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第28話 ✕夜会 ◯宴会

カイトがユリィを乗せて旧友と話に言ったのを見ていたアルら年若の面子は混乱に陥っていた。


「えっと、なんだろ、これ。」


 カイトを知るアルでさえ現状についていけていない。


「……確か、あそこで飲み合っているのはエルフとダーク・エルフの有力一族の前族長殿のはずでは。」


 アルの父も集合した面子から真面目な夜会を想像していたのだが、完全に拍子抜けどころか夢を見ている気分であった。


「どうした、若造ども。折角の異世界の酒、飲まねば損だぞ。」

 そう言って話しかけてきたのはグライアである。まさか古龍の一体から話しかけられるとは思っていなかった一同は一瞬にして緊張に包まれる。が、ここで更に追い打ちがかかる。


「そうじゃ。それに折角ティナらが帰ってきて目出度くある。さあ、飲め。」


 そう言って手に持った瓶から酒を注いでエルとアルに渡したのはティアであった。グライアもティアも酒で赤らんだ顔はかなり色気のあるものであったが、今の一同にそんなことに斟酌できる余裕はなかった。

 意を決して注がれた酒を飲んだ二人であるが―古龍(エルダー・ドラゴン)から直々に酒を注がれて断る勇気はない―飲んで見て、その飲み心地に驚いた。


「ほう、コレは……きついですな。」

「こっちは変わったお酒ですね。泡が弾けるようです。こんなお酒は飲んだことがない。」


 二人にはそれぞれウイスキーとシャンパンが渡されたので違う印象なのであった。


「であろう。この300年でエネフィアの酒もかなり上等なものとなったが、未だにこのレベルには辿り着いておらん。どれ、他のものには余が注いでやろう。」


 グライアはそう言うとリィルら三人に今度は透明な酒を注いでいく。ティアは三人がそれを飲んで味わうのをみて問いかける。


「どうじゃ。飲みやすかろう。それは日本酒というらしいな。カイトの母国の酒らしいの。」

「え!日本の!」


 反応したのはアル。どうやら日本好きの血が騒いだらしい。


「ほう。小僧は日本に興味があるのか。ならば本人に聞いてみると良い。……おい!カイト!」


 そう言ってカイトを呼びつけるグライア。カイトは神狼族の使者と談笑していたが、グライアに呼ばれたのでやって来た。一同は主を呼びつけることになって完全に恐縮していた。


「ん?なんだ?」

「この小僧が日本について聞きたいそうだ。」


 こともなくカイトを呼びつけたグライアであるが、エル、ブラウの二人は即座に臣下の礼を取り、頭を垂れた。


「閣下。わざわざお越しくださり、恐悦の至りであります。」


 カイトは別に問題ない、という素振りをして言う。


「ああ。構わん。お前がアルとルキウスの父で、そっちがリィルの父であっているな?」


 二人共どこかそれぞれの子供たちに似た容姿を持っていたため、そう判断する。


「は。閣下は我が息子らをご存知でしたか。」


 自分の息子らが主とすでに知己を得ていることに驚きつつも肯定する。


「ん?言ってなかったのか?」

「あれ?カイトとかなり前に会ってるの、父さん知らなかったっけ?」

「アル!閣下を呼び捨てなどするな!」


 主を呼び捨てにした息子に真っ青になりながら窘める。


「ああ。いや、オレがそう命じたからな。とりあえず説明しておくか。」


 どうやら事情が伝わっていないらしいので、カイトはアルらとの出会いからを説明することにした。



「そういえば、アルは日本フリークだったか。」


 ひと通り事情を話し終えて本題に戻ることにしたカイト。出会った当初の興奮を思い出していた。


「あー、日本の文化ならオレより桜かソラに聞け。一般庶民のオレより格段に日本人の生活してると思うぞ……。」


 一応ティナを留学生と言う名目で受け入れているが、一般的な家庭で育ったカイト。母方の家系は天道に累する家系であるが、一族としては傍系も傍系、辛うじて冠婚葬祭時に出席するぐらいであった。当然だが、カイトはその場に呼ばれた事は無い。


「え?ソラってもしかして結構生まれは高貴なの?」


 どこからどう見てもやんちゃ坊主がそのまま体だけ大きくなったようなソラであるが、実は天道家の傍系の中でもかなり上位の家であった。


「まあ、あいつ一時期……って、この話はソラがいないとこでするもんじゃないな。」


 酔った勢いで勝手に他人の過去を話しそうになって話を切り上げる。


「まあ、そっちはソラに聞くよ。」


 アルもそれを察してこの話は切り上げることになった。すまん、と頭を掻いてカイトは語れる事を語る事にした。


「ああ。オレ、ソラは桜の天道家の傍系に当たるな。うちは傍系の中でもかなり末端に位置してるがソラは結構天道本家に近い家柄らしいな。正月は普通に着物姿で挨拶回りとかしてるらしい。ちなみに着物は自分で着付けできるらしい。桜とも実は面識はあったらしいが、親しくは無かったそうだ。」


 詳しくは本人があまり話したがらないので分からないが、知っている部分で答える。


「着物の着付けが自分で出来るって、すごいね……。」


 此方の世界にも中津国に着物に似た服が存在するので、着付けの難しさは理解できるアル。


「まあ、当人は嫌がって年末年始に時々うちに逃げ込んでるがな。」


 堅苦しいの苦手なんだよ、そう言って年末年始にはカイト宅に逃げ込むソラ。アルは安易にその状況が想像できた。


「ソラらしいね。」


 そんな話をしているからか、どこかからソラの笑い声がする。カイトとアルは二人してきょとん、として周囲を見回す。


「いやぁ、爺さん。この飲み物美味いっすね。」


 赤らんだ顔で酒―エネフィアでは飲酒に年齢制限はない―を飲み干すソラ。


「そうじゃろ。中津国特有の果物で出来た酒じゃ。たんと飲め。」


 嬉しそうにそう言うのは仁龍であった。が、そんな二人を見て大いに焦ったのはカイトであった。


『ちょ、おい、ジジイ!なんでそいつがそこにいるんだよ!』


 話に行って正体がバレるのを心配して念話で話しかけるカイト。


『む?おお、この小僧か。中庭に出て涼しんでおったら、ちょうど見えたのでな?美人の嬢ちゃんと共に聞いてみたらお主と同じ異世界からやって来たと言うではないか。酒の肴に話を聞いてみよう、とのう。』

『何やってんだ、クソジジイ!オレがバレたらヤバイの知ってるだろ!……嬢ちゃん?』


 突っ込みを入れてから、仁龍の発言の不穏な言葉に気づくカイト。


『うむ。確か名は……おお、桜じゃったな。黒い長髪のおっぱいの大きな嬢ちゃんじゃ。』


 次の瞬間後ろから声が掛けられる。


「あれぇ?カイトくんもアルさんも来られてたんですかー?カイトくん、なんか老けてません?」


 そうして、まるで錆びたブリキのおもちゃの様にゆっくりと後ろを振り返ると、そこには顔が朱を帯びている桜がいた。


「え?あ、いや、気のせい気のせい。酔ってるからそう見えるだけだろ?」

 いきなり後ろから声を掛けられたので姿を変えることが出来なかったカイトは、とっさにごまかす。


「酔ってないもん!」


 酔って幼児退行を起こしているらしい桜は酔っていることを否定するが、どこからどう見ても酔っている。そして、更に事態は悪化し始める。桜とカイトに気づいたソラが近づいて来たのである。


「おお、友よ!お前も来てたのか!コレ、異世界の酒だってよ!お前も飲め!」


 日本の酒、飲んだこと無いけどな、大笑いしながらくだをまくソラはカイトと肩を組み酒を薦めてくる。


「いいですねぇ。美男子二人の絡み。ネタが湧いてきます。あ、そのままソラさん、カイトくんに後ろから抱きついてもらえます?あ、でも今のカイトくんなら逆でもいいですねぇ。」


 桜が酔って半眼で放った不穏な言葉に、カイトがぎょっとする。


「ん?いいぞ。こうか?」


 自分の聞いた言葉が嘘であると思いたいカイトは聞かなかったことにしたが、ソラは桜の望み通りに抱きついてくる。そこで髪が蒼いことに気づいたソラは一度目をこすり、もう一度確かめて、見間違えではないと判断する。


「んぁ?お前なんか老けてね?髪も蒼いし。」

「ですよね、ですよね!カイトくん老けてますよね!眼も蒼いような気がしますし。」


 カイトは即座にソラを引き剥がすが桜が引き止める。離れないようにするためか、桜も抱きついている。当たる胸が心地よいのだが、ソラにひっつかれたままなのはありがたくなかったので、強引に二人共即座に引き剥がす。


「おい!抱きつくな酔っぱらい共!」

「ああ?酔ってないって。で、お前なんか少しでかくね?」


 抱きついた事で身長が少し大きいことに気づくソラ。ほんの数センチなのに、よく気付いたものであった。


「二人共、酔いすぎだ。老けるわけ無いだろ。背が高くなった?……お前、靴スリッパだ。」


 ソラを引き剥がしてそう答えるカイト。同時に桜も離れたが、こっちは若干残念だった。


「あ!ダメですって!せめて写メとらせてください!」


 髪が蒼いことまで気付かれたカイトだが、そっちは酔っているとしてスルーする。桜は写真を撮ろうと携帯を探すが、当然持ってきていない。一安心したカイトだが、何故か桜は小型デジカメで撮影した。


「待て!何故デジカメがある!」

「え?クズハさんに許可を頂いて、学生新聞用に……。あ、撮影許可のある場所だけですけど。」

「ここ出てないよな!」

「あ、これは個人用なんで問題無いです。そうだ!私達のツーショットも。カイトくん、お姫様抱っこお願いしますね。ソラさん、これお願いします。」

「おけおけ。」

「え?あ、はいはい。って、個人用とか関係ないぞ!というか、お姫様抱っこ!?」


 そう言って桜はカイトの首に抱きついてきて、その流れでカイトはお姫様抱っこをしてしまい、証拠写真まで撮られた。

 酔っぱらいに絡まれて対処出来ない勇者の図、周囲は完全に面白がって誰も助け舟を出そうとしない。アルらはすでに撤退済みであった。が、この程度では動じない古龍二人は逆に二人に興味を覚えていた。


「お主ら、ずいぶんとカイトと仲が良いようじゃが、知り合いか?」

「ああ。学校の友人だ。さっきのアルとの話に出ていたソラと桜だ。というか、そろそろ降りてくれ。」

「いやです。あ、はじめまして。私は天道 桜。カイトくんの同級生です。」


 そう言うと、桜はいたずらっぽく笑ってカイトにぎゅっと抱きつく。


「あ、俺は天城 空です。綺麗なお姉さん方と知り合いになれて光栄です。」

「ほう、妾らが綺麗と。見どころのある小僧じゃ!良し、妾が直々に酒を注いでやろう!」


 綺麗と言われてごきげんなティアはソラの杯に酒を注いでやる。


「おっと、ありがとうございます。それで、お姉さん方のお名前は?」

「む?まあ、名乗られたら名乗り返すのが礼儀だな。余はグライアだ。」

「そうじゃな。妾はミスティア。カイトの友ならティアで構わん。こっちのグライアと小僧と飲んでおった爺、あっちの二人を合わせて古龍(エルダー・ドラゴン)なぞど呼ばれておる。」


 エネフィアの住人ならば古龍(エルダー・ドラゴン)と知った瞬間に平伏すのだが、知らないものは平伏しようがない。


「はぁ、古龍(エルダー・ドラゴン)ですか。」

「うむ、そうじゃ。まあ、異世界人のお主らには馴染みないかの。」

「聞いたことがないっすね。」


 古龍(エルダー・ドラゴン)相手に普通に話す二人を周囲はさすが勇者の友人と驚愕を持って受け入れているが、ただ酔っているだけである。


「お前ら、酔いすぎだ……。」


 酔っている二人に呆れ返るカイトだが、半ばどうでも良くなっている。


「酔ってねえよ。なあ?」

「うん。酔ってませんってばぁ~。」


 酔っている奴は皆そう言うんだ、そう言いたくなるカイトだが、言わない。言えば被害が広がる。


「あれ~?頭の上にいるのってもしかして妖精さんですか?」


 ここで桜がカイトの頭の上にいる―ソラの抱きつきから頭の上に退避した―ユリィに気づいた。


「おお!すげぇ!妖精は初めて見た!やっぱファンタジーっていやエルフと妖精は欠かせないよな!」


 後ろからカイトに抱きついた時に気づけるはずなのに、酔っていて気付かなかったソラも気づいた。


「うん、そだよ。二人は妖精族見るのは初めて?」


 此方もいい具合に酔っ払っているユリィはカイトの頭から飛び立とうとするが、手にカイトの髪を持ったままであったので失敗する。


「あ、ユリィ、お前また人の髪に悪戯しやがったな!」

「あ、やば、バレた。」


 髪を元通りにするカイトを無視してソラと桜の前でホバリングするユリィ。


「わぁ~。可愛い!手の上に乗ってもらっていいです?」

「いいよ~。」


 桜が差し出した手の上に乗っかるユリィ。


「やっぱり軽いんですね。それに可愛いです!」

「はぁ~。やっぱそうなのか。次はこっちにもお願い。」


 可愛い、と言われて嬉しいらしいユリィは気分良さげにしているので、ソラの手の上にも乗る。桜とソラは酔っているためかカイトとユリィが一緒にいることに疑問を抱かなかった。


「なんか眠くなってきたな……。」

「そうですね~。」


 ひと通りはしゃいで満足した二人は、眠そうに眼をこすっている。


「じゃあもう部屋にもどれ。明日も研修があるからな。」


 危機が去ってくれる、心底安心したカイトは二人に部屋に戻るようように促すが、まだ試練がカイトを襲う。


「じゃ、連れて行ってください。」


 そう言って桜がカイトに案内を依頼する。は?となるカイトだがソラも桜と同じようにカイトに言った。


「あ、オレも。ここどこ?」


 聞いてみると二人は仁龍に連れて来られたのでこの部屋が公爵邸のどこにあるのかわかっていなかった。観念したカイトは腕をとって胸の谷間に挟み込んでいる桜を引き剥がし二人を部屋まで送る事にした。


「分かったから、へばりつくな。おい、クズハ!」


 もう何もかもを諦めたカイトはクズハを呼ぶ。


「何でしょうか、お兄様……って、天城さんに天道会長!」


 呼ばれるまで桜とソラの存在を知らなかったクズハは、二人に気づいてびっくりしている。


「二人を一旦部屋に送ってくるが、オレはそのまま一回自分の部屋に寄って来る。部屋は昔と一緒だな?」

「はい、間取りもそのままにしてあります。お部屋へ行かれるのでしたら、先に行って鍵を開けておきます。鍵だけはさすがに変更していますので。」

「じゃあ、私も一緒に行く~。」

「まあ、確かにそれもそうか。」


 カイトの私室は公爵邸の中でも最重要の部屋の一つである。鍵を300年前から同じにしておくのは、防犯上問題があるので、変更されていたのであった。もはや単なる宴会と化しているため、ホストも何も無かったので、二人は一度宴会会場を後にした。


「で……オレはこいつらを送り届けないといけないわけね……」


 上機嫌に肩を組むソラと、何故かそんなソラに嫉妬するように腕を絡めてくる桜。現状でもかなり動きにくかったのだが、このままここに放置すればいらぬ面子に興味を持たれかねない。カイトは、仕方なく二人を送り届けることにしたのであった。つまり……カイトの本日の試練はまだ続くのである。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・誤字修正

『首に流されて』となっていたのを修正です。それに合わせて前後を見直しました。意味不明ですね・・・



 2018年1月26日 追記

・誤字修正

 『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうの大好きです。
2022/02/24 20:25 退会済み
管理
[良い点] 昨日この作品を発見して読み始めました。 文章が読みやすく、世界観も登場人物もしっかりしていて読んでいてとても楽しいです。 [気になる点] 第27話 「ユリィにとって見に覚えの無いものであ…
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