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第319話 旅行 ――暗雲?――

 カイト達がマクスウェルの街を出発した翌朝。カイト達は飛空艇の中で朝食を食べていた。販売用ということで、ティナの作った飛空艇の中ではかなり遅く時速200キロ程度――これでも市販品である事を考えれば、物凄く破格の高性能――しか出ない為、飛空艇で一泊となったのだ。

 ちなみに、これは始めから想定されているので、飛空艇の内部には宿泊設備や風呂などの設備が備わっている。極少数ではあるが、上客の為にV.I.P用の個室も完備されていた。


「まさか異世界で機中一泊を経験するなんてなぁー、ふぁー」


 何度も欠伸をしながら、食堂にやって来ていたソラが屈伸をする。ソラもカイト達とは別のV.I.Pルームに宿泊していた為、目覚めは良さそうだった。

 なお、翔、楓、皐月等上層部やカイトの正体を知る一部の面子は他の飛空艇のV.I.Pルームを試す――民間用の試作機ということで、内装が統一されていない――為、別の飛空艇に乗り込んでいた。なので、冒険部上層部が全員この場に居るわけでは無い。


「……どした?」


 そうして屈伸していたソラだが、カイトが憮然とした表情で朝食を食べていた事に気付いて問い掛ける。それを聞いて、クズハが若干済まなさそうに謝罪する。しかし、別に何も彼女だけが悪いわけではなかった。


「申し訳ありません、お兄様」 

「久々にカイトの周りに大量の女の子が集まったからねー。ごめんね」

「それがまさかあんな結果になるとは……ごめんなさい、カイトくん」


 ユリィと桜が苦笑しながらカイトに対して謝罪する。それに魅衣と瑞樹が引きつった顔で苦笑し、クズハの後ろに控えたフィーネ、アウラの後ろに控えたユハラ、カイトの後ろに控えた椿がふ、と目線を逸らした。


「あ、あはは……」

「何があった……」


 女性陣一同が変な反応をしたので、若干何があったかを把握しつつも瞬が尋ねた。それに、アウラが相変わらずのんびりとした様子で答えた。


「カイトが追い出された。ゴトン、って夜に音がしたと思ったら、カイトが落ちた音だったらしい」

「私達も気付いてはいたのですが……乱気流にでも入ったのかと……申し訳ありません、お館様」


 桔梗と撫子の謝罪の声が同時に響く。二人共一応起きて上体を上げてはいたのだが、カイトはその時既に落下しており、気づかれなかったのであった。


「だって邪魔だったんだもの。あんなに女の子が一杯になるなんて思ってなかったわー」


 そんな一同に対して、落とした張本人のミースが悪びれること無く言い放った。一応、彼女の許嫁の筈なのだが、そんな気配は微塵も感じさせなかった。そんな一同に対して、カイトが少し悲しげに告げる。


「何故オレのベッドなのに、オレが落ちないといけないんだ……」

「まあ、私はお陰でいい思い出来たけどね」


 弥生が少しだけ嬉しそうにつぶやいた。結局、カイトは満杯のベッドに戻れず、ソファで眠る羽目になったのだ。そして、唯一それに気付いた弥生を抱き寄せ、彼女を抱き枕の様にして二人で眠ったのであった。尚、ソファーがかなり大きかった上、高級品であったお陰で、別段眠るには不具合は無かった。


「うわぁ……」


 そんなカイトに若干哀れみを含みながら、凛がドン引きする。本来ならば男の夢とも言える複数の美女たちとの同衾なのだが、現実とは無情であった。

 しかもこれでカイトは公爵なのだ。貴族としての面子も何も有ったものでは無いが、よほどの事態でも無いのに身内だけの集まりでそんな事を主張する馬鹿も居ない。というわけで、ソラと瞬には彼が尻に敷かれる未来しか、見えなかった。


「V.I.P用のベッドをキングサイズではなく特注品にしておくべきじゃったかのう……」


 とは言え、どうやらティナも少し申し訳ないと感じていたらしく、カイト以外に意味の無さそうな変更を行おうとする。尚、これは結局費用対効果が悪いのでカイトに止められた。

 必要なのがカイト達ぐらいなのに、彼らが使わないのだから必要では無い、という妥当な判断だった。そうして憮然としていたカイトだったが、朝食を食べ終わる頃には機嫌が元に戻る。その頃を見計らって、ソラが問い掛けた。


「で、後どれ位で到着するんだ?」

「皇国の南隣アルテミシア王国までは皇国北側に位置する公爵領マクスウェルからおよそ4000キロ。時速200キロの飛空艇で進めば、20時間だから、そろそろ着くな」

「ふむ……航路には問題が無いのう。幸い天竜には出会わなんだで、遅れが殆ど出なんだなのが幸いした」


 飛空艇に取り付けられた計器を見ながら、ティナがカイトの情報に補足する。時折魔物に出会う事はあったが、天竜に出会う事は無く、大した影響も無く飛空艇は移動し続けることが出来たのだ。


「……で、一つ良いか?」


 そういうのは瞬だ。彼は外を眺めて、大きく溜め息を吐いた。


「あれは、何だ?」

「まあ、グイン姉上じゃな」


 現実逃避をしていたティナが、瞬の言葉に答える。瞬同様に外で優雅に飛ぶ金色の龍に、4隻ある飛空艇の窓から多くの生徒達が顔をのぞかせていた。実はソラが到着時間を知っているのに問い掛けたのは、現実逃避だったからだ。


「じゃあ、あっちとあっちは?」

「まあ、ティア姉上に、グライア姉上じゃな」


 更にティナが乾いた笑いを上げながら、自分の義姉達であり、婚約者の恋人である事を明言する。歴史上滅多に無い、古龍(エルダー・ドラゴン)3体の共演であった。


「何故、三人が?」


 そんな答えを聞いて、瞬が更に問い掛ける。呼んでも居ない筈の存在が、朝起きれば勝手に横に飛んでいたのだ。疑問に思うのが当然だった。


「……カイト」


 問われたティナだが、彼女にも理由が理解出来ない。なので、唯一知っていそうなカイトへ向けて説明を求める。とは言え、カイトも昨夜気付いた時に聞いただけで、詳細は知らなかった。


「いや、な? 単にあいつらに海水浴行くけど、何かお土産欲しいか、って聞いたらどうやら捕捉されたらしいな。爺とフリオは酒らしい」


 勝手に自分たちも予定にねじ込んできた女龍達。彼女らの荷物は実はカイトのトランクの中に一緒に入っていたりする。

 尚、カイトはお土産を聞いた時点でねじ込んだ、と思っているが、実はこれはもっと前、カイトがメルと共に旅に出る前から計画されていたことなので、実はかなり周到に計画された事なのであった。

 そんな一同の会話を聞いていたらしく、純白の女龍、即ちティナの育ての親でもあるティアが一同に少しいたずらっぽく問い掛けた。


『妾らもたまさか休んでもよかろう?』

『余もたまにはカイトと共に海に出るのも良い』

『……くー……』

『寝るな! 貴様は飛びながら寝るという器用な芸当がどうして出来るんだ!』

『あう! 痛い……何? 着いた?』

『着くか! 後数時間は掛かるわ!』


 ゴン、という轟音が響く。グライアがグインを殴った音だ。そうして目を覚ましたグインは、殴られた頭を擦り、こちらも負けず劣らずのんびりとした声でアウラに挨拶した。

 ちなみに、グインはどういう原理か乱気流を起こさない様に飛空していた。おそらく、何らかの魔術を使用しているのだろうが、器用な限りであった。


『アウラ、久しぶりー』

「おー……グイン様、久しぶり」


 二人共、窓を通してVサインで応じ合う。彼女らは天然同士で波長が合うのか、仲が良かった。これにノームを加えて、最も波長があう組み合わせだった。そんな二人を見て、カイトがため息混じりに懇願する。


「頼むから、向こうじゃあんま無理しないでくれよ?」

『無理じゃと思うなー。ほれ』

「ん?」


 ティアがカイトの後ろを指さすので、カイトが後ろを振り向くが、何も無い。が、それに桜が気付いた。


「……カイトくん。それ、なんですか?」

「あ?」

「メモ、のようですわね。カイトさん、失礼します。」


 瑞樹がカイトに一言言って、背中に貼り付けられたメモ用紙を取り外した。そうして、カイトに手渡す。


「はい」

「ああ、サンキュ」


 瑞樹からメモを受け取ったカイトは折りたたまれた中身を確認する。と、即座に顔を引き攣らせて、大声を上げた。


「……あいつら何処行きやがった! 静かだと思ったんだよ! ちっくしょう! 絶対どっかで待機してやがる!」


 カイトはメモ紙をくしゃくしゃと丸めて投げ捨てると、ウロウロと目を瞑って円を描くように歩きまわる。いきなり変な行動を開始したカイトに、一同がカイトが投げ捨てたメモを拾い上げ、中身を確認する。


「ほう、えらく綺麗な字だな。なんて書いてあるんだ?」

「ふむ、このSD絵も良いのう。ウチの絵師として欲しい」


 瞬が書かれている字がかなり流麗で、達筆であった事に感心し、ティナはメモの空きスペースに書かれた落書きに感心していた。


「誰の字? と言うか、なんて書いてるの?」


 そんな二人に対して、魅衣が問い掛ける。少なくとも、彼女が知っている字ではなかった。というより、イヤリングを使っているのに、何故か文字の意味の判別が出来なかった。

 そして問われて読めない事に気付いて、ティナが目を丸くした。彼女はイヤリング無しでも翻訳が可能なのだが、それを用いて尚、翻訳不可能であった。


「む? 読めぬ? 何故じゃ?」

「……馬鹿共の字だ」


 そんな一同を前に、カイトが頭を抱えて、答えを告げる。そして、更に解説を続けた。


「読めないのは当たり前。そいつは精霊文字。イヤリングの効力を……いや、それを基に改良したお前の魔術でさえも遥かに超えた文字だ」

「ほう! これが精霊様達の使われる文字か! 余も初めて見るな!」


 カイトの言葉を聞いて、ティナが少年の様に目を輝かせる。いくら翻訳が出来るイヤリングと言えど、自然同士の遣り取りを翻訳することは出来ない。精霊文字は、自然の顕現たる精霊たちが使う文字だ。それ故、精霊文字は自然同士の遣り取りとして処理されているのであった。

 では、何故カイトが読めるのか、というと端的に言って、彼が祝福を受けているからである。自然と常に交流している様なものだからこそ、読めるのであった。


「……なんて書いてあるんですの?」

「……水着、楽しみにしててね。シルフィ」


 頭を抱えたまま、カイトが書いてある内容を告げる。そうして更に、今度は魅衣が絵を指差して問い掛けた。


「……この絵は?」

「ノーム作の各大精霊達のデフォルメ絵らしい」

「上手いな!」


 意外な特技を見せた土の大精霊に、ソラが突っ込みを入れる。そんなソラに対して、のんびりとした声でグインが告げる。


『ノームは、私と一緒で絵が得意』


 そういうグインだが彼女は写実画が得意で、ノームはデフォルメした絵が得意である。尚、カイトは何度もグインの描いた絵を見ているのだが、その絵は写真と見紛うばかりの出来栄えであった。とは言え、初めて聞かされる情報に、冒険部の一同が目を丸くする。


「ふぇ!? これ、あのぽやんとした女の子が描いたんですか!?」

「なんでもあり、だな……」


 凛がびっくり仰天で飛び上がり、瞬が色々とぶっ飛んできた大精霊にため息を吐いた。そうして、更に来そうな嵐の予感に、一同が到着前の朝から疲れた顔をするのであった。


『取り敢えず、クズハ。上部ハッチを開けてくれ。余らも来たは良いが、飛ぶのも疲れる。どうせ上部には戦闘用に出入り口があるのだろう?』


 そんな一同に対して、グライアが問い掛ける。当たり前だが、エネフィアには飛空型の魔物も居る。となれば、幾ら防備を施した飛空艇といえども襲撃される可能性は十二分に考えられたのである。

 なので、いざと言う時には馬車の時と同じく冒険者達や護衛が外に出て戦える様に、飛空艇の上部にはその為の出入り口が取り付けられているのである。

 そしてそれは、この飛空艇とて変わらなかった。なのでティナが少し慌て気味に移動を始める。流石に食堂から上部の出入り口を開閉出来ては困るからだ。


『あ、うむ。少々お待ちくだされ』


 慌て気味に朝食を口に含むと、ティナはそそくさと食堂を後にして、飛空艇の操縦室へと移動する。そしてそこで、気流や気圧に対しての対処を行ってから、上部に取り付けられた飛空艇の出入り口を開放する。


『うむ、すまぬな』


 グライアからの返答が来ると同時に、飛空艇内部に取り付けられた監視カメラから彼女らが人型に変わったのが見えた。そして彼女ら三人が中に入ったのを確認して、ティナは出入り口を閉めて、不必要なシステムを停止させた。そうして、彼女らは艦内の誘導に従って、ティナの下に挨拶に来た。


「ほう、やはりお主の作る飛空艇は乗り心地が良いな」

「姉上方……せめて来るなら来ると一言言ってくだされば、驚きもしませなんだものを。それにホテル等への通達もありますし……」


 感心して笑うグライアに対して、ティナがため息混じりに告げる。だが、そんな彼女に対して、ティアが笑いながら告げた。


「そう言ってものう……たまには驚かせかっただけじゃ。妾達にしても、たまには妹達と旅行の一つにも行きたくなるからのう」

「まあ、共に行けるのなら、拒みはしませんがのう……取り敢えず、ホテル等へは余の方でやっておきます」


 公爵家の面々だから、というわけでは無いが、彼女らの自由奔放さは拒絶しにくい物がある。そもそもグライアはこの国の国母に近い。勝手に皇国が言っているだけだが、そうであっても彼女の我儘はよほどでない限りは絶対だ。拒絶はあり得なかった。

 そしてこれは今から向かう国にとっても、同じくだった。彼女らの来訪を拒める国は存在していない。なので、電話一本でなんとでもなった。


「うむ。スマヌな。取り敢えず余らは……はっ」

「んぎゃ! イタタ……」

「貴様は眠る時だけは、器用さを発揮する……取り敢えず余らはクズハとアウラに挨拶に行ってくる。曲がりなりにもあいつらに挨拶してこなければならんだろう?」

「頼みます」


 今度はたったまま眠るという芸当を披露してみせたグインに対して一撃をお見舞いしてから、グライアはティアとグインを引き連れて移動を始める。

 それを見て、ティナは飛空艇のコンソールに向かい、到着予定である飛空艇の発着場に連絡を入れる事にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第320話『旅行』


 2016年1月11日 追記

・誤字修正

 『グライア』とすべき所が『グイン』になっていたのを修正しました。その他誤字についても修正しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 瞬が書かれている字がかなり流麗で、達筆であった事に感心し、ティナはティナはメモの空きスペースに書かれた落書きに感心していた。 一ヶ所ティナはが多いと思います。
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