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第314話 船上の戦い

 カイトとティナ達が海上で異なる戦闘を繰り広げていた頃、ソラ達もまた、戦闘を繰り広げていた。


「夕陽! あんま無茶すんなよ!」

「うっす!」


 ソラは艦上に上がった海魔達を相手にしつつ、この中で一番練度の低い夕陽に対して声を掛ける。そんな彼らに対して、ある少女は非常におかんむりであった。


「あー、もう! 揺れてやりにくいしふわふわ飛び回るし! ウチに喧嘩売ってんの!」

「うっわ! その由利久しぶり!」

「何!」

「なんでもない!」


 久しく聞いていなかった親友の罵声を聞いて、魅衣は笑う。当たり前だが、今の冒険部では船上で戦う様な状況はあり得ない為、殆ど練習はしていない。なので弓道が得意な由利であっても、満足に命中させられないのだ。それが、彼女の苛立ちを募らせていたのである。


「あー、もう! もうやめ! 狙ってらんない!」

「え……?」


 5回程外した所で、由利が苛立ち紛れに声を上げる。それに、彼女の護衛についていた魅衣がきょとん、となった。


「こっちにする」

「……え、出来るの?」


 魅衣がきょとん、となって能面の様な表情の由利に問い掛ける。そんな親友が取り出したのは、そこまで大きくはない小刀だった。

 それを何処からともなく取り出すと同時に、由利はティナにお願いして折りたためるようにしてもらった弓を背負う。近接戦闘を行う事に決めた彼女の為に、ティナがワンオフで設計した武器だった。そうして、由利は親友の疑問を置き去りに、魅衣達が戦う集団の中に切り込んだ。


「やっぱこっちの方が良い」

「あ、あはは……」


 普通に平然と海魔達を相手に戦闘を始めた由利に、魅衣が苦笑する。由利とて、近接戦闘において魔物を矛を交える事に抵抗は無い。なので、何ら遠慮もなく小刀で魔物を切り裂いていく。


「魅衣、行くよ!」

「あ、うん!」


 由利の言葉に、魅衣はその隙を埋める様に連携を行う。そうして少し繰り返すと、魅衣も由利も何処か懐かしくなってきたらしい。二人して笑い始める。


「なんか懐かしい!」

「そう?」


 戦っている内にヒートアップするのが魅衣で、ヒートダウンするのが由利だ。なのでハイテンションになっている魅衣が、冷静になっていく由利に問い掛ける。


「大昔はさ、こうやって戦ってたっけ!」

「昔は敵味方が逆だったけどね」


 魅衣の言わんとする所を理解して、由利が少しだけ苦笑する。昔は、仲が悪かった。それはカイトとソラも含めて一緒だ。そんな会話を繰り広げながらも、二人は昔からでは考えられない絶妙な連携で攻撃を行っていく。


「魅衣!」

「ええ!」


 元々、矢が当たらなかったのは敵が遠い上に地面が安定しないからだ。であれば、当たる状況に持っていけば良いのだ。

 なので由利が合図を送った瞬間、その意図を読んだ魅衣が大きく後ろに飛び下がり、魔物の集団の中には当たり前だが、由利だけが取り残される事になった。だが、これこそが、由利の狙いだった。ここまで来れば、初心者でも矢ははずさない。


「<<天弓の矢(てんきゅうのや)>>」


 狭まる包囲網が閉じる前に、由利は再び展開した弓を以って上空に向けて弓を引き絞り、矢を放つ。そうして、矢は虚空に消えて、次の瞬間、無数の魔力の矢となって戻ってきた。

 当たり前だが、視界外からの無数の矢だ。となれば魔物たちは逃げる事も出来ずに、頭上から降り注ぐ矢の直撃を受ける事になる。そこに、更に魅衣が襲いかかる。


「トドメ! <<海王牙(かいおうが)>>!」


 手数で言えば、魅衣はかなりの数の(スキル)を有していた。その為、海魔を相手に特攻となる物も習得していた。そこで、今回は彼女がトドメの役割となっていたのだ。魅衣はそうして由利によって縫い止められた海魔達をレイピアの一撃で葬り去る。


「良し! 由利、次行くよ!」

「ええ」


 戦場において正反対の二人は、その後も戦場にて華となる。そんな二人を見つつ、夕陽は頬を引き攣らせた。


「うっわ。すっげえ無双っすね……無茶苦茶すげえ」

「あ、あはは……」


 あそこで無双しているウチの片方は、自らの恋人だ。それ故、ソラとしては夕陽とは別の意味で頬を引き攣らせるしか無い。


「そういや……先輩ってデートとかって何処行ってるんっすか?」

「げふっ! お、おま、ここで聞くか!」


 いきなり戦闘中での問い掛けに、ソラがむせ返る。まあ、ここの戦場の場合、艦艇に取り付けられている魔導砲のおかげで強大な魔物は討伐されているし、艦上では軍人達がひしめき合って戦っているのだ。そこまで強敵も現れず、かと言って、現れた所で、上からの援護がある。かなり楽と言えば楽だった。


「いや、現状余裕っすよ」

「いや、まあ、そうだけどさ……」

「良し! 出来た!」


 そんな所に、凛が声を上げる。ソラと夕陽はずっとこの援護をしていたのだ。それは無数に居る飛空型の魔物に対する対処だった。


「行きます! <<操剣片(そうけんぺん)>>!」


 凛が大声を上げて蛇腹剣を振りかぶると、彼女が持っていた蛇腹剣の刀身がパーツ毎に分裂する。そうして分裂した刀身の欠片は、そのままふわふわと浮かんでいた。

 かつてカイトから教わり、アルから学んだ技術だった。こんな状況では、矢の様に直進的な攻撃ではなく、凛の持つ蛇腹剣での攻撃が良いと判断したソラが命じたのである。


「いっけー!」


 そうして、凛が無数に分裂した刃の欠片を操り始める。これらは一撃一撃は強くは無い。だが、数は多いし操作性が抜群なお陰で全周囲を包囲することが簡単で、転移術を使えない限りはどれだけ頑張ろうと逃げられないのだ。

 しかも速度そのものは亜音速なので、避けることとて容易ではない。というわけで、ただただ柄を振るってなぎ払うだけで、多くの飛空型の魔物に対して甚大な被害を与える事になった。

 では、凛を狙えば良いのか、となるのだが、それも、ある一つの問題から難しかった。


「凛ちゃん!」


 上空から、銀の騎士が舞い降りる。そうして舞い降りると同時に、剣撃で凛の周囲に居た魔物達を薙ぎ払った。


「さて……上は氷龍に任せたし、僕も直援に入ろうかな。ソラ! ここからは僕も援護に入るよ!」

「おう! 頼んだ! 俺達は由利の援護に入る!」

「うん!」


 現状では、アルの攻撃力ではどう足掻いても大型魔導鎧の部隊の間に割って入れるだけの攻撃力は無い。いや、そもそもでリィル達にだって存在していない。

 なので飛翔機付きの魔導鎧を装着して機動性に優れる彼らは<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の攻撃の余波の対処をしつつ、襲撃にあっている艦隊の援護に入るのが、常道だった。これは更に艦上に着地する事で魔力の消費を抑えられる、という利点もあった。その常道に則って、アルが援護に入ったのである。


「さて……じゃあ、剣技でも僕がやれる、っていうことを見せようかな」

「じゃあ、私が後ろから援護掛けます」

「お願いね」


 凛の言葉に、アルが笑って頷いた。実は、この二人は戦闘に限って言えばものすごい相性が良かった。防御力もスタミナも公爵軍で最大だ。攻撃力にしても現状最大のリィルを除けば、一撃の火力としては最大クラスである。が、その代わりに攻撃の射程距離は短い上に手数には乏しく、ソラの武芸を極限まで高めた様な感じだった。

 それに対して、凛は火力は無いが、今の攻撃を見ても分かるように手数が多い。現状は凛を中心として、剣片の嵐が起きている様な感じだ。攻撃力が低く嵐の中に突っ込めない事は無いので直援は必要となるのだが、その代わり、それさえあれば確実な牽制役兼ダメージソースにはなるのである。

 この二人が組めば、確実に敵の攻撃を防御しつつ、カウンターや牽制で確実に攻撃をあてていく組み合わせになるのだった。それから暫くの間、二人は協同で敵数を減らしていく。


「これ、ちょっと多すぎませんか!?」

「だって援軍ひっきりなしなんだから、しょうがないよ!」


 アルはともかく、凛にはかなり疲労が溜まっていた。当たり前だが、剣片を浮かせているのもそれを動かしているのも彼女の魔力によるものだ。魔力の消費速度で言っても、凛の方が圧倒的に早いのだ。

 おまけに元々のスタミナもアルのほうが圧倒的に高い。それを考えれば、凛に疲労が溜まっているのは当然と言えた。


「これはちょっと拙いかな……」


 肩で息する凛を背後に感じながら、アルが少しだけ顔を顰める。見れば、少し遠くのソラ達にもそれなりの疲労が溜まってきていた。それに顔を顰めたのである。

 元々このクイーン・エメリアは大火力を誇る上、出力にしても艦隊の旗艦足り得るだけの物だ。おまけに何より、他の軍艦とは比べ物にならないぐらいの巨体である。最も海魔達が集まっている激戦区が、ここだった。


「曹長! 補給を!」

「了解です!」


 言うまでもない事だが、アルは軍人だ。それ故にソラ達以上にこういう戦場を経験しているため、補給のタイミングは最も理解していた。なのでアルが声を上げて、回復薬を投げてもらう。


「凛ちゃん、飲んで」

「うぅ……ありがとう……お兄ちゃんみたいな事やなんだけどなぁ……」

「ふふ……」


 回復薬のアンプル瓶を飲み干して呟いた凛の愚痴に、アルが笑う。まだ精神的に参っているわけではなさそうなので、とりあえずは安心出来たのである。だが、補給出来たからと言って、敵数は増える一方だ。そこに、通信機から声が響いてきた。それはこのクイーン・エメリアの艦橋からだった。どうやらこちらから反撃に出る為の作戦が決まったらしい。


『アルフォンス少尉! 貴官は再び上空に戻り、準備を始める大型魔導鎧の部隊の援護に入ってください!』

「了解! ソラ! 僕は上に戻るから、凛ちゃんの援護お願い!」

「おう、任された!」


 どちらにせよこのままではジリ貧なのだ。なのでアルは命令に従う事にして、ソラに後の事を任せて再び飛翔機で艦上を後にする。その後に直ぐ、ソラ達が凛の下に集まる。彼らの所にも、ティナからの連絡が届いていたのだ。


「回復薬は飲んだぜ!」


 ソラが笑い、剣を構える。さすが皇国の第一艦隊のそれも旗艦とあって回復薬もかなり良質な物を融通してくれていたお陰で魔力についてはかなり回復が見られ、全員瞬間的に大火力を出すには問題無い程度には回復していた。


「全員、一斉に武器技(アーツ)で行くぞ! 凛ちゃん、魅衣! 二人は追撃頼んだ!」

「うっしゃ! 初のお目見え!」

「すぅ……」


 ソラの号令に、全員が用意を始める。そうして始めに振りかぶったのは、ソラと夕陽、暦だった。


「全開の<<草薙剣(くさなぎのつるぎ)>>!」

「<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>」

「<<雷神の帯(メギンギョルズ)>>プラス<<炎天・爆裂拳えんてん・ばくれつけん>>!」


 まず、ソラが初撃として周囲を取り囲んだ身体の柔らかい海魔達を緑色の斬撃で切り払う。そして、ついで暦が鱗等で覆われて固い魔物を横薙ぎの斬撃で切り払った。最後に、夕陽が<<雷神の帯(メギンギョルズ)>>で倍加させた攻撃力を以って、爆発する無数の拳撃を全周囲に放つ。

 どれもこれもが瞬発力と火力に長けているが、そうであるがゆえに魔力消費が激しい攻撃だった。そして、それで自らの周囲を掃討した後、魅衣が動いた。彼女はレイピアを地面に突き刺す。


「アルみたいな技なんだけど……この場合はベストかな。<<氷海陣(ひょうかいじん)>>!」


 魅衣の突き刺したレイピアを中心として、極寒の冷気が吹きすさぶ。海魔達には、冷気の効きが悪い。とは言え、身体が冷えれば当然動きは鈍り、足止め程度にはなる。その為、広範囲に冷気を撒き散らして敵の動きを止める事を選択したのだ。


「凛。行くよ」

「はい、先輩」


 それで動きを止めた海魔達を見て、由利と凛が同時に動く。二人共、高火力の面攻撃で一掃するつもりだった。


「<<無駄なしの弓(むだなしのゆみ)>>……<<豪弓雨(ごうきゅうう)>>!」

「操剣術……モード・キャノン!」


 由利は先と同じく上空に向けて弓矢を構え、最大まで引き絞って矢を放つ。使う弓は英国の騎士王に仕えた騎士トリスタンが使った剛弓。人であれ獣であれ、狙った場所を外さない、という伝説を持つ弓だった。

 <<豪弓雨(ごうきゅうう)>>は先の<<天弓の矢(てんきゅうのや)>>の上位版で、威力と効果範囲が格段に上昇するものの、魔力のチャージに必要な時間がその分伸びたものだった。これら2つを組み合わせれば、莫大な魔力消費を引き換えに確実に多数の敵を葬る矢の豪雨を降らせる事が可能となるのである。

 それに対して凛が行ったのは、自らが操っていた剣片を操って一団の周囲に展開させ、その剣片から魔力の光条を放出させて砲撃を行う、という方法だった。一度放てば直線的なので避けられる可能性はあるが、攻撃力としては充分だった。


「良し!」

「すっげ……ニホンのガキ共って攻撃力無茶苦茶たけえんだな……」


 得た結果を見てガッツポーズを行ったソラに対して、同じく艦上の軍人達が引きつった顔になる。攻撃力だけならば、今のは熟練の冒険者達をも遥かに上回っていたのである。まあ、それだけが上回っているだけで、他は歳相応の並程度から並以下なのだが。

 そこに、更に爆音が響いた。由利や凛の砲撃の範囲外に居た魔物に対して、爆撃が加えられたのだ。そして、それと同時に超音速で10メートル超の魔導鎧が飛来した。


「よっと! やっほ! マザーの命令で援護に来ました!」


 それは飛来して艦上に滞空すると、陽気な声を上げる。飛来したのは重武装になった三葉の魔導殻だった。


「……それ、全部魔銃か?」

「そだよー」


 引きつった軍人の問い掛けに、三葉は明らかに非正規とは言え軍属とは思えない答えを返す。そんな軍人の引きつりの原因だが、それは言うまでもなく、彼女の魔導殻だった。

 重武装化した魔導殻だが、その見た目はとんでもない事になっていたのである。まず、特徴的なのは両手に持ったガトリング砲4門だろう。携行型の火器としては明らかに異質なそれを、彼女は何ら苦もなく両手に持っていた。

 だが、火力で言えば更に凄いのは、その両肩だ。そこには、6連装のミサイル型魔銃が乗っていた。だが武器はこれだけでは終わらず、両腰には折りたたみ式の長銃型魔銃が取り付けられており、両足の外側には肩に取り付けた物よりも小さめの3連装ミサイル型魔銃が取り付けられていた。他にもヘルメット状の兜の部分には小型のバルカン砲が取り付けられていたり、と歩く武器庫と化していたのである。


「いっくよー!」


 そうして、三葉は楽しげな笑顔を浮かべて、全周囲に向けて魔銃の照準をあわせる。正確には狙っていない。この状況だ。狙わなくても、誰かには当たるのであった。


「ひゃっほー!」


 三葉の歓喜の叫び声と共に、魔導殻の全武装が火を吹いた。するとガトリングから放たれた魔弾が、無数の海魔達を撃ち貫き、発射されたミサイル型の魔弾は爆発を撒き散らし、海魔達を粉微塵にしていく。それに、ソラがおもわず呟いた。


「これ……あいつ一人で良かったんじゃね?」

「うっわ……先輩、それ言っちまいますか」


 ソラのつぶやきに対して、夕陽が引きつった顔で同意する。自分達が必死の力で振り絞った一撃が成した敵の討伐数よりも、彼女一人が笑いながら撒き散らす無邪気な破壊の方がすごかったのである。そんな一同をよそ目に、軍人達が声を上げる。


「船から弾着観測の砲撃が出るぞ! 小僧ども! 耳に注意しとけよ!」

「あ、うっす! おい、討伐に戻んぞ!」


 軍人の注意の言葉に意識を取り戻したソラは、再び各員に号令を掛ける。そうしてそれと同時に船から弾着観測用の砲撃が開始されて、ソラ達も三葉の砲撃から逃れられた極わずかな海魔達の討伐に戻るのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第315話『女王の咆哮』


 2016年1月8日 追記

・誤表記修正

 地の文で『~瞬発力と火力に長けているがが、』と『が』が連続になっていた部分を修正しました。

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[一言] 由利は夢と現実を月で繋ぎそうだし、三葉の魔導殻は緑色してそう。
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