第29話 強襲(された)
今回、エロ描写多目。
「おい!いい加減に離れろ!」
「いやですー。」
「……ふぁー……」
絡み酒で、おまけに幼児退行までする桜と、笑い上戸であったらしいソラ。酔っ払い二人から絡まれたカイトは、動きにくそうにしつつも、ソラに与えられた客間へと辿り着いた。
「ぐがー……」
ドアを開けた瞬間、真横から聞こえてきたのはソラのイビキであった。途中からいやに静かだと思っていたのだが、どうやら寝ていたらしい。道理でソラを運びにくいはずであった。
「こいつ……」
カイトは若干青筋を額に浮かべながら、ずり落ち始めたソラを担ぎなおす。
「おい!ぶん投げっからな!」
「……んぁ?」
イビキをかいて気持ちよさ気に眠りに落ちたソラを、ベッドの横まで運び、そのままベッドへと放り込む。かなり質の良いベッドなので、ソラの大きな体躯であろうと、本人に震動を殆ど感じさせずに沈み込み、衝撃を吸収した。酒のお陰かベッドのお陰か、本人は放り投げられたというのに、眠りについたままであった。
「こ、これで一人目……」
はぁ、と深い溜め息を吐いて、椅子にニコニコと笑いながら座るお嬢様を見る。それに気付いた桜は、両手を広げた。
「わーい。抱っこー。」
そう言いながら、桜はカイトの首に手を回す。どうやら此方も酒がいい具合に回っているらしい。後日本人が真っ赤に赤面するであろう行動であった。
「あの、お嬢様?抱っこ、とは?」
「むー、桜、です。」
若干不機嫌になりながら、桜が頬を膨らませる。幼児退行ここに極まれり、であった。
「……桜お嬢様、抱っこ、とは?」
「さっきの。」
「……はぁ、はい。」
酔っ払いをさっさと追い払うため、カイトは桜の願いを聞く事にした。酔っ払いに何を言っても無駄である。溜め息を吐くカイトとは別に、桜はお姫様抱っこをされて、非常に上機嫌であった。
「おい、桜。部屋だぞ。」
さすがに眠っていもいない上、女の子である桜にまでソラと同じく放り投げる事はしないカイト。
「ありがとうございます。……はい。」
そう言ってカイトから下りて、両手を上げる桜。それにカイトは目をパチクリさせて不思議がった。
「……それは?」
「お着替え、です。まずは、上から、です。」
思わず転けそうになったカイトは、夜にも関わらず怒鳴り声を上げる。
「アホか!」
「むー。」
非常に不機嫌となりながら、桜は再び頬を膨らませる。
「いいもん。じゃあ、ここでカイトくんに襲われたって……」
「ちょ!おい!洒落になんねえ!」
扉こそ閉まっているものの、大声を出せば外に聞こえかねない。もしこんな所を生徒会のメンバーに見られでもしたら、確実にファンクラブの面子と女性陣から殺される。尚、それは酔っ払った桜をカイトが脱がしても一緒なのだが、バレる可能性が低いだけましである。
「あー、もう!じゃあ、はい、上着!」
そう言ってカイトは諦めとともに、桜を脱がしにかかる。
「……すご。」
そうして、上着を脱がし終わり、カッターシャツを脱がすと顕になった巨大な質量に、カイトがごくり、と生唾を飲んだ。
「……ちくせう。生殺しだ……」
本来の状態に戻っているカイトにとって、目の前で揺れる2つの巨大な質量は男の欲望を駆り立てるのに十分な魅力を有している。が、当然のことながら手を出す事は出来ないので、カイトは泣く泣くスカートの留め具を外し、脱衣させた。
「さすがに下着は自分で履き替えろよ……」
そう言ってカイトは後ろを向く。さすがにそこまでさせられて、酒に酔った状態で理性を保つ自信は無い。と言うより、美少女相手にここまでやっても理性を保てるのは、何気に自分で凄いんじゃないか、と思っていた。カイトは衣擦れの音を背後に聞きながら、終わるのを待つ。
「はーい。終わりましたー。」
そうして振り向いたカイトであるが、桜は何故かブラをしていなかった。
「って!ブラは!」
「え?しませんよー。もー、カイトくん、そんなの常識ですよ?」
少しだけ前かがみになって、カイトの鼻先を右手の指でつん、と叩く。前かがみになったことで、巨大な質量が胸の谷間を強調する。
「知らんわ!」
「もう、そんなじゃダメですよ?女の子は夜寝る時にブラしてると形が崩れたり……」
そうして始まるよくわからない談義に、カイトは溜め息を吐いた。取り敢えず、上半身裸で下半身パンツのみという格好は誰かに見られでもしたら―カイトが―終わるので、早めに服を着せる事にした。
「……はぁ。取り敢えず、桜、もう一回バンザイ。」
「はーい。ばんざーい。」
桜が手を挙げた隙に、上から与えられている服を着せるカイト。もうどうにでもなれ、という気分であった。
「桜、ベッドに座れ。ズボン履かせる。」
「はーい……はい。」
そう言って足を伸ばす桜に、ズボンを履かせるカイト。
「はい、お着替え終了。」
「ありがとうございます。」
そう言ってペコリ、と頭を下げる桜。
「はい、じゃあもう寝ようなー。お休み。」
そう言ってカイトはこれ以上絡まれる前に、と逃げ出そうとするが、そうはいかなかった。桜に服の裾を掴まれたのだ。
「……今度は何でしょうか?」
深い溜息を吐いて、カイトは桜を見る。
「寝るまで一緒ー。」
「……はぁ。」
ごろん、と横になって布団に潜り込んだ桜を見て、カイトは近くにあった椅子に腰掛ける。
「もう……疲れた……」
ここで不機嫌となられるよりも、じっとしておいた方が得と判断したカイトは、疲れた顔で桜が眠るのを待つのであった。
酔っ払って絡んでくる桜とソラの二人を何とか部屋に送り届けてベッドで寝かせることに成功したカイトは公爵邸の自室へやって来た。
「この部屋も三年ぶりか……。」
部屋の鍵は既に開けられていたので、ゆっくりと扉を開ける。そこには、自分が帰った当時のままの、自分の部屋がそこに存在していた。そうして、ゆっくりと部屋の中心まで歩いて行き、懐かしき周囲を見回す。多少物が増えていたりしているが、心当たりがあった。それを懐かしげに思っていると、そこで後ろからドアの鍵がかかる音がする。
「ん?」
懐かしんではいたが、すぐに戻るつもりであったカイトはいきなりの音に後ろを振り返る。ユリィがドアに鍵をかけたのである。
「どうした、ユリィ。」
何も答えないユリィに疑問を覚えつも、部屋の懐かしさが勝ったカイトは、部屋を確認していく。
「この本は……ルクスが忘れたのか?こっちはおっさんだな……相変わらず安酒飲みやがって。だから悪酔いするんだろ。このナイフはウィルが料理を切り分けるのに使ってたのだし……あいつら人の不在の間に勝手に上がり込みやがって……」
かつての仲間たちの痕跡の名残を発見して微笑むカイト。
「ベッドもそのままだな。」
自分のベッドに寝転がり深呼吸するカイト。そうして、右を見て、そこに居たクズハに尋ねる。
「……全部、そのままなんだな。」
「はい。何時お帰りになられても問題ないように、と。」
「ベッドは……若干柔らかくなっているな。」
カイトが寝転んでいるベッドは、当時から高級品を使用していたが、今の方が寝心地は良かった。
「ええ、この300年で新たに発見された鳥の羽毛を使用しています。お兄様が知らないのは、無理がありません。」
「そうか……300年。浦島太郎、か……」
寝転びながら、カイトはその間にあったであろう数々の出来事に思いを馳せる。地球でも色々あったが、エネフィアでも色々あったのだろう。
「……ありがとう、クズハ、ユリィ。」
万感の想いを込めて、カイトは二人に礼を言う。それを聞いた二人も、万感の想いを込めて、頷くのであった。
「……ん。」
「……はい。」
そうして、カイトは一度目を閉じる。胸中に渦巻く様々な想いに思いを馳せていると、ふと、眼前に気配を感じた。クズハがカイトの上に覆いかぶさっていたのだ。少し近づくだけで唇がふれあいそうになる距離であった。驚いたカイトは、近くにあるクズハの美貌から目をそらして横を見れば、そこにはなぜか大きくなったユリィがいる。
「あの、クズハさん?ユリィさん?コレはいったいどういうことでしょうか?」
危機を感じて丁寧語で問いかけるカイト。二人の目は妖しい光を湛えていた。思考の淵に沈んでいたため、敵意を一切感じさせなかった二人の行動に気づけなかったのだ。
「いえ、早速お兄様に約束を果たしていただこうかと。」
「えーと、つまりは?」
「据え膳食わぬは男の恥、だよカイト。」
ユリィがそう答える。
「いや、ちょっとまて!」
いきなりの事態に逃げ出そうとするが二人はそれを許さない。
「これ以上待つといらぬ邪魔が入らないとも限りませんから、待ちません!ただでさえ予定が狂っているのに……。」
そう言ってユリィを見るクズハ。ユリィは逆にクズハを睨む。情緒も何もあったものではなかったが、二人にはそれを気にしていられる余裕が無かったらしい。ちなみに、いらぬ邪魔とは行方不明のアウラである。
「いや、二人共、落ち着け。てか、なんでユリィも!?」
どうどうどう、と両手を上下させて二人を落ち着かせようと試みるカイト。クズハは昔から妻となる、と事ある毎に言っていたため、半ば理解出来ていたがなぜユリィまでいるのかがわからない。
「私もカイトのこと大好きだから。あ、もちろん男女的な意味でね~。」
照れながらそう言うユリィの笑顔は、とても綺麗なものであった。カイトは見惚れるが、意味が飲み込めてぎょっとして、驚きを得た。
「は!?そんなの全く気づかなかったぞ!?」
「あはは、自分でも理解したのって、カイトがいなくなってからだからねー。ううん、それどころかここ100年の事だよ。」
照れた様子で語るユリィ。別にカイトは鈍感、というわけではないが、本人が気付かなかったのだから、カイトが気づかないのも無理は無かった。
「と、いうことで、観念してくださいね、お兄様。」
その言葉に目の前のクズハに視線を戻すと、すでにクズハは服の上を脱ぎ、ささやかな胸が露わになっている。シュル、という衣擦れの音に気づいてゆっくり横に視線をやるとそこにはユリィの裸体があった。
「えーと、執行猶予などは?」
最後の抵抗にそう聞いてみるが自身も大した意味は無い、とわかっていた。
「あると思いますか?」
問答無用でカイトの口を自分の口で塞ぐクズハ。ついばむようなキスであった。
「んー!」
いきなりキスされたのでなんとか声をあげようとするが、くぐもった音しかしない。
「あ、ずるい!今度は私も!」
クズハの唇が離れてはぁはぁと息をするカイトに今度はユリィがキスする。今度は舌を入れられた。
「んぁ……。ん……。」
ぺちゃ、という音と共に舌を絡ませてくるユリィ。もはや諦めたカイトも此方から舌を絡ませる。諦めが肝心であった。
「はぁ……もう知らないからな。」
ようやく離れたユリィの唇との間で唾液の糸を作りながら、腹をくくったカイト。
「はい。お兄様のお好きな様に。」
「うん。カイトの好きにしていいよー。」
そう言う二人にカイトは、昔はこんなことになるとは思ってなかったな、と思いつつも二人に意識を向けるのであった。
「む?どこかで女の嬌声が聞こえるの。」
ぴくぴく、と狐耳を動かして、そう言うのは燈火である。そこに部屋の入り口が轟音とともに開いた。
「魔王様ー!どこですかー!」
入ってきたのは、きわどい服―というより、水着の様な服―を着用した大学生ぐらいのスタイル抜群の美女であった。
「……現魔王かえ?もう少し落ち着いて入ってこれんのかえ?びっくりしたではないか。」
肩で息する美女に対して燈火は苦言を呈する。びっくりした所為で、九尾の毛が逆立っていた。
「あ、燈火さん……って、魔王様は!」
「ティナなら先ほど研究室へ行くとか言っておったかえ?」
近くにいた者に確認する燈火。
「そんな……。折角大急ぎで来たというのに……。」
がっくりと肩を落とす現魔王。現魔王は熱心なティナの信奉者なのであった。
「まあ、そんなに落ち込むでない。ほれこれでも飲むが良いぞ。駆けつけ三杯、というであろ。」
そう言って日本酒を差し出す燈火。魔王はそれを一気飲みして臣下の二人を見つけて問いかけた。
「折角このクラウディアがやって来たというのに、何故魔王様を引き止めて置かなかったのです!」
いい具合に酔っ払った宰相の方は、酔っ払いつつも彼女が今日急用が入っていた事を思い出した。
「しかしの、クラウディア殿。確か急に来客があったのでは無かったか?」
「ああ、そのことですか。アポもなしに来て大した用事では無かった上、無礼な使者でしたので、始末しました。」
始末した、と言っても復活可能な程度に氷漬けして送り返しただけである。別に魔王とは言え、むやみに暴を振るうわけでもなく、非道を為すわけではない。
「ふむ、彼の国は相変わらずか。」
魔族の宰相も呆れつつそう言う。クラウディアも同じように呆れながら溜息を吐いた。
「まあ、所詮は盗賊の国、礼儀を心得よ、なぞ無駄な話ですね。唯一無礼であったお陰で会談が早く済ませれたことが救いですか。」
気分が悪い、そう言わんばかりに継ぎ直された酒を呷るクラウディア。
「ふむ、そこまで悪いのかえ?」
皇国他幾つかの国を挾み、更に海を隔てているため殆ど関わりのない中津国の燈火は噂程度にしか聞いたことが無かった。
「ええ。ジャターユ王国と名乗っていますが、どこの国も認めていませんしね。っと、この話はどうでもよいのです。魔王様は何か言われていましたか!?」
さっきまでの冷静な雰囲気はどこへやら、一気に興奮して今度は魔法大臣の方に尋ねる。
「う、うむ。送った鉱石などをとんでもなく喜んでおったぞ。」
相変わらずのティナ好きっぷりに引きつつも燈火はそう言う。クラウディアはティナが喜んでいたと聞いて安心し、満面の笑みを浮かべる。
「そうですか。それは良かった。では、私も魔王様の研究室へ向かいます。」
そう言って転移したクラウディア。残された面子はそれに対して気を留めずに宴会を続ける。そう、此方もいつもの事、なのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
2018年1月25日 追記
・誤字修正
『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。