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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十二章 皇国中央研究所編
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第404話 試作機達 ――飛翔訓練――

カイトが試作された武器のテストを終えた二日後。再びカイトはアイギスを連れて魔導機に乗り込んでいた。


「と、言うわけだ」

 カイトが使用実感を語り終える。魔導機に乗り込んで実験場へと繰り出したわけであるが、今日は再びアル達三人も一緒であった。揃って魔導機の試験を行う事になったのである。


「まあ、試作品だから性能は魔力効率とかは悪い。だからガス欠になっても気にするな」


 二回目の魔導機使用で若干の固さが見えるアル達に対して、カイトが告げる。これは当たり前であるが、量産を前提として試験の為に様々な制限が設けられている試作機と、それらのデータを下に調整されて機能を発揮できる量産機では量産機の方が性能は高い。

 とは言え、今のアル達が使っているのは量産機の試作品なので、カイトがテストしている試作機の試作機、まさに実験機の実験機というべき魔導機よりも随分と魔力効率は上昇しているのだが、それでも、試作機には違いがない。本当に彼らが与えられる量産機よりも、今はまだ魔力効率は悪いのであった。それ故の、慰めだった。


『はい。ですが、これでも更に使用効率が上がるのですか?』


 リィルがカイトではなく、通信先に居るティナに問い掛ける。それを受けて、ティナが頷いた。


『うむ。今の効率はまだテスト段階じゃからな。ここで出来上がった問題点を纏め上げ、手直しして、完成と相成るわけじゃ。実際のロールアウトは最も早いお主らの機体でも年末……否、来年ぐらいにはなるじゃろうな。それでも、初代、という所じゃろう。実際に使い始めて見える部分も多い。余が何時も調整するではなく、部隊の整備員が整備するわけじゃからな。その都度、試作品を作る事になるじゃろう。その時は、お主らに度々調整に手伝ってもらう事になるじゃろうが、その際は頼む』

『うん。僕らが使う物だしね』


 アルがティナの言葉に、にべもなく頷いた。彼らは特殊部隊の中でも、最も強い三人だ。その三人に優先的に強力な兵装を割り当てるのは、戦略的に理に適うのである。そして、それを理解しているがゆえに、三人は今日みたいに調整に付き合うのであった。


『で、ソフィーティア技術大尉。今日の調整はどのような物を?』

『うむ。今日は飛翔機の確認じゃ。各々搭載するシステムが若干異なるのでな。今日は4機同時に、というわけじゃ』


 ルキウスの問い掛けに、ティナが応える。一応、ティナが魔導機開発の総トップということで、地位的には関係者――と言っても残るメンバーも一葉や二葉達等身内オンリー――最高の地位としている。ちなみに、言うまでも無いが本来の彼女は無位無官である。そうして、ティナが更に続けた。


『5分飛翔し、しばし滞空を繰り返してもらう。各々順番にやってもらうが故、4人同時に飛翔することは無いと思って大丈夫じゃ。全員が休憩している10分は、こちらでデータの精査に入る』

『了解した。では、誰から入る?』


 ルキウスが一同に問い掛ける。が、まあ問い掛けた所で、誰が一番かは決まってきた。


「オレが行こう、中尉。元々テスターとしてそれなりに練度があるからな。あんたらのに不具合が出ても対処してやれるはずだ。それに一番始めに飛んでおけば、それを見て学べるだろ?」

『そうか、少尉。助かる。では、頼んだ』


 当たり前だが、カイトは何があっても自分で復旧できるし、そもそもアイギスの補佐もある。スペックシート上は外装がなければ機体スペック的には一同で最も低いが、その実、出せるスペックが最も高いのはカイトだ。三人に不具合があっても、余裕で救援に入れるのである。


『ふむ、カイムか。良し、では頼んだ』

「ああ、じゃ、行ってくる……背面ユニット点火……脚部飛翔機点火……」

『限界性能の50%で試せ。以前の様に、無茶をするでないぞ……それと、あくまで、スペックシート上の50%じゃからな? 色々弄るでないぞ?』

「あ、あはは。わかってまーす……マスター、飛翔ユニットに問題ありません! いつでも行けます!」


 最後に小さく言い含めたティナの射竦める様な声に、アイギスが少しだけ照れる。以前に飛翔ユニットのテストをやった時には、二人で暴走してスペックシートを遥かに上回った挙句、大気圏を突破したのだ。そうして、全てのチェックが終了した所で、魔導機が浮かび上がった。


「良し! じゃ、行くか!」

「イエス!」


 カイトとアイギスが駆る魔導機は、10秒足らずで100メートル程上空まで飛び上がる。そこから研究所の全土を見渡すと、今日も今日とて至る所で様々な種類の魔導鎧の研究が行われていた。そうして、空を飛んでいると、ふと、大型魔導鎧の集団と目があった。


『おーい、少尉。そっちは今日はお空をふわふわか?』

「ああ、ラウルか。まな。」


 通信機に入ってきたのは、ラウルからの通信であった。彼らは実戦で実機を動かす事を想定しての試験中らしく、集団行動をとって、障害物の間を縫うような擬似的な作戦行動を行っていた。


『いいねー。こっちは明日だ』

「はは、なかなかにいいな、空飛ぶのは。まあ、オレは明日も、だけどな。実機の慣らしが終わったから、当分は飛翔機の試験だそうだ」

『お、じゃあ明日は空が賑やかになりそうだ』

『中尉! 喋ってないで試験を続行してください!』


 そんな雑談をしていると、そこで不満気なルーズの声が通信に割り込む。一応弁明するが、ラウルもカイトも試験はきちんとこなしている。ただ単に集中していなかっただけ、だ。


『おっと、悪い悪い。じゃ、またな』

「おーう」

「マスター、今のは?」


 通信を切ったところで、今まで引っ込んでいたアイギスが問い掛ける。彼女はその存在を隠されていたので、ラウルの事を知らないのであった。


「ああ、ラウル・グレイス中尉だ。グレイス商会は知っているか?」

「イエス……あ、照会取れました。そこの次男ですね」

「勝手にハッキングするなよ……」


 どうやらアイギスはカイトに尋ねながら、勝手に研究所のシステムに入り込んで名前と声紋からラウルの情報を引き出していたらしい。これがバレたら怒られるのはカイトなので、カイトは溜め息を吐いた。まあ、そこらは存在からして誰もが唖然となるアイギスだ。まあ、誰にもばれないだろう。


「マスター、そろそろお時間です」


 と、そうしておしゃべりをしていたからか、直ぐに5分が経過した。そうしてしばらくの滞空を行う事にして、カイト的にもアイギス的にも余裕だが、一般的な使用者の事を考えればこれ以上は怪しまれるので、カイトはゆっくりと地上に着地した。


『ふむ、では次。アルフォンス少尉』

『はい』


 どうやらカイトが居ない間に、順番が確定していたらしい。アルが飛翔態勢に入る。そうして、アルの機体の背面にある大型の飛翔ユニットと、脚部各所に搭載された大型スラスターの火が灯る。

 これらはカイトの機体の追加ブースター等を参考にして作られた、重装型用の飛翔ユニットだ。大出力を誇るが、それ故、魔力消費も他の2機の比ではない。なので、最も魔力保有量が高いアルが選ばれたのである。彼で無ければ使えないわけでは無いが、それでも万が一を考えれば、妥当だろう。


『行きます!』


 アルの掛け声に合わせて、アルの搭乗した魔導機が飛翔を開始する。速度はカイトの機体の比ではなく、みるみるウチに遠く離れていった。そうして、彼はおよそ7秒で、100メートル程の上空へと舞い上がった。これで設定された出力パーセンテージは同等である。


『良し。試験終了じゃ。次はリィル中尉』

『はい、行きます!』


 アルの試験はきっかり10分で終了する。次に飛び立つのは、どうやらリィルらしい。彼女は飛翔態勢を取ると、一気に舞い上がる。その速度はアルの重装型よりも少しだけ遅く、高度100メートルまでおよそ8秒という所だろう。

 高機動型なのにアルより遅いが、これは当然だろう。直線距離ならば、やはり出力の問題でアルの魔導機の方が早いのだ。リィルの魔導機の売りは速度では無く、機動性なのだ。飛翔機をガン積みしているわけでも無いので、最高速度が高くなくても不思議では無い。そしてこちらもきっかり10分。彼女の魔導機も優雅に着地する。


『ふむ、ではルキウス中尉。最後に頼む』

『了解した』


 最後にルキウスの機体の飛翔機に火が灯る。彼の機体も飛び上がる。そして今までと同じく100メートルの所まで舞い上がると、そこで色々と試験を行い、着陸した。

 100メートルまでの速度はおよそ9秒。こちらはカイトの機体よりも少し早い、という所だ。大元となる機体が素のカイトの機体なので、量産型となったことで少しだけ性能が上がったということだろう。


『ふむ、試験は一旦終了じゃ。一時休憩に入れ』

「アイアイマム」


 カイトはそう言うと、通信システムを切断する。そうして、幾つかのチェックを行いつつ、アイギスに問い掛けた。


「こいつの外装パーツが無いバージョンに更に索敵を強化した機体がルキウスのか?」


 カイトの問いかけを受けて、アイギスがモニター上にアル達の魔導機のスペックシートを映しだした。当たり前だが、カイトは公爵家のトップだ。魔導機の全ての情報を閲覧する権限はあった。


「イエス。マスターの機体を素として、無駄にエネルギーと場所を喰う胸部射出をパージ。代わりに胸部エリアにも索敵用のユニットを追加し、更に頭部ユニットの索敵機能を強化しました。ただし、胸部射出ユニットは完全に不採用としたのではなく、アルフォンス氏の重装型の外装部分に同機能を追加。同氏の外装部分からは右腕パイルバンカーを削除し、代わりにブレードユニットを追加。左腕武装盾はそのままですが、これから複数種への変更をオミット。一撃重視の5連装グレネード・ランチャーを制式採用しました。その他兵装は、開発次第、基地での変更をする様にしました。まあ、マスターと私の組み合わせ以外で戦闘中に細かな操作が出来る者はいませんので」

「そうか……で、リィルの機体は?」

「イエス。リィル氏の機体には各所に高機動用の低燃費飛翔ユニットを追加。事細かく動きを変えられる様に調整しています。武装としては手持ち式と内装式以外の武器は殆どオミットしました」

「すごい変更だな。防御は大丈夫なのか?」


 どうやらカイトの乗る試作機から大幅な変更が加えられているのは、リィルの機体のようだ。一同の機体で最も身軽な動きが出来そうなのはリィルの乗る機体だが、それは同時に見た目でもわかる程に装甲が薄いということだ。それ故、カイトも気にしたのである。そんなカイトの問いかけに、アイギスが答えた。


「ノー。装甲はかなり薄いです。ただし、この機体には他の2機とは違い、魔導障壁の展開システムを大幅に見直しました」

「見なおした? どういう風にだ?」

「主には受け止める、緩和する、という緩和方向から、受け流す、逸らすといった衝撃をそもそもで受けなくする方向です」


 そもそもで大型魔導鎧も魔導機も共に重装甲と言っても過言ではない。とは言え、当然だが装甲を薄くして速度を増せば、その分防御力は低下する。まあ、つまりはどういうことか。それはカイトの一言が良く表していた。


「あたらなければどうということはない、か」

「イエス。その言い方はベストですね。近接だからといって、重装甲で打ち合う必要はありませんから」

「それで、軽装型は装甲が曲線的なのか」

「イエス。更には空気力学的な意味合いも強いです」


 アイギスがモニターにリィルの乗る軽装型の外形を写しだし、矢印で力の流れを示す。矢印は装甲表層を覆う障壁にぶつかると、横に逸れる様に流れていった。確かに攻撃も風も受け流すことを主としている事がわかる。


「軽装型は主として牽制用に作られていますので、装備兵装としてはランス、短剣等の速度重視の武器です。更には強化した双銃も搭載しています。これは余剰となる出力を全て飛翔と拳銃に回せた為、かなり高出力の大型拳銃となります。出力だけで言えば、マザーが作った手持ち式の短銃の中では最大出力を有しています。マスター用の双銃を除けば、ですが。とは言え、量産型の双銃ではこれが一番高出力であることには違いありません。如何にこの双銃を使い熟すかが、肝要です」

「了解した。で、オレのカスタム機は?」


 試作された量産機3種の説明が終わったので、カイトは自身のカスタム機についてを質問した。


「これは……まあ、カスタム機というかワンオフですね。マスターの機体は主に最前線での使用しか考えていません。なので、マスターの動きについていける事こそを主眼としました」


 次いでカイトの目の前のモニターに浮かび上がったのは、カイト専用機となる蒼いカスタム機だ。形状としては今カイトが乗る機体と殆ど違いはない。が、色々と変更は加えられていそうだった。


「こちらは胸部ユニットも武装ユニットもほぼ全てが本機と同様になります。ただ内部構造が別物となり、出力は本機の比でおよそ150%程上昇します。本機のスペックシート上は、ですので、おそらく、また私とマスターの組み合わせでスペックシートを遥かに上回る事になるかと。更に新たに開発されている各種兵装を含めて本式の緋緋色金(ヒヒイロカネ)製となりますので、マスターの全力に耐えうる物となり、相対的に出力も上昇します……まあ、つまり、ここに表示されているスペックシートは全て無駄、と思って大丈夫、です」

「了解した」


 アイギスの言葉に苦笑しつつ、カイトは納得する。自分達にとっては武器のスペックシートは無駄、と言われては苦笑するしかないだろう。そんな話をしていると、どうやら休憩時間は終わりを迎えた様だ。ティナから再び連絡が入ってきた。


『時間じゃぞ。では、次の試験にとりかかってくれ。次の試験は飛翔ユニットでの曲線的な動きじゃ』

「あいよ。んじゃ、行ってくる」


 カイトが飛び上がる。順番は先ほどと同じだ。ただ、飛び上がって一度停止して、そこから曲線的に動くので、どうしても速度が低下する。カイトの魔導機で100メートルに掛かる時間はおよそ13秒だ。

 次いでアルが飛び上がり、曲線で移動する。こちらは100メートル12秒。曲線的な動きをしようとしたアルが、慣れない魔導機の動きの所為で一時停止を繰り返してしまったため、タイムがかなり遅れてしまったのだ。それでも、飛翔機の出力が高かったのでカイトの機体よりも速い結果となった。

 その次のリィルの機体が、最速だった。こちらは100メートル9秒。牽制用として機動性を重視した機体であったため、曲線的な動きをしても大してタイムが変わらなかったのである。

 最後のルキウスの機体はカイトとアルの機体よりも少しだけ速いぐらいだ。タイムは100メートル11秒。これはカイトの機体の量産機なので、妥当と言えた。


『ふむ、では再び休憩を取り、次の試験へと移る』


 曲線的な動きをテストして、ティナの満足した声が一同の耳に響いた。そうして、再び休憩が入り、この日も殆ど試験で一日を費やすのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。本日の断章は21時投稿です。

 次回予告:第405話『試作機達』

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[気になる点] カイトの魔導機で100メートルに掛かる時間はおよそ13秒だ。  次いでアルが飛び上がり、曲線で移動する。こちらは100メートル12秒。曲線的な動きをしようとしたアルが、慣れない魔導機の…
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