第403話 試作機達 ――武器試験――
「アイギス。調子はどうだ?」
「イエス、マスター! 本来の機体への搭載が出来ていないのが惜しいぐらいです!」
「お前は搭載ってか搭乗、だろうけどな……」
カイトの歓迎会が開かれて数日後。カイトはアイギスを伴い久々に試作魔導機のコクピットに搭乗していた。新たに試作された量産型用武器の調子を確認するのである。一応、テスト・パイロットということで、カイトが行うのであった。
ちなみに、アイギスの言だが、当前緋緋色金で全て構成された魔導機なぞ、カイトやティナ、クズハ達人を超えた者達でなければ使い得ない。そんな物で試験をすれば、明らかに自分達の正体を明かしている様なものである。
「まあ、まだ完成してないしな。近日中には本体は完成する予定だ、とか言ってたからそれまでの辛抱だ」
「少し残念ですね。この娘とも、それまでの付き合いですか。私の初陣だったんですけどねー」
アイギスの少し物悲しげな言葉が、コクピットの中に響く。そんなコクピット・ブロックは、アイギスが搭乗する事になって複座に改良されたことにより、以前よりも更に広くなっていた。
メインパイロットであるカイトはそのままだが、サブ・パイロットとなったアイギスには、コクピットの前部分に新たに周囲の状況や機体状況といった様々な状況をモニター出来るようなコンソールが併設され、彼女はコンソール前の椅子に座っていた。
ちなみに、アイギスが居るおかげで出力や計器のチェック機能等の向上があったのだが、同時に今の試作魔導機には幾つかの弱点が出来てしまっていた。第一に、アイギスが自由に行動できる様になってしまったため、アイギスが居なければ機体の性能を十二分に発揮出来ないこと。
第二に、複座機となったことで二人の協調性がとれなければ、機体性能が低下してしまうこと。
第三に、アイギスの分のコンソールや補助ユニットを搭載した所為で、索敵能力や妨害能力の向上があったかわりに、アイギスに対する負担と、カイトに掛かる魔力消費が増えてしまったことだ。
とは言え、これらの大半は当人達にとっては、瑣末な問題にしかなっていなかった。そうして、カイトが機体全体に魔力を通した。それとともに、全ての計器の電源がオンになる。
「計器良し。ガレージから出すか。ソフィ、ガレージの大扉を開けてくれ」
ガシンッ、魔導機が一歩足を踏み出すと、大きな音が響き渡る。尚、何故今日は偽名なのかというと、ティナ以外にも観察の研究者達が居るからである。
『うむ……良し』
カイトが動き始めたのを見て、ティナがガレージから出る大扉を開く。すると、ゆっくりと大扉が開き、カイトが外へと歩いて行く。
「で? 今日は何の試験だ?」
『うむ、とりあえずは別種兵装として開発したガトリングを試してくれ』
ティナの言葉に従い、カイトは幾つかある武器コンテナ――さすがに異空間から出すのを見られるとマズイので、擬装用にコンテナを持ち込んだ――の中から、6銃身のガトリングを取り出した。
一応、これはアルが使う重装型のメインウェポンとなる予定の物だ。まあ、並のパイロットだと、数秒ぐらいしか使い物にならないが、それでも無数の弾幕というのは、馬鹿には出来ない。
「結構重いな」
カイトは6銃身の20メートル程の巨大なガトリングを手に取ると、両手にずっしりとした重みが伝わる。カイトの体感としては、およそ10キロ程度だが、実際にはその百倍は優に超えている。重さを再現しているのは、その方が機体が自分の身体だ、という感覚がつかみやすいからだ。
「……ん?」
と、そこでカイトがガトリングを持った時点で、コクピット内のカイトに変化が現れた。映像であるが、カイトの手にも簡単な6銃身のガトリングが現れたのである。
映像としてはワイヤーフレームのみだが、これは有りがたかった。今までは目視か、殆ど手探りというか、自身の魔術を併用してどの部分に触れているかを確認していたのだが、これでいちいち魔術で確認する必要は無くなった。
「映像だけでも再現してみました! と、言っても登録されている標準兵装だけですけど……」
カイトの前に座るアイギスが、後ろを振り返って言った。どうやら彼女の仕業らしい。小粋な心遣いに、カイトが笑みを漏らす。
「これ、採用だな」
『うむ』
カイトの言葉に、ティナが忙しなく動き始める。量産機にも搭載できるように、今アイギスが即興で作り上げたデータを精査しているのだ。
『……カイム、これでどうじゃ?』
通信機越しにでもわかるかなり速いティナの術式の再構成が終了し、それをこちらに送る動きがあった。そうして、直ぐにアイギスがそれをインストールしていく。すると、直ぐにきっちりとしたガトリングが現れた。形は魔導機自身が持つガトリングと同じだ。
「良好だ、ソフィ」
『うむ、ならば一度ガトリングを置いてみてくれ。それで、5歩程後退を』
カイトはその言葉に従い、今手に持つガトリングを地面に置いた。すると、映像はそのままカイトの足元に滞空し、消えなかった。更にカイトが5歩後退すると、ガトリングの映像がそれに合わせて前に移動し、小さくなった。
片眉を上げたカイトが試しに再び近づくと、先ほどと同じ大きさに戻る。試しに斜めに移動すると、ガトリングの投影される映像の場所も斜めに移動し、小さくなる。
『これで戦闘中に落としても場所がはっきりわかるじゃろう』
「まあ、別に外の状況を見ればわかるけどな」
『言うでないわ』
コクピットに、クスクスと笑うティナの声が響いた。別にコクピット内の映像で場所を示さなくても、パイロットの周囲に映し出される映像から場所を判断することは出来る。大して意味の無いというより、単なる気分や扱いやすい程度の問題だろう。重要ではある。
とは言え、こんな雑談をいつまでやっているわけにもいかない。なので、二人は気を取り直して、試験に取り掛かる事にした。
「まあ、とりあえず。これでわかるのは標準兵装だけか?」
『いや、今は無理じゃが、場合によっては岩石等を手に持てばそれも表示することは出来る。まあ、そちらはワイヤーフレームとなるがのう』
「ほう?」
カイトが興味を示したのを見て、ティナが原理の解説を始めた。
『原理は単純じゃな。手の部分にある感圧式センサーの術式を改良して、対象の表面をスキャンする様にしたのじゃ。まあ、そう言っても大きさによってはスキャンに時間が掛かったり、内部構造はスキャンでき……そうか、それを応用して……』
ティナは解説の最中で何処か楽しそうな声を上げる。何かを考え付いたらしい。カイトはそれに苦笑しつつも、とりあえずは客も居るので止める。
「ソフィ。解説しないなら、仕事に入ろうぜ」
『む、すまんのう。では、ガトリングに火を入れてくれ。とりあえず、オーバーヒートするまでじゃ』
「了解した」
カイトはティナの言葉に従い、6銃身のガトリングに魔力を通す。すると、かなりの連射速度で魔弾が射出され始める。
とは言え、5秒もすると魔法銀で出来た銃身が赤熱し始め、15秒で非常停止が作動した。そうして、短くない冷却時間が始まる。
『実用的には連続使用可能10秒で毎秒50発か。まあ、材質の問題じゃから仕方がないじゃろうな』
少しだけ不満そうなティナの声が、通信機から響いてきた。魔法系素材の中で魔法銀が最も普及していてるが、それ故、出せる性能も普通程度だ。なので当たり前だが、材質をより上位の素材に変えれば、より長く使える様になる。
ちなみに、魔法銀の上には幾つもの魔法系素材が存在しており、最上級の素材故に使えない事で有名な緋緋色金を除けば、有名な物は魔結晶と魔鉱石である。魔鉱石を更に精錬した物も有名で、そちらは魔鋼材と呼ばれている。
ちなみに、銀や鋼と名付けられているが、別に銀や鋼の魔力導電性が高い物質というわけではない。別物質だが魔力を除いた物理的特性が似ていた為、便宜的にそう名付けられているだけだ。
そうして、カイトとアイギスは次の試射に移るまでの冷却時間を利用して、魔導機の中から別の実験場で行われている試験を観察させてもらうことにする。
「ほう……脚部を完全に取っ払ってブースターのみにした鎧か。独創的だな」
どうやら空中専用機として開発されたらしい15メートル程の大型魔導鎧を見て、カイトが少しだけ興味深げに呟く。その形状には平らな部分も多く、何処か、輸送機じみていた。
「でも、あれだと魔力切れを起こしたら終わりじゃないですか? マスター見たくほぼ無尽蔵の魔力を有しているわけじゃないですし。飛翔機に改良を施しても、多分10分も飛べませんよ?」
「……多分、補給用に回復薬をガン積みしたんだろ。偉い人にはわからねえんだよ」
「ドーピング万歳! ですか……無駄ですねぇ。あれなら小型飛空艇でも代用できるんじゃないですか?」
「いや、そこまで酷評はしないで良いだろうさ。多分あれは超短距離の輸送機代わりに使うんだろうな。幾ら小型でも飛空艇だと激戦区を飛べば狙い撃ちだ。対して戦闘能力の高い大型魔導鎧ならば激戦区となった場所へなら、強引に着陸する事も不可能じゃない。なにせ鎧、だからな。防御力は比較出来ない」
その言葉を示すように、鎧に取り付けられた幾つもの飛翔機が細かく向きを変えていく。そうしてホバリングから高速移動までを瞬時に切り替えていく。
「……ほぉ」
何度も繰り返す試験の間に他の研究室のテストを見ていた二人は、今度は少し離れた場所で繰り広げられるライフルの射撃を興味深げに観察する。
「アサルト・ライフルですか?」
「それはわからんが……下にグレネードだから、感覚としてはアンダーバレル・グレネードかな」
『ふむ……アンダーバレルに搭載する方式はどうやらこちらでも生まれておるようじゃな』
二人の会話をBGM代わりに聞いていたティナが、少しだけ興味を覚えたらしく口を挟んできた。まあ、エネフィアでの魔銃の原型はティナが作り上げたのだ。興味が無いわけではないだろう。
「ソフィ……意外じゃないだろう。元々グレネードタイプの奴は勇者の知恵で持ち込まれているからな」
そう、カイトとて、かつての戦いで銃を開発した時に、試作としてグレネードタイプの魔銃を開発しているし、今冒険者達に若干普及し始めているのも、そのタイプが大元になった物だ。
地球でのアンダーバレルタイプのグレネード・ランチャー開発が自衛兵器が使えない事に端を発するので、エネフィアでも同じ経験をすれば、自力で開発されていても別におかしくは無いだろう。
『とは言え……ふむ。あのタイプはソードグリップかのう』
「わからん。そもそもフォアグリップ自体も無いからな」
カイトは両手が塞がる事を厭う。おまけに言えば、カイトが使う武器は全てカイト用に誂えられたワンオフだ。ティナが作った双銃は十分にマシンガン並の連射力を有していた為、マシンガンをわざわざ開発する必要が無かったのである。
それと同時に、簡単に戦力となり得る魔銃をそこまで発展させるつもりもなかったので、現代エネフィアで勝手に開発されていなければ、ティナも趣味程度にしか作るつもりが無かった。
「量産品なら、フォアグリップを作るのも有りじゃないですかね」
『じゃのう。そもそも量産機を作るつもりなぞ無かったからのう』
やはり、世界が違うと言えど人が使う以上、道具は似たような進化を辿るからなのか、マシンガンの形状もフォアグリップの形状も何処か地球のそれと似ていた。
いや、それ以上にマシンガンはカイトもティナも開発していないのだ。それが開発されている時点で、似たような進化を辿るのだろう。違いがあるとすれば、実弾用のマガジンがあるか無いかぐらいだ。
「さて……次の武装は?」
『ふむ。今度は手首の非常ウェポン・ハッチを選択せよ』
ティナの言葉に従い、カイトは手首近くに取り付けられたウェポン・ハッチから武器を取り出す。すると、現れたのは手のひらサイズの筒状の物体であった。
「……なるほど」
「マザーより武器スペック受信。多分、マスターの想像通りです」
カイトが出てきた武器を見て、その形状から武器の本来の姿を把握する。そしてアイギスが少しだけ嬉しそうなカイト側に、武器のデータを送信する。そうして、表示されたデータは、まさにカイトの想像通りの武器であった。
『まあ所謂レーザ・ブレイドじゃな』
「どっちかっつーと、マジカル・ブレイドの気もするけどな」
『それだと何か魔法少女っぽくなるのう』
どちらにせよ、魔力によって刃が形成される剣だ。武器を全て失った状態での非常用なので手首に収納されているのであった。
「刃の形状は?」
『自由に出来る様にしておる。ただし、刃渡りは20メートルまでじゃ。費用対効率の問題じゃな』
ティナがスペックシートでの話を行う。当たり前だが、これはリミッターさえ解除すれば、使用者の魔力で可能な限り、どこまででも伸ばす事が出来る。
『とりあえず、幾度か試してみてくれ』
「おう」
ティナの言葉を合図に魔刃を創り出したカイトだが、それに伴い通信の後から歓声があがる。これは大した物では無いのだが、それはティナという技術者を基準とした時だけだ。当たり前だが、魔力を刃に固形化するのは難しいのだ。
そうして、色々な形に魔刃を形成してみるカイトだが、対して問題は無く試験は終了した。まあ、元々ティナが作っていた単なる魔刃形成用の魔導具を兵器転用して大きくした物なので、大した問題が起きないのは当たり前であった。
「ビーム・ハリセン……なんっつって」
『意味あるのかのう』
「ねーな。刃で無い時点で、魔刃としちゃハタキ程度にしかなりゃしねえよ」
自由に刃を形成していたカイトが、ふと遊び半分でハリセン型の魔刃を形成する。それを見たティナが少しだけ呆れた声を出して、カイトが直ぐに刃を消失させた。ハリセンの部分が刃としての機能を持つのなら別だが、薄さが無いのに切り裂けるはずがない。意味が無いどころか、魔力消費が大きくなるだけで利点はたいして無いのである。
「良し、次は……」
適当に雑談を終わらせた二人は、次の試験にとりかかる事にする。そうして、この日一日、武器の調整で終了するのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第404話『試作機達』