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第331話 海水浴 ――黄龍の想い――

 ソラ達がホテルに戻って暫くして、再びソラと由利が砂浜に戻って来た。が、そうして浮かんだのは、苦笑だった。思わず圧倒されたのだ。


「カイト、これは……凄いな」

「まあ、な……」


 改めて指摘されて、カイトが苦笑する。近くから見ていては分からないし、カイトは慣れているのでなんら気にする事は無かったが、遠くで改めて見返してみれば、グライア達美女の他天族の男性やストラ等の美男達も加わった海水浴場は、もはや男だけでなく女からも羨望の視線を集める様な状況だったのだ。


「にしても……お前も凄いな」


 ソラを見たカイトがニヤついた笑みで茶化す。一同より遅れていたナナミとコリンを迎えに行ったまでは良かったのだが、コリンがはしゃぎ回った所為で少しだけ遅れていた。

 ちなみに、こういうわけで瞬は先にリィルを連れて戻ってきており、今は二人で競い合うように泳いでいた。トレーニングの一環なのか、それとも二人で遊んでいるのかは、当人たち以外には謎だった。


「……良い写真ゲット!」


 真琴がソラの姿を確認した瞬間、シャッターを切る。彼女はカメラ型の魔道具を片手に、美男美女達の花園と化しているビーチのカメラマンと化していた。どうやら後々に裏ルートで販売計画を立てているらしい。

 ちなみに、そんな彼女は水色のビキニタイプの水着で、ホットパンツを履いていた。どうやら泳ぐつもりはあまり無いらしく、先程から忙しなく砂浜を動き回っていた。そんな真琴に有り難くない写真を撮影されたソラが、大慌てで声を上げた。


「ちょ! 真琴先輩、それ消して!」

「真実を追求するモノは皆が求める話題も提供するよ! じゃ、さよなら!」


 砂埃を上げてビーチを走り去る真琴に、ソラの悲鳴が木霊する。ちなみに、魔術で脚力を強化しているので、真琴は結構本気で逃げている。おそらくこれをネタにソラに昼食をねだるか、何らかの交渉事で有利に立つつもりなのだろう。


「ぎゃー! せめてこいつと一緒のページにお願いします!」


 ソラは大声で、逃げていく真琴に嘆願する。ちなみに、手が使えないのは、理由があった。今の彼は、右手を由利の巨乳に挟まれ、左手をナナミの巨乳に挟まれていた。カイトが茶化すのも無理は無い。そんなソラを見て、カイトが笑って告げた。


「オレはもう撮られてるし、もう諦めた……学園新聞は諦めとけ」


 ずーん、と落ち込むソラに対して、カイトが深い溜息を吐いて告げる。彼もまた、真琴によって美女と戯れている写真を撮られている……というより、初めからマークされているので、逃げるだけ無駄、と割り切っていた。そんなカイトを見て、ソラがカイトと同じく諦める事にした。

 ちなみに念のために言うが、真琴も一応クズハやアウラと一緒な所は撮影しても掲載するつもりは無かった。まあ、それでも撮影しているのは撮影しているのだが。


「マジか……そいや、さっき聞きそびれたんだけどよ……あの部屋割りと部屋はお前の指図か?」


 ソラはどんよりと淀んだ目でカイトに問いかける。何故か疲れた顔をしていた。が、それにカイトが答えるよりも前に、コリンがソラに問い掛けた。何故ソラなのか、というと、姉が由利の牽制に忙しくて手が回らないからだ。


「ソラにーちゃん、俺、泳いできていいか?」

「行って来い」


 コリンを送り出し、再びカイトに向き直る。が、そこに両手の花から、食物が差し出される。


「ソラー、はい、あーん」

「ソラくん、どうぞ」


 当然だが、ソラは両手を塞がれている。なので、両側から食べ物と飲み物を差し出されるしか無かった。両手が塞がれている所為で、自分では食べる事も飲む事も出来ないのだ。

 ちなみに、今日だけでなく、二人が一緒に居る時は殆どこの調子であった。ナナミは常に一緒にいられない間の点数稼ぎに必死だし、由利もそんなナナミに負けない様に頑張っているのであった。そうして、そんな状態のソラに対して、カイトが笑いながら告げる。


「両手に花、だな」

「お前が言うな!」


 カイトの茶化しに対して、ソラが怒鳴る。一方のカイトであるが、先ほどの一件の後、再び椿を侍らせ、やはり動くのは嫌とカイトが寝そべる側で寝そべる雪輝に腕枕をしながら、読書していた。どう見ても、ソラよりもひどかった。


「あの……カイトさん。その方は一体……」


 どこぞの貴族よろしく美女を侍らせているカイトに頬を朱に染めて若干引き攣った顔をしながら、ナナミが問いかける。ちなみに、その方、とは雪輝の事だ。


「あら、貴方は確か……シルフィから聞いた事があるわね。ソラの二人目の彼女さんだったかしら」


 問いかけられた雪輝の方はナナミを知っていたらしく、そんなことを言う。ちなみに、敢えてこういった茶化す様な言い方をしたのは、自分の正体から話を逸らすためである。


「え、あ……」


 二人目、とついてはいたが、彼女と言われたナナミは真っ赤になった。そして、それをソラが可愛いな、と見惚れていた。


「むぅー」


 ソラを挟んで反対側の由利が、そんなソラの注意を引くべく、豊満な胸にソラの腕を挟む。すると、豊かな胸の感触にソラが心地よさげに鼻の下を伸ばす。


「うぁ……」

「む!」


 そんなソラを見て、今度はナナミが逆の腕を自らの胸が当たるように絡めた。この二人、通常は家庭的で料理が得意等と言った共通点から仲が良いのだが、ソラが絡むとこのように牽制しあっていたのであった。と、そうしてそんな三人に対して、雪輝が呆れ混じりに呟いた。


「やっぱり、カイトの親友と言われるだけはあるわ」

「どういうことだ?」

「そのまま、見た通りだと思いますが……」


 椿がカイトが首をかしげていたのをみて、助言、というか諫言を言う。流石にこれは如何に椿とて、諫言の一つも言いたくなる所だろう。が、そんな二人の様子に、カイトもようやく裏を把握して、苦笑を浮かべた。


「ああ、なるほど……ちっ、反論できんな。それで、部屋はオレの指図に決まってるだろ?」

「お前な……」


 少し楽しげに告げたカイトに、ソラが動けぬまま呆れ返った。が、そんなソラに対して、カイトは今度は笑い声を上げて告げる。


「はははっ! 春が巡ってきた親友に対する心ばかりのプレゼントだ! 有りがたく受け取ってくれ!」

「てめ! お陰でここ数日はベランダが夏なのに寒かったぞ!」


 カイトが笑ったのに対して、ソラは非常に疲れた顔で怒鳴る。

 さて、そんな事を言うソラの部屋であるが、簡単に言って、部屋にある扉とベランダで両隣の部屋と繋がっている家族用の部屋であった。

 カイトはその一室の中心の部屋にソラを放り込み、両側にナナミ、コリンの姉弟と、逆側に由利を放り込んだのであった。尚、このプランを練ったのはユリィである。カイトはそれを素知らぬ顔でスルーして許可を出しただけだ。表向き教員側には公爵家側のミス、という事で通している。


「あん? まあ、良いだろ。部屋に台所がある所なんて、家族用の部屋ぐらいしか無いからな。融通効かせるなら、この程度の悪戯は仕掛けさせてもらわないとな」

「……もしかしてー……カイト、気付いてたのー?」

「一応、誰にも言ってないんですけど……」


 驚いた顔をした両隣の女の子たちに、ソラが首を傾げる。当たり前だが、彼は何も聞かされていない。というより、サプライズとして聞かせない様にしていたのだ。


「何の話?」

「あ、ココらへんってお魚が美味しいんだけどー……」

「ここらへのお魚って、ちょっと特殊なの。鱗が硬くて、専用の調理器具がいるの。お魚で料理しようとしたら、やっぱり台所が欲しいのよ」


 当然ながら、他の生徒や教師たちに与えられている個人用の部屋には台所などついてはいない。長期滞在でも無ければ必要性が薄いからだ。

 こういった台所は複数の部屋が接続されているソラや瞬といった面子の部屋にのみ、備え付けられていた。家族や恋人と来て、手料理等が食べたくなった場合に、ということで小型ながら備え付けられているのであった。カイトはそれを二人の為に用意したのである。


「で、一人で調理するのも難しいから、二人でどうにかならないかな、って考えてたんだけどー……」

「どうしてソレを?」

「オレを舐めるな、と。由利はそれで分かるだろ?」


 二人の問い掛けに、カイトは肩を竦めてそう告げる。が、どうやらカイトのこの言葉は、違う意味に取られた様だ。由利が少しだけ、身を震わせる。


「怖いなー……」

「いや、違うって。見張りなんて付けてない」

「あ、そうなのー?」


 由利はてっきり見張りか何かを一同に密かに貼り付けていて、そこから情報を得たのだ、と思ったのだ。だが、流石にカイトも忙しなく動きまわる冒険部全員に見張りを手配出来るだけの人員は動かせない。そもそも他の貴族達にバレた時に面倒過ぎる。リスクを考えて、敢えて配置しない方を選択したのであった。


「伊達に何人もの女の子見てると思うなよ? そのぐらいの考えは、お見通しだ」

「あはは……なるほど。有難うございます」


 にこり、と笑うカイトの言葉を聞いて、ナナミも裏を把握したらしい。つまりはカイトもユリィも二人が料理好きで、ここらの魚介類が美味しいとなれば、意中の相手の為に料理もしたいだろう、と判断したのである。なので、彼女は苦笑して、その配慮に感謝を示すしか無かった。


「ということで、ソラくん? 楽しみにしててね?」

「うん」


 両手を尚も取られた状態のソラが、首だけで頷く。そして、頷いてから、全てを理解して、嘆き混じりに落ち込むしか無かった。


「ちくせう……これじゃ文句言えねえ……」


 友人が回してくれた親切だった事を理解したソラは、釈然としないながらも感謝するしか無かった。何よりも彼は二人の手料理を食べたい。その欲求には抗えない。

 なにせ本来は二十代後半のカイトはともかく、ソラは正真正銘食べ盛りなのだ。悪くない相手と彼女の手料理でそれが美味である事が決定事項となれば、食べたくないはずが無かった。そうして、そんなソラに対して、カイトは大笑いする。全てが、彼の手のひらの上だった。


「はははっ! ユリィ直伝の悪戯は伊達じゃねえよ!」


 堂々と言い放つカイトに、ソラは据わった目で睨むしか無かった。二人の家庭的な女の子の手料理が食べられるのは嬉しい。嬉しいのだが、張り合って対処に困る事態になるのが難点であった。

 この点は、手料理を対価に1ヶ月の間諦めるしか無いだろう。

 そうして笑っていたカイトだが、一転真剣な目をして一瞬でナナミに悟られない様に防諜対策を施して、ソラに告げる。何も単なるいたずらでこんな事をしているわけでは無いのだ。きちんとした理由もあった。


「まあ、これも美人局対策だと思っておけ……二人共、悪いが、先に行っていてくれ。ソラも直ぐに向かわせる」


 カイトが真剣な目をしたことに気づいた由利が、ナナミを連れて先に海へと向かい、魅衣達と一緒に遊び始める。それを受けて、カイトが密かに感謝をして、語り始めた。


「これから先、貴族共が本格的に動くぞ」

「急だな……当分は動きが無いんじゃなかったのか?」


 最後にソラが出席した会議では、貴族たちには目立った動きが無かった筈なのだ。それが変わったのだから、ソラの驚きは当然と言えた。


「<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>、については調べたか?」

「ああ」

「なら、そういうことだ」

「いや、説明してくれよ」


 そういうこと、で済ませて読書に戻ろうとしたカイトに、理解できなかったソラが質問する。それを受けて、カイトが再び顔を上げて、ソラに説明を開始した。


「オレが<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>を魔導鎧の原型で押さえ込んだ……それが公式の発表だった、まではいいな?」


 カイトの言葉をソラがこくん、と頷く。それは彼も見ていたし、発表も知っている。そもそも、あれだけ大人数の前で大立ち回りをしたのだ。隠した方が疑われかねない。それに実力的には問題が無いし、今回はランクBへの昇格も済ませているので、周囲との連携もあってのこと、と発表している。そこの点も、違和感は無かった。だが、だからこそ、だった。


「だからこそ、だ。原型を使えば、あのクラスまでの魔物を押さえ込める。それは冒険者をヘッドハントするには、十分な実力だ。それもこれだけ短期間で、その実力を得られたというのなら、将来性は有望だ。貴族共が他の冒険部の面々を青田買いをしようと動くに足り得る」


 当たり前だが、アルクラスの冒険者はそれなりに居るが、軍人として見れば、さほど居ない。いや、もはや数えるほど、と言って良いだろう。それが喉から手が出る程欲しいのは、どこの貴族も一緒だった。とは言え、そうしなければならないのは、事実だった。


「あの場合はああするしか無かったとは言え……冒険部にとっては不幸だった」


 カイトは少しため息混じりに、ソラに告げる。マクダウェル公爵家と皇国としてみれば、カイトが偶然あの場にいた事は幸運中の幸運だ。そうでなければ、少なくとも公爵家第三艦隊と近衛海軍は壊滅していただろう。運が悪く無くとも高確率でポートランド・エメリアも壊滅していたし、他の都市にも多大な被害が生まれていた可能性は低くはない。そこにカイトが居た、という偶然は、十分な幸運と言えた。

 だが、これは公爵家としてみれば、の話である。冒険部、というより、カイトとしては、隠しておきたかった実力の一端を露わにしてしまったのだ。それも貴族達が欲する実力で、だ。となれば、本格的に貴族達が動くのは道理だった。


「ってこたぁ……やっぱお前の?」

「いや、それだけじゃない。まあ、ハイゼンベルグ家は確証を得ているだろうがな……まあ、ここはもっと前から気付いてんだろうよ。なにせ当主があの爺だ。オレとウィルの軍略の師匠の一人。オレをこの見た目の時から知っている上、初代皇王に仕えた参謀の一人だ。オレの戦闘映像は見ていたはずだからな。わからないはずがない」


 これは仕方が無い、とカイトは諦めている。そもそもあの時点でハイゼンベルグ公にバレないで事を済ませよう、とは考えていなかった。まあ、そんなカイトもまさかもっと前から把握されていた、とは思っていなかったのだが。そんなカイトに対して、ソラが問い掛ける。


「厄介、なのか?」

「公爵家の一つだ。一応階級上は、ウチと同格だ。オレが武闘派なら、あっちは当主と息子を除けば、文治派だな。少なくとも外交力や政治力で言うならあっちが上だろう。実際、オレが奴隷制度を全廃する際にも色々と力を借りた。外交で他国に対する影響力は、オレ個人を除いたマクダウェル家を越える……っと、そんな事はどうでも良い。当たり前だが、オレを知らない貴族達だ。彼らも当然の様に、美人局もやってくる。まあ、流石にまだそんな段階では無いだろうが……一応、気をつけろよ」


 カイトは今はまだ無いとは思う、と断りを入れたうえで、ソラに一応の注意を促しておく。誰が対象となってくるか、と考えれば、あり得るのは、ソラや瞬ら上層部の男子生徒だ。彼らはカイトに近く、また、精神的に幼いと言っていい。手の一つとして、これから先進んでいけば無いとは言い難かった。


「ま、そこらは爺も対処してくれんだろうが、逆にあの爺が仕掛けてくる可能性もある。あの爺程、この国を考えてる奴も居ない。日本人だから、と言っても有用と思えば平然と引き抜いてくるぞ……実際、初代皇王陛下が最も信用し、信頼なさったのは、ウチのエロ爺かあの爺だろうよ。まあ、建国時に最も勲功があったのは大公家だから家の格としては一段劣るが、警戒すべきは唯一まだ現役のあの家だ」


 深い溜め息を吐いて警戒しろ、と告げたカイトだが、何処か嬉しそうであった。そんなカイトに対して、ソラが問い掛ける。


「そのわりには、嬉しそうだな?」

「さて、な」


 ソラの問い掛けにカイトは不敵な笑みを浮かべ、これで話は終わり、と再び読書へと戻り、ソラは海へと入っていくのであった。




 それから、数時間後。日も沈み始めた頃の砂浜の一角では、人だかりが出来ていた。


「すっげー……」


 コリンが海岸沿いで目を見開いて驚く。目の前には、巨大な砂のアートが出来上がっていたのだ。周囲には同じように人だかりが出来ており、誰もが4人の美女による創作活動を只々感嘆をもって観覧していた。


「ノーム、次こっち」

「ほーい」


 グインの指示に従い、ノームが土を固めていく。彼女が作っているのは、巨大な街である。全長数メートルと明らかにこんな短時間で作れるわけのない大きさなのだが、彼女らは複数の分身を使って対処していた。そうして、それが終わった頃を見計らって、桔梗と撫子がノームに申し出た。


「ノーム様。此方もお願いできますか?」

「はいはいー」


 とてとてと歩いて行き、ノームは今度は二人のサンドアートに対して崩れない様に処置を施す。グインが単独――といっても分身有り――で砂のアートを作り上げるのに対して、桔梗と撫子は二人で――此方も当然の様に分身を使っている――協力しながら作り上げていく。

 そうして暫くして、グインがもう少し掛かりそうなのに対して、二人のサンドアートが完成まであと一歩、という所まで達した。どうやら初めてということで、若干簡単な物――と言っても十分に高度だが――にしたらしい。


「……お城?」


 観客の誰かが呟いた。さすがに和風の城郭を見たことは無いらしく、そう見えたが故に、そう呟いただけだ。ちなみに、此方には日本の様なお城は無いので、桔梗も撫子も知らないのだが、学園の資料を閲覧して心惹かれて練習に作ってみた、というわけである。


「これで完成です」


 桔梗と撫子が最後に天守閣を作り上げ、刷毛を置いた。それに合わせて、巨大な歓声が上がる。出来上がったのは、所謂名古屋城に似た鯱付きの巨大な砂のお城であった。


「じゃあ、かためるねー」


 二人の終了の言葉を聞いてノームがそう言うと、彼女は土に魔力を通し、砂が崩れない様に対処する。彼女は土の大精霊だ。それだけで、土は彼女の意のままに固まった。


「はい、かんりょー。これでとうぶんはくずれないよー」


 言葉と共にノームがポンポン、と土の城を叩くが、砂が崩れる様子は無かった。それに、観衆がおぉ、と驚きの声を上げる。かなり高度な魔術だ、と思ったのだ。まあ、実際には土の大精霊の権能をちょっと使っただけなのだが。と、そこにグインが声を掛ける。


「ノーム、後はここだけ」

「はいー」


 グインが分身を全て消失させ、最後に残った唯一の建物を完成させる。そして、最後にノームが魔力を通して、街が出来上がった。それは雄大かつ壮大な、大きな街だった。


「すげ! なあ、姉ちゃん! これどこ!」


 観客の一人の少年が、グインに問いかける。それに答えたのは、集まりに引き寄せられて観客と化していたカイトであった。


「マクスウェル、か」


 グインはそれにこくん、と無言で頷いた。が、続けて彼女は少しだけ思っていた事を、カイトに語る。


「ホントはユスティーツァとイクスを創ろうと思ったけど……止めた。そっちはまた絵にしたい。新しい絵の構成が浮かんだ」

「……そうか。出来たら言ってくれ。何時もの部屋に飾ろう」


 少し遠くで遊ぶティナ達を見ながら告げたグインの言葉を受けてカイトは微笑んで、協力を申し出る。しかし、その像を彼女が作る場合には、足りない者が居るのだ。そして、それはここでは作ってはならない人物だ。それを欠かす事は、グインには出来なかったらしい。


「ん……バレない様に気をつける」


 グインは頷くと、何時もみたくのんびりとパラソルのある方へと戻ろうとして、既に夕陽が沈みそうであることに気づく。


「……お腹すいた」


 それに合わせてグー、という音が響いた。彼女は集中すると周りが見えなくなるタイプで、昼食を食べていなかったのだ。それにカイトは微笑み、桔梗と撫子に問いかける。


「ティナに完成を教えてやって、帰るか。桔梗、撫子。お前らももう良いか?」

「はい、お館様」


 二人はグインのお腹の音に笑みを浮かべながら、頷いた。そうして、一同はホテルへと戻っていくのであった。

 ちなみに、この砂の像は製作過程と共に翌日の新聞各社に掲載され暫くの間この砂浜の名物になる事になり、更に数年後にグインとノームの正体が発覚して大騒動となるのだが、それはまた、別の話であった。

 お読み頂き有難う御座いました。今日で海水浴は終わりです。

 次回予告:第332話『披露会の前』

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