表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十一章 皇王の血脈編
415/3878

第394話 隠されし真実 ――叛逆大戦――

 ヴェールの疑問に答える為、カイトは今では殆ど知る者の居ない皇城の秘密の部屋へと案内していた。そうして、遂にカイトから語られたティナの真実に、ヴェールは驚き半分納得半分といった所であった。だが、それ以上に、疑問があった。それを、彼女は指摘する。


「初代皇王陛下と初代皇妃殿下はご子息に恵まれなかった筈。それに、初代皇妃殿下は魔族では無かった筈です。それが、何故魔王ユスティーナ殿との関わりになるのですか?」


 それこそが、ティナさえも自身がエンテシア皇国の皇族であるという事を悟らせない理由だ。初代皇妃ユスティーツァが魔女族であれば、700年程度ならばまだ存命中のはずなのだ。

 だがしかし、彼女は確かに皇国史には老衰により崩御と記されているし、事実、皇族の宝物庫の中に崩御時の亡骸の写真も残されている。美しさこそ損なわれていないが、それは確かに年老いた老女の姿であった。それは魔女族として考えれば、あり得ない若さでの老衰なのだ。それを受けて、カイトは重く閉ざした口を開いた。


「私自身、古龍(エルダー・ドラゴン)グライアより伝え聞いた所ではありますが……初代第一皇妃殿下は確かに、魔女族でした。ですが、叛逆大戦の折り、その力の全てを失ったそうです」


 カイトが語り始めた所で、もう一人語り部が現れた。それは当然だが、この場の事を知っている真紅の美女、初代皇王イクスフォスの盟友グライアだった。カイトからの連絡を受けて、自分が行かなければならないだろう、と来てくれたのである。


「あれが力を失ったのは、最後の戦い。イクス達叛乱軍とマルス帝国の趨勢が決まる大戦だ。さしもの大陸の9割を治めた大帝国と言えど、完全に覚醒しきったイクスの力には参ったらしい。次々繰り出される異世界の秘術に、大帝国の強大な魔術、強大な科学力も、あらゆる秘術も意味が無かった」


 グライアがカイトの言葉を引き継いで、語り始める。いきなり現れたグライアにヴェールは驚くが、その他の一同は驚かない。


「久しいな、グライア殿」

「ジェイクか……ふふ、こうやってこの部屋で会うのは、三百年前以来か。と、続けよう。そうして、完全に覚醒したあれの力を頼りにユスティーツァと、そこのジェイク指揮の下で帝国各地を解放して回ったのだ。しかし、当然だが物量はあちらが圧倒的に上。故に、多用したのは奇襲戦法だったな」


 初代皇王であるイクスフォスには、様々な特殊な力があった。それ故、彼は実験動物扱いされたのである。その中の1つが、大人数を無制限に転移させる秘術であった。皇国の秘宝たる<<導きの双玉>>は、最終決戦で作られた試作品を後年ユスティーツィア姉妹がデッドコピーした劣化品だった。あれでも、試作品よりは遥かに性能の良い品になっていた。

 そんな初代皇王の力を用いて、神出鬼没の叛乱軍が結成されたのだ。当たり前だが、どれだけ防いでも問答無用で転移してくる上にグライアという特大の戦力を抱えた叛乱軍には強大な軍事力を有するマルス帝国軍も為す術は無く、各個撃破されていったのである。そうして、グライアは続ける。


「そうして、三年程で叛乱軍が数万の軍勢にまで勢いづいた所だったか……遂にあ奴らは帝国の宰相であったフェノムを打ち倒す事に成功した。まあ、奇襲だったがな」

「ああするしか無かっただけです。あの馬鹿もそれを理解していたから、身を削って転移させたんです」


 懐かしげに、当時を知る二人が語り合う。ハイゼンベルク公ジェイクは古くからの馴染みのグライアの前だからなのか、かつて叛乱軍であった時の口調に戻っていた。そうして、再びグライアが口を開いた。


「しかし、それが帝国の魔帝の怒りに火を付けて、寡兵と侮っていた叛乱軍制圧へと本腰を入れさせる事になる。当時は既に叛乱軍は数万の軍勢だった。更に周囲に彼らを頼って保護を希望する避難民を合わせれば、十万以上の大勢力だ。利点であった隠密性も既に失せ、帝国より分捕った帝国北東部……今の皇都から程なくの所にあるエンテシア砦……当時はイアロス砦と言う名だったが……それを中心として陣を形成していた叛乱軍陣営への大進行を招く事になる。総数は当時の帝国総兵力の十分の一。当時のマルス帝国の総兵力が約五百万であったから、約五十万、つまりは叛乱軍のおよそ十数倍の兵力を差し向けたわけだ」


 この点を見れば、帝国を率いていた者達はかなり油断が無かったといえる。異世界の秘術を使い熟す初代皇王の秘術を用いた奇襲でなければ、恐らく帝国の宰相を打ち倒す事も出来なかったであろう。

 ならば、それが出来ない状況に持ち込めば良かったのだ。そして、更には数も遥かに上なのだ。これだけ準備しているのなら、本来ならば、負けるはずが無かった。というわけで、当時を知るグライアは一度口を閉ざし、笑みを浮かべた。


「その時には叛乱軍から余も離れており、絶体絶命かと思われた叛乱軍だが、余以外のとある援軍を得て、その大進行を制する事に成功する」


 ちなみに、グライアが叛乱軍から離れていたのはは仲違い等ではなく、ただ単に当時初代皇王グライアの間で交わされた約束が安寧の地を得られるまで、という事だったので、叛乱軍がそれなりに広い領土と軍備を分捕った時点で初代皇王がもう大丈夫だ、と契約を終えたからである。

 当時のイクスフォス達は遠く離れた辺境の土地の自分たちに向けて流石にそんな総兵力の十分の一という大軍勢を差し向けるとは思っていなかったのだ。これは確かに、ライン帝の英断だっただろう。

 ちなみに、その後、再び訪れたイクスフォスの危機を知り、黙って見捨てられず、グライアは結局自分の意思で戻ってくるのだが。


「援軍?」

「私も知りません、ヴェール皇女。いきなり巨大な蒼色の龍が現れ、瞬く間に帝国軍を壊滅させ、としか……あの馬鹿……失礼しました。初代皇王陛下はなにかご存知だったらしく、笑みを浮かべておられました。エンテシア皇国建国後に聞いた話ですと、自分のこの世界での初めての友人だ、との事だったのですが……それ以外は何も。時折抜け出ては会いに行って居た様子なのですが、力を使われては誰も追いかけられず……」


 とりあえず聞きやすかったらしいハイゼンベルク公へと尋ねたヴェールだが、彼もまた、頭を振るだけであった。そうしてヴェールはグライアを見るが、彼女は只笑みを浮かべるだけだった。

 まあ、まさかその知り合いがどの歴史書にも残されていない最後の古龍(エルダー・ドラゴン)だ、なぞと知らせるわけにもいかない為の反応だった。というわけで、笑いながら彼女は嘯く事にした。


「さて……居なかった余は何も知らぬな。それで、なんとか大進行を防いだ叛乱軍だが、今度こそ危機に陥る。このまま手をこまねいていれば一気に反乱が波及すると悟った魔帝自身が、当時の総兵力の半数以上を率いて討伐に乗り出した。陸海空、全てを埋め尽くさんばかりの軍勢だったな。率いる魔帝自身も、今よりも上の技術力を有する帝国の長に相応しい武具と、千年以上に渡り蓄えられた帝国の秘術を使い熟す古強者だ。まあ、当人としては歴代では平均的だったが……それでも強大な力だった。更には相対戦力差は数百対一。兵達の練度、技術陣等を合わせれば、更に上を行っただろう。だが、それだけの大軍勢を率いたが故、様々な不具合もあった」


 言葉を切ったグライアは先を促すように、その策を弄したハイゼンベルグ公ジェイクへと顎で示す。それを受けたハイゼンベルグ公ジェイクは、仕方がなさそうな感じではあったが、自身が最終決戦で施した策略を語る事にする。


「帝国軍の兵力の多くが半強制的な徴兵や奴隷制度等で集められた、心から帝国に服した者ではありませんでした。それに当たり前ですが、総兵力の半数以上も駆り出せば、各地の叛乱軍もそれを機に動きを活発化させます。兵士達に反乱を起こさせるのも、各地の叛乱軍に決起を促す事も容易でした。何より陛下のお力もありますからね。連絡を取るのは容易でした」

「なんと流布したのですか?」


 少しだけ照れた様子のハイゼンベルグ公ジェイクに対して、ヴェールが問い掛ける。彼の説明にはそこが抜けていた。


「……いえ、もとよりグライア殿が我々叛乱軍に与していた事は有名でした。なので、かの蒼き巨体もまた、かの古龍(エルダー・ドラゴン)の一体である、と流布したのです。実際には、初代陛下はもう援軍は望めない、と言われたのですがね。本来彼は動いてくれるはずの無い存在なのに、無理をしてくれた、と」


 当たり前だが、グライアにも匹敵するであろう戦力を放置しておける状態では無かった。なので全員で説得に走ろうとしたのだが、その時には何処に居るかもわからず、誰なのかもわからないような状況であったのである。

 とは言え、これは叛乱軍の中でも上層部にだけ、知られていた事だ。なので、ハイゼンベルグは知られていない事を使う事にしたのであった。

 それに元々帝国軍は寄せ集めだ。帝国に不満を持つ一般兵達も多かった。中には家族を帝国に殺された者もおり、そういった者達はきちんとした脱走の手引さえしてやれば、喜び勇んで叛乱軍側に参加したのだ。となると、さすがに如何に帝国と言えど、数百万の軍勢を完全に統率仕切ることも出来ず、かなりの数の脱走を許す事になる。引き締めには相当力を入れる事になった事は、想像に難くない。

 それに当たり前だが、当時から古龍(エルダー・ドラゴン)の威名は鳴り響いていた。それに弓を引く事は民達の間では絶対に禁じられていた事であった。

 ただでさえ古龍(エルダー・ドラゴン)の一体であるグライアに弓を引いている状態なのに、この上もう一体古龍(エルダー・ドラゴン)まで敵に回せばどうなるか、と思わせれば、後は逃げ出すか、叛乱軍側に靡くしかなかったのである。


「脱走したのは大体総兵力の5%程度でしたか。さすがに兵達の脱走が目立つ様になると、終焉帝もフェノム後任の宰相も引き締めに走ります。当然ですが、数百万の軍勢を一斉に動かす事は出来ず、引き締めにもかなりの日数を要する事になりました。そうして、終焉帝が軍を発してから一ヶ月、睨み合いだけで一週間程が過ぎた頃でしたか。遂に終焉帝が引き締めを終えて、にわかに砦に攻撃が仕掛けられ始めました。そうしてその一週間後に大規模な戦闘が起きたのですが、それが、俗にいうイアロス砦の戦いです」


 イアロス砦の戦いとは、籠城する叛乱軍側と、砦を攻め立てる帝国軍の最終戦であった。そうして、ハイゼンベルクは亡き友を思い出したのか、少しだけ寂しそうな顔をする。しかし、再び口を開いて語り始める。


「その戦いは、ほぼ、帝国側の優勢で進みました。しかし、それは叛乱軍側の増援によって、帝国軍側が包囲された事で変わります。初代皇王陛下のお力で各地の叛乱軍を密かに戦場周辺に待機させ、一気に蜂起させたのです。当たり前ですが、叛乱軍側はここで魔帝を討てば勝ち。恨みから遮二無二突撃する叛乱軍も多く、帝国側は多方面作戦を強いられる事になります。そこで、グライア殿率いる我が叛乱軍の本隊を、<<導きの双玉>>のプロトタイプによって魔帝のすぐ近くまで転移。あまり歴史に関われぬと言うグライア殿が周囲の雑兵を相手にしつつ、数多仲間の援護を受け、ユスティーツァ様が魔帝との一騎打ちに臨まれました……私も、その援護の中の一人に居ました」


 一度目を瞑り、彼は自身もその場に居たと語る。そうして、当時を思い出しながら、彼は続けた。


「勝負は長続きしませんでした。グライア殿はああいいつつも、相手は当時マンサーラ帝国千年の秘術を全て受け継いだ、当代最強の魔導師と謳われた終焉帝。如何に魔女族の中でも最優と褒めそやされたユスティーツァ様でも、勝ち目はありませんでした。それはイクスフォス陛下が更なる力を得て参戦されても、変わりませんでした……そうして、敗北したかに思われた時、彼女は禁呪を使う事を決されました」


 俯き、何処か沈痛な面持ちで、ハイゼンベルクが言葉を切った。そうして、再び顔を上げた彼は、こう、告げる。


「その禁呪の名は……<<秘呪・睡蓮(サクリファイス)>>。自らのコアを暴走させる代わりに、膨大な力を得るという、ユスティーツァ様のご実家にのみ伝わる禁呪です。そうして、ユスティーツァ様という犠牲を払いつつも、我々叛乱軍は勝利を得る事に成功したのです」

「待ってください。確かに如何な理由かで即位式には出席されていらっしゃらなかった様子ですが、その後もユスティーツァ様はイクスフォス陛下とご一緒であった筈です。コアを失った者が、そこまで長く生きられる筈がありません。まさか、そのユスティーツィア様は別人だ、とでも言うのですか?」


 ハイゼンベルクがはっきりとユスティーツァという犠牲、と明言したので、ヴェールが疑問を呈した。コアを失って、生きていられるのは長くても数時間だ。それは万物の決まりである以上、ユスティーツァが魔族と仮定したとしても、逃れられる筈は無かったのである。

 だが、そう言われてもハイゼンベルグ公ジェイクでさえ、困るしか無かった。正真正銘何が起こったのかは、未だに謎だからだ。


「はい……ですが、我々にも何が起きたか分からないのです。その後、力を失っていくユスティーツァ様を抱えて嘆くイクスフォス陛下へと、何かが起きました。二人の身体が煌めいたかと思えば、輝きが失われた後には元通りに息を吹き返したユスティーツァ様と、何ら変わり無いイクスフォス陛下がいらっしゃいました。これは推論でしかありませんが、禁呪の代償として、魔女族としての力を失われたのではないか、と。その後、300年前の連盟大戦に於いて、民草は魔族を敵としてしまったため、皇族にも魔族の血が流れている事を秘さねばならず、ユスティーツァ様が魔族である事が伏されてしまったのです。そうして、戦いの折りに戦火に飲まれてそういった資料が消失し、今では誰も知る所では無くなりました。魔女としての伝承は残っておりますが、それも大方ユスティーツァ様が魔術師として優れたお方であったから、当時の民草がそう揶揄したのだろうと……」


 普通の人間と同じぐらいの寿命で亡くなった初代皇妃ユスティーツァは、誰もが人間であると思うようになったのである。だが、それはティナには当てはまらないはずだ。彼女の生まれはそれ以前、なのだ。


「ですが何故、ユスティーナ殿はそれに気づかれないのです? まさか親の顔を見ても親がわからぬ、と? それに、初代皇妃ユスティーツァ様が魔女族であった事はわかりました。ですが、何故ユスティーナ様が秘される事に繋がったのですか?」


 続いたヴェールのこの質問に、彼女を除いた全員が、沈痛に顔を伏せた。これこそが、今回の本題で、イクスフォスとユスティーツィアが支払った奇跡の対価、だった。そうして、再びハイゼンベルグ公ジェイクが、沈痛な顔で語り始める事になったのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。当分シリアスが続きますが、ご了承ください。

 次回予告:第395話『隠された真実』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 登場人物紹介と閉話でイクスフォスの第一皇妃は「ユスティーツィア」となっていますが、本編で皇女にカイトが説明する場では「ユスティーツァ」になっている。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ