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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十八章 一つの決意編
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第335話 謁見 ――アルテミシア王国――

 カイト達が謁見の間に入室したと同時に、先程までとは別種のざわめきが、謁見の間に蔓延する。それは先程までのクズハ達やグライア達という美女に対する感嘆のざわめきとは違い、何処か値踏みするような感じだった。


「あれが……地球の人間族ですか」


 とある貴族が、カイト達が入室したのに気付いて、興味深げに観察する。


「ふーむ、此方の人間族と変わりありませんな」

「とは言え……あの先頭の男の左右に控える男女は、誰も彼も美男美女。まこと、美しい」

「ふむ、あれでは真ん中の……カイト・アマネでしたかな?と呼ばれる冒険者が霞んでしまいますな。彼も悪くは無い、のですがね」

「それに……御覧なさい。後ろの者達のなんと怯えた様子。これでは少々居た堪れないですね」


 貴族達は口々に若干の嘲笑混じりの様々な論評を下しつつ、カイト達を観察する。彼らには、何故このような男にリオンが注目するのか、全く理解出来なかった。しかし、それにも例外は居る。


「……なんだ、あれは」


 畏れに近い何かを持って、とある貴族がカイトを見据える。ごく一部、先の平和ボケした貴族たちとは違い、前線に立つことも多い貴族たちは気付いていた。


「……あれが、一端の冒険者、だと? どこぞの王と言われた方が納得できるぞ……」


 気づいた者は全て、内心では失礼であると把握しながらも、強引に理解させられて、恐れ慄く。何を理解させられたのか。それは彼が、自分たちが仕える主よりも、圧倒的に格上の存在だ、ということだ。

 カイトにはそれだけの覇気があったのだ。見た目に惑わされるのでは無く、その全てを、本質を見抜く。貴族として最も重要な技能の一つで、最も習得が困難な技能。それが出来ればこそ、の畏れだった。




 そんな状況から少しだけ、時が遡る。控室から大広間へ続く通路を歩き、大広間に入る直前、最先頭を行くカイトは後ろを振り返った。


「さて、ここから歩いて行くわけだが……全員、堂々と、歩いてくれ」


 大広間への扉が開く前に、カイトが全員に告げるが、既にカイトの知己達で慣れた桜達はともかく、教員を挟んだ更に後ろの生徒達は不安げであった。


「ど、堂々ったって……無理だろ」


 完全に緊張に飲まれながら、ある男子生徒が答えた。恐らく、顔には暑さではない汗が流れ、背中にも汗がびっしょりと掻いているのであろう。それぐらいはカイトで無くても、手に取るように理解出来た。

 というわけで、カイトは実演して見せる事にする。真似る事からでも、始められるのだ。だがどうするのかわからない限り、言った所で無駄なのだ。だからこそ、カイトは何時もは纏わぬ威風をうっすらと纏い、歩き始める事にする。


「ま、オレがやった様に歩いてくれ」


 そう言って、カイトは前を向いて、ほんの少しだけ公爵としての威風を纏う。流石に何時もの覇気は纏った所で、彼らには真似が出来ない。なので、僅かばかりの堂々とした威風を纏ったのだ。

 そうして、扉の開閉を行う係の者へと頷く。カイトに飲まれた係の者は一瞬停止するが、頷き返して扉を開ける。そうして、カイトは堂々と、歩き始めた。


「俺達も行くぞ」

「はい」

「ええ」


 瞬につづいて、桜、瑞樹が入室する。三人共堂々と、ではないが、淀みなく一切の緊張を感じさせない歩みであった。


「さすがに、私達はああはいかないわね」

「あら、カイトよりは、あっちで並ぶお貴族様は全然オーラを感じないわ」

「あはは、カイトさんは、まあ……うん。仕方ないよ」


 3人は、先に行った瞬達に続いて、弥生達3人が気負い無く大広間へと入室する。そうして、その後に、桜田校長を先頭として教員たちが続き、最後に、おっかなびっくりな生徒達が大広間へと入って行く。


「さて、どの程度が気づくか……」


 カイトは内心で笑みを浮かべながら、堂々とした態度で指定された場所まで歩いて行く。その道中、半ばまで来たところで、カイトは周囲を確認し、自分の纏う小さな威風に気付いた貴族の数を数え、少しではない落胆を得た。嘲笑が多すぎたのだ。気付いているなら、カイトが威風を纏っている時点で、そのような嘲笑を浮かべられる筈は無い。


「いくら観光立国と言えど……まあ、仕方が無いか」


 アルテミシア王国は、治安維持こそ自分たちで行っているものの、それ以外の軍事の多くは皇国からの支援で成り立っていた。その為、貴族たちの中には、実戦をしたことがない、という貴族も居るほどである。これは文化風習の差なので、カイトとしても嘲笑するつもりも呆れるつもりも無い。嘆くつもりはあったが。

 そうして、カイトは道の半分程を通過した次の一歩を地面につける直前、冒険者では無く勇者としての威風と、公爵としての覇気を纏う。その瞬間、ざわついていた貴族たちのお喋りや嘲笑が、全て止んだ。


「これで、少しはやりやすくなる」


 後ろの生徒達――と多摩川教諭――の中には、投げかけられる嘲笑などで緊張している者や怯えている者も少なくはなかった。貴族たちを黙らせないことには、彼女らがなんらかのミスをしてしまい、揚げ足を取られる可能性が高かった。

 なのでカイトは、グライア達が時折警告として撒き散らす威圧感と同質で、それ以上の威圧を放出することにしたのだ。それを受けた貴族たちは、案の定、何処かの馬鹿が度の過ぎた嘲笑を行い、グライア達を怒らせたと思って黙りこくったのだ。


「……馬鹿か、あいつら。節穴でなければ、入ってきた時点で隠された威風に気付かんか……」


 しかし、当人たちからしてみると、愚かしいとしか思えなかった。グライアは自身も少し意識を持って行かれそうになりながら、自分たちを窺い見る貴族たちに呆れ返る。

 どう考えてもこの覇気の出処は自分たちではないのだ。それを自分たちと勘違いするなど、愚かにも程がある。王の器を持つ者に気付かない、というのは、貴族としては下の下だ。貴族(仕える者)(仕えられる者)の格を察せられぬなど、言語道断であった。


「仕方があるまい。アルテミシア建国以降数百年、本当の覇王の器を持つ者など、滅多におうておらんじゃろうよ」


 ティアが扇子の下で苦笑を浮かべながら、威風を纏って歩いて行くカイトを観察する。カイトが去ってから300年。歴史の表にこそ出なかったものの、彼女らもそれなりに王国貴族達と会っている。そうして、彼女らはある一つの認識を一致させていた。それは、ある種当たり前の事だ。だが、人類史を長い時間見続けた彼女達だからこそ、実感出来た事だった。


「あのレベルの威圧ともなると、妾が知る限り、歴史上でもウィルやルクスらあ奴の仲間しかおるまい。少し劣って、初代皇王じゃろう。あれは弱かったからのう。威圧感は出せなんだ。まあ、人徳に優れておったから、その分の別種の覇気には溢れておったがな。まあ、そうであれば、妾らと思われても仕方があるまい」


 ティアが続けて、残りの二人に問い掛ける。彼女らの長い月日の中で、王として、もしくは英雄として圧倒的な格を有していた者は数少ない。その中で、自分たちさえ跪かせられる威風を纏っていたのは、只唯一、カイトだけであった。


「あれは……別だろう。まあ、誰もが目を離せない、と言う意味なら、カイトと同じか」


 彼と親交の深いグライアが、久しく忘れていた初代エンテシア皇国皇王を思い出して苦笑する。彼女は国母とまで謳われる存在だ。誰よりも、初代皇王をよく知っていた。それ故にそのバカっぷりもよく知っていたのである。だからこそ、彼女は少し懐かしげに、それを呟いた。


「あれは……まあ、あれは馬鹿だ……馬鹿な奴だった……それと……面白い奴だった。無数の世界を見て、無数の世界を渡った私でも、久しぶりに面白いと思えた。奴が手を貸したくなるのも、よく理解出来る」


 何処か遠くを見つめてそう言う彼女の顔は、何処か懐かしげで、何処か優しげで、そして、何処か、辛そうであった。そうして、グライアは、何処かの憐憫と懇願を含んだ口調で、ある秘密を共有している残る二人に問い掛ける。


「……幸せになってくれると思うか?」

「……してやるじゃろう。妾には、それを願うしか出来ぬ」

「……余も、それしか出来ぬな……」


 威風を纏い、全ての者の注目を一身に集める覇王の行進を、二人は真剣な目で見据える。二人共、否、グインさえも自らの身を含めて、彼に全てを託したのだ。それ故、彼女らは彼に全幅の信頼を置く。


「因果は廻る。一見意味のない行動でも、何処かで……遠い未来にさえ、繋がってる。レヴァの行動も同じ」

「レヴァの……か。奴は一体何を考え、何を思い、何故、今に繋がる道を示したのか……あれの行動だけは、余にもわからんな。奴は未来をも知っていたと思うか?」


 グインの言葉に、二人は彼なら、とある考えに至る。唯一公式には存在さえ確認がされていない彼は、遠い過去から、この今の状況を見据えていた可能性が十分にあったのだ。


「……ううん。それはない。彼は知らなかった。それは確実」


 二人が考えに至った答えに、グインが否定する。だが、そうして否定して、更に思考して、それが何かが可怪しい様な気がして、再び首を振った。


「知っていたなら、彼は回避しようと……ううん……知っていても、放置し……でも、それなら……」

「もう止めよ。この場におらぬ者の事を考えた所で、答えは出ん」


 うんうんと唸って悩み始めるグインに、グライアが苦笑してストップを掛けた。このままでは、延々と悩み続ける事になりそうだったのだ。

 実は意外な事に、グインはかなり思慮深い。古龍(エルダー・ドラゴン)の中では一番、と言って良い。面倒だから、と眠る仁龍とは違い、彼女は脳が疲れたから眠っているのを、実は彼女をよく知る面々は知っている。

 とは言え、それ故にここらで止めないと、王族や貴族お構い無しに延々に考えこんで疲れたから、と平然と眠る事になりかねない。思慮深いが、同時にあまり何も気にしていないのは事実だ。如何に大凡の無礼を許される彼女らとて、これはいささか度が過ぎるだろう、と思ったのである。

 そうして、なんとかグインを引き戻す事に成功した二人は、グインと共に、再び覇王の行進を観察する事にするのだった。




「何をやってるんだ?あいつら」


 カイトはボソリ、と小声で呟いた。見ているのは、苦笑しているグライアとティア、そして、今にも知恵熱を出しそうなグインであった。


「まあ、いいか」


 カイトは指定された場所まで辿り着くと、その場で片膝をついて右手を胸にあて、跪いた。一切の淀みなく行われたその行動に、貴族たちが感嘆の声を上げる。煩型の貴族達からみても、一切の文句の付けようがない完璧な皇国式の礼であった。


「ほぅ……あれは付け焼き刃ではありませんな」


 ある貴族が、カイトの動作が一部の隙もない事に感心する。とは言え、これは全ての貴族達に共通する認識だった。


「まるで10年以上も慣れ親しんだかの様な動作……もし前情報も無しに見れば、貴族の門弟と言われても納得しますわね。それほどに完璧ですわ」


 貴族たちが、カイトの顔を興味深げに観察する。もはや誰も、カイトを侮ろうとする者は居なかった。この者は、自分たちと相対するために、万全を期している。ここまでの態度や威風を見れば、それは平和ボケしている貴族達にも理解出来た。

 下手な応対は此方の失策になりかねない。それを、全ての出席者が理解した。そして理解すれば、全ての貴族達も、襟を正す。油断出来ない相手と理解して油断する様な貴族は、平和ボケした国でも貴族ではいられない。そうして、先の嘲笑含みの観察とは違い、一挙手一投足を先とは別に値踏みする様に、貴族達が観察する。


「ほう……後ろのあの少女のなんと優雅な……」

「右横の男は皇国騎士と言われても納得できるな……あれほどの淀みない軍礼が、ウチの部下のどれだけにできるか……全く、帰ったら一度、全員に礼儀作法の具合を確認してみるか」


 カイトに続いて、桜が令嬢が行う優雅な一礼を行い、瞬が淀みない――若干カイトよりも固さはあるが――軍人が行うビシッとした一礼を行い、跪く。

 その次は、弥生達3人だ。彼女らも、桜と同じく完璧な優雅な一礼を行う。しかし、完璧であったのは、その次の桜田校長までだ。


「まあ、本来はこのような動作が本当なのでしょうな」

「逆に全員があの男(カイト)の様な完璧な動作を行われても困りますよ」


 カイト達冒険部の面々と桜田校長の完璧な所作に圧倒された貴族たちだが、続く者達の動作を見て、安堵を得た。

 桜田校長の後ろの教員たちはなんとかぎこちないながらも皇国式の礼を行えた。しかし、その後ろの生徒達は完全にテンパッて、あたふたと礼節も順番もめちゃくちゃな一礼をしてしまう。少しの失笑が漏れるが、それは安堵故だ。もし日本の全員がこのレベルで仕上げてきたとなると、もはや彼らの立つ瀬がない。それは仕方がなくあったが、ともあれ、カイト達が頭を垂れた所で、再び兵士が声を上げた。


「アルテミシア王国国王テオドア・アルテミシア陛下、王妃レイア様御入来! 続いてスレイ殿下とご家族様御入来!」


 そう告げられた瞬間、全ての貴族たちも含めて全員が頭を垂れる。そうして、それを確認して、玉座の近くの扉が開き、一人の50前の男性が同じぐらいの年頃の女性を伴って入ってきた。二人の頭には王である事を示す王冠と、王妃である事を示すティアラがあった。

 その次に、褐色の肌で赤髪の美女と、真紅の髪を持つ精悍な男が、二人の子供を伴って、部屋へと入って来た。先頭の二人が玉座に腰掛けると、王冠を被った男が声を発する。


「皆、よく集まってくれた。まずは、頭を上げよ」


 それに従い、貴族たちとカイト達が頭を上げる。見えたテオドアの顔は、深い皺が刻まれているが、少なくとも、衰えを感じさせるモノではなく、深い思慮を感じせる顔へと印象付けている。


「そなたらが、異世界日本の客人か。此度はよく訪れてくれた」

「ありがとうございます、陛下。陛下のご慈悲により、此度の我らの来訪が叶いました事、まこと、恐悦の至りであります」

「うむ。此度の依頼は理解していると思うが、そなたらにはかの勇者の故国であるニホンの事についてを、王宮勤めの貴族たちや詩人達に語って聞かせてやって欲しい。皆、異世界ニホンについては興味があってな。余も、楽しみだ」

「ありがたきお言葉。かの勇者がどのような物を見て、聞いたかはわかりませんが、同郷の者として、彼の見た景色等も見ている事でしょう。お伝えできるかぎり、お伝え致しましょう。とは言え、ここに居並ぶ我らは単に学び舎に通う未だ若輩の身。日本の政治体系などは、後ろの教員達にお聞きいただきたく」

「うむ」


 流れるように淀みなく交わされる王とカイトの会話に、貴族たちが漸くリオンの慧眼を思い知る。口には出さないが、誰もが一切の緊張も無く王と会話する様を見て、只者では無い、と把握したのだ。

 そうして二人の会話に、この場を設けたリオンの慧眼に、誰もが感嘆をもって、彼が嘗て神童と呼ばれた事を思い出し、未だ神童は衰えず、と内心で思い知ったのであった。そんな感心の間にも、会話は続いていき、芸事に関する事になっていた。


「皆には少し準備をさせますので、少々お待ち頂きたく」

「うむ。楽しみにしよう」


 カイトが会話の切り上げを提案し、国王がそれを認める。


「して、悪いが、カイトよ。そなたには、我が娘、スレイとその家族へと地球についてを語ってやって欲しい。スマヌが、頼めるか?」

「はい」


 既に打ち合わせが行われた事なので、これは単なる確認に過ぎない。そうして、国王の横に優雅に立っていた、褐色と赤髪の美女が一歩前に出てきた。


「スレイ・アルテミシアですわ、異世界の冒険者殿」

「カイト・アマネです。スレイ様」

「はい、では、カイト殿。申し訳ありませんが、貴方には、私と、我が夫、そして、二人の子供達にお話をお聞かせください」

「御意に」


 許可が出た事で準備を始める学園の関係者達を背に、カイトはスレイに案内され、彼女の家族に与えられたエリアへと、向かうのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第336話『相見える』

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