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第26話 夜会?

 色々記念として、今日から再び一日2話更新となります。期日は3~4日程の予定です。

 全員が揃った所で入ってきたカイトとティナであるが、いつもと異なり、雰囲気は真面目なものである。


「まずは全員、私の不在の間、よく私の家を守ってくれた。感謝する。」


 そう言ってカイトは頭を下げて礼を言う。が、何故か出席している全員が頭を傾げているか、記憶をたどるように眼をつむっていた。


「うん?どうした、皆。何かおかしいことでもあるか?」

「……閣下、お疲れでしたら、夜会は明日にされても良かったのですよ。我々家臣一同としてもご尊顔を拝見したいのは山々ですが、お疲れになっている閣下にご無理を強いるつもりはありません。」

「ストラか。別に疲れてはいない。日本での日々より過日の書類仕事のほうが過酷な日々だった。」


 疲れている為、言動がおかしいのだろう、と気遣ったのはストラ・マクヴェルである。300年前から公爵家の暗部を取り仕切っているダーク・エルフの兄妹の兄であった。


「では、主よ……もしかして日本へ帰ってから洗脳でもされたのか?主はそんな性格では無かった……日本とはそんなに過酷なのか……」


 カタカタ震えながら変わってしまった主を嘆くのは妹のステラである。そんな二人に続くように一部を除いた他の者達も様々な憶測を立てている。




 しかし、かつてのカイトを知らない数少ない者の一人であるエルロードとブラスは逆にそんな周囲を訝しんでいた。


「カイト閣下は公爵として普通の言動を取られているような気がするのだが、何かおかしいのか?」

「さあ。リィル達はなにか思いつく事あるかな。」


 どこもおかしな所が見当たらないため現在のカイトに違和感を覚えていない。そこで試しに子供たちに聞いてみることにしたのであるが子供達はなぜか苦笑しているだけであった。


「どうした?三人共、何か知っているのか?」

「うん。父さんもすぐに解ると思うよ。」


 一同で一番カイトと親しいアルは苦笑いとともにそう答えるだけであった。


「どういうことだ?それを知っていることと、お前達三人が呼ばれていることに関係が有るのか?」

「恐らく、ですが。」


 呼ばれた理由は伝えられていないため、リィルは推測でそう答えるしかない。




 そんなこんなでざわめきがかなり広がってきた所でカイトは青筋を浮かべて声を荒らげた。


「お前ら、誰もオレが成長したとか、落ち着きが出た、とか考えてねぇな!これでも20代も終わり迎える頃だぞ!」


 真面目に公爵として振る舞ったらこの動揺である。大声を上げるのも無理は無い。誰も彼もがカイトが成長して帰ってくるとは思っていないあたりが、悲惨である。


「……ああ、コレだ。これが私の主だ……。」


 そう言うカイトを見て安心して抱きついたのはステラである。安心したのか、鼻をすすっていた。他にも動揺していた者達もようやく落ち着きを取り戻した。


「えぇ……とりあえず全員、ただいま。今までオレの家をよく守ってくれた。そして、これからもよろしく頼む。そして……」


 ため息一つ吐いてカイトは謝辞を述べ、今度は不敵に笑う。


「何人かすっかりジジババになってやがるが……てめえら、元気だったようだな。」


 それを受けて、主が真に帰還した事を悟る家臣一同は、全員同時に頭を垂れ、かつての旧友らは笑みを浮かべ、こう言った。


「お帰りなさいませ、ご主人様。ユスティーナ様。」

「お帰りなさい、カイト、ティナ様。」


 カイトとティナの二人は、そんな彼らの姿を見て、本当に帰ってきた事を、実感するのであった。


「まあ、ほぼ全員がオレの帰還を祝うことが目的で集まってないだろ。と、言うわけで長く話す気は無い。とりあえず異世界の料理を作らせた。楽しんでくれ。」


 とは言え、懐かしんでばかりではいられないので、カイトは話を進める。


「異世界の酒はまだかの。」


 そう言うのは仁龍である。


「それも用意している……泣いていいか?」


 自分より酒を優先する声に真剣にショックを受けるカイト。


「はぁ……」


 カイトは深い溜息を吐いて、指をスナップさせる。パチン、という音と共に、空いていたテーブルに各種の飲み物が出現した。各員がそれを手に持ったのを確認し、カイトとティナはグラスを掲げる。


「とりあえず、乾杯!」


 カイトはそう言って、乾杯の音頭をとるのであった。



 各々が好きに料理や酒を探しに散っていくとティナがカイトに笑いかける。


「だから言ったのじゃ。こっちでは300年経っておる。あまりおかしなことをしては不審がられるだけじゃとな。」

「オレは真面目にやっただけだ。」


 そんなティナの発言を聞いたカイトは、そっぽを向いて拗ねている。


「その真面目が似合っておらんからの。」

「オレはいつだって真面目にやっているぞ。」


 かつてのカイトは、本人としては大真面にやっただけであるが、周囲から見ればとんでもないことばかりやっているだけであった。まあ、それだけの偉業をなしたわけであるから、しょうがないといえば、しょうがないわけであるが。


「お主があんな外向きの態度を取るなぞ諸侯共との会談か一般民衆の前だけじゃったろ。殆ど身内の集まりであの態度を取れば全員が心配したり、不安になるのも当然じゃろうに。伊達に300年も経っておらぬ。」

「そうですよ、お兄様。ここにいるのはお兄様の破天荒ぶりを知っている身内のようなものです。誰もがお兄様の性格を覚えてらっしゃいますから。」


 暗に今更取り繕った所で無駄、ととどめを刺すクズハ。


「はぁ……お前らはそんな風にオレを見ていたのか……っと、とりあえずステラは離れてくれ。」


 自分も動こうとして動けなくて、抱きついたままであったステラを優しく引き離したカイト。


「……む。すまん、主よ。」


 ステラはこのままではカイトが身動き出来ないと理解して離れた。


「ああ、ありがとう。ステラもすっかり大人になったな。一段と綺麗になってるぞ。」


 ステラは頬を赤らめつつも嬉しそうにはにかむ。


「主はあまり変わっていないな。」

「こっちは三年しか経っていないからな。まあ、これからもよろしく頼む。」

「ああ。任せてくれ。」


 力強くそう頷くステラに笑みを浮かべつつ、今度は兄の方を向いた。


「ストラは顔の傷はそのままか。いい加減消せよ。せっかくの男前が台無しだろう。」


 ストラはオリエンタルな優男風な美男子であったが故に、顔の傷がことさら強調されていた。


「はい、閣下。我ら兄妹変わり無く閣下をお迎え致すことができました……この傷は私が過ちを犯したことを忘れぬ為に消すわけにはまいりません。」


 ストラは恭しく臣下の礼をとってそう続ける。カイトは300年前から変わらぬストラの態度に呆れつつもそんなストラの態度を懐かしげに眺めていた。


「臣下の礼はいらんと何度も言っただろう。オレにとってお前ら二人は弟妹のようなものだ。それに過ちではあったが……お前の心情が間違っていたわけではないさ。」


 兄妹と出会った時のことを思い出して懐かしむカイト。


「我ら兄妹は閣下に拾われていなければ、今頃はどこかの変態にでも奴隷や愛妾として贖われていたやもしれません。そのような我らをこのような重臣に取り立て、光当たる場所へと返してくださった。その御恩を忘れるわけにはまいりません。この生命ある限り、我ら兄妹は閣下の手足となる所存ですから。」

「おいおい……光当たる場所って、お前ら東町のトップだろ。もっと良い地位もあっただろうに。」

「それでも、ただ捨て駒であった嘗てに比べれば、十分に光当る場所ですよ。それに……こんな仕事でも、一応は表社会で生きていますしね。私にとってはあの娘達がもう一つの家族の様な者です。」


 同じく出会った時を懐かしみながらそう言って固辞するのであった。


「閣下閣下って……相変わらずお前は堅いなぁ。こいつなんて呼び捨てでもいいだろ。」


 そう言って近づいてきたのは全身に奇妙な模様のある青年であった。そんな青年に、ストラは溜め息を吐いた。


「コフル……お前は少しは閣下に礼儀を尽くすべきだろう。我ら家臣の多くは孤児や親に見捨てられた者、行く宛無く彷徨う者たちだった。それを考えれば300年程度の奉公では釣り合わん。それに……俺はステラを、お前はユハラを閣下に救われているだろう。」


 そりゃそうだけどよ、と言うコフルであるが、カイトはそんなコフルに、笑みを浮かべる。二人

共、変わっていなかったのだ。


「コフルか。お前は……変わらないな。」

「うるせ!背が伸びてんだろ。他にも見ろ、この模様!遂に全身に回ったんだぜ!」

「お、遂に大人の仲間入りしたか。性格変わってないだろ。」


 コフルと呼ばれた青年は生まれながらに体に魔術的刻印が現れる稀有な種族の出身であった。その希少性と魔術媒体としての有用性から密かに人狩りや生贄などの対象にされやすく、コフルも親を失って、幼い弟妹のために犯罪を犯して生活していたのであった。


「おう!ってことで、勝負だ!」


 いい感じで飲んできたらしく、テンションがかなり高めであった。戦いの雰囲気を感じ取り、周囲ではすでにどっちが勝つかの賭けが……始まることは無かった。


「おお!どこかの馬鹿が閣下に挑むぞ!」

「誰じゃ……って、コフルの小僧か。賭けにならんではないか。何処かの馬鹿であるのは認めるがの。」

「ご主人様ー!お兄ちゃんに暴れられても後片付けが面倒なので、一瞬でのしちゃってくださいねー!」


 あいよー、そう言うカイトにストラはため息をつきつつも、かつてカイトがいた時の公爵邸はこうだったな、と思い出し周囲への被害を軽減する魔術を用意するのであった。尚、その術式は必要がなかったのだが。


「かつての俺とはちが……」

「おせぇよ。」


 何らかの魔術を発動させようとした所で一瞬でダウンさせられるコフル。周囲はコフルを一切気にせずに宴会を続行する。カイトに対する称賛さえ無かった。


「はい、終わりー。」

「さすがお兄様。鳩尾にただ一撃ですか。」


 クズハはカイトの攻撃を見えていたのでそういうのであったが、それがわかったのはごく少数であった。


「雷属性を内包し高速化、更にその雷に意識を奪う術を併用しておったな。雷を伴わせたのは意識を奪う術式で気を失わなんだ時の念のため、か?」


 ティナが推論を含めて補足で言うが、それがわかったのは更に少数であった。


「ま、期待値ってやつだ。あ、ちなみに寸止めな。」


 カイトがそう補足する。寸止めにした理由はリバースされても困るからであった。


「こうしてコフルがのされるとお兄様が帰ってきたことが実感出来ますね。」

「少し強くなった程度ではカイトに勝てるはずもなかろう。小僧はそこがわかっとらんのじゃ。」


 ちなみに、少し、では無くかなり強くはなっているのだが、元々あった三桁の差が二桁に変わろうと、大した違いはないのである。なお、現実的にはもっと離れている。こうして、倒れ伏したコフルを見て、カイトが帰ってきたことを各々の形で実感したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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