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第318話 英雄の条件 ――英雄を支えた者――

 見直ししてたらタイトル変更したくなって、変えちゃいました。

 冒険部と公爵家の面々が用意を終えた数日後。公爵家の面々が冒険部のギルドホーム前で点呼を行っていた。


「はーい、一年D組の生徒はこっちでーす」


 とあるメイドが声を上げて旗を振る。人数が人数である上、学園の活動の一環として、クラス単位で動くのであった。

 とは言え、何事にも例外はある。それが冒険部上層部であった。彼らは引率の教師たちや向こうの担当者との打ち合わせ等があるため、一塊となって活動する予定なのである。

 ちなみに、ここにいるメイド達は全員が公爵家のメイドである。カイトの正体を知らない面々も混じっている。彼女らも今回の旅行に同行する予定だ。これは偽装の為と同時に、ティナがこの際だから大幅に公爵邸の改装――と言っても魔術の防備等を含めた内装だけだが――を行いたい、という事なので、邪魔にならない様になるべく人員を減らす必要があったからだ。勿論、アウラやクズハ達の世話が必要だ、という事も大きかった。


「久しぶりじゃのう、桜ちゃん、楓」

「お久しぶりです、楓のおじいちゃん」

「おじいちゃん、身体、大丈夫だった?」


 久しくなかった好々爺の笑みで、桜田校長が桜と孫娘とその親友に声を掛ける。それに、桜が冒険部の仕事中ではないので、普段の桜田校長の呼び方で答えた。そうして更に問い掛けられた孫娘からの問いかけに、桜田校長が笑いながら頷く。


「うむ、皆が頑張っておるのに、高々60過ぎの爺が寝込むわけにもいかん。それに、此方に来てから様々な物を見たからか、若返った気分じゃわ」

「桜田校長。此度は申し訳ありません」


 そこに、カイトが謝罪する。彼にはあらかたの事情を説明していたのである。だが、そんなカイトに対して、桜田校長は苦笑気味に首を振った。


「いや、逆に感謝する。最近教員達もかなり疲れておった。ここらで一息付けるのはありがたい」

「そう……ですか。ありがとうございます」


 殆どの生徒、否、ソラや桜達カイトの正体を知る者以外は知らないが、今回の旅行は完全に貴族の騒動に巻き込まれる形で実現しているのだ。クズハ達から情報は得ているが、相手について殆どわからぬ以上、何が起こっても不思議ではなかった。それ故のカイトの謝罪だったのである。そんなカイトに対して、ユリィとクズハが明言した。


「リオンは民草に無闇矢鱈に危害を加える子じゃないですよ」

「あの子は自分が嫌がっていたけど、本来なら皇太子候補筆頭。人望はあったし、才覚も十分。頭の回転も悪くないし、部下を立てる術も持っていた。容姿も十分だったから、国民からも軍部からも皇太子就任を熱望されてたけど、まあ、色々と本人が望まなかったからね」


 現アルテミシア王国の第一王女の婿は、エンテシア皇国第一皇子であった。本来ならば、妻の王女こそが嫁入りすべきだったのだが、リオンは皇帝への即位を厭い、出奔に近い形で婿入りしたのであった。そうして、カイトが苦笑気味に問い掛ける。


「出来婚したんだっけ?」

「娘婿に強引に収まったと同時に、って言うのが真実かな。まあ、当然大揉めしたし、逆に嫁入り話も出たけど、まあ、クズハがそれは熱心に親子の仲を取り持ってね」


 数年前の事を思い出して苦笑しながら告げたユリィだが、彼女もかなり熱心に仲を取り持っていた。駆け落ち同然に出奔したリオンに対しどうやら少女漫画的な展開を見出したらしく、二人共かなり熱心に肩入れしたのであった。そんな二人に、カイトが苦笑する。


「それはユリィも、でしょう?」

「それは否定しないよ」

「まあ、いいけどな。ウチは権力欲無いし。皇国もそもそも風土がこうだしな……駆け落ち上等皇位なんぞいらねえって貴族としてどうなんだろうな」

「そもそも皇国自体が殆ど気にしてない、ってのも国として凄いよねー。おかげで皇位継承権で大揉め真っ最中なのに、ウチの市民達なんて連日連夜酒場で大爆笑してたよ。皇王様と似たような事をリオン様もやりやがった、って」

「そもそも初代からして政略結婚を、なにそれ美味しいの? 状態の御方だったからな。よそはよそ、って言葉があるんだが……皇国の御旗があれだもんなぁ……外交官達の心労は考えたくない。あまつさえ俺のルールは気にするな。英雄であれば自らが正しいと思う道を進め、だもんな……もう王様とは思えんな。でもまあ……こうでもないと憲法の第一条に皇王への反逆許可を法として定める馬鹿も居ないか。まあ、駆け落ちは若干曲解だろうけどな」


 カイトとユリィは皇国のあまりにあまりな風潮に苦笑しあう。お国として考えれば、普通は貴族としての礼儀云々を重視しないといけないのだろう。それに王様に刃を向けるなぞ以ての外だ。秩序が乱れる原因だ。

 だが、そんな事になりはしない。法が無くとも反逆が起きる時点で、秩序が乱れているからだ。法があろうとなかろうと、反逆を起こす者は起こす。それが王位の簒奪であるか、民草の為の義憤なのか、は別にして、だ。

 簒奪であれば王が王の職責として処罰して、真実民を思うが故の義憤であれば、王が王では無いだけだ。その時こそ、古き国は滅び、新たな英雄が国を興すか、正しき王者を盛り立てて国を立て直すべきなのだ。

 だから、誰も建国当時から第一条を気にしていない。今まで一度も、この義務は行使されていない。王者が未だ王者足りえているからだ。


「国が、ルールが絶対じゃない、ってわかってたから、なんだろうね……まあ、しょうがないか」

「人として正しい道と、ルールを遵守するということは異なるからな。国は何時か腐る。その国が作ったルールが正しいはずが無い。悪法もまた法なり、と従うのは馬鹿だけで十分だ。付き合わされる国民からすれば、いい迷惑だ。そんな法がまかり通る時点で、秩序なんぞ乱れてるからな」


 ユリィもカイトも、等しく皇族の抱える秘密を知っている。知らされる立場だからだ。それ故、二人共少しだけ戒めを込めて、当たり前の事を語り合う。

 当たり前の事だが、皇国の前にも国があった。初代の貴族達は全て、その巨大な帝国への反逆者だった。初代皇王は反逆者達の王だった。その帝国の秩序が乱れた原因を知るからこそ、看過出来ぬ過ちを犯した時の為に、自らが信頼する貴族達に反逆の許可を与えたのである。

 ルールや秩序ではなく、自らが正しいと思う道を進め。これが初代皇王の方針だ。簡単に見えて難しい事を、彼は全ての貴族に課した。そんな馬鹿げた方針を掲げた初代皇王をカイトもユリィも馬鹿と言いつつ、だがしかし、愚者とは思っていなかった。


「陛下程、それを理解なさっていた方もいらっしゃらないだろうからね。だからこその、お言葉。秩序を壊せ。新たなる秩序を生み出す為に……ルールが腐ったのなら、お前達英雄が壊してくれ。貴族は秩序を守る職責を負え。だが、英雄は秩序を壊す職責を負え。多少恣意的でも構わない。その職責を担う対価として、その我儘を、他でもない俺が許す。ド派手に秩序を壊せ。俺も、俺の子供達も、人だ。間違っちまう。それに民達を巻き込む必要は無い。巻き込まれそうになったら、それを止める義務が、お前達にはある……」


 初代皇王が就任時の演説で語った内容を、ユリィが口ずさむ。これは皇国で生まれ育った者ならば、誰もが知っている事だった。そしてこれが、初代皇王が民達から絶大な信頼を集めた理由。自らが絶対者では無い、と明言し、民と共にある、と明言した言葉だった。

 王として見れば、0点の演説だろう。だが、これこそが、彼の王たる左証だ。初代の貴族達が彼に心酔した理由でもあった。彼ほど部下に絶大な信頼を置いてくれる王様は、おそらく歴史上殆ど居ないだろう。心酔するのも当然だった。

 彼は生涯、自らを王様と思った事は無い。集団の長として取り纏めているだけだ、と言っていた。それを言い表す言葉が、ただ単に『王様』しか無かった、というだけだった。


「ま、オレとしちゃ、そっちの方がありがたい。オレはオレの正しい道しか行けないからな。所詮この地位にしても、どうしても、と言われたから貰っただけ。守るつもりもない。必要も無い。それに愛国心はあっても、忠誠心は知らん。オレはオレが惚れ込んだ男の子孫だから、皇族に頭を垂れるだけだしな」


 カイトはユリィの言葉に、自らに合致する国風だ、と笑う。そんなカイトの言葉を聞いて、ユリィが昔の様な子供っぽい笑みで頷いた。


「それでこそ、カイトだよ。他人のルールなんて気にしない。礼儀作法も知ったことか。オレはオレのやりたいようにやる。王様だからと簡単に頭下げて貰えると思うなよ」

「おいおい……それじゃ独裁者だろ」

「違わないじゃん、偽善の体現者なんてさ。自分がやりたいから、やる。やりたくないから、やらない。でしょ?」

「否定出来んな。オレはオレの為の善を貫く。道義的な正しさなぞ知らん。それが、オレだ」


 カイトが絶対の自信を滲ませながら、ユリィの言葉に牙を剥いた獰猛な笑みを見せる。それを見て、ユリィが再び、昔のように子供っぽく笑った。


「わがままだなー」

「勇者も公爵も、その少しぐらいの我儘が許される立場だからな。ま、それでも国ぶっ壊して国作った陛下のわがままよりは、マシだろ?」


 笑いながら告げたユリィの言葉に、カイトは苦笑して認めるしかない。初代皇王の言葉の体現者。貴族として秩序を守りながら、英雄として秩序を破壊する者。最大の矛盾者。それこそが民草の望むカイトであり、カイトの在り方でもあった。

 そして、この国を興した初代皇王、中興の祖たるウィルもそうだった。そんな奴らの多少のわがままは、ご愛嬌だろう。英雄は人である以上、多少は我儘も出る。それを把握しているが故に、初代皇王はその我儘を彼の名の下に、許したのである。

 だから、カイトもウィルも行き過ぎぬ限りは我儘が許された。多少の恣意的な秩序の破壊は英雄の特権の一つ、だからだ。

 そうしてそんな会話を繰り広げる二人だったが、その間も学生達の集合が続いていき、いつの間にか終わっていた。


「では、全員移動してください」

「ありゃ、終わってたか」

「しまった。仕事してねえや」


 桜が号令を掛け、一同は飛空艇の発着場まで移動を開始した学生達を見て、カイトとユリィが苦笑する。雑談に夢中ですっかり仕事を忘れていたのだ。それを見て、カイトが少し慌て気味に指揮の補佐に戻って行く。

 まあ、それだけ久しぶりに二人も浮かれていた、という所だろう。クズハも気を遣ってそのままにしておいてくれた様だ。そうして、ユリィがカイトの背中を見ながら、つぶやいた。


「ねえ、カイト。その絶対の自信を持てる人が、どれだけ居ると思う?……我が道を進める者だけが、英雄足り得る。ルールだから従うだけの者は、ただ盲信している愚者。考えた上で正しいから、従う。英雄とはそうでなければならない。自らで判断する者の事を、英雄と呼ぶ。だから、私達英雄を慕う者も、その道が正しい道だと信じられる……」


 英雄が英雄足り得る条件を兼ね備える者が少ない事は、教師として数多の将来有望な若人達を導いてきた彼女だからこそ、誰よりも理解出来た。社会秩序と自らの善を比べて、自らの善を正しいと主張出来る者は数少ない。それを、ユリィはこの300年で理解していたのである。

 これはそんな彼女だからこその、つぶやきだった。そうして、そんな彼女のつぶやきは続く。


「ねえ、カイト。カイトが迷ったのなら、私が貴方を支える。これはティナにも譲らない。私だけの特権。貴方の進みたい道は私が理解している。私が死ぬのは、カイトの上。私はカイトと共に死ぬ。カイトを置いて逝く事はあり得ない。だから……安心して良いよ」


 このユリィの想いは、彼女しか知らない。伝えるつもりは無い。行動で示すだけだからだ。だからこそ、彼女の二つ名は<<支える者(サポーター)>>なのだ。これは彼女を勇者の代名詞である勇者カイトの最大の理解者として褒め称える、同じく支える者の代名詞たる二つ名だった。

 そうして、彼女は自らが支える者と視線が同じになるようにその肩に座り、300年ぶりの彼との旅行へと出かけるのだった。




「今回使用する飛空艇は旅客機タイプじゃな。まあ、それ故、大した武装は持たせておらん。せいぜい年若の天竜への威嚇程度じゃな。」


 飛空艇の発着場から飛空艇までの移動の最中、ティナが小声で解説する。今回の飛空艇もやはり、彼女の作品の一つであった。

 全長は地球の旅客機より少し大きめの80メートル程で、旅客機として多人数が乗る為か、各所に外が見れる窓が付いていた。そうして更にティナが続ける。


「開発名称や型番こそあれど、量産型として作るつもりじゃから、艦名は付けるつもりはない」

「旅行会社や運輸会社への販売用、というわけか?」

「うむ。ヴァルタード帝国でも軍用大規模輸送用飛空艇が開発されておるからのう。民生品であれば、既に小型艇も販売されておる。ならばうちは、と更に一歩進んで企業向けの大規模輸送機を開発し、各地への流通を活性化させようと思っておる。これはその試作機じゃ。搭乗員数は1隻100名。今回は4隻使うわけじゃな」


 相変わらず、交通費は試作機を使用することでモニターを兼ねさせ、結果を聞くことで掛かる費用を帳消しにしようという考えであった。とは言え、一人日給金貨1枚としても、移動往復4日でその他の人件費も入れれば本来はミスリル銀貨百枚単位の消費になりかねない。十分に利益の元を取れていると言えた。

 そして、情報や使用者からの意見とは無形の財産だ。その意見にしても、様々な所から得られる方が良い。それが流通させようとする物ならば、特にそうだった。そんなティナに対して、カイトが問い掛ける。


「売れる見込みは?」

「まあ、ぼちぼちじゃな。未だ発表して間もないが、竜車等を用いて各所に運輸を行う企業や、遠方の地へと出かける旅行プランを思いついたらしい企業から問い合わせがそれなりに来ておる」


 エネフィアにも楽しむ目的の旅行が無いわけではない。ただ、それが広く市民にまで浸透しているか、となると話は別である。魔物の襲来に備えたり、遠方の宿の手配が困難だったり、とかなり金銭が必要で、未だ貴族達ぐらいしか安易に旅行へ行くことは出来ないのであった。

 尚、これでも飛空艇の開発や魔術による通信網の確立などで、それなりに裕福な市民であれば、少し無理すれば旅行に出掛けられるようにまでは価格下落が起きている事を一応言及しておく。


「まあ、そんなものか。当分は公爵家の運営する運輸会社や旅行会社に使わせて実績を作らせるか」

「それが良いじゃろうな。当分は北の魔族領との間で高速輸送を行う事になるじゃろう」


 何時までも話し合ってもいられないので、二人は会話を切り上げて、飛空艇に乗り込むのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第319話 『旅行』

 流石に明日は変わりません。

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