、カイトは少しだけ、いたずらっぽく告げる。


「もう少し速くしても?」

『何?』


 カヤドの驚いた声が通信機から響いてくる。それは殆ど半信半疑の声色だった。その声をカイトは楽しげに聞いて、一気に脚部のスラスターを吹かした。


「では、行きます!」

『なっ!』


 どん、と轟音を上げて更に加速したカイトの魔導機は訓練に参加した全ての者の驚きと共に、一直線に距離を詰める。そして、それは相手側のパイロット達にも驚きをもたらす。


『何だ、この速さは!』


 一気に加速した魔導機が一気に近づいてきた事で、驚きから硬直した一瞬の隙に、カイトが左腕のブレードを振るう。


「一機頂き! 差は削った!」


 左手で振るったブレードは、前線を行くスカート付きの機体のコクピットを穿つ。即行での一撃。貫かれた機体は一瞬で消失し、脱落となった。

 そうしてカイトはそのまま驚きに包まれる他の2機のウチ、ユニコーンの意匠が施された魔導機と左手のブレードで刃を交える。


『速いな!』


 カイトに遅れる事約3秒、カヤドが接敵する。彼が接敵したのは残る一機、第4研の近接戦闘仕様の機体だ。第5研が遠距離なのに対して、第4研は近接改良機なのだ。

 ちなみに、第1研と第2研が次世代機の開発チームで、第3研は現行機の全体的な性能を上げる事を目的とした研究所だ。


『こっちも接敵します!』


 カイト達の接敵と同時に、フラメルが接敵を知らせる。どうやら遠距離同士の撃ち合いになっているらしく、ハインツを中心とした陣形が組まれていた。


『できるだけ早めに倒してくれると助かるわ!』


 マイの機体は機動力が高いが、遠距離能力は弱い。一応両手の双銃で牽制射撃を加えているが、距離の問題で全く有効打にはなっていない。弾幕としては両者変わらないが、有効射程の問題で此方側が若干押し負けていた。


「あいあい!」


 マイの声に、カイトが即行で決めようと勝負を仕掛ける。使うのはまだ、左手のブレードだけだ。


『甘いです!』


 全体的に細身のシルエットの機体を操るのは、どうやら純白の衣装が特徴的な女性の様だ。まるでユニコーンの鬣の如く真っ白な長い髪をポニーテールに纏めた、スラリとした長い足が特徴的な女性だ。胸の方は若干残念だが、顔立ちはかなり整っていた。


「ちぃ! 伊達や酔狂じゃないか! こりゃ、ブランシェット家のだな……アイギス、要注意だ。情報を記録しておいてくれ」

「イエス。戦闘情報を記録します」


 カイトの指示を受けて、アイギスが戦闘時の記録を保管し始める。そうして、記録が始まったのを見て、手のブレードを振るうカイトだが、両手の剣や頭の角で防がれる。手数的に近接では押し負けていた。まあ、左手1つで戦っているカイトが悪いのだが。


『右手は飾りですか?』

「いいや? ただ単にレディの手を取りたくてね」


 カイトはそう言うと、ブレードを振るうと同時に彼女の魔導鎧の左手を自身の右手でいなし、更に蹴りを繰り出す。

 そうして、吹き飛びそうになる彼女の機体を左手を掴んだまま強引に押しとどめ、ブレードを引っ込めた魔導機の左手を脇に入れて脇のホルダーから拳銃を取り出す。


『ちっ!』


 拡張された集音器から、純白の女の舌打ちが聞こえる。それをカイトは聞きながら、左手の拳銃を彼女に突き出そうとして、魔導機の右手が強引に解かれた。


「何!?」


 スルリ、という程ではないが、いきなり掴んでいた左手の感触が無くなり、カイトは思わず瞠目する。


「マスター! 一旦距離を! 様子が変です!」

「ちぃ!」


 敵の全部を観測していたアイギスが、敵が全体的に変化していく事に気付く。それを不測の事態と判断したカイトは、彼女の進言に従い一旦距離を取るべく、全部の飛翔機を吹かした。

 そうして500メートル程距離を取ると、ユニコーン状の機体の全貌が見えた。それは各部のジョイント等が音を立てながら、鎧の全貌を変えていた。


「形が変わる!?……アイギス、お約束で変形の瞬間を狙う! が、もし異変があればそちらからコントロールを取って距離を離せ!」

「イエス! それが妥当かと!」


 何か嫌な予感がする。変形合体の瞬間を狙うのは、セオリーだ。相手は動けない以上、この隙を見逃す手は無い。そうして、カイトは突撃を開始する。


「っつ!」

「申し訳ありません! 直上、来ます!」


 突撃した瞬間、カイトは一気に後に引っ張られた。アイギスがコントロールを奪ったのだ。しかし、それは正解で、ユニコーンの頭の様に前に出た角から、雷撃が放たれたのである。それは先ほどまでカイトが進もうとした位置を広範囲に渡って覆い尽くしていた。


『間に合いましたね。意外です』


 明らかに突進の意思を見せていたのに、少しおかしなぐらい急制動を掛けたカイトに対して、頭に声が響いてきた。ユニコーンの形となった胸の部分のコクピットから覗くその姿は、先ほどまでの純白の女性ではなかった。

 そこにあったのは、純白の一角獣、すなわちユニコーンの姿であった。獣人族の中でも高位のごく僅かに居る、獣化が出来る者、だったのだろう。


『……察するに複座機ですか?』

「さて……どうかな。そちらは可変式魔導鎧か。大型魔導鎧でも実装したとはな……」


 カイトは問い掛けをはぐらかし、敵の全貌を観察する。ユニコーンの形を取った魔導鎧は虚空に足を下ろしていた。

 足場としているのは、自らの魔力で創り出した足場だ。4脚の全てから小さな足場が生まれており、機体全部の真下を覆い尽くさず、魔力を節約しているのだろう。


「マスター。情報を取得できるだけ取得しておきますか?」

「ふむ……そうしてくれ。記録だけでなく、残滓も記録を進めろ。ウチにも獣化が可能な獣人は多い。参考になるだろう」

「イエス」


 どうやら自分達以外にも色々と開発している所はいるらしい。そうカイトは判断し、本格的に戦闘に入る事にする。そうして、カイトとアイギスは、未知なる機体へと再度突撃するのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第415話『合同演習』

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