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第22話 基礎知識

 第三章『冒険者登録編』開始。これから当分は冒険者としての基礎知識を学ぶ事になります。



 前半部分で省いている冒険者についてと種族についての説明を、閑話扱いで明日更新します。纏めとしては本文にある通りなので、別段読む必要はありませんが、詳しく設定が知りたい、という方はお読みください。何故ギルドではなくユニオンなのか、魔物の進化とはなんなのか、等についてをミリアの解説でやっています。



 2015年4月21日追記

 設定ミスで目次での第3章の開始時点が間違っていました。設定しなおしました。ごめんなさい。

 公都で一夜を明かした翌朝。学園関係者は公爵家によって用意された大きな会議室へと集合していた。今日から数日間、この世界における常識や冒険者や魔力などの扱い方の基礎知識を学ぶのであった。


「では、皆さんはじめまして。私が冒険者連合協会から派遣されて来ましたミリアリア・カノーネです。年は皆さんと殆ど変わりませんので、気軽にミリア、と呼んでください。普段はマクスウェル支部にて受付をしておりますので、いずれそちらでもお会いするかと思います。」


 そう言って一礼したのは年の頃は学園生とより少し年下に見える茶色い髪を肩まで伸ばした小柄な少女だった。頭にはネコミミが付いているところを見ると、どうやらネコ型の獣人種らしい。尻尾はスカートに隠れているのか見えない。

 学園生のなかには彼女の愛らしさにすでに癒やされているものや、その容姿故に講義へ不安を覚えたものもいたが、概ね好評であった。



 そうして、朝から彼女の講習を受けたカイト達であったのだが、まとめると、次の事がわかった。

1.エネフィアには、相互理解可能な種族と、相互理解不可能な種族がいる。後者は魔物や魔獣として大別される。魔物と魔獣の差は、言葉が通じるかどうか、である。とは言え、大抵の者が総じて魔物と呼んでいる。


2.魔物や魔獣は死後、腐敗すること無く時間経過で魔素(マナ)へと変わる。その為、魔物由来の素材の収集を行う場合は、特殊な処理を行わなければならない。


3.エネフィアに居る生物は、魔素(マナ)の影響か、感情の高ぶり等を受けて進化する事がある。それは人間とて例外ではない。


4.進化には幾つもの種類があり、環境や状況に適応するために進化したものや、憎悪等の感情によって進化したものを亜種、と呼ぶ。亜種と通常の進化であれば、大抵は亜種の方が強い。

 以上が魔物やエネフィアに住まう種族の概要であった。特に進化した魔物についてはその強さについても説明があったのだが、惜しむべきことに平均的な冒険者の強さを知らない学園生達はそんなものか、程度にしか考えていなかった。


5.冒険者の起こりは、1000年前に始まる。始めは旅人と呼ばれていた者達である。


6.500年程前、冒険者達の集合体であるギルドが乱立し、戦国乱世の様相を呈したため、初代のユニオン・マスターが冒険者達の連盟である冒険者ユニオンを設立した。


7.現在ではギルドは同じ志を持つ冒険者達の私的な集団となっている。設立にはユニオンへの届け出が必要。


8.現在では冒険者は実力と功績によってランク分けされており、最低ランクはEで、最高ランクはEX。但し、ランクEXは歴史上10人しか与えられておらず、権限も莫大であるため、滅多に授与されない。尚、カイトはランクEXである。


9.冒険者は登録制となっている。登録に際する基準は、犯罪者でないこと、登録時に魔力測定を行うこと、の2つである。


10.登録された冒険者には、登録証、もしくはカードと呼ばれる魔法銀(ミスリル)で出来た登録証が渡される。依頼人には、これを身分証として提示する。この登録証にはユニオンへの登録時に登録された魔力にのみ反応し、発光する魔石が組み込まれており、当人以外には使用不可である。身分証として提示する際には、これを発光させる。尚、登録証の再発行は有料である。料金は金貨1枚。


11.エネフィアの通貨は全世界で共通で、大ミスリル銀貨、ミスリル銀貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨幣、小鉄貨幣が存在し、各々日本円で100万、10万、1万、1000、100、10、1の価値に相当する。

 以上が、冒険者の基本であった。そうして、ここまで説明があったところで、一度昼休憩が入った。




 昼休憩後もミリアによる初心者講習は更に続く。


「では、次に魔術について説明します。まず、魔術や魔法が大気中に満ちている魔素(マナ)を利用していることはすでに学ばれているかと思います。魔素(マナ)と魔力の差は殆ど無いですね。強いて言うなら魔力は力ですので、他者を害することがありますが、魔素(マナ)はよほど高濃度でない限りは害となることはないですね。」


 ここはすでに勉強済みなのだが、ある生徒が手を上げて質問した。


「俺達は魔法って言ってるけど、ミリアさん達は魔術って言ってる。何が違うんですか?」


 これは、多くの生徒が疑問に思っていたことであった。


「はい。魔術と魔法の差ですが、簡単には方法の差が挙げられます。魔術はそれが起きても不思議ではない、という事象を意図的におこす方法ですね。これは風や火を出したり、魔力を物質化させて道具を作り出す方法が挙げられます。対して魔法は世界のシステム上起こり得ないか、殆ど起こらない現象を起こす方法です。これには皆さんが経験された世界間転移や時間移動が魔法となります。死者蘇生などの禁忌の多くも魔法となります。」


 他に何か質問はありませんか、そう問いかけるミリアだが誰からも手が挙がらなかったので先に進むことにした。


「では、その魔素(マナ)を利用した魔術や魔法ですが、これは大別して9個に分けられます。」


 そう言って黒板へ板書を始めるミリア。書き終えたところで書いたことを説明する。


「この大別ですが、火、水、風、土の根源4属性。さらに火水の複合属性の氷、風土の複合属性の雷。光、闇の高位属性で8種属性になります。2つの相反属性を合わせる必要のある複合属性と、高位属性は習得が困難です。水から火を抜いて氷、土に風を与えて雷ですね。水と火、風と土、光と闇同士が相反属性となり、打ち消し合いますので、魔術師志願の方は注意してください。これになんの属性も持たない無属性を合わせて9個ですね。多くの魔術がこの9個のどれかに属します。例外が時空間に関係する魔法や飛空術などがありますが、そちらは習得自体が困難ですので、必要でしたら皆さんで調べてください。」


 空間魔法は後で調べる必要がある、そう学園一同は心に留めた。


「魔術の使い方ですが、詳細は戦闘訓練と一緒に公爵家の方が説明してくださるようなので、ここでは簡単に行ないますね。」


 魔術の使い方に移る、そう聞いた瞬間に多くの生徒に真剣味が増す。それに若干気圧されながらもミリアは解説を行う。


「魔術ですが、使用には幾つかの方法があります。1つは詠唱を行うこと。1つは魔術式や魔法陣、魔術陣を作成すること。魔法陣と魔術式は魔術的に意味のある文字を書いてそこに魔力を流し込むことで魔術を発動させるものです。もう1つはこれらを組み合わせること、です。慣れた方ともなると一切の詠唱も魔術式の作成も無しに発動させることもできますが、はじめのうちは詠唱して、並行して魔術式を創りだして魔術を発動させたほうが確実かつ正確ですし、暴走の可能性も少なくなりますね。」


 そう言って詠唱を始め最後に口決を唱えた。


「<<火球(ファイア・ボール)>>」


 そう言って10センチぐらいの火の玉を出現させた。学園一同はおおー、と歓声を上げる。ミリアは少し照れながらも次は空中に魔法式を創りだして、今度は無詠唱で<<火球(ファイア・ボール)>>を出現させる。


「魔術式は空中に出現させてもいいですし、地面に出現させてもいいです。もし地面に文字として残しておいてトラップとして使用する場合は、魔法銀(ミスリル)などの魔力伝導性の良い物質を含んだインク等が使用されます。魔力を流し込むだけで発動させられるので、使い方は魔石と同じですね。」


 そういうと再び黒板へ板書を始めるミリア。ちなみに、カイト達戦場で戦った者は、自らの血をインク代わりに使うことも多かった。


「次に魔術の難易度について説明します。魔術は難易度に応じて下級、中級、上級、最上級に分けられます。これは無属性の一部と例外を除いた属性魔術すべてが分類可能です。難易度が高くなるほど詠唱は困難に、魔力消費量は膨大に、魔術式は複雑になります。その代わり威力や効果は上がり、範囲は広がります。これら魔術の習得は誰かに教えてもらう、魔導書から学ぶ、自ら開発する、の3つですね。といっても上級以上となると教えてもらえることは殆ど無いです。」


 切り札となっている場合が多いですからね、そういって締めくくるミリア。そこで質問が上がる。


「私達の測定した魔力量が高いほど、使える回数は増えますか?」

「はい、そうですね。魔力量はいわゆる貯水量で何回魔術を発動できるか、になります。威力は魔力量とは関係なく、一度にどれだけの魔力が使用できるかの問題になります。種族によっては、後で説明する精霊様からの補正があります。皆さんは人間種ですので補正はかかりませんが、その代わり満遍なく使用できます。なお、もし一度に使用できる魔力が少なければ、魔術によっては使用できないので注意してください。ただし、使用量、魔力量どちらも鍛錬によって上げることが可能ですので、頑張ってください。」


 そう言って学園生を激励するミリアと、それに気合を入れる一部学園生であった。


「最後に、魔術と似た効果を発揮するものの魔力を必要としないものがあります。それは呪い、と言われるモノです。これは個人が有する単一の性能がある基準を超えると自動で発動されるものと、意図的に相手を死に至らしめる本当の意味での呪いの2つがあります。前者は保有者の意思での解除が困難ですので呪い、とされていますが、バッドステータスの類ではないです。例えば容姿が飛び抜けている場合は<<魅了(チャーム)>>となり寵愛や奉仕、服従を得られます。発する魔力が高ければ<<威圧>>となり気絶や服従を強いることになります。魔力は抑えることが可能ですので、<<威圧>>は抑えることが可能な数少ない呪いですね。逆に<<魅了(チャーム)>>は天性のモノなので、抑えることが出来ません。それ以外にも、<<真言>>、<<狂化>>など、様々な呪いがあります。」

「相手に強制するならやっぱり呪いなんじゃ……」


 誰かがひきつりながら呟いた言葉にミリアが反応する。


「そうですね。そういう見方もできますが、多くは自らの意思で跳ね除けることが可能なので問題にはなりません。まあ、公爵家のクズハ代行様のようなレベルの<<魅了(チャーム)>>ではよほど気を張っておかないとすぐに魅了されて無意識に服従することになりますが、そこまでのレベルは稀ですね。」


 そこまでの美貌とはどんなものなのか、多くの学園関係者は興味を持つが、この後実際に会う予定の学園関係者にとっては注意しなくてはならない情報だった。


「では、もう一つの呪い、について説明します。此方は多くが魔物や魔術師が使うものです。此方は相手を苦しめて殺す、もしくは単に苦しめる為のモノです。此方の呪いは禁呪ですので、詳しくは述べません。習得にも詳細の閲覧等にも、国からの許可が必要だからです。ただ、魔術師系統の魔物を相手にする場合は、最後に苦し紛れに呪われる可能性があるので、十分に注意してください、とだけ言っておきます。」


 そう言ってミリアが最後に真剣な顔で、全員に忠告した。



 そうして、10分程度の休憩を挟んだ後、再び講習が始まった。


「では、次に精霊様の説明に移りますね。この世界には様々な精霊様がいらっしゃいます。例えば森の精霊様、その土地を守る精霊様などがいらっしゃいます。」


 学園生の誰かが、要するに土地神か、そう呟いたところ、学園生の多くが納得したため、ミリアは首を傾げたもののスルーした。同席していたアルは聞きたそうにしていたが我慢していた。


「精霊様ですが、最上位の存在として先の8属性の大精霊様がいらっしゃいます。普段精霊様は姿を見せることはありませんが、上位の精霊様は別で、彼等の眷属には姿を見せることがあります。眷属は水の大精霊様の水棲族、風の大精霊様の妖精族などが挙げられます。それ以外にも森の精霊様ですと、その森のエルフが眷属になりますね。」

「じゃあ、俺達人間は会えない、ってことか。」


 誰かが少し残念そうにそう言うと、ミリアはそれを否定する。


「いえ、お会いすることは可能です。精霊様は自らがお認めになった方にはお会いされます。またそういった方には試練を課すことがあります。その試練を見事突破された方は精霊様と契約でき、その力を借り受けることができるようになります。ですが、この試練は並大抵のことではクリアできず、100年に一人何れかの精霊様と契約できるかどうか、ですね。それ以外にも精霊様が気に入ったお方だと加護が授けられる場合がありますが、これは精霊様がご好意で与えてくださっているものですので、借り受けられる力は小さいですが、それ故、授けられている方も多いです。私も風の精霊様から頂いております。」


 そう言って右手を掲げて手の甲に緑色に光る印を出現させる。ミリアはどこか誇らしげであった。


「これがその証です。ある日突然授かってました。」


 そんなものなのか、そう思う一同だが、そこでふとソラが手を挙げて質問する。


「その精霊様って名前ないの?」


 学園関係者の中にはゲーム等で精霊に馴染みがあったため、疑問に思ったようだ。それに答えたのは、ミリアではなく、別の少女の声であった。


『あるよー。』


 鈴を転がしたような可憐な声がする。それにソラが納得し問い返した。


「お、やっぱりあるのか。なんて名前?」


 ソラはそう言うが、彼以外に聞こえなかったらしい。周囲は怪訝そうにしている。ミリアが代表してソラに問いかけた。


「え?そんなの誰も知りませんよ?」

「え?でもさっき誰かあるよ、って女の子の声で。」


 ミリアにそう言われたものだからソラも怪訝な顔をして首を傾げた。唯一その声を聞いていたカイトは自由気ままな大精霊に頭を抱えたくなるが、苦笑して念話で風の精霊と会話する。



『シルフィ、いらんことするな。……気に入ったのか?』

『うん。カイトを通して僕らも見てたけど、彼面白い子だよねー。もうちょっと見てからになるけど、よかったら加護を与えてもいいかな、って。他の娘も結構気に入った子を見つけたみたいだよー。』

『……そうか。』

『あ、何?嫉妬?嫉妬してる?』

『違う。まあ、そいつらを頼む。』

『即答って傷つくなぁー。いいけどね。』



「ま、まあ、精霊様のお名前については実際にお会いできたら聞いてみるのもいいかと思います。」

「そ、そうっすね。」


 講習にいる多くが謎の現象に軽く引いているが、講習を続けることにする。


「他に質問はありませんか?」


 ミリアがそう聞いたところ、さっきの現象に若干震えながらも質問が上がった。


「精霊から力を借り受ける方法はその2つだけですか?」

「後一つ存在する、らしいですね。らしい、というのは方法が伝わっておらず、成し得たのも有史史上ただ一人、勇者カイト様のみ。その勇者様が口を閉ざしてしまったため、全く詳細がわからないのです。精霊の祝福、と勇者様はおっしゃっていたらしいですが、彼は全ての大精霊様から祝福を受け、彼等を自由に呼び出すことが可能だったらしいです。とは言え、彼以外が成し得た事は無く、祝福とはどういう存在なのか、一切が不明です。」

「なら、どうして存在するってわかってるんですか?」


 勇者がその方法をひた隠しにし、彼以外に誰も成し得ていない祝福に、ある女生徒がもっともな疑問を呈した。


「そうですね……確かに、彼以外が使えませんでしたので、一部の研究者からは単なるプロパガンダの一種じゃないか、との言葉もありましたが……実はこれは大精霊様が直々に、眷属に勇者様に祝福を授けた、と発言していたことが確認されているからです。これは大変貴重な水の大精霊様のお姿を写した映像資料に残ってますので、その存在は確実と。ただ、水の大精霊様も方法については口を閉ざしておいでです。研究者たちは、方法を探すのも試練の一つ、と見ている様です。」


 誰が言えるか、そう思う勇者カイト。バレたら女性陣からの視線が冷めたものとなり、男性陣からは目で殺されてしまう。それは望まなかった。


「精霊様の協力を得られれば、下級魔術でさえ爆発的な威力上昇が見込めます。もし加護が得られた場合は精霊様に感謝を忘れないようにしてくださいね。」


 そういって締めくくるミリアであった。その後、魔術の初歩への解説があり、夕方となったので本日の講習は終了となった。



 終了後、講習を行っていたミリアが黒板の前から退いたことを確認した桜田校長が前へ立つ。


「学園生諸君、本日の講習ご苦労だった。ミリアさんもありがとうございます。諸君らはこの後、旅館へ戻り十分な英気を養ってもらいたい。教員の方は引率をお願いします。尚、申し訳ないが生徒会諸君と天音君、天城君、ミストルティンさんはこの後、公爵代行様との会談があるため、残ってもらうこととなる。もうひと頑張りお願いしたい。」


 そうして、カイト達は漸く自分の家へと、帰る時が来たのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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