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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十二章 皇国中央研究所編
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第402話 試作機達 ――第3研――

 本日の断章は22時です。

「うぅー、これ酔うな……」


 第3研究室の持つ試運転用エリアのど真ん中に、ラウルの呻き声が響く。彼は今、数日前の試作機に外装と試作された武器等を完全に取り付けた物に乗り込んで試験を行っていた。


『文句言わないでください。今回は機動性実験なんですから、揺れが激しくなるのは仕方がありません』

『先日の試験は揺れがどうなっているのかの調査と、ホバリングのテストでしたからね。今日のは全体的な挙動の確認です。あ、中尉、次視点そのままで平行移動お願いします』

「はいはい」


 ラウルは気怠げ――気怠げなのは、魔力を大量に消費する関係――に答えると、大型魔導鎧の腰回りの飛翔機に魔力を通す。それとともに酔いとは違う気怠さが彼を襲うが、一切を無視した。そうして、彼は仮の目標とされた廃棄予定の大型魔導鎧を中心に、回転を始める。


「あー、うん。やっぱこっちのほうがいい」


 先ほどやらされたのは、大型魔導鎧の足を使用したかなり上下運動の激しい動きだ。それに対して、今は魔力の消費こそ高いが、上下への震動が無いホバリングの動作に、彼は精神的な安寧を得る。そんな彼の耳に、二人の研究者達の声が聞こえてきた。


『やはり出力的に厳しいか……速度が25%も落ちている』

『主任、そう言ってもこの間のは武器も無し、外装も殆ど付いていないテスト機なんですから、当たり前ですよ』

『ホバリングはそんな楽か?』


 ルーズとコールの声に、更に別の男の声が響く。同じ第3研究室のテスト・パイロットの一人だ。彼や他のテスト・パイロット達の得たデータを集約し、漸く完成したのが、今ラウルが乗る試作機なのであった。

 ラウルは総合的な挙動等の確認を担当し、今声を上げた彼が担当していたのは、武器系統である。地球以上に人的負担が大きい為、一人のパイロットが全てを担当していないのである。そんな質問に対して、ラウルが頷く。


「ああ。そんなところだ」


 5周程した所で、ルーズから停止のサインが寄せられた。一度今までのデータに不具合が無いかどうかを確認したい、との事であった。

 一度休憩しても良いということなので、ラウルは一度機体を停止させる。それと同時に大型魔導鎧のシステムを変更すると、魔力の吸収が無くなって、今まで忘れていた疲労感が一気に意識の上に戻ってきた。


「やっぱり疲れるなー……」


 何処か余裕を含んで、ラウルが告げる。さすがにまだ試験終了では無いので、大型魔導鎧から降りる事はしない。が、代わりに、持ち込んだ安物の回復薬を取り出して、ストローで中身を飲む。

 魔力を補給しないと、消費する一方だ。なので、大型魔導鎧にはそれを置けるスペースがきちんと存在していた。


「くぁー、味はいまいちだけど、やっぱ冷えたドリンクは美味いね」


 回復薬を飲んだ事で、ラウルが失った魔力が幾分か回復する。国の研究所で販売されているかどうかは関係なく、売られている飲み物の入れ物は密閉性が高かろうと大抵が使い捨てだった。

 なので、普通は温度を保持する機能は付いていない。少々値が張ったが温度保温機能付きの持ち運び容器を買った事を、素直に賞賛する。


『……問題ありませんでした、中尉。次は武装の確認をお願いします』

「りょーかい」


 ルーズの指示に従い、ラウルは皇国軍所属大型魔導鎧の標準装備である大型魔導鎧用の片刃の剣を取り出す。大きさは10メートル程で、材質は魔法銀(ミスリル)魔結晶(オリハルコン)の複合材だ。

 本来、魔結晶(オリハルコン)はワンオフの専用機ぐらいにしか使われないのだが、単純な構造である剣や盾といった武具にだけは、量産品でも使用されているのである。

 これと共に、15メートル程の剣と同じ材質の盾と大型魔導鎧用の拳銃タイプの魔銃が、皇国軍大型魔導鎧の標準装備である。それに加えて、機体モデルや作戦に応じて武器を変更するのが大型魔導鎧の皇国軍での扱いであった。


「はっ!」


 今までのおちゃらけた雰囲気は何処へやら、いきなり真剣な目付きになると、ラウルは片刃剣を抜き放って斬撃を繰り出した。大重量に加えて莫大な魔力を乗せられた片刃の剣は、安々と厚さ30センチの鋼材を切り裂いていく。そうして、遂に鋼材を真っ二つに切り裂いた所で、ラウルは片刃の剣を元あった鞘の中に納刀した。


『タイム、1秒。まあ、魔力による切れ味の増幅もあるので、妥当ですね。マイアーズ准尉、准尉も試験準備をお願いします』

『10メートルの30センチ鋼材が真っ二つ……』

「悪くはないな」


 ルーズの平坦な声と、コールの驚いた声を聞きながらラウルが少しだけ笑みを浮かべる。初めての武器の使用とあって、やはり軍人としての血が騒いだのである。


『盾は後で試していただくとして……次は魔銃の試験をお願いします。今度は出来れば、ホバリングを併用していただければ』

「あいよ」


 ルーズの言葉に従い、ラウルは標準兵装とは異なる長銃型の魔銃を両手で構えた。次期軍標準装備予定――コンペティションを行い決定する――の1つとして考案されている、連射力に長けたマシンガンと精密射撃が可能なライフルの機能を兼ね備えた試作武器であった。

 そうして、ラウルは右手を引き金に添え、左手でフォアグリップを握りこむとラウルは再び腰回りの飛翔機の火を入れる。少しだけ浮き上がった機体を待機させ、ルーズの指示を待つ。


『次の標的は先ほどの廃棄鎧です。まずは武装のモードをマシンガンに変更してください。それでホバリングをしつつ、魔導鎧の周囲を円運動。魔銃の照準器と搭乗者前部のモニターに現れる照準器のズレを確認していきます』

「了解」


 彼は指示通り、廃棄予定の大型魔導鎧の周辺を射撃姿勢のまま回転する。ホバリングが出来る機体の利点の上下運動の少ない円軌道のお陰で、かなり照準が安定していた。

 そして、それは計器で確認しているルーズ達開発者から見ても、満足の出来る結果であったらしい。珍しいルーズの満足気な声が響いてきた。


『良し……次はそのまま射撃をお願いします』


 ラウルは目標の周囲をスライドしながら、指示にしたがってマシンガンを掃射する。全周囲から降り注ぐ幾つもの魔弾は、全て目標へと着弾した。

 ちなみに魔弾の術式に細工をしているため、魔導鎧に命中しても破壊することはなく、その瞬間に魔弾ははじけ飛んだ。これは試験時での流れ弾等での怪我をなるべく減らす為の工夫である。地球とは違い、鉛弾を使わないが故に出来る芸当だった。


「うん、なかなかだ」


 この安定性は、さすがにラウルも笑みを浮かべて賞賛するしかない。魔弾にホーミング機能を搭載しているならまだしも、この様に高速で動きながらの連射ならば、数発は外れてもおかしくはない。

 ホバリングを搭載した揺れの少ないこの大型魔導鎧だからこそ、そして火薬を使う銃よりも反動の低い魔銃だからこその、正確な射撃であった。


『確認しました。命中率100%。見事な射撃能力です。次はホバリングを停止して、ライフルモードでの確認をお願いします。ついでにフォアグリップの外部パーツを展開して、グレネードタイプの弾丸を射出できる様に。同時に試験を行います』

「はいはい」


 ラウルは指示に従って魔銃のモードをライフルへと変更し、更にフォアグリップを銃身へと折りたたみ、下部に搭載されているグレネード用の銃口をライフルの銃口の下に展開する。

 ちなみに、単なる内部の魔術的な回路変更だけなので、ライフルの部分の見た目には何も変化は無い。そうして、ラウルが両方を数発試射して、大した問題も無くテストは終わった。


「ライフルの方が疲労が少ないな。グレネードは辛いけど」

『まあ、一撃ではライフルが上回りますが、マシンガンでは連射力が高すぎて一気に食いますからね』


 計器を確認しながらのコールの声が、ラウルのぼやきに返した。更に問題なのは、マシンガンの方は銃身が加熱するため、マガジンの交換の必要が無いのに、永続的な連射が不可能であることだ。

 これはカイトが使う様な緋緋色金(ヒヒイロカネ)で作られた武器ならばなんの問題もないが、どうしても魔力伝導性で劣る魔法銀(ミスリル)魔結晶(オリハルコン)で作られているが故の問題であった。

 とは言え、緋緋色金(ヒヒイロカネ)で製作すると、今度は殆ど使える者がいなくなるので量産には向かないのである。


「これで試験は終わりか?」

『いえ、もう1つ試験を実施予定です。中尉は一度その状態で休憩していてください。こちらで次の試験の準備を行っています』

「はいよ」


 ラウルはその指示を有り難く思う。飛翔機の使用とマシンガン連射の併用はやはりかなり魔力を消費するのだ。試験開始からそれなりに時間も経過していた所だし、そろそろ一度何かを口に含みたい所なのであった。

 そうして、彼はこれまた密かに持ち込んだ乾燥タイプの簡易レーション――こちらは勝手に持ち込んだ――を冷えた回復薬と一緒に食べることにして、30分ぐらいが経過した所で、再び通信機から声が響いてきた。


『中尉。次は盾の使用を含めて、実戦的戦闘を行ってもらいます。使用武装は先と同じく魔銃のみ。標的は……来ましたね。中尉の機体と同タイプの、ショルダーバッグを重装タイプに変更した魔導機を相手にしてもらいます。搭乗者はマイアーズ准尉です』


 その言葉を示すように、ガレージの方から自分と同タイプのスカート付きの大型魔導鎧が現れた。ただし、違うのは後に背負う武装で、ラウルの機体が空中飛翔用の追加飛翔機を搭載しているのに対し、相手の機体は左右に高速機動用の追加飛翔機が取り付けられていた。


「お、今日の相手はマイちゃんか」


 ラウルは相手の大型魔導鎧から覗く顔を見ながら、通信機に声を通した。彼女の名はマイアーズ・クロフト。通称はマイで、スタイリッシュな美女であった。この間カイトの飲んだ数を数えていたのが、彼女だ。


『はーい、中尉。ちょっとお相手お願いね』


 マイはひらひらと大型魔導鎧の右手を振る。彼女はそのまま、こちらも同じく次期標準兵装の1つの拳銃タイプの魔銃二丁を両手に構える。それに対して、ラウルも長銃型の魔銃を構える。モードはフォアグリップを展開したマシンガンモードだ。


「いいね、女の子は。スカートが似合うよ」

『じゃあ、ダンスしましょ?』


 二人が短く挑発しあい、同時に、引き金を引いた。と、その次の瞬間から、ラウルは避けに専念する事になる。


「ちょっとなんだい、あれ!?」


 ホバリングでスライドしながら、双銃から繰り出される雨の様な弾丸を避けていく。短銃から繰り出される魔弾は連射力で言えば同等だが、双銃であることで自身の倍の弾丸が飛んでくるのであった。


『ああ、あの拳銃タイプは短時間での魔弾の連続射出を勘案した小型兵装です。今はスカートに吊り下げる形になっていますが、制式採用された場合はスカート内部にセカンド・ウェポンとして搭載できるように、と短時間だけの連続射撃を可能にした物です。当たり前ですけど、単発でも行けますよ』


 見た目に反した双銃での連続射撃に戸惑うラウルに対して、コールが解説する。そしてその解説が正しい事を示す様に、あまり時間が経たずに弾丸の雨がやんだ。


「おっ、チャンス!」


 停止の瞬間を見計らってラウルが攻撃に転ずる。ラウルはホバリングでスライドしながら、マシンガンで弾丸の雨を降らせる。それに対して今度はマイの方がスライドしながら、避けていく。

 そうしている内にマイの方の双銃のクールダウンが終わったのか、頃合いを見計らって双銃での射撃を返ししていく。

 そうして、二人は円運動とスライドを繰り返しながら、相手に一撃を加えようと攻撃を応酬しあう。その様はまるで、遊園地のコーヒーカップの様であった。


「両手がふさがってる代わりに盾を腕にくくりつけてるのか!」


 漸くライフルでの一撃がクリーンヒットしたと思ったが、マイが機体を90度スライドさせて、腕を振って盾で防いだ。


『ふふん、どう? こっちは私のアイデア……と言っても、昔からある考えだけどね。こうしてもらったのは、私よ』


 何処か得意げなマイの声が響く。本来盾は取り回しの為に手持ちにしているのだが、その利点を捨てて、両腕を空けたのである。


「ちっ、俺もそうするかね」


 今のところ、ラウルの機体では攻撃と防御を同時に、ということは出来ない。いや、出来るには出来るし、今も左手に盾を構えながら右手でマシンガンを制御している。

 が、どうしても攻撃を防いだ反動や片手でマシンガンを扱う関係上、射撃の反動で照準がずれるのだ。反動をゼロにする事も出来るが、更に術式が複雑かつ魔力を余分に喰う為、量産機としては採用していない。というより、出来ない。費用対効果が悪すぎるからだ。


「だが!」


 と、そこである一瞬を狙い定めて、ラウルが盾を捨てる。模擬戦での盾の使用限界が近づいた為、背負い直す暇を切り捨て――通常、盾は背負っている――たのだ。そうして、その次の瞬間、マイの双銃の射撃が止んだ。


『しまった!』

「言わなかったが、片方でも弾幕が張れるなら、片方ずつで射撃するべきだったな!」


 ラウルはマイの攻撃が止む直前、フォアグリップを銃身の下部に折りたたむ。するとそれに合わせて、フォアグリップの形状が逆三角に変化した。ラウルは更に銃身の下へと左手を添えて、銃身をしっかりと身体に密着させる。

 ちなみに、マイが軍人なのに弾幕への認識が低いのは、仕方が無い。まだ銃を用いた戦術――というより、魔銃自体がまだ発展途上――が未発達なエネフィアでは、弾幕を張る事に対しての理解がいまいちだ。なので、如何に軍人であるマイといえど、弾幕を絶やさない意味が理解出来ていなかったのだ。


「こっちは俺なりに改良を加えたタイプだ!」


 少し自慢げなラウルの声が響く。そう、彼の持つフォアグリップには実は少しの改良が加えられており、フォアグリップ格納時にもフォアグリップとしての機能を有せる様に改良されていたのである。

 これは実は地球にも同じタイプのフォアグリップがあり、所謂ソード・グリップと言われ、今ラウルがしている打ち方はコスタ撃ちと呼ばれていた。

 やはり、共に人の技術だから、なのだろう。似たような物が開発されていたのであった。そうして、反動を殺す様に姿勢を整えつつ、マシンガンモードで連射する。


『ほっ、ほっ、ほっ!』


 今度はマイがラウルの銃撃を左手に括りつけた盾で防いでいく。マイの方は回避を重視していたため、まだまだ盾の使用限界には程遠かった。それに対してラウルの持つ長銃はマシンガンで連射をすれば、当然銃身は赤熱していく。そうして、ラウルは密かにタイミングを図る。


「3……2……1……」

『良し来た!』

「ここだ!」


 そして遂に、ラウルのライフルがオーバーヒートを防ぐ為に非常停止し、緊急冷却を開始する。その瞬間、ラウルの狙い通りに、マイが機体を270度回転して再び自分と向かい合う。そして、それと同時に、ラウルの魔弾グレネードに衝突した。


『あちゃー』


 少しだけ残念そうなマイの声が通信機から響いた。ラウルが狙っていたのはマイが攻撃に移る一瞬の隙だ。彼女はラウルの攻撃を盾で防ぎ、更に最後の数発を機体を回転させる事で回避しつつ、自分が攻撃に移ろうとしたのである。

 それは今までも同じ手であったのだが、彼女は最後のグレネードを知らなかったが故に、安心して直撃してしまったのであった。


『そこまでで大丈夫です。ラウル中尉、マイアーズ准尉。有難う御座いました……どうしました?』

「……おぇ」

『うっぷ……』


 模擬戦終了と同時に、二人がかなり辛そうな声を上げる。返事の無い二人に、ルーズが重ねて異変を問い掛けた。


『中尉も准尉もどうしました?』

『酔った……ぎぼぢわるい……』


 マイの辛そうな声が、通信機に返って来た。そう、二人は攻撃の回避にホバーでの機体の回転を取り入れた為、試験時での想定以上の速度で回転したのだ。つまり、回り過ぎたのである。


『……明日までにもう一段階上の酔いをキャンセルする術式を搭載しておきます』


 別にこれはコクピットに展開するパイロット保護術式のランクを上げるだけなので、別に難しい事ではなかった。そうして、翌日には第3研究室全員が仲良くくるくる回る姿が、あったという。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第403話『試作機達』


・誤字修正

『弾幕を絶やさない』が『弾幕を封鎖やさない』になっていたのを修正しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 次期軍標準装備予定――コンベンションを行い決定する――の1つとして考案されている コンベンションではなくコンペティションが正しいと思います。
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