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第378話 御前試合――報奨――

 情事から明けて、数時間後。太陽が外を照らしだして、全員が朝食を食べてしばらく経過した頃だ。カイトは予てからの予定通り、皇帝レオンハルトの所へと訪れていた。


「お久しぶりです、陛下」

「うむ。良い休みは取れたか?」

「はい。おかげさまで、皆も御前試合の疲れはすっかり取れております」


 当たり前だが、カイトはそんな事は無い。頭の痛い問題を抱えていた。だが、そんな事は皇帝の前で見せられるはずがない。そんな何処か作り物の笑みを見せたカイトに、皇帝レオンハルトは裏の裏まで把握している為、思わず笑いたくなる。

 だが、暴露はまだ、だ。まずは仕事を終わらせなければ、楽しみに熱中してしまう可能性があった。それは自分で理解している為、自重していたのである。


「そうか、それはなによりだ」


 なので必死で笑みを堪えながら、こくり、と皇帝レオンハルトが小さく頷く。今回、カイト達天桜学園の面々は、彼に呼び出されて来たのである。私服で良い、と言われたので、呼ばれた面子は全員礼服やドレスでなく、動きやすい私服であった。

 一応言っておくが、それでも全員学生服や礼服で行こうとした。が、カイトによって――そのカイトもシアによって――制止されていた為、仕方がなく、全員私服なのであった。


「さて……まず言っておこう。ここは俺達皇族のプライベートエリアにある部屋の中で、最も警備と盗聴防止設備が整った場所だ。楽にしてくれ。俺もそうさせてもらう」


 呼び出されたのは、生徒会の一部の面々と、冒険部上層部の面々、桜田校長と数人の教師たちだ。人選はどうやら、皇国側が口が固いと踏んだ面子に絞られていた。他にも、クズハやアウラ達マクダウェル公爵家の面々も呼び出されていた。

 ちなみに、プライベートだ、という事を強調したかった為、皇帝レオンハルトは私服で、と厳命したのだ。そうすれば、誰もがただ単に皇帝レオンハルトが興味本位で呼び出しただけだ、と思うからだ。


「いや、釈迦に説法か」


 告げてから、皇帝レオンハルトは笑みを浮かべる。それで、カイトを筆頭にした一部の面々には、何が目的かを理解した。若干余計な面々もいるが、皇国が許可を下ろしたのだ。ならば、もうカイト達が迷う必要も無い。


「まあ、今日呼び出したのは他でもない。せっかくかの有名な日本に縁があったところだ。丁度良いので今居るだけではあるが、余の子息達を紹介しておこうと思ってな。まあ、幼子も居るが故、少々の無礼や無作法があるやもしれん、ということで、この場での話の内容一切は他言無用として欲しい」


 皇帝レオンハルトが座りながら、一同に断りを入れる。他言無用は事実だが、それ以外は表向きだ。滅多に出ない成人前の皇族も紹介するから、ということでこの部屋の使用を通達したのだ。

 まあ、それも裏を察せる奴らに対する表向き、なのだが。真実は全て、カイトとの遊びに決着をつけるため、だった。そのために、子供達も口の固い面々しか呼び出していない。


「それはありがとうございます、陛下」


 カイトに代わって、桜田校長が頭を下げて言う。確かに、未成年とはいえ皇族を紹介してもらえることは、様々な縁を考えれば非常に有用であったので、実は桜田校長は素直にこれを信じていた。


「とは言え、数人は既に会っておるか。まあ、改めての紹介と、ニホンのことを聞かせて欲しいと言うことだと思ってくれ……表向きは」

「はい?」


 きょとん、と桜田校長他、気づいていない面子が首を傾げる。それに、皇帝レオンハルトは笑いながら続けた。


「ここに居並んだ面子は全員、俺の腹心達だ。右から順に、宰相ヴァルハイト・ファメル、陸軍元帥トラン・ロコス、その令嬢のフロル・ロコス。海軍総司令カイエン・フジキドは知っているな? 他にも居るが、今城内にはこれだけだ」


 どうやら、腹心の中でも特に信頼の置ける面子だけを集めたようだ。かなり、少数であった。そうして、カイトに笑いかけた。


「というわけで、だ。まずは、伝説の勇者殿。よくぞ、この国に戻ってきてくれた。かつての通り、臣下の礼は不要だ。同じく、かの伝説の大魔王殿。そなたも同じ扱いをしよう」


 居並んだ生徒と教師達は、皇帝の前とあって全員跪いた状態だ。それはカイト達も同様だ。なので、全てを終わらせる為、カイトとティナに対して、300年前と同様の扱いをする、と明言する。


「やはり、気付いておいででしたか」


 驚く一同を放置し、カイトは苦笑を浮かべて立ち上がる。ティナも同じだ。二人共、気付いていないとは思っていない。武蔵達からすでに明言されていたし、カイトからティナも聞かされていた。

 驚くに値しなかったのだ。そうして、二人は普段使っている变化を解いて、二人は彼らが許される皇国式での簡易の礼を行う。


「エンテシア皇国が臣、カイト・マクダウェル。長き時を経て、只今日本より帰還致しましたことを、ここにご報告させて頂きます」

「うむ、よくぞ帰った。そして、かつては我がエンテシア皇国の貴族達と、我が祖先がすまなかった。無念の内に亡くなられた15代皇帝陛下に代わり、余が謝罪しよう」


 小さくだが、確かに皇帝レオンハルトが頭を下げる。これは歴代皇帝に対して、ウィルが厳命していた事だ。そして、祖先を大切にしている現皇帝レオンハルトにとって、迷う必要の無い行動だった。だが、それにカイトが頭を振った。


「いえ、陛下。あれは私と15代陛下が若気の至りで少々やり過ぎたまでの事。強権によって様々な事を変えられ、困惑するのも致し方がない事。貴族達にも言い分が有りましょう」

「とは言え、最大の争点であった奴隷制度については弁明出来まい。そして、14代陛下の不明も重なる。常々、15代陛下は父の不明故に友を失った、と嘆いておられた。こればかりは、それ以降の皇帝家最大の汚点だ」


 さすがに、これについてはカイトも同意せざるを得ない。奴隷制度の撤廃は初代皇王の命令に等しい。それを理解しているからこそ、皇帝として、そして子孫として、謝罪したのだ。それの是正を勇者にやってもらいながら、彼を追放にも近い形で失ったのだ。何よりも、ウィルがこの点を厳命していたのである。


「さて……申し訳ないが、挨拶はこの程度にしておこう。先に、幾つか伝えるべき事がある。まずは、アルフォンス・ヴァイスリッターはいるか?」

「はっ、陛下!」


 カイトとの挨拶を終えて、先に内々に伝えておかなければならない事を伝える為、皇帝レオンハルトがアルを呼び出しす。流石に皇帝からのじかの呼び出しだ。アルには緊張が見えたが、それでも、その眼前に跪いた。


「うむ、顔をあげよ……お主は先のポートランド・エメリアの戦いにおいて、氷龍を操り、勇者カイトと共に<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>を食い止めたと聞いている。そこで、余から直々に新たなる二つ名である<<氷龍(ひょうりゅう)>>の二つ名を贈る事が決まった」


 言われた言葉に、アルが驚愕と緊張が過ぎて、顔を青ざめる。エンテシア皇国において、象徴たる龍を使う事に許可がいるのは何も意匠だけでは無かった。二つ名も然り、なのである。

 龍の名を付けられた二つ名を皇国、それも皇帝から与えられると言うのは、皇国軍人にとって何よりもの栄誉であった。それは即ち、皇国の武の象徴の一角と成った事に、他ならなかったのである。


「はっ、ありがとうございます!」


 望外の栄誉に若干身体を強張らせながらも、アルは頭を下げた。それはもはや過呼吸になりかねんばかりの驚きと緊張だった。それに皇帝レオンハルトは苦笑しつつも頷き、続ける。


「うむ。これからも皇国の守護を貴公ら騎士に任せる。ゆめ、その名と偉大なる祖先に恥じぬ戦いをしてくれ。授与式は追って連絡するが、天桜の諸君らが居る間に実施するつもりだ。諸君らも是非参加してくれ」

「わかりました、陛下」


 答えたのは桜田校長だ。カイトの命とは言え、アルには学園の守護やソラや、第一陣でも有力者達の調練を行う等多大な恩がある天桜学園だ。これを断る道理は無かった。

 ちなみに、この場においてカイトはマクダウェル公爵、ティナはその婚約者として居並んでいる為、彼らには天桜学園側としての発言権は無い。というわけで、これから先はカイトでは無く、他の面々で応対せねばならなかった。


「次に、瞬・一条は居るか?」

「はっ、陛下!」

「久しいな。随分と見違えたな」


 自分の前で堂々たる態度で跪いた瞬に、皇帝レオンハルトが少し苦笑気味に笑いかける。実はゆっくりとした変化なのでカイト達は気付いていなかったが、皇帝レオンハルトは数カ月ぶりだ。それ故、変化は目に見えて理解出来たらしい。当時とは見違えた容姿だったのだ。

 というのも、あの当時は皇帝レオンハルトが指摘した通り、上半身に筋肉の偏りがあった。だが今は、下半身にもまんべんなく筋肉がついて、相対的に上半身からは余分な筋肉が落ちていたのだ。

 かつての瞬が力のみに頼った新米の戦士だとするのなら、今の彼は全身のバネを使って戦う熟練の戦士に近くなっていたのである。


「はい、陛下のおかげで、あれ以降身体の使い方を見直し、ここまで生き延びる事が出来ました」

「そうか、それはアドバイスを送った甲斐があった……で、よ。そなたは先頃の戦いで、武に秀でた我が子ハインリッヒを見事打ち破った。あの技は何だ?」

「私が開発した<<雷炎武(らいえんぶ)>>という技を更に改良した<<雷炎武・弐式(らいえんぶ・にしき)>>であります」

「ふーむ……名前やあの技の性質からすると、<<炎武(えんぶ)>>と関係ありそうな技だが……何か関連性があるのか? いや、待て。少し考えさせろ……」


 皇帝レオンハルトは戦いの事になり、本来の目的も忘れて思慮に耽る。やはり彼も変人だった。だがさすがに客人の前でこれは頂けないので、宰相ヴァルハイトから諫言が飛んだ。


「陛下、今は……」

「……おっと、すまん。それで、お主にも二つ名を下賜しようと思う。受け取ってくれ。二つ名は<<雷炎(らいえん)>>。以後、名乗るといい。授与式はアルフォンスと同時を予定している。追って連絡しよう」


 部下からの諫言を受けて、皇帝レオンハルトが何処か照れた様子でそそくさと要件を告げる。まあ、そそくさなのは、話題をこっちに戻したいから、だ。そしてそれを受けて、瞬が再び頭を下げた。


「はっ、陛下!」

「うむ、それで、<<雷炎武(らいえんぶ)>>についてなのだが……」

「陛下、さすがに今は止めといた方がいいんじゃないかい? 今度はヴァルハイトのおっさんからげんこつが飛ぶよ?」

「……むぅ」


 自分の娘程の年齢のフロルに窘められ、皇帝レオンハルトは非常に残念そうに話を切り上げた。ちなみに、プライベートエリアで話す理由は彼が様々な武芸について問いかけたいからだった。盗聴防止等で言えば、更に強固な部屋が皇城の公的エリアにいくつも存在していた。

 まあ、その内幾つかは客人を招けるスペースでは無いのが実態なので、ここも候補に入っていた事は、事実ではある。ただ単に皇帝レオンハルトがここで、と後押ししただけだった。


「……次に、ソラ・アマシロはいるか」


 若干先ほどの不満が残っているが、皇帝レオンハルトは続けてソラに声を掛けた。


「はい、陛下」

「先頃の御前試合では天竜の討伐、見事であった。お主の指揮は特に見事であった。そこで……」


 ソラの腕前を賞賛した皇帝レオンハルトは、横に居並んだトランに目配せする。どうやらこちらは二つ名では無いらしい。

 そうして、皇帝レオンハルトからの目配せを受け取ったトランが、彼に一つの木箱を手渡した。表面に皇国の紋章が入ったきれいな木箱であった。大きさは長さ1メートル程度の木の箱で、皇国をよく知る者達なら、武器等を下賜される場合に使われる箱だ、と気付けた。


「これを授けよう。開けてみるといい」

「はい、ありがとうございます」


 緊張しながらも皇帝から直々に木箱を受け取ったソラは、皇帝の言葉に従って木箱の蓋を開ける。中に入っていたのは、一振りの優美な片手剣であった。


「これは儀仗だ。実戦的では無いが、指揮する者が持つに相応しい剣だ。拵えも悪くはない。飾っておくのも、良いだろう」


 ソラが手にとったのは、豪華な装飾が施され、戦場で指揮する立場の者が持つに相応しい剣だった。当然だが、鞘には美麗な装飾が施され、鞘に入っている状態でも美しかった。

 ちなみに、皇帝レオンハルトは実戦的ではない、と言っているが材質は魔法銀(ミスリル)で、壊れたソラの剣よりも、実戦的であった。


「貴公は戦闘で片手剣を喪失している。本来ならば実戦で使える物を下賜しようと思ったのだが……勇者カイトよ。貴公の伝手で何か良い武器を見繕ってやってくれ」


 実は皇帝レオンハルトとて、下賜する武器の中には実戦で使える武器も視野に入っていた。しかし、自分の選んだ武器より、カイトが探しだした武器の方が高品質で、更には仲間から贈られた方がソラも喜ぶだろう、と判断して、あえて実戦向きでない武器を選んだのだ。

 この兵士の心情に則った判断が出来るからこそ、皇帝レオンハルトは末端の兵士にまで人気が高いのであった。ちなみに、必要に応じてきちんと実戦向きの武器を下賜する場合もあるので、そこはそれ、だろう。そうして、そんな皇帝レオンハルトの言葉を受けて、カイトが頷いて、了承を示した。


「御意に、陛下」

「うむ、頼んだ。では、そろそろ本題に入るとするか」


 カイトのうなずきを受けて皇帝レオンハルトは従者を呼び、自分の子供たちを呼ばせるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第379話『発覚』

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