表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
352/3871

第332話 想いの行き着く場所

 すいません。ここの執筆とは別時期に追加でお話を作ったのを忘れていました。次回予告と違いますが、もう一話だけ、海辺でのお話にお付き合いください。

 大精霊達の来襲で終わりを迎えた海水浴であったが、再度、一同は砂浜にやって来ていた。その理由は簡単で、白い砂浜、碧い海、熱い夏、となれば夜は砂浜でバーベキュー大会だろう、という一部生徒達の声に押され、全員水着で夕食はバーベキューになったから、だ。


「綺麗だなー……」

「良いだろ? おすすめの場所だ。今度ナナミさんか由利でも連れて来てやれ……別に二人一緒に、でも良いぞ?」

「俺はお前じゃ無いぞ……」


 静かな砂浜から少し離れた小高い丘の上に、ソラの呆れた様な声が良く通った。同じくバーベキューに参加していたカイトとソラだが、今は二人、腹ごなしを兼ねて歩くか、と少し離れた所で寝そべっていた。

 そうして眺めるのは、環境破壊と化学物質による大気汚染が無いおかげで良く見れる満天の星空だった。男二人でむさ苦しい、とは言わぬが花である。まあ、言わぬが花なのだが、それを指摘した人物が居た。


「なんじゃ、こんな所に男二人で。むさっくるしいのう。これで筋肉ダルマであれば、思わず踏んづける所じゃぞ」

「ああ、ティナちゃ……」


 指摘したのは言わずもがな、ティナだった。そうして起き上がって挨拶の一つでもしようと思ったらしいソラだが、今のティナの姿を見て、思わず停止する。あまりに美しすぎて、思わず見惚れてしまったのだ。


「やっぱ、お前には似合うな」

「であろう?」


 カイトから褒められて何処か誇らしげなティナはソラが意識を停止しているのを良い事に、カイトに寄り掛かると少し嬉しそうにくちづけをねだる。そうしてカイトはそれに応じて、取り敢えず、一度両者は顔を離した。

 さて、そんなティナの水着だが、大人の彼女は情熱的な赤色の水着だった。それも大人の魅力を十二分に発揮出来るように、あまり華美にならず、ブラのフロント部分に金色の輪っかが付いているのが特徴的なだけのシンプルな水着だ。

 だが、それこそが、彼女の元来の美しさを何よりも確たる物にしていた。飾り気がない事こそが、何よりもその当人の味を出すのだ。


「少々、泳いでくる。この姿で出歩ける事も少ないのでのう」

「そうしてこい……オレも、本来の姿に戻るか……どうせこんな所には、誰も来ねえしな……」


 カイトがここらで少しおすすめの場所がある、と移動した所為で、こちらからはバーベキュー会場が見れるが、高さの問題から向こうからは少し注意しなければ、こちらに気付けない場所だった。それ故、カイトもティナも本来の姿に戻っても、問題がなさそうだったのだ。そうしてカイトが本来の姿に戻った所で、ソラが復帰する。


「……あ、あれ? さっきまでティナちゃん居なかったか? で、あれ? お前なんでその姿?」

「ティナなら、泳ぎに行った。オレはどうせこんな所に来る奴は……いや、いたか」


 なんとか女の子と仲良くなろうと必死な男子生徒やそんな男子生徒と話している女子生徒達なので、こんな所に来る奴は居ない、と断言しようとして、一転足音が聞こえてきたのだ。それに、カイトが苦笑する。


「アルと先輩か。どうした?」

「ああ、やっぱりカイトか。ううん、ここに蒼い髪が見えてね。誰かな、って思っただけだよ」

「嘘だな。先輩はそんな所だろうがな」

「よくわかったな……と言うか、アル、嘘だったのか?」


 人生経験の差だろう。カイトは一瞬でアルが嘘を言っている、ということを見抜く。そしてそんなカイトに、アルが少し照れたように頭を掻いて横に腰掛けた。


「あはは、ごめん……ねえ、一つ疑問だったんだけどさ……どうして、ご先祖様は愛を取ったの?」

「そこか……」


 アルの疑問は、長年学者たちが様々な議論を尽くして、それで出せなかった疑問だ。当時のルクスは知れば知る程、大義を取る人物だ。決して、自らの愛を貫く様な存在では無い。それが何故か唐突に翻意するのだ。世間ではやはり愛が勝ったのだ、と言うが、それだけでは無い、というのが、専門家達やアル達子孫の考えだった。

 では、何か、となるが、名誉や栄光等はあり得ない。そもそもそれを捨て去っているのだ。それを優先しているはずが無い。では、金か、となるが、それも逃避行の赤貧生活を知れば、あり得ない、と断言出来る。どれだけ足掻いても答えが出ないのは、当然だった。そうしてそんな問い掛けを出したアルに、カイトは少し茶化す様に問い掛ける。


「何だ、恋にでも目覚めたか?」

「んぐっ……」

「……ただ単に、疑問だっただけだよ。確かにあのお姿を見れば僕もそうなのかな、って思ったけど……伝え聞くご先祖様はまさに騎士だった。その齟齬が何故生まれたのかな、って」

「そうか」


 カイトの茶化しに、瞬が息を呑んで、アルは苦笑気味に否定する。ちなみにカイトはただ単に瞬の一件があったから、茶化しただけだ。そうして、カイトはゆっくりとだが、口を開いた。


「奴は、すんでの所で、人であったから、だ」

「……どういうこと?」

「……なあ、何でも極めてはならない、って理解出来るか?」


 口を開いたカイトは、少し遠い目をしながら問い掛ける。だが、そうして問い掛けた本人が、少しして、訂正した。


「いや、悪い。この言い方は悪かった……正確には、一つの道だ」


 カイトは改めてもう少し詳細に伝えたわけだが、それ故に、なおさら一同には理解が出来なくなる。とは言え、これはカイトにも理解出来ていた事だ。だから彼は、自分達の実例を上げる。


「ルクスで言うなら、騎士道。ウィルで言うならば、王道。オレなら……覇道といった所か。言わば、精神的な道だ……これらは、極めてはならない。これらは人が進む道だが、決して、人の道では無い」

「何が違うんだ?」


 人の道と、人の進む道。その差が理解出来ず、ソラが問い掛ける。どれもこれもが人の道として、挙げられる生き方だ。誰もがそれを極めようとする。それ故に、極めたはずの彼らは誰しもの憧れとなったのだ。

 だが、その他ならぬ極めただろう当人が、それはしてはいけない、と明言し、更にそれは人の道では無い、と断言したのだ。理解出来ないのは、当然だった。そんなソラに対して、カイトは答えを与えるのではなく、ある話をすることにした。


「ある、王様の話をしよう……そいつは荒れている国を立て直す為に、王になった。その時の想いは、ずっと胸にあったそうだ。そうして、そんな国を立て直す為にそいつが進んだ道は、所謂、騎士道と言われる道だった。騎士として正しき道を進み、騎士として正しい在り方を示し、騎士として、弱い民達を救い続けた。そんな、王様だった」


 これはカイトの話でも、カイトの仲間達の話でも無い。だが、カイトの友人の話だった。その当人から聞いた話だからこそ、カイトの言葉には実感が篭っていた。そんな彼の語りは続く。


「彼は荒れた国を立て直す為、必死で民を救い、戦で栄えある騎士として、輝き続けた……だが、その王は最後は滅びた。他ならぬ自らの部下と、自らの民の裏切りによって……もう、わか……ってくれないか。ここらで瑞樹なら、一発でぴんと来たんだがな」

「は……? え、もしかして、地球の王様なわけか?」


 苦笑したカイトの言葉に、ソラ達が顔を見合わせる。今までずっとエネフィアの英雄のお話だと思って聞いていたのだ。だが、そうでは無かった。彼は地球の王様だった。


「ああ。そいつの名は、アルトリウス・ペンドラゴン。オレはアルト、と呼んでる。が、そいつの有名な名前は、お前らだって聞いたことあるだろ? アーサー王って、王様の名前」

「ああ……あのエクスカリバーとか言う聖剣の……って、あの王様のお話って最後そんなのなのか?」

「あの物語は少年が剣を抜いて王様になっておしまい、じゃ無いぞ。あの後が、本来のお話だ。童話向けに剣を抜く所までにしてるだけだ。今度学園の図書館にでも言ってみろ。一冊はあるはずだ」


 ソラの問い掛けに、カイトが苦笑して認める。これが日本で無く欧州やアメリカならかなり知られていたかもしれないが、どうやら日本だからこそ、知らない者も多かった様だ。


「まあ、そんな王様だが……何故、あいつは正しい道を進んで、裏切られたと思う?」


 カイトの問い掛けを受けて、アルが答えを理解した様だ。彼が何処か悲しげな顔で、口を開いた。それはある意味、自分の末路の可能性でもあったからだ。


「人じゃ、無くなったんだね……その人は……」

「ああ……そいつは誰よりも正しい騎士王であろうとした結果、誰よりも人から離れてしまった。騎士道を極めれば、それは国や王に忠誠を尽くすだけの機械に過ぎん。そんな歪な奴を、誰が信じられる? 誰が理解してやれる? 誰も、出来なかった。だから、多くの奴が反逆者モルドレッドの方についた。それも、円卓の騎士の半分が、な」


 皮肉だろう、とカイトが笑う。人の為に進んで、結局はその人から見放されたのだ。皮肉以外の何物でも無かった。


「正しい道と、人の道は異なる。過ちを犯すからこそ、人なんだ。過ちを犯さず、常に最善だけを選び続ける奴を、人は人と認められない。始めは良いだろう。だが、何時かはそれに綻びが訪れる……その綻びが完全に解けたのが、奴にはそこだった……その後、奴は伝えられる通り、<<聖なる純白の槍(ロンゴミアント)>>で我が子であり反逆者である騎士モルドレッドの心臓を突き刺して、眠りにつく。だがそれは決して、再起のための眠りじゃない。人の心が理解出来ぬが故の逃避だ」


 事実と真実は異なる。だからこそ、カイトは当人から聞いた真実を語る。彼は自らが正しいと信じた道に突き進んだ結果に耐えられず、そして理解されなかった事を信じられず、眠りに就いたのだ。彼は最後の最後で人に戻り、そこで初めて、人としての弱さを見せたのであった。

 そうして、話を一通り聞いて、アルは真実に気付いた様だ。納得した様に、口を開いた。


「そっか……だから、ご先祖様はルシア様を選んだんだ……」

「そういうことだ。ルクスの言葉をそのまま言うなら、このままルシアを失った時、僕は僕のままでいられるのか、と思った、だとよ。それに気づくと、とたんに怖くなった、だ。意外だろう? 騎士の代名詞と言われた奴が、無辜の民の騎士としてある為に、その手に一人の女が必要だった。その齟齬こそが、ルクスが騎士道を極められなかった理由であり、奴の人である左証だった」


 カイトは笑いながら、親友の子孫に対して、親友の真実を語る。彼は騎士としてあろうとしたが、決して完璧な騎士では無かったのだ。だが、かのアーサー王には、それが理解出来なかった。そう、彼自身が、認めていた。


「騎士道は理想であり、幻想の道だ。その道を極める事が出来れば、今度は人の心が理解出来なくなる。同時に人は人で無ければ、理解出来ない。道理だ。人は結局、人なのだからな。外側が異なっていても内側が同じなら、何時かは理解し合える。だが、逆はいびつな歪みを生む……だからこそ、エネフィアで騎士の代名詞であるルクスは受け入れられ、地球で騎士の代名詞であるアーサー王は排除された。等しく後世に偉大なる騎士として褒めそやされているのに、だ」


 カイトは二人の騎士を見てきたが故に、この話を出したのだ。両者は等しく、莫大な力を持つ。だが、アーサー王はそれを抑える術を人類が持ち合わせていないが故に、排斥されたのであった。カイトとティナがどれだけとんでもない力を持っていようと、人類から排斥されない理由も、ここにあった。

 彼らは結局、人なのだ。それ故に、力による抑えが効かなくても、人と同じ手段で抑える事が出来る。だからこそ、排斥されない。する必要が無い。抑えられるのに、怯える必要が無いのだ。


「まあ、結局は愛故に、で良いだろうよ。誰もが抱いた幻想の通りに、だ」

「あはは、確かに、そうみたいだね。僕達が深く考えすぎただけみたいだよ」

「そういうこった。深く考えんな。どうせあいつは妻が一番だ。それで十分」


 これもまた、ユリィがかつて桜達に言った事と同じだ。結局、ルクスも人なのだ。だからこそ、結局単純な普通の人と同じ理由が理由である事もある。そうして、アルが納得した様に、晴れやかな顔で告げる。


「そっか。そうだよね。有難う。やっぱり、人が人である為には、愛や恋は重要だよね」

「だな……でも、あまりナンパだのなんだのは、やり過ぎるなよ?」

「あはは……はい、領主様」


 カイトの一応の忠告に、アルが笑いながら少しおちゃらけた様に了承を示す。そうして一つの語りが終わった所で、瞬が口を開いた。


「丁度良い。なら、俺からも一つ良いか?」

「なんだ?」

「なあ、今のカイトは今で十分強いだろう? お前は何処まで強くなるつもりなんだ?」

「……それ、か。わからん。オレは強くなれるところまで、強くなるだけだ」


 カイトは自らでも呆れるように、ため息混じりに告げる。何処まで行きたいのか、というのは、他ならぬ彼を以ってしても、理解出来ない事だった。


「正直、あの時代の奴は全員奪われる事に関してはトラウマだからなー……だから全員一生を掛けて武芸を極めていったわけで……もう、死ぬまで強くなるだけ、だろうよ。実際ルクスにせよバランのおっさんにせよ、一生強くなったわけだからな。あいつらのこった。最盛期、つーのは、死の直前だっただろうぜ。肉体の老いも殆どなさそうだからな」

「そ、そうか」


 本来は辛いはずなのに、それをあっけらかんと語ったカイトに、瞬は引きつった顔で頷くしか無かった。


「まあ、今の時代はそうならないだろう。後はお前らは好きな所でやめろ。帰るまで強くなるのも良し。帰ってからも強くなるのも良し……が、まあ帰るまでは強くなれ。そうじゃないと、帰れんぞ」


 重苦しい空気を一変させ、カイトはため息混じりに告げる。そうして、カイトは再び寝転がり、満天の星空を仰ぎ見る。


「まあ、今は取り敢えずは好きにしろ。休暇ぐらいは、休暇をしろ。日本人はそれが苦手だ、と言われるぞ」

「ああ」


 それに合わせて、ソラと瞬が寝っ転がる。が、それに対して、アルは立ち上がった。


「僕は戻るよ。何時までもこっちにいたら、みんなが不思議がるからね」

「ああ。こっちももう少しのんびりしたら、戻る」


 そうして去っていくアルだが、帰りしなに、ぼそり、と誰にも聞こえないぐらいに小さな声で呟いた。


「ありがとう、カイト。僕も取り敢えず、覚悟、決めよっかな」


 何処か意を決した様なアルの言葉は、誰にも拾われる事なく、風に乗って消えていったのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第324話『披露会の前』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ