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第22話 閑話 基礎知識―冒険者―

 前回端折った部分で、冒険者について、の部分です。

 エネフィアに生活している種族への簡易講習が終わって一旦小休止を挟んだ一同。休憩をとった後も講習は続く。


「では、次に冒険者について、ですね。皆さんもなっていただく冒険者ですが、冒険者の始まりは1000年前に遡ります。はじめは旅人たちが勝手に名乗っていただけだったのですが、いつしか彼等がその土地土地で住人から依頼を受け始め、数々の冒険を成し始めたことから、いつからか旅人は冒険者、と呼ばれるようになりました。その後、彼等は自らの利益、主に情報など、ですね、を守るためにギルド、と呼ばれる集団を作り上げる事になります。」


 ここまではいいですか、そう一同へ問いかけるミリア。とりあえず質問はないらしく先へ進むことにした。


「ギルドが作られるまで、冒険者へなるのは個人の勝手でしたが、ギルド設立にともなって、冒険者を登録して、依頼人から信頼を得よう、ということになりました。それまで勝手に名乗っていたので依頼遂行中に失踪する冒険者が後を絶たなかったんです。登録された冒険者へは登録証としてギルド名が記され、本人のみに感応して発光する魔石のついたギルドカードが与えられました。更に、当人の実力に合わない依頼を受けられても困るため、依頼をギルドを通すことで一括化し、冒険者へはランクを定めることで受けられる依頼を制限することにしました。といっても、別に個人で依頼を受けることを禁止したわけではないですね。これによって冒険者の死傷率は半分以下にまで下がった、と言われています。このランク制度と冒険者の登録証は若干の改定があるものの、今でも続いています。その後、このギルドが素案となり様々なギルドが同じような体制で設立されることになります。」


 と、そこまで説明したところである生徒から手が挙がる。


「そのランク、というのはどのような区分のものですか?」

「はい。このランクですが、一番下はEから一番上はEXとなります。ランクEXは500年前のユニオン設立から設置された最上位ランクで、今までに与えられた冒険者は10名だけです。かなり偉大な功績をなさった方々が授与されているだけですので、ランクSが上限、と考えてください。分け方は主に戦闘能力と功績ですね。」


 過去10人しか与えられていないEXクラスとは一体どんなものなのか、そう疑問に思う一同に対してミリアが答える。


「このランクEXですが、ユニオン支部長クラスの権限が与えられています。特権として彼等には支部に所属している全冒険者への緊急依頼を発令する権限やユニオンの有する全情報へのアクセス許可、その他王侯貴族への謁見などが与えられています。まあ、彼等の場合、その功績から王侯貴族の方から接触してこられるんですけどね。それ故授与へは王侯貴族さえ納得するような偉業を為す必要があります。尚、緊急依頼は強力な魔物などが発生してユニオン全体で対処しなければならないような場合や、緊急性の高い依頼が発生した場合に発生する依頼ですね。この授与者で今でも存命が確実視されているのはお二方のみ。妖精女王(ティターニア)の異名を持ち、唯一伝説の勇者様の旅に最初から最後まで一緒だったユリシア・フェリシア様と、現ユニオンの総トップであるユニオン・マスターだけです。」


 それを聞いたある生徒が更に質問する。


「じゃあ、その伝説の勇者達全員がランクEXだったんですか?」

「いえ、当時冒険者へと登録されていたのは勇者様、バランタイン・バーンシュタット様、300年前の皇国において賢者と言われた天族の賢人の孫のアウローラ・フロイライン様、先のユリシア様、ですね。一応アウラ様は天族ですのでご存命である、とは言われていますが行方不明ですので、現在はユリシア様のみ、となります。ユリシア様は現在公爵家が設立された魔導学園の学園長をなさっておいでですね。一度お会いしたことがあるのですが、とても荘厳で偉大な方でした。妖精族は一般に悪戯好きと言われていますが、あのお方は例外と言って良いでしょう。」


 何十枚猫を被ったんだ、カイトとティナがそんな疑問を抱きたくなるぐらいに光悦とした様子のミリア。が、すぐに復帰して説明を続ける。


「彼等以外にランクEXが授与されたのは、いくつものギルドに分かれ戦国乱世の様相を呈していた冒険者の状況を変え、冒険者協会連合の設立を成し得た初代ユニオン・マスター。当時発見さえされていなかった浮遊大陸を発見し、古龍(エルダー・ドラゴン)ペンドラゴン様に友と認められ、天族や神族との正式な交流を持つことに成功した調停者など、その功績は常人には成し得ない物ばかりです。ちなみに、勇者様方の授与理由は魔王討伐と様々な種族との共存への貢献、奴隷制度の撤廃、技術水準の上昇など多岐に上りますので、誰からも異論はなかったようですね。」


 授与者の功績の大きさに全員がドン引きするなか、ソラがある質問をする。


「その勇者様って名前無いんっすか?」


 どうやら誰も彼も勇者だけは名前で呼ばなかったので疑問に思ったらしい。


「ありますよ。勇者カイト・マクダウェル様です。本当は皆さんと同じニホン出身でしたので、他の苗字もあったらしいのですが、記録には残されてはいません。他にエネフィア転移時にヘルメス様が保護者となられましたので、フロイライン姓を使用なされることもあったそうです。この大陸で単に勇者、と呼ぶ場合はカイト様を指す場合が殆どですので、皆さん親しみを込めて勇者様、と呼んでいるだけですね。って、どうしました?」


 質問したソラが吹き出しそうなのでそう不信に思ったらしい。


「あ、俺の隣にいるこいつもカイト、って名前なんすよ。あまりに違いすぎて……。」


 そう言って笑いをこらえているソラ。カイトを挟んだ逆側のティナや桜などの他の知り合いも吹き出しそうであった。オレが勇者本人です、とばらしてやろうか、など考えたが辞めた。


「桜まで……。勇者だって欠点ぐらいあるだろ。」


 代わりにと、ぶっきらぼうに返すだけであった。それを聞いたティナが小声で指摘する。


「例えば女癖などじゃな。」

「そんな事実は無い。気づいたら何故かそうなっていただけだ。」


 主にカイトが方々で各種族と交流を行う最中で、その種族の高位の者から様々な好意を得ていた。どうやら本人は気付いていないが、まめに訪れてはプレゼントをしたり、何か困り事があれば自ら赴き解決し、魔獣や魔物が現れて手をこまねいていると知れば自分が討伐へ行き、などを行った結果であった。

 他にも中津国では食料―主にお米―獲得などを目的として実力を示すうちに、妖族の一つ四獣族のトップである燈火に好意をもたれた、などの例外もあったが、概ね自分の気になったことにはまめな性格が好意をもたらしたらしい。


「では、冒険者の解説に戻りますね。」


 そう言って脱線していた話を戻したミリア。


「さっきも言いましたが500年ほど前になると多くのギルドが乱立し、中には険悪な関係のギルド同士も存在していました。このままではいけない、そう考えた一部冒険者が纏め役となり様々なギルドの関係を約50年の月日を掛けて改善させ、ついにはすべてのギルドを連合として纏め上げることに成功しました。その際に中心となった人物が初代ユニオンマスターですね。彼が中心となってギルドごとに異なっていた登録制度やランク基準を統一化されて今の形となりました。現在の登録基準は犯罪者でないこと、登録証作成時に魔力測定を行うことの2つになります。なお、この登録証は単にカードやユニオン・カードと言われることがあります。注意点は登録証には本人のみに感応する魔石が嵌め込まれていますので、本人以外の使用は不可能です。この魔石は複製困難ですが、その偽装は多くの国で犯罪とされています。如何なる理由でも紛失した場合は、金貨1枚が再発行にかかりますので気をつけてくださいね。」


 金貨一枚は日本の価値にして約1万というところである。

 ちなみに、エネフィアの硬貨は、大ミスリル銀貨、ミスリル銀貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨幣、小鉄貨幣が存在し、各々日本円で100万、10万、1万、1000、100、10、1の価値に相当する。大きさは小鉄以外は500円玉と同じぐらいか。小鉄のみ100円玉と同じ程度である。


「ギルドは全部ユニオンに統一されたんですか?」

「統一、という意味ではそうです。非正規の冒険者が勝手に集団を作っている場合もありますが、多くの国で摘発対象です。」

「じゃあ、ギルドはなくなったんですか?」

「いえ、ギルドは今でも存在しています。今の区分だと、ギルドは冒険者の私的な集団で、ユニオンに届け出さえ提出していただければ設立が認められます。多くの場合は同じ目的を持つ冒険者の集まりとなりますので、目的としている情報が集まりやすい、というメリットがあります。ですが、所属する必要はないのでソロで活動をしている方も多いですね。詳細は設立される場合にお伝えしますね。」


 今のところ天桜学園は学園として纏まっているため、誰もギルド設立を提案しなかった。


「では、先に進みます。依頼者へ依頼を受けた冒険者である、と伝える場合にはこの登録証を提示し、実際に発光させる必要があります。ですので、登録証を紛失した際は依頼遂行が不可能となりますので、注意してください。もし依頼遂行中に紛失した場合は即座にユニオンへ申告し再発行してください。」


 そう言ってミリアは自らの登録証を手に持って、全員に見えるように魔石を発光させる。大きさは15センチ四方の金属製で中心に魔石が嵌め込まれていた。


「これが登録証、カードですね。材質は錬金術で量産した魔法銀(ミスリル)です。中央の魔石は光属性の魔石に、各個人の魔力を感応するように術式を編んであります。」


 昔は魔法銀(ミスリル)は天然物のみだったんで、登録証もかなり高価だったんですけどね、と言うミリア。


魔法銀(ミスリル)はここ100年ほどで錬金術による量産が可能になって安価になりました。とはいっても、量産品は天然物に比べて魔力伝導性や親和性で若干劣りますので、お使いになられる際には注意してくださいね。特にマクスウェルはその量産に初めて成功した街ですので、量産品を使用した道具が豊富にあります。これはマクスウェルの主力商品の一つです。量産魔法銀(ミスリル)で作られた剣なども普通に武器屋で取り扱ってますよ。」


 ゲーム等では中盤以降の主力武器となる魔法銀(ミスリル)製装備がマクスウェルでは普通に取り扱われている。ということで、早速購入しようと考えている学園生は多かったがそうは問屋が卸さない。


「といっても、普通の金属製武具に比べ、魔法金属製武具の使用難度が格段に高いのは変わらないので、初心者さんは手を出さないでくださいね。」

「え、使えねぇの?」


 ソラもそういった生徒の一人であったのか、目を見開いて驚いている。ミリアは、何を当たり前な、という顔をして注意した。


「はい。魔法銀(ミスリル)などの魔法金属はその性能を十全に発揮しようとするとすると莫大な魔力を消費します。天然物は若干低めですが、それでも魔力量2万は無いと使えませんよ?量産品だと3万はほしいですね。」

「足りなかったらどうなるんすか?」


 更に質問するソラ。多くのものが同様の疑問を抱いているのか、頷いている。


「まあ、耐久性等が低くなりますので、普通の金属と同等かそれ以下の性能になりますね。剣なら簡単に折れ、槍なら簡単に曲がります。」


 どうやら多くの生徒が使用を考えていたらしく、がっくりと肩を落としていた。そこで昼時間となったため、全員で一時休憩をとることとなった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年1月25日 追記

・誤字修正

『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後のほうに「はい。魔法銀などの魔法金属はその性能を十全に莫大な魔力を消費します。天然物は若干低めですが、それでも魔法量2万はないと使えませよ?量産品だと3万はほしいですね。」とありま…
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