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第370話 御前試合 ――道を進む者――

 始まった御前試合だが、招かれたゲストとはカイトのお師匠様達だった。そうして、たった二人を半包囲するように陣形が組まれた闘技場を見て、実況解説のヴォイスが呆れた様に声を発する。


『おいおい、やっぱこうなんのかよ! どいつもこいつもチキンしかいねえな!』


 ヴォイスの声が会場中に木霊する。が、そんな彼も敵を考えて、致し方がない、と思ったらしい。なにせカイトでさえ、危険視する相手だ。普通にこんな反応をされても仕方が無い。なので嘲笑を演じながら、それを告げる。


『ま、今回ばっかは俺様も文句は言わねえ! 相手が相手だからな!』


 鳴り止まない歓声をBGMにヴォイスは実況を続ける。当たり前だが、陣形に加わらない者も居て、それについても言及しておかねばならないからだ。


『さーて、そんな陣形に加わってねえ猛者共はっと……やっぱこいつらか! さっき紹介した猛者共だ!さすが、俺が見込んだだけのことはあるな! どいつもこいつも一味違うぜ!』


 即席で組まれた陣形には加わらず、独自行動を取るべく少しだけ距離を取っているのをヴォイスが見つけ、賞賛する。それは自分達の力量に絶対的な自信が無ければ出来ないことであった。

 腕っ節に自信のある彼らは、数の利を逆に邪魔と切って捨て、乱戦を避けて自分達が戦いやすい方を取ったのである。数が多ければ多い程、自分達も満足に身動きが取れないのだ。おまけに、敵は大振りな一撃で終わってしまう。


『おっと、意外な奴がいるぜぇ! まさか、こいつも単騎で挑む気か! さっきのガキの方のカイトだ! こいつも集団から離れてやがる! どーやらガキの癖にママに御手々つないでもらわなくてもあんよが出来るらしいな! こいつぁ期待出来るぜ!』


 カイトが陣形から離れ、独自行動を取ろうとしている事に気付いたヴォイスがカメラを操ってクローズアップする。さすがにこれには観客たちも驚いたらしく、大歓声が送られた。


『さーて、そろそろいいかー! まさか、一発K.O.なんて馬鹿しないでくれよ!』


 一通りの解説を終えたらしいヴォイスが、会場全体に試合開始の準備を告げる。それに合わせて、会場に設置された超大型モニターにカウントダウンが表示される。


『ファイブ! フォー! スリー! ツー! ワン! レディー……ゴー!』


 モニターのカウントダウンに合わせて、観客とヴォイスがカウントダウンを告げていき、モニターがゼロになった瞬間、御前試合が開始されたのだった。




「<<一房(ひとふさ)>>」


 試合が開始され、それと同時に、どんっ、という明らかに斬撃音では無い斬撃音が鳴り響いた。音の発生源は考えるまでもなく、カイトの師武蔵だった。


「む? 少々やり過ぎたかのう……ただ単に基礎中の基礎じゃったんじゃが……」


 ムサシが大きく吹き飛んだ目の前の選手たちをみて、左手でぽりぽりと頬を掻いた。右手には何時抜き放ったのか、巨大な片刃の大剣が握られていた。それを、振りかぶっただけだった。


『おっと! やっぱすげぇ! いきなり1割ぐらい吹っ飛んだぞ! 吹っ飛んだ奴らは大丈夫か!? あ、全滅か』


 モニターに失格となった選手達の名前が一気に羅列されていく。生き残りは無し、だ。浮き上がった選手達は地に落ちる事無く、その前に全員消え去る事になった。

 失格となった選手は試合の邪魔にならないように、会場に仕掛けられた特殊な魔術で強制的に場外の医務室に転移させられるため、一気に消滅したのである。そうして、そんな様子を見て、ヴォイスが陽気な声を上げた。


『おいおい、このまま情けなく全滅なんてオチはやめてくれよ!』


 ヴォイスの挑発に触発されたのか、我先にと二人に対して陣形を組んだ選手達が殺到していく。そんな選手達に、武蔵が顔に喜色を浮かべた。


「ははっ、そうじゃそうじゃ! もっとどんどんかかってこい! 儂は宮本武蔵! 日の本一の剣豪じゃ!」

「あ、おい! 日の本一の剣豪はオレの方だ!」


 突っ込んでくる選手達を見て、二人も地面を蹴る。そうして、競うように剣戟を繰り出し、見る間に向かってくる選手たちを減らしていく。

 とは言え、選手たちも一角の戦士。一合も打ち合えぬ選手は少なく、初撃に比べれば減少する速度は激減していた。

 まあ、武蔵も初撃は自分達の凄さを観客達に見せつけるのと、様子見でちょっと強めに打ち込んだだけだ。二人共出力で押し切る事も出来るが、それは見世物として面白くない。剣士としても技も披露せずに力で押し切るのは興ざめだろう。なので手加減をしていたのであった。が、そんな無双中の二人に、カイトはため息を吐いた。


「ここ、日本じゃないんですけどね……」


 彼らは日本暮らしよりもエネフィア暮らしの方が桁違いに長い上、地球に帰るつもりが無いのにいつまで日本一を競い合うつもりなのだろうか、と前々から思っていたのである。


「まあ、信綱公もあるし、戻ろうか、ぐらいは思ってるのかねぇ……ま、こっちに来る前に先輩に合流しないと、な!」


 カイトは選手から繰り出された斬撃を避け、返す刀で一発で仕留める。会場中が師匠二人に注目しているのでほとんど気付かれなかったが、見事な早業であった。


「さて、先輩は……居た」


 さすがにカイトも乱戦の中あまり強くない一個人を見つけ出すのは簡単ではなく、少しだけ周囲を見渡して、瞬を見つけ出す。彼も乱戦を避けたのだが、どうやら同じように避けたらしい選手の一人と交戦状態に陥っていた。


「……ま、ホントは手出し無用なんだが……」


 横槍はあまり好む所では無いのだが、彼らの目下の課題はハインリッヒをぶっ飛ばすことである。それを譲り、露払いを買って出た以上、そうは言ってもいられない。


「よっと!」


 カイトは瞬と戦っていた選手と瞬の間合いが離れた瞬間を見計らって<<縮地(しゅくち)>>で一瞬で距離を詰めると、その間に割り込み、いとも簡単に胴体を一閃する。師匠という予想外があった以上、こんな所で時間を使うわけにはいかないのだ。


「カイトか! 助かる!」

「先輩、ここでの敵は理解しているな?」


 二人は乱戦の最中、背中を預け合い闘いながら会話を行う。確かに師二人を中心とした陣形が組まれているが、強者以外の全員がそちらに加わっているわけでもなく、それなりに多くの数が乱戦を避けて戦っていたのである。


「ああ!」


 瞬は一瞬、ちらっとだけハインリッヒを睨む。彼は天竜を操りながら、自身に群がる敵を両手剣で倒していた。


「……あれは、いいのか?」

「まあ、規約違反じゃ無い。<<魔物使い(モンスター・テイマー)>>は……聞くまでもないか」


 群がる敵のほとんどをなぎ倒していく天竜に、瞬が少しだけ呆れる。明らかに圧倒的であった。それに、カイトが苦笑混じりに告げる。ルール違反では無いし、目玉としてはこれぐらい無いと面白みが無い。


「……なるほどな。武器の1つ、もしくはパートナー、というわけか」

「そういうことだ。今回はパートナー扱いだな。まあ、さすがに飛ばれると面白くないから、試合中は飛べない様に封印を仕掛けられてるみたいだがな」


 カイトはハインリッヒの天竜の翼の付け根を指さす。そこには奇妙な回転する輪が付け根の周囲を取り囲むように浮かんでいた。これが、天竜の動きを制限していたのである。

 そうして、二人は乱戦を抜け、ハインリッヒへと直進し始める。しかし、その途中。ある事態が起こった。


『おお! すげぇ! 今の何だ! 斬撃が複数同時に出たぞ!……て、おいおい! ちょっと待て! 何があった! 気付いたら闘技場の大英雄が脱落してんじゃねぇか! 誰だやったの!』


 どうやら武蔵達の解説に熱中していたヴォイスらしいのだが、流石に優勝候補の一人がやられた事の気付いて、思わず声を上げる。そうして、その指示を受けて、会場に併設された超大型モニターの映像が巻き戻り、その瞬間へと巻き戻った。


『えーっと、確かこいつはニホンのガキ……ああ、瞬ってガキか。と戦って……って、おい! 今んとこ巻き戻せ!』


 瞬と戦っていた優勝候補が次の一瞬、カイトが割り込んで一瞬で仕留めた事に気付いたヴォイスが、慌てて映像を巻き戻させる。


『うそだろ、おい……』


 そうして、映像を再度スローで確認して、さしのもヴォイスも観客も呆然となる。誰にも気付かれなかったのは、皇帝レオンハルトが行った隠蔽の結果だった。

 カイトにあまり注目がいかない様になる認識を阻害する簡単な結界が展開されていたのである。ちなみに、当然だが、これ以外にも幾つもの隠蔽が施されていた。カイトや武蔵達に全力を出してもらおう、という事での配慮だった。今回の御前試合は皇帝レオンハルトの為に行われるのだ。彼が見れれば別に観客達が見れなくても問題は無い。


『まさか、まさかのジャイアントキリング! ニホンのカイトの方がやばかった! 誰にも気付かれず、たったの一撃でやりやがったぞ! それとも闘技場の大英雄はチキンもやしっ子にやられる程雑魚かったのか!』


 一瞬の静けさの後、観客たちがカイトに大歓声を送る。そして、その解説に気付いた選手たちが、カイトのヤバさに気づき、今度はカイトも標的の一人として設定されてしまう。

 隠蔽は観客達にしか効果が無く、選手達には効果が無いのだ。お陰でハインリッヒまで後少し、というところで足止めを食らってしまった。


「悪い、先輩! まさかさっきのが有名人とは思わなかった!」

「いや、それだけの使い手なら、逆にダメージが無くて助かったぐらいだ!」


 カイトの謝罪に、瞬が笑って否定する。とは言え、その介入が無ければ要らぬスタミナを消費しかねない。これは有り難いことだった、と判断したのである。


「あー、くそ!」


 珍しくカイトが苛立ちを露わにする。さすがカイトのお師匠様、という所か、選手たちの数はだいぶ減っており、二人の師、というか特に小次郎が此方に矛先を定めるのも時間の問題だった。

 あっちはこっちの事情は気にしてくれない。と言うか、ちょっかいを掛けられながら送り届けてみせろ、と言いかねない。さて、そんな二人だが、相変わらず無双の真っ最中だった。


「ほれほれ! まだまだ行くぞ!」


 武蔵が左の大太刀で巨大な斬撃を繰り出し、巨大な敵を倒せば、小次郎もそれに張り合う様に技を見せる。


「あ、おい!それオレの獲物だぞ!」


 小次郎は物干し竿で一瞬で幾重もの斬撃を生み出し、複数の敵を倒していく。今のところ二人共目の前の敵を倒す事に熱中してくれているが、それもいつまで持つことやら、だった。

 既に半数以上が討伐されきっており、後はそれなりに腕利きである以上、少しはペースダウンしてくれる事を望みたいカイトであった。が、当然だが、敵は他にも居た。それも、カイト狙いの、だ。


「お久しぶりです、カイトさん」


 二人の前に立ったのは、ティトスだ。手にはきれいな装飾が施された直刀が握られており、構えは取っていないものの、隙が無かった。それに、カイトが苦笑する。明らかに、自分狙いだったのだ。


「あー、なんか用か? 今忙しい」


 ヤバイ相手に掴まった。カイトはそれに気づくと、彼を無視しようとする。彼は実力を隠したまま戦って、楽に勝てる相手では無かった。

 少なくとも、この御前試合では頭幾つも飛び出した相手だ。確実に優勝候補だ。なのでカイトと瞬が道を逸そうとしたその前に、彼が回り込んだ。それに、カイトがため息混じりに肩を竦めた。


「カイトは逃げ出した。しかし、まわりこまれてしまった」

「はい?……まあ、少々貴方に用がありましてね。ああ、大丈夫です。彼には用がありませんよ」


 ティトスは瞬を指し、先に行くように道を開ける素振りを見せる。


「気にすんな……先輩、悪い。露払いはここまでだ。後は、自分でやれ」


 自分に用があるのは本当らしい、それを感じ取ったカイトはここで時間を取られるよりも、瞬だけでも先に向かわせることにして、自らは本来の歪な二刀流を取る事にした。

 隠蔽はしてくれる、というのだ。相手が強敵である事もあるが、もしハインリッヒに瞬が負けた時の事を考えて、負ける事は出来ない。ならば、油断無しで本来の戦い方で行くまでだった。

 既に戦局は中盤に差し掛かろうとしており、ほとんどが一対一状態か、ハインリッヒの天竜、カイトの師達へと殺到しているかの何方かだ。今なら、比較的安全に行ける、と判断したのである。


「いや、ここまで助かった」


 高まり合う二人の闘気を背に、瞬は一気に駆け抜ける。そうして、次の瞬間には、背後から剣戟の音が聞こえ始めた。

 ハインリッヒまでの相対距離は残り100メートル程。途中戦闘を考えたとしても、遠い距離では無かった。しかし、その短いはずの道のりは、半分を過ぎた所で進めなくなる。ハインリッヒの天竜が道を塞いだのだ。


「ちぃ! こいつを倒さんことには進めないか! 遅い!」


 天竜が大ぶりに振り払った右腕を足場にしてジャンプでらくらく躱し、そのまま天竜を飛び越えようとする。しかし、着地の寸前、槍を地面に突き刺して空中で停止する。

 そして、天竜の尻尾が通り過ぎる瞬間、槍の顕現を解除して一瞬だけ滞空して着地した。天竜が右腕を払った勢いそのままに回転し、尻尾で薙ぎ払ったのである。


「ちっ、逃す気はない、か」


 天竜は半回転し、再び瞬に視線を合わせる。どうやら、瞬は強い、と判断されたらしい。そうして、彼が構えを取って応戦しようとした時、横合いに声が掛かった。


「先輩! こいつは俺達が引き受けます!」

「空を飛ばない天竜ってこたぁ地竜と同じ! 何時ぞやのリベンジマッチだ!」

「翔、ソラ! 助かる!」

「先輩は先に!」


 二人につづいて、魅衣が瞬と天竜の間に割り込むと、更にそこで矢が天竜へとあたり、大きく仰け反った。それは言うまでも無く、由利の矢だった。


「三枝……小鳥遊もか!」


 天竜が大きく仰け反った隙に、天竜の相手を4人に任せ、瞬は再び駆ける。天竜はソラの方をもっと厄介な敵と見定めたらしい。

 ソラが最近練習中の<<天羽々斬(あめのはばきり)>>の力を感じ取ったのだ。どうやら彼に先天的な加護を与えている産土神の相性と相まって、竜殺しとしての力が外に漏れ出ていた様だ。そうして、再び駆け抜ける瞬だが、三度、歩みが止められる。


「おっとぉ! ちょい待ち!」

「またか……」


 立ちふさがったのは、エリオだった。今度は助太刀はなさそうだ、と考え、今度こそ戦いを覚悟する。


「お前もあのハインリッヒ狙いだろ? 俺もだ。なら、先にどっちがやるか決めようぜ」


 エリオが槍を構える。彼の物言いは軽いが、そこに一切の隙は無く、彼が高位の槍使いである事が察せられた。この時点で瞬は切り札の使用を頭に入れた。


「はぁっ!」

「ふっ!」


 エリオが一気に間合いを詰め、槍を突き出す。瞬はそれを同じく槍で受け止め、此方はなぎ払う。


「おっと!」


 なぎ払いになぎ払いで合わせ、エリオと瞬は少しの間力比べを行う。


「おらよ!」


 エリオが笑みを浮かべて一気に力むと、瞬は力負けして一気に吹き飛ばされた。どうやら単純な力比べでは、瞬に勝ち目は無い様子だった。しかし、このお陰で瞬とエリオの間にはかなりの間合いが生まれる。


「これなら!」


 瞬はエリオを無視し、一気にハインリッヒへと間合いを詰めようとするが、その前にエリオに回りこまれた。


「ちっ!」

「つれねぇな!」


 エリオから繰り出された突きを瞬は槍で絡めとる様にして防ぎ、再び両者の間に一瞬の停滞が生まれる。


「なんだよ、女でも懸かってんのか?」


 エリオは事情を知らないので、これは単なる挑発であった。彼が女誑しだったことと、カイトの友人っぽかった事でそう挑発しただけだ。が、これに瞬が真面目な顔で答えた。


「似たような物だ」

「……は?」


 エリオにとっては単なる挑発であったのが、まさか一片の真実を捉えていたとは露とも思わず、エリオは一瞬ポカン、と呆気にとられた。そうして、エリオは腹を抱えんばかりに笑い出した。そんなエリオに、会場中が注目する。


「くっくく……あーはっははは! マジか! 女か!」

「何が面白い」

「いや、ワリィ! で、マジ? 相手皇族だぜ?」


 ケタケタと笑いながら、エリオが瞬に問い掛ける。だが、これに瞬は嫌な顔もせずに、大真面目に言い切った。


「惚れた女が貶された。だから俺は奴をぶっ飛ばしに行く。何か問題があるか?」


 ドンッ、と効果音でも付きそうな程に堂々と言い切った瞬に、エリオがついに爆笑する。


「ぶぁっはははは! マジか! そーか、そこまで惚れた女か! それで皇族ぶっ飛ばしに行くのか!」


 瞬の瞳に一点の曇りも無い事を見て取り、エリオは目に涙まで浮かべて笑う。


「あー、おもしろ……いいぜ、譲ってやる。そういう馬鹿さは気に入った」


 どうやら瞬の事をいたく気に入ったらしい。ここまで見事に言い切られては、エリオに獲物を狙う理由は無くなった。元々彼は強いかも、という理由だけでハインリッヒを狙っていたのだ。積極的に狙う程の理由では無かった。そして、そんなエリオに、誘いが掛かった。


「ふーむ……では、小僧。儂と戦わぬか?」


 その瞬間、二人は空気が一変した事を感じた。声の主は、カイトの師武蔵だ。未だ数百メートル遠くにいる彼の声が、まるでそこに居るかの様に聞こえたのだ。陣形を組んで向かってきていた者達を片付け終え、ついに彼らが狩りに繰り出した瞬間であった。


「始めは故あってその小僧に助太刀してやろうか、と思っておったが……ずいぶんと威勢のいい小僧がおる。これはちと儂も鍛錬の1つでも積んでやらねばのう」

「……こいつぁ、いい。まさか大英雄からのお誘いかよ。行けよ、譲ってやる。いや、こっちを譲れ」


 ふっ、といきなり表れたムサシを前に、エリオの顔に余裕が無くなる。浮かぶのは獰猛な笑みだが、強敵を前にしているからか、額から汗が一筋流れ落ちた。

 そうして、その汗が地面に流れ落ちた瞬間が、二人の勝負の開始の合図であった。瞬は交わる剣戟の音を背に、三度駆け抜ける。そうして、ついに。


「……ほう、意外だな。ここまで生き残るとは」

「良い仲間が居てくれたんでな……前言通り、ぶん殴りに来た」


 ハインリッヒの前に立った瞬は、今度こそ本気で構えを取った。そうして、御前試合もついに、終盤戦を迎えるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回からは個々の戦いを見ていきます。

 次回予告:第371話『御前試合』

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