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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十八章 一つの決意編
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第337話 導きの双玉

 リオンに呼ばれ、彼との遊戯に耽っていたカイトであったが、自らの正体を突き止められ、負けを認める事になった。そうしてそんなカイトが元の姿に戻り、周囲に声を掛けた瞬間。5人の美女が表れた。


「なかなかに見応えがあったのう」


 そういうのはティナだ。彼女はカイトとリオンの遊戯を見て、非常に満足していた。尚、彼女はカイトが元の姿に戻ったのに合わせて、元の大人の状態に戻っていた。

 桜にティナは来ていない、と言ったのは、嘘なのであった。始めから、彼女はカイトの真横に居たのだ。ただ、その姿と存在を隠蔽の魔術で隠匿していただけだった。如何にカイトが強いとは言え、グライア達が居るとは言え、ここは想定上は敵陣。万全を期すのは当然なのであった。


「御主人様。ティナ様。隠蔽用魔道具の調子は良好です。今まで、グライア様達以外には気付かれた様子はありませんでした」


 椿がティナにペンダント型の魔道具を返却して、報告する。本来彼女は王宮に仕掛けられた隠蔽魔術妨害の術式を誤魔化せるクラスの隠蔽魔術を使えないのだが、ティナの発明した隠蔽用の魔導具をテストを兼ねて使用していたのであった。

 ステラの場合見つかればカイトが『勇者カイト』だと認めている様な物なので、この二人が、カイトの護衛として密かに潜んでいたのである。


「グライア達も、お節介サンキュ」

「いや、余らも久方ぶりに面白い戦いが見られた。お節介を焼いた甲斐があった」

「意外。カイトと戦える棋士が居たなんて」


 カイトの感謝の言葉に、グライアとグインが少し意外そうに驚きを露わにする。何時も通り途中から寝そうになっていたグインだが、リオンが殊の外奮闘するので、目が覚めたのである。そうしてそんな二人と同じく、ティアも驚きを露わにする。


「妾も此奴とまともに打ち合える者なぞ久方見ておらんのう」

「おいおい……一人じゃなかったのか?」


 カイトにリオンが苦笑しながら問いかける。ここは国王が私的な空間として使用する為かなり厳重な結界が敷かれていたのだが、そんなことはお構いなしに隠蔽の魔術を使用して侵入してみせた彼女らに、さしものリオンも苦笑するしか無かったのである。まあ、古龍(エルダー・ドラゴン)という事を考えれば、容易に納得は出来たが。


「悪いな。ま、さすがに敵陣……かもしれない場所に行くのに、切り札の一つはもっておかないとな」

「……切り札、ね」


 見せ札(グライア達)の一つ一つが圧倒的な力を持っているのに、切り札(ティナ)まで隠し持っていたのだ。その用心のしっぷりに、リオンが少しの感心と、かなりの呆れを得た。とは言え、呆れてもいられない。それ故、カイトは改めて、本来の名前と肩書で自己紹介を行う事にした。


「まずは、改めて自己紹介を。カイト・マクダウェル。エンテシア皇国マクダウェル公爵家現当主……と言っても復帰はしていないが、な」

「余はユスティーナ・ミストルティン。先々代魔王にして、公爵夫人……の予定じゃ」


 二人共、座ったままであるが、簡潔に自己紹介を行う。それに対して、リオンも簡潔に自己紹介を行った。


「アルテミシア王国第一王女スレイ・アルテミシアが婿、リオンハルト・エンテシア。元エンテシア皇国第一皇子だ。そして……こっちが俺の宝。妻のスレイと、息子のシリウス、娘のフレイヤだ」


 カイト達が正式に自己紹介をした事を受けて、リオンもまた、正式な身分を以って自己紹介を行う。そうして挨拶が終わった所で、カイトが改めて問い掛けた。それはとある魔道具の供出に関する事だった。可能である可能性は、カイトも把握している。が、それが可能かどうかは別だ。


「で、<<導きの双玉>>は本当に可能なのか?」

「元々ウチには要らない物だからな」


 あっさりと言い放つリオンに対して、カイトは少しだけ呆れる。カイトからも認められる事実であるが、あっけらかんとし過ぎていたのだ。そして彼の血筋からしても、それは大切に扱って然るべき品であるはずだ。それ故、カイトがそれを指摘する。


「おいおい……実家の国宝だろ……」

「だって、いらねーもん。建国以来あんたが活躍した大戦でも主体として使った事ないぞ、この国。一個返却して、消費期限切れ近いの貰っても問題無いねー。義父殿も別にいい、っておっしゃったしな」


 カイトの言葉に、リオンが何処か嘆き混じりに告げる。実はリオンの実家ことエンテシア皇国の国宝だが、リオンの言う通り、生物ではないが消費期限があったのである。

 カイトが掴んだ情報とは、このエンテシア皇国皇城が有する国宝の一つが消費期限切れが近い、ということなのであった。そうなれば、後は使えなくなるのを待つだけだ。

 通例として使う見込みの無いこの国宝<<導きの双玉>>は研究用に資料として研究機関に貸し出されるぐらいが関の山なので、地球へと連絡を送る手段として利用する為にもらえないかな、とカイト達は考えていたのである。

 と、そんな分かる者だけで分かる会話を繰り広げた二人に対して、リオンの膝上のフレイヤが父に問いかける。


「ねー、とーさま。<<導きの双玉>>ってなにー?」

「ん? ああ、<<導きの双玉>>ってのは、まあ、ウチにとーさんの実家から貸してもらってる宝玉だ。こいつは2つで1つで、片方を使うと、望んだ場所へ行けて、一定時間経つともう片方の場所へ戻ってくるっていうお宝だ」

「へー」


 リオンは娘の問い掛けに簡単に言ったが、これはそんな生易しい物ではなかった。まあ、娘が幼いが故に簡単に語ったのであるが。

 この<<導きの双玉>>は軍事的に利用すれば、とんでもない戦略兵器となる。送る量と距離に比例した上限こそあるが、とある特殊な事情から、基本的にはこれを防ぐ方法は存在していなかったのだ。つまり、どんな強固な防御を施そうとも、問答無用に軍勢を叩き込めるのである。皇国の軍事上の切り札でもあった。

 この<<導きの双玉>>だが、製法は厳に秘匿とされており、皇城の中でも最奥の一角、初代皇王が作った部屋でしか作れず、しかも、その部屋へと入れたからと言って、作れるわけでは無かった。いつの間にか、部屋に出現する為、<<導きの双玉>>がどうやってできているのか誰も分からないのだ。

 製作期間は1組12ヶ月、すなわち、年4組。製造方法は上述の通り不明。初代皇王の特殊な出自から、この部屋を量産することは出来ず、また、どういう理由かは不明だが、初代皇王が残さなかった為、部屋を量産する事も不可能。こういった経緯に加えて初代皇王の残した絶大な力を持つ宝なので、皇国の国宝に指定されている魔道具だった。

 国宝である<<導きの双玉>>だが、軍事的有用性から皇国と関わりの深い国との軍事支援を融通しあうという名目で同盟各国に配られており、その中には当然、アルテミシア王国も含まれていた。

 リオンはその王国が持つ1つを皇国へと返却し、カイト達への報酬として消費期限切れが近い物を渡そう、というのだ。度量を見せた事にもなるし、アウラが居る今なら、世界を越える魔道具に改良出来る可能性は無くはない。カイトが自分の正体の露呈の可能性になり得るアウラの存在の公表に踏み切った理由の一つが、これへの布石だった。


「まあ、さっきも言ったけど、実家にある一個の消費期限切れが近いんだとよ。一個につき20年だからな。よく切れてる……って、言う必要も無いか」

「オレ……というかオレ達はバカスカ使いまくったからな」


 リオンの言葉にカイトが苦笑して頷く。この国宝と縁が深い英雄といえば、まずカイトが挙げられるぐらいだ。それ故にカイトのほうが下手をするとリオンよりも遥かに見知っていたのである。と、そこで漸く事態が飲み込めたらしいシリウスが驚きの声を上げた。


「え、父上! ちょっと待って下さい! 勇者カイト?」

「はい、殿下。勇者カイト、及び、魔帝ユスティーナ。殿下の御父上のご慈悲により、ここに相見える事となった次第です」

「本物?」

「はい、殿下。なんな……いや、言う前に出てこようとすんな。引っ込め」


 カイトは柔和な笑顔でシリウスに応対していたわけだが、その途中で顔色を変える。なんなら大精霊でもお呼びいたしましょうか、と言おうとして、その前にシルフィが出てこようとしたので引っ込むように言ったのである。口は禍の元、である。そんなカイトの様子から何があったかを把握して、ティアが苦笑しながら呟いた。


「相変わらず自由気ままなお方じゃな」

「仕方ないだろ……まさに風の如く、自由気ままに。それが、エネフィアの風の大精霊が風の顕現たる所以だ」

「シルフィ様は日焼けは大丈夫なのか?」


 何処か楽しむように呟いたカイトに対して、グライアがふと、海水浴で日焼けしていたシルフィを思い出す。かなりいい色に焼けていたのだが、どうやら大精霊も日焼けできるようであった。


「どうなんだろ……シルフィ」

「なにー?」


 カイトの求めに応じて顕現したシルフィだが、見える素肌は水着の日焼け跡が残る、健康的な小麦色の肌であった。


「日焼けは……してるな?」

「うん」

「風呂は?」

「え? まだだよ?」


 カイトの問い掛けを受けて、シルフィが首を傾げる。カイトの精神世界には、当然のことながら大精霊達の要望によりお風呂も存在している。旅館の豪華な大温泉から、個人用のお風呂まで様々だ。種類も豊富で、檜風呂も薬湯も最新式のジェットバスまで各種取り揃えている。まあ、ここまで取り揃えても利用するのは大精霊達と桜華、内側に引っ込んだカイトだけだが。


「……そっか。ゆっくりな」


 カイトは内心でニヤリ、と笑いながら、シルフィに告げる。それと同時に、こういった場合に最も有力な手札であるディーネに対して、日焼けした者への対処――ユリィ談――を教える。実は意外とディーネや他の大精霊達も悪戯好きなのであった。


「うん、じゃねー」


 カイトの要件が終わったのを見て、シルフィが消える。ちなみに、その数時間後。久々にディーネと一緒にお風呂に入ったシルフィの悲鳴とカイトに対する文句が延々とカイトの脳裏に響き渡ったのだが、カイトはそこまで考えていなかった。


「……はは、すっげ」


 リオンが今の光景を見て、引き攣りながらも笑みを浮かべる。神話や伝説でしか見れない、大精霊の姿を目の当たりにしたのだから、当然であった。そうして、リオンは息子に負けず劣らず好奇心旺盛な顔で、カイトに問いかける。


「なあ! じゃあもしかして、他の大精霊様とか呼べんのか!」 

「あたりまえだろ。全員から祝福を得たってのは伊達じゃない」

「すっげ! じゃあよ、あの……」


 そうして、二人の大人達は子供達を置いてきぼりにして会話をするが、10分程続いたところで、スレイがリオンを止めた。


「いい加減に、お仕事の話をされては? 時間がなくなりますわ」

「……おっと。それで、<<導きの双玉>>だが、依頼を受けてくれれば可能だろ。親父も無駄に消費期限切れにするより、国宝を与えた、ってことで度量も示せるし、あんたらにも利益がでかい。大方ユスティーナ様とアウローラ様のこった。改造すりゃ異世界にでも送れるんだろ?」

「理論上は、じゃったな。何より幸運じゃったのはアウラが見つかった事じゃ。お陰で空間魔術の理論が飛躍的に進んだ。後は現物さえあれば、小さめの物であれば送れるじゃろう」


 その結果が上がった時点で、カイトとティナは今の天桜学園の状況をハードディスクへと記録し、日本に居るソラの父親――ソラの父親は現内閣総理大臣――宛てに送ろうと考えていた。一度、カイトが地球では彼の配下にあたる、海棠翁の兄の蘇芳翁を通してソラの父親に連絡でも送れば、密かに回収してもらうぐらいは可能だろう、という考えだったのである。


「だが、気前がいいな」

「あん? だから言ったろ? 俺達アルテミシア王国には必要がない、なら、いっそ勇者相手に貸しを作った方が得だ」


 カイトの問い掛けに、リオンが笑いながら告げる。これは道理であった。国防上からみても、経済的にみても、公爵カイトとのコネを得ておくのは悪くない。なにせ大陸でも有数のお金持ちで、軍事力の持ち手だ。ここでカイトに貸しを作っておくのは、今の彼が所属するアルテミシア王国として決して悪い事では無かった。そう裏表なく断言した彼に、カイトはさぞや貴族たちとの腹芸は苦痛だろう、と思った。

 基本的にリオンは裏表の無い人物だ。性格もどこか子供っぽい所が消えきっていないし、もしかしたら似たような性格のソラと相性が合うかもしれない。

 が、そうであるが故に、ソラと同じくあまり政治には向いていない性格だ。確かに才能としては高いのだろうが、向いているかいないかは、別だ。天性と適正の差だろう。


「まあ、一度俺が皇城に行く事になるだろーけどな。ま、親父がシリウスとフレイヤの顔見せに来いっつってうるせーし」

「そりゃまた」

「獅子と言われども、孫は可愛いんじゃのう」


 カイトとティナは、嫌そうにするリオンを見て、そう苦笑した様に笑う。やはり親子で揉めたとは言え、子は鎹とも言う。孫の存在が和解の一因なのだろう。そんな二人に恥ずかしげなリオンであったが、気を取り直して、カイトに告げる。


「まあ、ここはあんたの正体を見抜いた俺へのご褒美と俺の顔立てて、借りとして受け取ってくれ」

「……まあ、そういうことなら、借りとくか。欲しいのは事実だしな……これで、取り敢えずの関門は突破したな」


 カイトはティナの方を向いて、最大関門の突破を喜ぶ。彼としても地球に残してきた家族に消息を伝えられるのは嬉しかった。それに対して、ティナが別の意味で喜びを浮かべた。


「うむ。久しぶりにやりがいある改造になりそうじゃ」

「じゃ、商談成立か?」

「ああ、その依頼、喜んで引き受けよう」


 カイトが正式に依頼の受諾を受け入れて、二人は握手を交わし、正式に依頼の受諾が成立したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第338話『一つの真実』


 2016年1月27日 追記

・誤表記修正

『ここでカイトに借りを~』となっていた所を、『ここでカイトに貸しを~』に修正しました。借りを作ったら可怪しいですね。

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