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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十一章 皇王の血脈編
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第395話 隠された真実 ――ミストルティン――

 本日24時に断章のソートを実施します。二重投稿等でご迷惑をお掛けしますが、ご了承ください。


 *連絡*

 本日は外伝を更新する為、断章は22時の投稿です。

 皇女ヴェールから問われた、何故、ティナの存在を秘さねばならなかったのか、という質問に、その場の全員が顔を伏せる。そうして、最初に顔を上げたのは、その策を取らざるを得なかった当時のトップの一人だった。


「……あれは、ソフィーティア様が産声を上げられてから数年が経過した時だったでしょうか。当時の彼女は、それは愛らしい御子であり、そして元気いっぱいの御子でした……あの時代が、唯一誰もが幸福だった時代、でしょう……」


 ハイゼンベルグ公ジェイクは、見た目相応に覇気の無い様子で語り始める。それは、ありありと後悔が刻まれているが故だ。


「まだ我が皇国にはイクスフォス様もユスティーツァ様もご存命でした。その為、最終戦で同じく総力戦を行った各地の叛乱軍に比べ、我がエンテシア皇国はかなりの戦力を有していた事になります。そこはお分かりになられますか?」

「初代皇王陛下、如何に命を賭したとは言え、当代最強を謳われた魔帝と単騎で戦い、そしてそれを打ち倒した初代第一皇妃殿下。加えて賢人ヘルメス様、ハイゼンベルグ公など、他の叛乱軍よりも数多くの英傑が生き残ったと聞き及んでいます」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの問いかけを、ヴェールが認める。確かに、初代皇王イクスフォス達叛乱軍も、かなりの代償を支払った。

 だがそれでも、グライアの参戦があったお陰で、最終的に力を最も蓄えていたのは、初代皇王達なのであった。そうして、その返答を聞いて、ハイゼンベルグ公ジェイクが頷いた。


「はい……当然ですが、帝国崩壊後には、今度は叛乱軍が集まって後の統治機構についてを話し合う事になりました。結果、併合されていた幾つもの国は元通りに独立し、もはや帝国と殆ど同一となっていた国々は、新たな国として、独立を果たします。その時、マルス帝国の北東部に出来た空白地に、我々が国を作る事になったのです。そうして出来たのが、このエンテシア皇国でした……そうして我々が国として動き始めて数年後。やはり人とは争わねばならない宿命なのか、段々と独立した国同士で諍いが起き始めました」


 それからハイゼンベルグ公ジェイクから語られたのは、彼にとって思い出すのも忌まわしい元叛乱軍同士での内部争いだ。その結果皇国は更に版図を広げることになるが、詳細は省かれた。

 ハイゼンベルグ公ジェイクは思い出したくなかったし、必要も無かったからだ。なので、重要な所だけを、彼は語る事にした。


「我々は殆ど、常勝でした。当たり前です。誰もが使えぬ秘術を使う皇王に、それに集う英傑たち。比喩ではなく、圧倒的でした。そうして、エンテス大陸の趨勢が我が皇国側になびき始めた頃、今度はその力を恐れて対エンテシア皇国同盟が組まれる様になりました」


 沈痛な面持ちで、ハイゼンベルグ公が溜め息を吐いた。これは、カイトの時と同じなのだ。強すぎる力を有するが故に、その袂に集うか、袂を分かつかしかなかったのである。


「喩え既にグライア殿の支援が無くとも、我々は強すぎたのです。大陸東側の半分がその力を頼りに我々の勢力下に加わり、皇国から離れた西側の唯一帝国の支配から逃れていた大国を盟主に、同盟が組まれました。あちらとしては、やはり面白く無かったのでしょうね。ぽっと出の若者が作った国に、大陸の盟主となられるのは」


 何処か嘲る様にハイゼンベルグ公ジェイクが告げる。今にも口をついて罵声が飛び出しそうであった。しかし、今はその場では無いと思い直して、彼は更に説明を続けた。


「喩えこちらに争うつもりは無くとも、相手が反皇国を鮮明にしている以上、軍備を整えねばなりません。我々文官達は大陸を二つに割る大戦を避ける為に奔走し、武官達は万が一に備えて調練を行う日々が幾日も続きました。そうして、なんとか大戦回避がなし得、両方の軍備の収縮がなされようとしたその時。皇女であったソフィーティア様が、<<ミストルティン>>であった事が判明しました」

「<<ミストルティン>>? ユスティーナ様の姓にはなにか、意味があるのですか?」


 ハイゼンベルグ公ジェイクが語った単語に首を傾げるヴェールに、カイトが答えた。


「<<ミストルティン>>は、如何な方法でも教える事を世界より禁じられた知識です。知らぬ方が良いでしょう。彼女が勘違いした理由というのは、まさにそれなのです。<<ミストルティン>>を除いては、語る事も、記述して残すことも禁じられています。後者に至っては<<ミストルティン>>さえ禁止されている。自らが知る以外に術はありません。なので、語れぬ事はご容赦ください……ただ、私から言える事があるとすれば、それは正真正銘、世界さえも滅ぼせる力を手に出来る、という事だけ、です」


 カイトの言葉に、全員が頷く。全員に揃って肯定されては、ヴェールとしても納得するしかない。が、同時に一つの疑問も得た。それはカイトについて、だ。彼はティナを含めた、といいながら、自分を含めて居なかったのだ。


「閣下は違うのですか?」

「残念ながら……」


 問われたカイトは、頭を振るう。喩えティナよりも強くても、カイトは違った。だから、カイトも語れないのだ。そうして、カイトはハイゼンベルグ公に先を促した。


「……それを知った時のお二人のご様子はそれは沈んでおいででした。せっかく避けれた大戦が、自らの娘の所為で再び活性化しかねない、と」

「<<ミストルティン>>とは、そこまでの存在なのですか?……わかりました」


 あまりの物々しさに問い掛けたヴェールだが、グライア達をも含めた全員が何かを口にしようとして出来ぬ様を見て、問うた所で答えが返ってこない事を納得して、口を閉ざした。

 これを実際に見せる為に、自分の方が良い、とカイトはティナに言ったのである。語れない事を語るには、語れない者が語るのが一番なのだ。

 それに元々ティナにしても語るつもりは無い。知れば危険だからだ。それだけの力を、<<ミストルティン>>とは意味していた。そうして、再びハイゼンベルグ公ジェイクの口から声が漏れた。それは悲しみを幾つも乗せた物だった。


「そうして、幾日も事情を知る者達だけで密かに会議が行われました。そうして出た結論が……浮遊大陸という当時未発見の大陸へとソフィーティア様を秘する……いえ、幽閉する事でした」


 彼は当時の表向きの処遇を告げ、後悔から敢えて言い直した。そうして、そんな悔恨を乗せたまま、彼は続ける。


「結果、大戦は回避される事は出来ましたが、二度とイクスフォス様もユスティーツァ様も愛娘とお会いする事は叶わず、また、存在そのものを無かった事にされたソフィーティア様はイクスフォス様の手でその記憶と力を封じられ、ミスティア殿へと預けられました」

「何故、今まで破られなかったのですか? ユスティーナ様は有史上最高の魔術師。如何に初代皇王陛下の魔術と言えど、封印に気付かれるのでは?」

「最もな疑問です。それは……」


 ハイゼンベルグ公ジェイクがグライアを見て、グライアがカイトへと視線を送る。それを受けたカイトが、口を開いた。


「さすがにティナであってもあの秘術の存在は悟る事が出来ません。なにせ彼女が知るには、それと同類の力を使わなければ、察知出来ないのですから……今の皇族でさえ、それは悟れないでしょう」


 カイトの言葉に、ヴェールでさえ、その力を感じなかった事を自覚する。もしそんな秘術が施されているのなら、まず間違いなく、彼女が皇族である事を確信したはずなのだ。そんなヴェールを見て、カイトが頷いて、続けた。


「おそらく悟れるとするのなら、それはただ一人。ティナだけです。ですが、彼女はその力を使えない様に封印されているのです」


 当たり前だが、ティナは本来はイクスフォスの種族と魔女族のハーフだ。つまり、シア達現代の皇族、いや、300年前の皇族であったウィルよりも遥かに、血は濃いのだ。

 その血の力ともなると、本来ならば、イクスフォスにも劣らない。封印しなければ、彼女に自らの出生の秘密を気付かれてしまうのは当然だった。そうして、カイトが続ける。


「先ほど、おっしゃいましたね。何故、ティナは母の顔がわからないのか、と。封印と同時に、陛下の力で認識を歪めて居るのです。ティナからは、ユスティーツィア様の顔ははっきりと認識できていない。更には幸いにして、若き頃のお姿をはっきりと残した物も殆ど残されていない。故に、魔女として少し似ているな、程度にしか思っていないのです」

「初代陛下のお力はほころびないのですか?」


 ヴェールの疑問はもっともだ。当たり前だが、どんな力でも永遠は無理だ。ならば、何時かはほころびるはず、なのだ。そうなればいずれは気付かれるのでは無いか、と思うのは当然だった。それに、カイトは頷いた。それは当たり前だが、ほころびが生まれるからだ。


「……今もその秘術を受け継いで、異世界の秘術による封印を重ねているのです。義母であり義姉であったミスティアが近くに居た時には、彼女が。私がティナとの婚約の意思を固めて以降は、私がその役を引き継ぎました……全てを語る日が来るまで、その秘密を隠し通す為に」

「その全てを語る日、とは?」

「わかりません。この事を知れば、アイツは皇国全てをも背負おうとします。才能があるが故なのか、アイツは何かと面倒見の良い奴ですからね。勝手ではありますが、私達はアイツの負担を少しでも、減らしたいのです」


 カイトは何処か自嘲気味に、ヴェールに語る。自分勝手。それは、常に自分達が思っている事だ。だが、ティナが自身が皇族と知れば、喩えそれが表立って動けぬでも、奮闘するだろう。そうなれば、彼女の負担は更に増す事は明白だった。

 ただでさえ、クラウディアから寄せられる魔族領の支援だけでもティナもかなり手一杯なのだ。そんな中に大陸最大国家たるエンテシア皇国まで入ると、もはや不可能だ。

 幾ら彼女であっても、大陸の半分に近い領土の全ての面倒を見る事は出来ない。だが、それをやろうとするのが、彼女であり、それを知ってその性根を慕うが故に、魔王まで上り詰めたのだ。だからこそ、カイト達は今もまだ知らせぬ様にしているのであった。それに、隠す理由はこれだけでは無かった。


「それに、この一件が周知されれば、如何に彼女が皇位継承権を破棄しても、担ごうとする者や害そうとする者が現れないとも限りません。害そうとする者がまだ、何処かの貴族であれば良いのです。ですが、それがもし、この国そのものとなれば……あとはわかりますね」


 言外に、カイトが自身が敵に回る、と語る。そして、恐らく敵はカイト単独では終わらない。今のマクダウェル公爵家のほぼ全てと、場合によってはクラウディア率いる魔族達、加えて現状ではグライアやティア、グイン達まで敵になるのだ。厄介どころの騒ぎではなく、何ら語弊は無く、エンテシア皇国という国を割った内乱に突入するだろう。それは、誰にとっても利益のある物ではなかった。

 それに、ティナは偉業で言えばカイトに比するし、美貌と才能が相まって、カイトの仲間の中でもかなり人気は高い。彼女が皇国初代皇王と第一皇妃の遺児である事がわかれば、彼女こそが正当な皇位継承者だと言う者も出ないではないだろう。

 しかも、その夫となるのは紛うこと無く勇者カイトその人なのだ。民からの受けも良いだろう。そんな彼女を、見逃す貴族が居るとも思えなかった。こんな情報は、公に出来るはずが無かった。特に、今跡継ぎ問題で揉めている皇国では、だ。

 それを認識して、ヴェールが思わず息を飲んだ。もはや誰もティナには手を出せない。彼女はあまりにも巨大すぎる爆弾なのだ。害せないし、排せない。なのに、それが何時爆発するかわからない。それが理解出来たからこそ、息を呑むしか無かった。それを見て、カイトが何処か自嘲気味に告げる。


「お分かりになられたようですね……まあ、滅びて後、教えるのも、非道かとは思いますからね。早い内には、とは思いますよ……お分かりいただけましたか? これが、ティナの出生の秘密です」


 自嘲気味な雰囲気は残っていたが、僅かに気を取り直したカイトが締めくくる。ヴェールはそれを受けて、小さく頷いた。そして、彼女は自分でなんとか今までの話を咀嚼して、口を開いた。


「わかりました……ですが、この一件。お父様の前でも語ってはいただけないでしょうか? 元々皇妃ユスティーツィア様のお話は皇国でも知られていたお話だったのでしょう。現代では、魔族に対する敵意も随分薄れております。発表の如何は別として、我ら皇族……いえ、皇帝だけでも、知っておくべき情報かと思います」


 ヴェールの嘆願を聞いた一同は、少しだけ顔を見合わせ、この問題の最高責任者であるカイト――カイトがティナと結婚を決めた為、彼に一任されている――へと、答えを委ねる事にした。そうして、委ねられたカイトは、少なくない時間を考えこむ。


「……分かりました。陛下にお時間の有るときに、私へとお声をお掛けください。陛下をこの部屋へと、ご案内致します。この部屋は私共でなければ、開封出来ませんので」

「ありがとうございます、マクダウェル公」


 カイトのかなりの逡巡を見て取った彼女は、深く頭を下げた。そうして、その後。カイトが彼女を外へと送り出して、再び戻ってきた。


「これで、良かったのかのう……?」


 ハイゼンベルグ公ジェイクが、戻ってきたカイトへと問う。それにカイトは、短くない時間を再び考える。が、答えは出なかった。


「……さあ、わからん……が、案外レオンハルト陛下ならば、きちんと状況を理解するとも思える。なにせあのお方は獅子を気取る狐で、狐を気取る獅子だ。知恵はある。と言うか、爺の方が分かってんじゃねえのか?」

「さあのう……とは言え、儂では判断が出来ん……イクスの想いを踏みにじれん、とどうしても立ち止まってしまうからのう……それ故、お主に任せた」

「無責任なこって」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの答えに、カイトが溜め息を吐いた。心情は理解出来なくはないが、本当ならば、ハイゼンベルグ公ジェイクこそが判断しなければならない事だろう。それは、ハイゼンベルグ公ジェイクとて理解出来ていた。なので、苦笑気味に少し逃げる様に、彼は扉の方へと歩き始める。


「さて……儂はもう戻る。グイン殿、絵画、ありがとうございます。あの馬鹿も、喜ぶでしょう」

「ん」


 こくり、と小さく頷いたグインを見て、ハイゼンベルグ公ジェイクは回廊を出て行った。そうして、後に残ったのは、カイトとその妻となった二人だけだ。


「全く……因果なモノよ」


 本当の真実を全て知る者以外誰も居なくなった回廊で、かつてと同じく人懐っこい笑みを浮かべるイクスフォスを前に、グライアが口を開いた。


「あの時救われたが故に、あの娘(ティナ)は世界から弾き出された。しかし、弾き出されたが故に絶大な力を得て、魔王となった」


 そう、何も最後の戦いで救われたのは、ユスティーツァだけでは無かったのだ。その時、既にユスティーツァの腹の中に居た彼女もまた、イクスフォスの友人の力によって救われたのである。だが、その所為で、彼女は<<ミストルティン>>となったのだ。

 これこそが『奇跡の代償』だった。本来はあり得ない力を手に入れるというのが、ティナがこの世に生を受ける為の対価、だったのである。そして同時に、イクスフォスとユスティーツィアにとっては、その娘と二度と会えなくなる、というのが、『奇跡の代償』だった。


「しかし、絶大な力はあの娘を孤独に導いた」


 何処か、茶化す様にグライアが語る。それに、カイトは苦笑して反論する。その意図する所は簡単に理解出来たのだ。


「単にアイツの結婚観念の問題だろ。仲間は数多く居たし、結婚しようとしたら、出来たんだからな。何処かの行き遅れ寸前が自分より強い男でないと結婚しない、とかなんとか言ったのが悪い」

「かも知れんな」

「偶然の出会いと、一つの友情。それが、全ての切っ掛け」


 今まで口を閉ざしていたグインが、口を開く。誰が救ったのか、どうやって救ったのか、『ミストルティン』とは如何なる物なのか、全てを知る自分達にとって、確かに因果であった。


「全ては繋がっている。あの時の出会いが、今の私達を紡いだ様に。あの出会いが無ければあの娘は生まれず、私達が出会う事も無かった」


 グインの言葉に、三人は絵画を仰ぎ見る。そこに描かれた男はかつてと同じく、ただ人懐っこい笑みを、浮かべていた。その時三人が何を思っていたのかは、ついぞ誰にも明かさぬまま、部屋を後にしたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第396話『隠された真実』


 2016年3月26日 追記

・『グライア』とすべき所が『クラウディア』となっていたので修正しました。

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