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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十八章 一つの決意編
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第334話 控室にて

 ホテルでの相談から、数日後の夕方頃。一同はアルテミシア王国王宮の前に到着していた。今日から数日に渡る会合の為、300年ぶりに王宮を訪れたのであった。目の前の王宮は、嘗てと変わらぬ威容を誇りながら、物々しい警備が敷かれていた。


「300年前から、あまり変わらないな」

「まあ王宮だからねー。戦争で焼け落ちない限りは、そうそう大規模な改修なんて出来ないよ。その焼け落ちるのだって普通に考えれば国終わっちゃうしねー。立て直したの皇国ぐらいじゃない?」

「その皇国もオレら居ないと完璧に終わってたけどな」

「あはは……まあでも、中身は一変してるよ。特に上下水道は完備されてるし、通信施設なんかも整理されてる。おんなじなのは間取りぐらいかなー」


 カイトの言葉に苦笑して、ユリィが少し前を思い出して答える。彼女も一応、ここに婿入りしたリオンの担当教師の一人である。それ故、結婚式には呼ばれたのであった。


「そうか……まあ、この王宮にいい思い出無いけどな」

「そりゃ、やれ旅のお話してくれ、だからねー」

「まあ、そう言う意味じゃ、今回も一緒か……感慨深いな」


 ユリィの言葉にカイトは何処か感慨深い物を感じつつ、後ろに控える生徒達に注目する。誰もが、緊張でこわばっていた。


「あー、言っても無駄だろうが、緊張するな」

「しない天音が可怪しいのよ!」


 カイトの言葉にバンド担当の女生徒――ちなみに、彼女らバンドメンバーはカイトのクラスメイトである――が声を荒げる。当たり前だが、彼女の声は緊張で少し震えていた。


「喉痛めるなよ? ボーカルなんだから」

「うぅ……わかってるわよ……」

「お、王様の前でバンドって……うぁー!」


 そう言って、同じくバンドをする男子生徒が頭を抱える。まあ、当然ではあるが、彼らだけでなく教師たちを含めた全員が全員、王様と会うとなってかなり緊張に包まれているのであった。


「お前はやはり、さすがか?」


 そんな一同を見ながら、夜用の正装に身を包んだ瞬が、カイトに問いかける。瞬は軍人の着る正装だが、対して、カイトは貴族が着る、漆黒の正装を着込んでいた。ちなみに、一応は礼儀なので演目を行う面子以外は、全員が正装を着込んでいた。


「これでも、貴族歴長いからな。伊達に異邦の勇者なんて言われてない。世界各地の王城から何度もお招きはあったさ」


 カイトは人生の半分程度を公爵として生活している。皇城へ呼ばれた回数――密入も含め――も、三桁を下らない。それ以外の王城や貴族の城じみた屋敷などへの来訪を数えれば、4桁に届くだろう。さすがに一般家庭出身のカイトも既に慣れていたのだ。

 と、そんな彼に対して、桜が疑問を呈した。それは普通には居るだろう人物が居ない事に対して、である。


「でも、意外です。ティナちゃんもてっきり来ると思ってたんですが……」


 こういう場である以上、最悪を想定して、ティナも来ると思っていたらしい。ちなみに、彼女は桜色の中津国の着物風の服を身に纏っている。前の伝手で燈火を経由して買ったのである。

 他に着物なのは、桜田校長や数人の教師たちである。彼らは全員壮年を超えた所に居る教師達で、ドレスよりも着物が似合った為、こちらにしたのであった。と、そんな桜に対して、カイトが不敵に笑って問い掛ける。


「おいおい……今の布陣で何か問題があっても対処出来ないと思ってるのか?」

「ふふ、それに、余もティアもグインも来ると聞いて、馬鹿をする者はいない」


 真紅のドレスに身を包んだグライアが、笑いながらカイトの言葉を肯定する。ちなみに、彼女がドレスを着るのは非常に稀で、カイトでも久しぶりに見た、と言う程だった。


「とは言え、これだけおっても問題じゃな……本当ならば妾がエスコートしてもらいたかったのに……」


 小声で少しだけ残念そうに言うティアに、カイトは苦笑する。とは言え、そう出来ないのは仕方がない。これだけカイトの周囲に女性面子が多ければ、さすがにエスコートしきれないのであった。と言うよりそもそも、彼女のエスコートをして良い立場でも無い。

 そんな彼女は今、白龍神姫の二つ名に相応しい、純白のドレスに身を包んでいる。まあ、彼女の場合は何時も白いドレスだが、何時もよりも豪華さがあった。


「……でも、これは初めて」


 グインが久々に目を見開いて、目の前の光景を記憶している。嘗ては幼かった少女たちが、今ではカイトの側で見る者を見惚れさせる華と化し、グライア達に負けないぐらいに誰もが咲き誇っていた。そんな光景に、彼女の美的センスが触発されたらしい。


「カイト、エスコート」

「……アウラ? さすがに遠慮しましょうね?」


 抜け駆けしたのは、アウラだ。彼女は他の生徒達の前であるのに、カイトにベタベタとひっつくのを止めるつもりは無かったのである。まあ、それでも一応は魔術で他の生徒達には気付かれない様にしているのは、唯一の配慮だろう。それでもクズハによって、すぐに引き剥がされるのだが。

 ちなみに、アウラのスタイルが大幅に変化していたので、新たに彼女用のドレスを幾つも新調しなければならなかった。それによりクズハが臍を噛んだのは、横においておく。

 そんな二人の様子に、ユリィがやれやれ、と肩を竦め、カイトは前を向く。そうして、目の前で此方も緊張に包まれている門番に、語りかける事にした。


「マクダウェル公爵家の保護下にある天桜学園より招待与ったカイト・アマネとその麾下の冒険者6名、それとお伝えしていた演者達だ。王へと来訪を伝えていただきたい」

「彼らの身は私達公爵家が保証致します。陛下に取り次ぎを」


 カイトは公爵としての威風を纏い、門番へと告げる。そしてそれに続いて、我を取り戻したクズハが後ろから現れた風を装って、カイト達の身元を保証する。カイトが威風を纏ったのは、怪しまれるのよりも要らぬ揚げ足を取られる方を危惧したからだ。

 そんなカイトに門番は一瞬威風にあてられるも、そんな事は一切見せずに即座に我を取り戻した。グライア達が来ると聞いて、門番には本来回されない筈の地位にいる兵士を配置していたお陰であった。

 とは言え、そんな門番達はカイトの後ろに控える美姫達と奇妙な衣装――弥生と公爵家の服飾チームが作った地球風の服――を着たバンドメンバーらの集団に目移りするも、その中でも特段の美女――グライア達3人――を見つけ、緊張を滲ませながら、ビシッ、と敬礼し、それに応ずるのであった。




「此方が、皆さんの控室になります。国王陛下、ご息女スレイ様ご家族のご用意が整うまで、此方でお待ちください。もし、マクダウェル家の方とお話がある場合は、隣室へとお尋ねください」


 案内の従者から控室へと通された一同は、一度控室で相談を始める。


「弥生さん、ありがとうございます。」


 ニヤリ、と控室に入った途端に笑みを浮かべたカイトは、椅子に腰掛けるや開口一番で弥生に礼を述べる。ちなみに、今回カイトが連れてきた冒険者6人は、瞬、桜、弥生達三姉妹、そして瑞樹、であった。

 この人選には当然だが、意味がある。桜と瑞樹は冒険部の上層部で教養も深いし、瞬は冒険部の頂点の一人だ。この三人は当然である。それに対して弥生達が入ったのは、必然だ。

 バンドメンバーの衣服が独特なのは見ればわかるし、そうなればそれに質問が飛ぶのは必然だ。となれば、デザイナーの弥生は必須で、その補佐にセンスの高い皐月も必要だ。それについでだし料理への話が飛んだ場合には、睦月の知恵もありがたい。分けるのもな、ということで一緒にしたのである。


「いいわよ、別に。久々に革ジャケットとか作れて楽しかったし」

「いや、それでも助かった」

「カイトさん?顔がいやらしいですわ」


 瑞樹が苦笑しながら、カイトを窘める。カイトは策が成った時に時折見せる、悪どい顔をしていた。とは言え、そんな顔になりたくなるのも無理は無い。


「おっと……だが、掴みは完璧だな」


 カイトは悪どい笑みを引っ込めて、真剣な顔に戻る。カイトは意味もなく連れてきた生徒達に、役割に合った衣服を着せたわけではなかった。

 ここまで王宮の外門から控室まで、見たこともない服装の集団は王宮に務める貴族やその子弟、従者達の関心と興味を一身に集めていた。それを狙ったのだ。


「え、えっと……あの、天音くん? 何故私までドレスを着させられてるの……?」


 そう言うのはタマちゃんこと、多摩川先生だ。彼女は本来ならばオーケストラの指揮を行うので、此方には来ない筈、であったのだが、カイトの意向によって、彼女は今回の訪問に同行させられていた。しかも、豪華なドレス姿で、である。彼女が気後れするのも無理は無かった。


「申し訳ありません。多摩川先生。ですが、先生が適任でしたので」


 カイトは少し済まなさそうに、多摩川教諭へと謝罪する。だからといっても彼女を帰すつもりはなく、このまま貴族たちの応対に当たらせるつもりである。


「私は……まあ、その、あまり言いたくないんですが、そもそも音楽の才能はありませんし、天道会長や一条会頭、神宮寺さん、神楽坂さん達には、衣服のデザインや、料理等の文化面についての質問に応対をしていただくつもりです。そうなると、後は音楽では先生にお任せするのが適任と考え、推挙させていただきました」


 少し気恥ずかしそうに照れてから、カイトはおっかなびっくりの多摩川へと、理由をしっかりと説明する。桜達も意外な事にこの多摩川も、ともすれば第一線で直ぐにでも活躍出来るほど、日本でも有数の文化面での実力を有している。少なくともその分野に掛けてだけならば、何ら知識の無い貴族達にも揚げ足を取られる事は無い。それ故の推挙だった。


「うう……どうして私が……」

「タマちゃん、ガンバ!……って、あれ?天音は?」


 多摩川教諭を慰める女生徒だが、そこでふと、カイト自身が何をするのか言っていない事に気づいた。それに、カイトは大きく溜め息を吐いた。思い出して、嫌になったのだ。


「オレはお呼びが掛かってるんだよ」


 がくり、と肩を落とすカイトに、女生徒が首を傾げる。


「誰から?」

「エンテシア皇国元第一皇子にして、アルテミシア王国国王の一人娘スレイ・アルテミシア様の夫、リオンハルト・エンテシア殿下から」


 その名を聞いた瞬間、控室が一気に騒がしくなった。国王然りだが、基本的に貴族たちへの応対はみっちりと練習した桜田校長ら教員たちが当る予定だった。それが始まる前から直々にお呼びが掛かったのだから、騒がしくなるのも無理はなかった。


「今朝のことだ。公爵家から通達があってな。殿下が話があるそうなので、向かうように、と」


 これを聞いた瞬間、カイトが思ったのは、逃げ道をつぶされた、である。本当ならば、他の貴族たちの応対にあたり、出会ってものらりくらりと躱す予定であったのだが、向こうから指名されては、逃げることが出来なかった。


「場所は王太子夫妻とそのご子息の控える一角。オレ一人で来い、と」


 何を話し合うつもりなのかはわからない。しかし、少なくとも、荒事にはならない、とカイトは思う。カイトは既にリオンが家族を愛している事を知っている。その彼が、家族を荒事に巻き込む様な事はしない、と踏んだのだ。そして、この読みは正確であった。


「……というわけで、自分は応対に当たれません。後は皆さんでやって頂くしか……」


 そう言ってカイトはすまなさそうに顔を伏せて頭を振る。さすがのカイトもこの状況で各員の援護は出来ない。後は、彼らの実力を信じるしか出来なかった。それに、一緒に来ていた教員の中でも比較的若い教師が若干引き攣った顔で頷いて、問い掛けた。


「あ、ああ……それより、お前の方は大丈夫なのか?」

「それは、さあ、としか……何を聞きたいのかさえ、理解できませんので……」


 これはカイトの本心であった。彼が既にカイトの正体について確証を得ているのか、推論を立てているのか、それだけはカイトにも掴めなかった。とは言え、確証を得ている、とカイトは彼の勘が告げていたので、既に覚悟は決めていた。後はどう躱すか、だった。


「まあ、取り敢えず……学生諸君はミスの無い様、しっかり頑張ってくれ給え。先生方は、生徒らにいらぬ負担を掛けぬよう、しっかりと頑張ろうではありませんか」


 そんなカイトに対して、桜田校長が全員に激励を掛ける。彼はそれなりに名家とも付き合いのあったお陰で、一同の中では、それなりに緊張していない部類に入っていた。

 ちなみに一番緊張していないのは、瑞樹と桜である。その次に、瞬と桜田校長、弥生達3人であった。と、そこで、部屋の扉がノックされる。


「全員、身だしなみは大丈夫だな?……良し。どうぞ」


 カイトは全員に一度身だしなみを整えさせると、ノックへと対応する。カイトが応対したのは、今回は表向き冒険部の依頼だからだ。そうして、カイトの応答を聞いて扉が開き、先ほどの従者が入ってきた。

 

「失礼致します。国王様とスレイ様ご家族のご用意が整いました。これより、ご案内させて頂きます」


 丁寧に頭を下げて、そういった従者は、一同を先導して、歩き始める。そうして、謁見の間代わりに使われると聞いた大広間の近くの控室で、従者は全員に言った。尚、その控室にはグライア達3人に加え、クズハ達公爵家の面々が既に居た。


「これより、国王陛下との謁見の場となります。皆様方は異世界出身として、此方の礼儀作法等は把握していらっしゃらないだろう、と国王陛下との御慈悲により、無作法は許されておりますが、これだけはお守りください。まず、従者の者が陛下の御入来を告げ、陛下が良い、というまで頭を上げてはなりません。次に、演目をなさる方は、一度外に出て、準備をしていただくことになります。舞台は此方でご案内させて頂きますが、その間、外へは一切出られません。お手洗いは有りますが、なるべく、今のうちに済ませておいてください。この中に入るのは、皆様方の名前が呼ばれた後、その順でお入りください」


 続いていく注意事項を一同は胸に刻み込む。そうして、それらが終わった所で、再び従者が頭を下げた。


「では、以上です。以上の事を、お守り頂きたく」

「ありがとうございます。できうる限り、守らさせて頂きます」


 カイトがにこやかな笑みを浮かべ、そう明言したのを確認し、従者は脇にどいた。そうして、暫く後、グライア達の名を告げる声が響いた。


「ふふん、こうやって王城等に正式に入るのは久方ぶりだな。前はウィルの即位式か」

「妾も300年ぶりかのう」

「私は……多分600年ぶり?」

「お前も一緒に居ただろう……」


 三者三様に気負いなく、されど圧倒的なオーラを纏い、3人が入室する。それに伴い、全ての貴族達、従者達が頭を垂る。それに継いで、全ての者から感嘆の声が響き、それが止む事は無かった。

 そして、次にクズハ達の名前を呼ぶ声が告げられる。それにカイトとクズハらは目だけで会話を交わし、小さく頷き合うと、クズハらはカイト達に先んじて、大広間へと入室した。

 それに伴い、響くのは再度の感嘆の声。ティアやグライア、グインといった世界で最も高貴な絶世の美女達や、クズハやユリィ、アウラといった公爵家の美女たちに、男女問わずに見惚れたのであった。


「天桜学園カイト・アマネ。その麾下サクラ・テンドウ、シュン・イチジョウ、ミズキ・ジングウジ、ヤヨイ・カグラザカ、サツキ・カグラザカ、ムツキ・カグラザカ。そして、そのお付きの学園関係者一同、入られます」


 クズハ達に対するどよめきが終わった所で、カイト達を呼ぶ声が響く。今回の一件において、一応は冒険者達への依頼の形を取っているので、カイト達は名前を呼ばれ、その他の面子に関しては、そのお付きとして、処理することとなった。その為、他の面子に関しては名前が呼ばれなかったのである。


「では、全員。失礼の無いように」


 桜田校長がそう言って、全員に最後の確認を取る。そうして、一同は大広間へと続く扉を、くぐったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第335話『謁見』

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