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第325話 特訓 ――ソラ達の場合・2――

 翔の相談を受けて彼の悩みを受けようと再び海岸に出て来たカイトだが、取り敢えずは他の学生達に混じって翔に走らせてみる事にした。


「まあ、試しに走ってみてくれ。まずは見ない事には始まらないからな。出来る限り、こけない程度に全速力で」

「ああ」


 取り敢えずカイトの指示を受けて、翔は今度はこけない様に注意しながら、砂浜を出来る限り全速力で駆け抜けてみる。と、そこで周囲の生徒から文句が上がった。


「ちょっ! おい! ぺっぺっ! 砂がこっちまで飛んできてる!」

「あ! わりっ!」


 当たり前だが、走るとなると全力で地面を蹴っているのだ。砂埃が舞い上がるのは当然で、更には翔は魔力で身体能力の増強を行っているのだ。地球で普通に砂浜を駆け抜けるよりも遥かに砂埃が舞い上がっていたのである。


「まあ、そうなるよな」

「って、おい!」


 周囲に申し訳なさそうに謝罪する翔に対して、カイトが思った通りだったので笑いながら告げる。が、そんなカイトに、翔が怒鳴った。

 まあ、とは言え見てみなければならなかったのも、また事実だ。なにせそうでなければ自分の見立てが間違っている可能性もあるのだ。正確な原因を突き止めなければ適切な処置は施せないのである。そうしてそんな翔に説明する為に、カイトは一度彼を座らせる事にして、説明を改めて開始した。


「んー……まあ、砂漠、砂浜、雪上、氷上、水面……全てに言える事だが、これらの足場は悪い。それは良いな?」

「ああ……水面?」


 カイトの説明に頷いた翔であったが、そこでふと、奇妙な単語が混じっていた事に気付く。明らかに一つだけ普通に地面では無い物が混じっていたのだ。そんな翔に対して、カイトが平然と頷いた。


「ああ、水面。走りにくいぞ、水面も。油断するとすぐに沈むからな」

「……走れるの?」

「うん」


 翔の問い掛けに対して、カイトは何か不思議な事を言っているのか、というようにきょとん、とした顔で頷く。そんなカイトの顔を見て、こいつなら出来るか、と翔はスルーする事にした。


「まあ、オレみたいな祝福と言うか加護持ちならそれを使えばなんとでもなるが、そう言ってもいられないのが、冒険者の悲しい所だ。魔物も盗賊も海賊も場所を選んでくれないからな」

「加護って便利なんだなー……」

「そりゃ、自然の顕現の力だからな。普通には簡単には出来ない事が出来るようになるのが、加護の良い所だ。例えば水面、というか水中なら、水の加護を使えば自由に行動出来る様になるから水面を自由に走る、どころか滑る事も可能に、とか出来る。魔力が続けば素潜りで1時間、とかも可能だ。が、まあ水の加護を持っているのは多くが人魚族だ。そういった意味で特段の優位性は薄いな」


 翔の若干の憧れを含んだ物言いに、カイトが苦笑したように水の加護を実例に出して解説を行う。まあ、加護というのは気に入った証、というのに等しいのだ。貰おうとして貰えるものではない。なので、無いなら無いでなんとかしないといけないのだ。


「というわけで、だ。まあ、無いなら無いでなんとかするのが、冒険者の基本。当然だが、先人達はこういった状況での戦いもきちんと考えて、オレ達後代に残してくれている」

「へぇー……こういったのってきちんと伝えてくれてるのか」

「そりゃ、そうだろう。陸上だって基本は個人競技で技術なんて流出させたくないだろうけど、先人が残したデータに基いて訓練やってるだろ?」

「ああ、そりゃな」


 自らの得意な部分を例に出されて、翔が殆ど考えるまでもなく、頷いた。当たり前だが、冒険者も基本的には技術の流出を嫌う。だが、後代に有用と思える所については、きちんと残してくれているのだ。


「こういった局地戦における行動なんかは、一人でも足を取られるとそこから瓦解する可能性が高いからな。流石に自由に歩いたり出来るぐらいの技術は残してくれている……というわけで、オレが走ってみせるから、何が違うか把握するように。あ、速さは翔と同程度で行くからな」

「おう」


 カイトは翔にそう告げると、自らが実演する為に少しだけ腰を落とす。そうして、彼は翔と同じぐらいの速度で走り始めた。すると、一瞬で自分との差が見て取れた。100メートル程走った所で、カイトが戻ってくる。


「……うぉ、まじかよ」

「どうだ? わかったか?」


 適度に走り終えたカイトは戻ってくるなり、翔に問い掛ける。それを受けて、翔は頷いて口を開いた。


「砂埃が全然上がってない」

「それじゃ、足りないな……何のためにオレがお前の走った横を走ったと思ってるんだ?」

「え……?」


 カイトの物足りなげな言葉に、翔が首を傾げてカイトが走った跡を見てみる。すると、はっきりとした違いが残っていた。それは、あしあとだ。

 翔が走った後ろの砂は大きく抉れているのに対して、カイトの走った跡は抉れているどころか、何処を走ったのかさえ、わからなかった。つまりあしあとが一切ついていなかったのだ。


「あ……そうか。砂埃が上がってないんだから、地面蹴った時に殆ど砂を巻き上げていないのか……」

「そういうこと。巻き上がっていないなら、それは即ち?」

「……どういうことだ?」


 巻き上がっていない所までは、翔でも見れば理解出来た。だが、それが何を意味するのかは、理解出来なかった。そんな翔を見て、カイトは少し意地が悪かったか、と苦笑して、口を開いた。


「つまり、地面が安定している、という事だ。固まった地面だからこそ、普通に走っていたわけだからな。実はオレの走りをきちんと見ていれば、身体が沈んでいなかった事がわかったはずだ。もう一回やってみせるから、今度は横から見ておけ」


 カイトの言葉に従って、翔がカイトの走る姿の全貌が見れる場所に移動する。そしてカイトは翔が移動したのを見て、再び走り始めた。今度は翔がしっかりと自分の姿を確認出来るように、何度か砂浜を往復して、再び翔の所に戻ってきた。


「と、言う感じだ」

「全然、沈んでないんだな」

「そういうこと。試しにさっきお前が走ったのも録画しておいたから、見てみろ」


 これだけではあまりわかりにくいだろう、とカイトは自らが密かに録画しておいた翔の走りの横からの映像を翔に見せてみる。すると、先程カイトが走っていたのとは異なり、一歩ごとに少しだが地面に足を取られて沈み、更には姿勢も悪くなっている事が見て取れた。


「こんなに沈んでたのか……」

「そりゃ、なんにもやってないからな。こけないだけでも、十分にバランス感覚が養われている、と思っていいだろう」


 カイトの見せてくれた動画を見ながら、翔が自分が大きく足を取られていた事を客観的に把握する。当たり前だが地面を蹴る力が強いほど速く走れるわけだが、そうなってくると同時に地面に掛かる力も強くなる。その分、砂浜では沈む量も増えるわけだった。


「今はまだ足が取られる程度で済んでいるがこれがもっと上位の奴になると、それこそ暴発の様な感じで走れないどころか地面がイキナリ無くなった挙句、慣性でくるくる大回転して頭から砂にずぼ、なんてお笑い種にもならんからな」

「うっわー……やったことあんの?」

「ねぇよ。砂浜での局地戦はやってねえからな。足場不安定な所経験した時にはまだ姉貴達居たし」


 妙に実感の篭った物言いの様な感じだったのでカイトに問いかけてみた翔だが、カイトは少し呆れたようにため息を吐いただけだった。まあ、彼が無いだけで、実際には目の前で見た事はあった。その顔に嘘がなさそうだったので、翔は取り敢えず先を促す事にした。


「ふーん……で、どうすりゃ良いんだ?」

「だから、足場固めるんだよ」

「だから、どうやって?」


 取り敢えず、どうすれば満足に不安定な足場でも走れるようになるのか、を知らなければ走りようがない。なので翔が問い掛けたのだが、返って来た答えにも理解が出来なかったらしい。それを見て、カイトが立ち上がる。


「だから、足場が悪いなら足場を固める。つまり、武器とか防具と一緒だ。武器とか防具の強度を上げる為にも魔力通すだろ?」

「ああ……それと何の関係があるんだ?」

「だから、それと同じことをやってやるんだよ」

「ああ、なる……って、そんな事出来るのか? 魔術か何かでやってんのか?」


 まだここで翔は土属性の魔術の中にそういう物がある、と言われた方が納得が出来た。現に存在はしている。が、これを使う者は冒険者では、殆ど居なかった。その理由を、カイトが口にする。


「なわけないだろ。一歩ごとに魔術を使い直すのか?」

「だよな」


 苦笑した様なカイトの言葉に、翔も同じく苦笑して返した。一歩ごとに魔術を発動させる、となると、その難易度は低レベルの物であってもかなりの難しさになる。

 なにせ一歩ごと、なのだ。とんでもない速さで魔術を連続使用しないと、間に合わないのである。その難易度が計り知れない物である事ぐらい、誰にでも簡単に理解出来た。更にはこんなやり方は非常に面倒な事この上ない。戦闘を考える上で、これはあまりに使い物にならなかった。


「だから、足の裏から魔力を地面に通して、一瞬で硬化させてやるんだよ。動かないように、ぎゅっと押し固める様な感じかな……まあ、これは流石に実演は無理で、感覚で覚えるしか無い」


 足下が固まっているかどうか、というのを確認しようにも、そもそもで足の裏が接している部分だけしか硬化していないのだ。足を離せば当然普通の砂に戻るのが道理で、触って確認させようにも出来ないのである。


「つーわけで、だ。これを応用すれば水面も自由に走れるようになる。まあ、流石に水面は結構難しいから、まず泥か砂から始めて、次に雪上、最後に水面、という様な感じだな」

「あ……じゃあ、もしかして水上走りとかって結構簡単に出来るもんなのか?」

「おう。わりかしな。お前さっきは唖然としてたけど、普通に結構多くの冒険者が出来るぞ……あ、だけど絶対にそれで海を横断とか馬鹿やろうと思うなよ? 一日で大洋を踏破する、なんてどれだけ上級の冒険者でも不可能だし、嵐に遭えば流石に沈む。溺れるのがオチだ」

「ぷっ……やらないって」


 まさかカイトもやらないとは思っているが、万が一試されても面倒だった。なので一応明言したのだが、これは当たり前だが、翔は思ってもいなかった事の様だ。思わず吹き出した。


「それ言うってことは……まさかやったのか?」

「まさか……乗ってた船が海のど真ん中で沈没した時にはやろうかな、と思ったがな。ディーネのおかげで、そんな事しないで済んだ」


 カイトが少し照れた様子で告げると、翔はそれに頬を引き攣らせる。色々な経験をしている奴だ、とは思っていたが、まさか船の沈没にまで遭遇しているとは思ってもいなかったのだ。


「う、うわぁ……よく無事だったな……ま、まあ、それはさておき。なあ、一つ聞きたいんだけど、その上で、もっと速く走る方法って無いのか?」

「ん?」


 取り敢えず、翔の相談事が終わったのは終わったのだが、それに加えてもう一つ、翔が質問を投げかける。こちらは今回の訓練の目標でもあった。その上で練習をしていた所、砂浜だと満足に走れない、という事に気付いたのである。


「いやさ、今回の合同演習だって、それこそ味方の魔術よりも速ければ、回避しながら攻撃、なんて芸当が出来るわけだろ? お前が前の戦いんときにえーっと……あの魔導機? とか言う奴つかってやってたみたいにさ」

「ああ、なるほど……」


 翔の言いたい事はもっともだし、それは彼が目指すべき点でもあった。瞬とは違い、翔は牽制こそがその役割だ。ならば、味方の攻撃が乱れ飛ぶ中ででも行動が出来る事は非常に重要だった。そうすることで初めて、切れ目無く攻撃を加え続けられるのだ。そんなもっともな質問を受けて、カイトが少しだけ考えて、口を開いた。


「まあ、速くなる、という意味とは違うが、牽制に使う、という意味なら、2つの方法と、さっきの応用がある。一つは、魔力のコントロールをもっと上手くなって根本的なスペックそのものを上げること。もう一つは……まあ、これは一度見せるか。おーい! 悪いが少しだけ離れるか、気をつけてくれ! 少し砂が舞い上がる!」


 片方は基本を繰り返すだけの事で何ら見せる必要は無かったが、もう一つはどうやら見せる方が早い、と判断したらしい。カイトは立ち上がって大声を上げて周囲に注意を促すと、少しだけ、身を屈める。


「まあ、これは実例だから、お前と同じ程度の出力で実演する。砂、注意しろよ」

「おう」


 少しだけ離れた場所に移動した翔に向けてカイトが確認を取り、一気に地面を蹴る。すると、今度は莫大な砂埃と共に、カイトがまるで何かの機械で射出されたかのように、地面を水平に飛んで行く。

 そしてカイトは再び地面に着地すると、再び砂埃を巻き上げて一気に飛び出した。それを繰り返す事、数度。それでカイトが戻ってきた。


「……は?」

「こんなもんだろ」

「何、今の……途中見えなかった、つか、残像出てたぞ……」

「まあ、それがこれの最大の利点だな。物凄い速度で移動するのと、一瞬だけ停止するおかげで残像が生まれるんだよ。まあ、走ってる、つーよりも、跳んでる、だけど、な」


 翔が驚きながら、カイトに問い掛ける。移動速度に緩急が出ているおかげで、普通に走るのとは異なって残像が生まれたのである。おまけに移動途中の速度は普通に走るよりも遥かに速く、途中は動体視力であれば冒険部随一を誇る翔の目でも追えなくなってしまっていた。


「古武術の<<縮地(しゅくち)>>って知らないか?」

「知るか」


 カイトの問い掛けを受けた瞬だが、当たり前にそんな古武術の技法を知っているはずが無かった。というわけで、カイトは<<縮地(しゅくち)>>の説明を行う事にした。


「<<縮地(しゅくち)>>ってのは本来は体捌きだけで数十メートルとかの長距離を数少ない歩数で移動する移動術の一種、という所か。これはそれを魔術的、魔力的にやっただけ。さっきの地面を駆け抜けたのが、<<縮地(しゅくち)>>だ。物凄い勢いで移動してただろう?」

「ああ、なるほど……」


 確かに、起きていた現象としては翔も理解出来た。確かに見たままを言うのなら、確かにカイトが使っていたのは<<縮地(しゅくち)>>だった。


「まあ、これの最大のデメリットは着地点で再び魔力を爆発させているから、その時だけは、速度がゼロになる事と、よほどの腕前を持たないと直線的な動きしか出来ない、という所だろうな。それに当然だが、急制動の為に姿勢制御とかの難易度は格段に上がる」

「でも、あんだけ速くなる、ってわけか……」


 カイトがよほどの腕前が無ければ、と言った事に対して、翔は苦笑してそう言うしか無かった。つまり、速くなるには基本を完璧にして根本的に速度を上げるか、今のように一風変わった方法を取るしか無い、という事だった。だが、驚きはここで終わらない。


「まあ、これのもう一個のメリットとしては……実はこれはさっきの足場を固めるのと合わせると、結構おすすめ出来る事が出来る」

「へぇ?」


 カイトをしておすすめ出来る、と言った事に、唖然としていた翔が少しだけ興味を持った。それを見て、カイトは指をスナップさせる。


「ん?」

「実演してやりたいんだが、流石にこれは見られるとまずい。まあ、今じゃ<<虚空脚(こくうきゃく)>>とか、<<空縮地(からしゅくち)>>とか呼ばれてるらしいんだが……そうであるが故に知っている奴が居ないでも無い。超難易度の絶技に近いからな。というわけで、周囲の奴らには、オレ達がここで話している、と見えるように思考を制御した……ま、ちょっと見てろ」


 翔の疑問を受けて何をしたかを説明すると、カイトは再び少しだけ身を屈めて、再び跳び出す。とは言え、今度は地面に水平では無く、斜め上に、だった。


「なっ!?」


 その意図を図りかねた翔だったが、次の瞬間、カイトが空中に現れた。これが意味する所は即ち、カイトが空中で停止した、という事に他ならなかった。

 だが、彼の驚きは更に続く。カイトは空中で停止したかと思うと、その次の瞬間、身体の向きを変えて、別方向に跳び出したのだ。


「え? え? えぇ?」


 空中を縦横無尽に跳びまわるカイトを、翔が首を振りながらその動きを追おうとする。だが、無数の残像も相まって、それは容易では無かった。そして翔が困惑する中、カイトが翔の真横で停止した。


「と、いうことも出来る。まあ、原理的には水面と同じく空気を固めたわけだな。実はこれ、オレが発案者だったりする……まあ、出来たのもオレだけだけど。他の奴は大抵魔力を固めて足場にしてたな。結果は同じだから、そっちが主流か。こっちは科学知識が無いと出来ないが、魔力の固形化なんかを考えない分手間も省けるし、省エネで済む」

「お、おま、今の何?」


 少しだけ自慢気なカイトの言葉に対して、翔は今見た物が理解出来ず、困惑するしか無かった。ちなみに、カイトが発案者かつ唯一の習得者なのは至極当然で、300年前のエネフィアの技術水準を考えれば理解出来る。

 今でさえエネフィアには原子論という様な物は殆ど存在していないのだ。となれば当然だが、空気中に実際には酸素や水素等の物質がある、という事を理解している者はおらず、空気を固める、という事が理解が出来ないのだ。それが出来て初めて、これが行えるのである。

 魔力とは意思の力なり、と言うが魔力を用いれば何でもかんでも荒唐無稽な事が出来るわけではない。理解出来なければイメージに綻びが生まれ、そうなればどうやっても現象を起こす事は出来ないのであった。


「普通に空中を走るなら、飛空術に類する魔術を使わなければならない。が、まあ、空中にも物質がある、と理解していりゃ、要は空気とは殆ど反発の無い地面だ、と思えば良い。なら、さっきの砂場と同じく、足場を固めてやれば、問題が無いわけだ」

「あ、あぁ……なるほど……」


 カイトから説明を受けて、翔がわかった様なわからなかった様な微妙な顔になる。とは言え、まだ彼も曲がりなりにも科学文明の地球で勉強している分だけあって、感覚的には理解出来たのだから、良い方だろう。


「地面だけに残像を生むよりも、敵の周囲に無数の残像があった方が、牽制としちゃ格段に良いだろ? 残像は囮にもなるしな」

「それは……確かにそうだな」


 カイトの言葉を聞いて、翔が納得したように頷く。当たり前だが、数が多ければ多い程、敵には威嚇効果が高いのだ。そしてそれは即ち、牽制としての彼の役割の範囲だった。


「まあ、これは今の移動術の最奥、って所だ。やるんなら、基本的な足場固めとさっきオレが見せた<<縮地(しゅくち)>>を習得してから、だな。特に<<縮地(しゅくち)>>は習得しておいて損が無い」

「おけ、すまん。サンキュ、参考になった」

「そりゃ、結構」


 取り敢えず一通りの悩みが解決したらしく、翔が礼を言うと、それを受けてカイトが笑って立ち上がった。それを見て、翔が首を傾げる。


「ん? どっか行くのか?」

「いや、なんか面白そうな事やってるの見つけた」

「ん?……あれは……ソラと小鳥遊?」

「みたいだな。お前も来るか?」

「んー……そうするか」


 カイトの言葉を受けて、翔も少し考えて立ち上がる。練習しようにもまだ少し精神的に動揺していて、少し落ち着きたかった、というのが大きい理由だった。そうして、二人は痴話喧嘩真っ最中のソラ達の所へと移動していくのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第326話『特訓』

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