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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十一章 皇王の血脈編
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第387話 閑話 叛逆者達

 すいません。昨夜風呂に入っていると唐突に話を思い付いて、書き上げられたので突っ込みます。予告と違うんですが、新章との関連が有りますので、ご了承ください。


 *連絡*


 明日の22時から断章・7を投稿します。今後は外伝との兼ね合いで土日だけは断章の投稿が22時になりますが、ご了承ください。

 カイトとティナが天桜学園と共に帰還するよりも遥かに昔。カイト達が乱世を駆け抜けた頃よりも、更に前。まだティナが魔王に就任するよりも前。エンテシア皇国もルクセリオン教国も、いや、エネシア大陸の大半の国が存在していなかった頃。

 これは、その頃の話だ。叛逆戦争の最終盤。最終決戦となる戦いの数日前。とある砦のある部屋で、純白の青年、即ちイクスフォスが、膝を屈して息を荒げていた。


「げほっ! くっ……はぁ……はぁ……」

「イクス! 倒れるな! 貴様が倒れたら全てがご破産だ! アウル! 大急ぎで回復薬を持って来い!」

「はい!」


 真っ青な顔でうつ伏せに倒れこんだイクスフォスを見て、ジェイクが大急ぎで周囲の仲間達に指示を送る。今は戦いも終盤。あと少しで、マルス帝国が倒せる所なのだ。

 だが、その最終決戦で勝利を得る為には、イクスフォスの力はどうしても必要だった。戦略的な意味でも、周囲を数百万の軍勢に囲まれているという状況での精神的な支えという意味でも、彼に倒れてもらっては困るのであった。


「ちょ、ちょっと休ませて……」

「弱音を吐くな」

「げふっ!」


 ジェイクに抱き起こされて真っ青な顔で弱音を吐いたイクスフォスの口に、ユスティーツィアが強引に回復薬の小瓶を突っ込んで飲ませる。

 彼が息を荒げていた理由は簡単で、魔力を極限まで使用したからだ。そうして、飲み終えたイクスフォスは少しずつではあるが、呼吸を整えていく。


「はぁ……はぁ……」

「姉さん……もう少しやさしく扱ってあげて?」

「ふん。こいつはこれで大丈夫だ。意外と丈夫な身体だ」

「でももうちょっと優しくしてくれるとオレ、すっごい嬉しい……」


 まだ顔は真っ青だが、イクスフォスは叛乱軍の持つ最高級の回復薬を飲んだおかげか、軽口を叩けるぐらいには、回復したらしい。この様子だと、5分もすれば、動ける様になるだろう。そんな軽口を叩いたイクスフォスに対して、まだ抱えたままのジェイクが何処か焦った様に問いかける。


「イクス。軽口は良い。レクシード殿は?」

「あ、うん。参加してくれるって」

「良し! レクシード殿の陣に青丸を入れろ! 数字は5だ!」


 見る見るうちに血の気を取り戻していくイクスフォスは、指示を送り始めたジェイクを見て、ゆっくりとだが、立ち上がる。

 全員、せわしなく動いているのだ。こんな所で自分だけが休んでいるわけには、いかなかった。が、流石にまだ少し無理があったようだ。すぐにふらついて、彼の身体がぐらり、と揺れる。


「あ、おっと……」

「あ、おい!」


 ぐらり、と揺れたイクスフォスの身体を、ユスティーツィアが大慌てで支える。なんだかんだ言いつつも回復薬をいの一番に持ってきたり、と彼女もイクスフォスの事が大切なのだ。まあ、最愛の夫なのだから、当然といえば当然だろう。

 そうしてユスティーツィアに支えられたイクスフォスを、更に逆側から天族の青年が支えた。彼は何処か、アウラに似たおっとりとした雰囲気があった。


「イクス、とりあえず椅子で休んで。さすがにまだライン帝も動きようが無い」

「ああ……ごめん。ヘルメス、皆は?」

「うむ。お主がおるから、と不安は見せておらんよ」


 椅子に座ったイクスフォスに問われて答えたのは、カイトと旅をした頃よりもかなり若く、殆どシワの無いヘルメスだった。

 先ほどの天族の青年は、彼の息子。即ち、後のアウラの父親だった。名を、アウルと言う。先にジェイクの指示で回復薬を取りに行った青年だった。


「そうか……で、ジェイク。次は何処に行けば良い?」

「……まだ、行けるか?」

「うん。まだ転移出来る」


 顔色が戻ったイクスフォスは、ジェイクの問いかけに頷く。今のイクスフォスが何をしていたのか、というと、至極簡単にいえば、転移だ。とは言え、カイトやティナ達が使う魔術での転移術では無く、彼の特殊な力の一つである、特殊な空間転移術だった。それを何度も繰り返していたのである。

 だが、ジェイクはイクスフォスの返答をあまり信じていなかった。なにせ倒れたのは、一度だけでは無いのだ。ここ数日でおそらく両の指では足りないぐらいの数で、イクスフォスは倒れていた。

 それも回数が増える度に、その間隔は短くなっている。始めは10回連続でも倒れなかったのに、先ほどなぞ3回の転移で倒れていたのだ。

 だが、今はまだ、終わって良い所では無かった。まだ作戦は途中なのだ。まだ何度も転移をしてもらう必要がある。それもとある力を並行して使いながら、だ。なので、それを示すように、ジェイクがイクスフォスの目を見続けると、彼が降参した様に、頭を振った。


「……ごめん。結構きつい。空間隔離を一緒にやらないといけないから……さ」

「無理を言っているのはわかっている……だが、もう少しだけ、頼む」

「ああ、わかってるよ。もう少し休んだら、また行ってくる」

「すまん」


 イクスフォスの言葉に、ジェイクが頭を下げる。彼がやっているもう一つの事とは、空間隔離と言われる彼の力の一つだ。そのまま読んで字のごとく、空間を隔離して、中の状況を悟らせなくするのである。

 だが、これら特殊な力の使用には、普通の魔術と同じく、魔力が必要だ。確かに同系統の魔術よりも遥かに高効率で結果がもたらされるが、それでも距離や規模に応じて、それ相応の魔力を消費する。彼の疲労の原因は、特にこの空間隔離を莫大な規模で常時使用している事が大きかった。そうして、イクスフォスが作戦の為に一人消えた後、ジェイクが深く息を吐いた。


「……本当はもう少し待ちたかったんだが……作戦の決行を早める。ユスティエル殿。砦上部の魔導砲の使用の準備を」

「わかりました」


 ユスティエル。ユスティーツィアによく似た容姿を持つ彼女は、ユスティーツィアの妹であった。元はマルス帝国の中央研究所にて姉のユスティーツィアと共に研究者をしていたのだが、非人道的で凄惨な実験の存在を知り、更には姉の出奔による軋轢から、彼女もイクスフォス側に寝返ったのである。


「……全員、覚悟は良いな?」


 戦いの用意を始める為、最後の準備に取り掛かったユスティエルを見送り、ジェイクが勢揃いしていた叛乱軍の幹部達や実力者達に声を掛ける。

 もう、時間は残されていない。本来ならばもう少し敵の脱走兵を待ちたかったのだが、イクスフォスの方が限界だった。なので、全ての準備の為の指示を行うと同時に、作戦の決行を伝達する。


「グライア殿。最後まで、よろしくお願い致します」

「ああ……元々すでに契約外であるのに、あの馬鹿に余も魅せられて、ここまで来た。ならば、余は余の意思で、この戦いに参戦しよう。とは言え、あまり戦いには関われん。バランスが崩れる」

「それでも、感謝致します」


 殆ど手助けは出来ない、と言いつつも積極的に雑魚の掃討ぐらいは引き受けてくれるだろうグライアに、ジェイクが頭を下げる。ここまで戦い抜けたのは、彼女のおかげだ。それ故、その言葉には万感の思いが篭っていた。

 そうして、更に、数日。もはや回復薬を飲んでも真っ青な顔のままのイクスフォスに対して、ジェイクが全ての用意が整った事を告げる。


「イクス。全部の用意が整った」

「あいつらは?」

「今、ヘルメス殿が地下構造体へと避難させている」


 イクスフォスの言うあいつら、とは彼らを頼りに避難してきた避難者達だ。すでに戦いは近いし、この砦は囮に使うつもり――と言うか一週間程前からずっとひっきりなしに攻撃は加えられていた――だった。急ごしらえであったが、敵の襲撃を知って作った地下の避難区に避難させることにしたのである。


「……合図と共に、順番に空間隔離を解け。順番は俺が死んでも大丈夫な様に、全てメモしている。この順番通りに、解除しろ」

「んなこと言わずに、死なずに帰って来いよ」


 真っ青な顔のまま、イクスフォスはそれを感じさせない明るい笑みを浮かべ、ジェイクに笑いながら告げる。その笑顔は太陽の様で、誰もを安堵させる物だ。誰もが、これにこの地獄の時代の希望を見出していた。


「さて……難しいだろうな。なにせ俺達が行くのは、敵の中枢。ライン帝が率いる本陣への直接の強襲だ。生きて帰れれば、御の字だろう」


 ジェイクは正直に言えば、この時刺し違えてでも、ライン帝を倒すつもりだった。それ故に、最後のつもりで、イクスフォスに頭を下げた。


「ありがとう、イクス。お前のおかげで、希望が持てた……だから、明日の希望の為に、俺は死なない。お前も死ぬなよ」

「おう!」


 少しの嘘にイクスフォスは気付かぬまま、その言葉に笑いながら頷く。そうして、もはや魔力の消耗が極度に達していて動けないイクスフォスを残して、ジェイクはその場を後にする。

 当たり前だが、こんな状況のイクスフォスを戦場には出せない。そうして部屋を出て出迎えたのは、彼の仲間達だった。


「アウル。グライア殿に迷惑を掛けるでないぞ」

「わかってるよ、父さん。父さんも僕もジェイクも居ないから、って女の子に手を出しちゃダメだからね」

「出さぬよ。母さんにこっぴどく叱られるからのう……グライア殿。どうか、息子をよろしく頼みます」

「うむ。まあ、余は雑魚の掃討で大半はコヤツと共に転戦だろうな。上空からの支援が主故に、一番安全は安全だろう」


 ヘルメスの言葉に、グライアが頷く。アウルは父のヘルメスや娘のアウラと同じく、治癒系統の魔術に長けていた。それ故、グライアと共に戦場の各所を転戦する事にして、仲間をフォローする事になっていたのである。

 そうして、全員の用意が整い、砦の中には、戦士達しか残っていない状況となった。まあ、その戦士達の数は数万なので、人が居ない印象は無かったが。そんな中でも幹部達の集まる所に、ユスティーツィアが玉の様な物を持って、やってきた。


「出来たのは、この程度、だ。これでも、随分と苦労した」

「どの程度ですか?」

「まあ、この砦の全員を転移出来るだけの力はある。全員、準備は良いか?」


 残るのは、動けぬイクスフォスの面倒に必要な人員と砦の各所に取り付けられた魔導砲を操る極少数だけだ。魔導砲の護衛さえ居ない。ユスティエルが単騎で行う事になっていた。もはやそれほどまでに、追い詰められていた。

 それ故、戦いに出る面子の中には、ユスティーツィアも含まれていた。そうして、それに全員が頷き合って、ついに、最終決戦が開始されたのだった。




 それから、約30分。ジェイクの施した策略は、物の見事に成功した。まあ、本来は考えられない中枢部への数万単位の軍勢が転移してくるという奇襲作戦だ。混乱は当然だった。

 普通は不可能で、イクスフォスもその前の状況から不可能だった。ユスティーツィアとユスティエルというマルス帝国が誇る大天才達が作り上げた魔道具があればこそ、成功した奇襲作戦だった。

 それ故、敵の本陣に乗り込んだ時、敵は大いに慌てふためいて、まともに対処なぞ出来ない様な状況だった。


「叛乱軍のジェイク!? <<黄金の魔女>>ユスティーツィア!? それにあの真紅は……」

「転移術!? 何故有効になった!? 空間は隔離しているはずだぞ!?」

「全軍、突撃せよ!」


 敵が混乱している間に、ジェイクは一気に突撃を命ずる。もはや遠慮する必要は無い。なにせ見渡す限りに敵なのだ。ためらう必要なぞ無かったし、待っていれば嬲り殺しにあうだけだ。

 ユスティーツィアが持ってきたものは、後の世に<<導きの双玉>>と言われる魔道具のプロトタイプだったのだ。それ故、転移術での侵入が禁止されている様な敵の本陣にさえ、転移する事が出来たのである。

 そんな様子を、動ける程度にまで回復したイクスフォスが、砦の中から見ていた。使っていた全ての空間隔離を解除した事で魔力の消費が無くなり、回復薬の効果で魔力が戻ってきたのだ。

 まあ、戻ってきたからといっても、結局は攻撃力がからっきしの彼だ。足手まといなので、どちらにせよこの砦に残る事になっていたのだが。


「……オレも力があれば、な」

「イクス様は、戦う事がお望みですか?」

「そうじゃないんだけど……でも、やっぱ皆が戦ってるのに、さ」


 イクスフォスは悲しげな顔で、散っていく仲間達から目を背けずに、問いかけに答える。語りかけたのは、かつて様々な遠因から彼の命を狙った暗殺者の少女だった。そんな彼女だが、紆余曲折あって、イクスフォスの世話係として、この場に居た。そうして、そんな様子を見て、少女が意を決する。


「……あの……」

「ん?」

「この戦いの直前、イクス様と同じ真紅の目と長い白銀の髪を持つ女性から、これを、と……」

「本?」


 少女から差し出された本を見て、イクスフォスが首を傾げる。それは少女には見たこともない字で書かれていたが、その文字を見た瞬間、イクスフォスの顔に驚きが浮かんだ。


「……これは……白銀の長い髪……母さん? そっか親父……ありがとな、親父! リーシャも、ありがとう!」

「いえ、あの……」


 本を読みながら笑顔で感謝されたリーシャが少し照れた様にそっぽを向く。本に書かれていたのは、彼の血に眠る特殊な力の使い方、だった。その中には、彼が不出来故に教えてもらう事が出来ずに知ることも出来なかった、血の力を使った攻撃方法さえ、記されていた。

 こんな物を作れるとすれば、それは彼の一族しか、存在していない。そしてイクスフォスには、誰が持ってきてくれたのかを、理解出来た。そしてそうならば、それが誰の指示なのかも、だ。


「よっし! 行ってくる!」


 ダメダメよりも下と天才の妹に酷評されたイクスフォスだが、戦いの最中に守りたい者を守る為にヘルメスやユスティーツィアという指導者達の下、必死の修練を積んだ結果、血の力については、ほぼ全てが使える段階だった。なので後は存在さえ知ってしまえば、使いこなす事は簡単だ。基本は一緒なのだ。


「はい。あの……兄の為にも、そして、私の為にも、生きて帰ってください。イクス様に死なれると、私のお仕事が無くなってしまいますから」

「おう!」


 はにかんだ様なリーシャの言葉を受けて、イクスフォスがとびきりの笑顔で頷いて、転移術で消える。向かう先に居るのは、当然だが、戦い続ける彼の仲間達だ。

 兄の為にも。リーシャがイクスフォスを狙った理由とは、この兄の一件だった。マルス帝国に与していた彼女の兄はとある戦いで叛乱軍によって殺されたのである。彼女が暗殺者に身をやつしたのも、兄の敵討ちの為だった。

 その彼女がこれを渡してくれた、という事は、そのわだかまりが溶けた証でもあった。それ故に、彼はとびきりの笑顔を浮かべたのである。

 こうして、戦う力を持たなかったイクスフォスが戦いに乗り込んだ事で、最終決戦は本当の意味で、始まりを迎えたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。すいません。今日はこの後編を書くので、少々お返事や誤字修正等が明日にずれ込むかもです。そうなったら申し訳ありません。

 次回予告:第388話『閑話』


 2018年8月21日 追記

・誤字修正

 『決行』が『結構』になっていた所を修正しました。

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