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第308話 巨大な戦い

 カイトがアンプルケースを受け取っていた丁度その頃。街の直ぐ外にて、とある巨大な鎧の集団が高速で飛翔しながら最後の打ち合わせを行っていた。集団の数は総数として10体程だろう。


『標的は確認しているな! アレックス! 敵は見えるか!』

『既にばっちり見えてます! 映像そっちに送ります!』


 巨大な鎧は、全長20メートルから30メートル程もあった。それらは全て、大型魔導鎧という<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の様な人の身では抗いようのない巨体を持つ相手の為に開発された巨大な魔導鎧だった。

 それ故、カイトの使う魔導鎧の原型とメリットもデメリットも似たような物だ。大きい分出力は高いが、同時に燃費も悪い。なので、集団の指揮官は戦いの前に飛翔機の高出力での使用で減った魔力を回復させる事を命ずる。


『総員! 今の内に回復薬を消費しろ! これから先は魔力残量のゲージがイエローゾーンに突入次第使いまくって構わん! 後援の飛空艇部隊から補給は幾らでも手に入れられる! 後先を考える必要は無い! 考えられる状況でもない!』

『了解!』


 大型魔導鎧には、その大きさ故に様々な機能が取り付けられていた。魔力の残量を計測する機器もまた、その一つだった。そうして、ゆっくりと大きくなっていく巨体を前に、アレックスと呼ばれた軍人が声を張り上げる。


『見えました! 少年の姿を確認! まだ無事です!』

『これか! あの馬鹿な命知らずの少年をなんとしても救うぞ! アレックス! 貴様は海岸沿いで砲撃を仕掛けろ! サーシャ、リューマ! 貴様らは先行して奴に一撃お見舞いしてやれ! 他は俺に続いて奴に突撃だ! あの巨体を何としても我らで押し戻すぞ!』

『了解!』


 移動しながら部隊に指示を送り、指揮官の彼は先行する2体の大型魔導鎧に合わせて飛翔機の出力を最大にまで上昇させる。先行する2体は機体の関係で僅かばかりに速度が速いのだった。


『では、総員! 少年達の憧れが健在である事を街にしらしめるぞ!』

『おう!』


 そうして、大型魔導鎧の集団は音を置き去りにして、更に加速を始めたのだった。




 彼らが突撃を始めた丁度その頃のカイトは、日向と共に<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>に対して殴り合いを再度敢行していた。


「日向! 上からやれ!」

「がう!」


 当たり前といえば当たり前であるが、カイトは下の軍人達と日向であれば、日向の方が連携は取れる。付き合いの長さが比ではないのだ。

 なのでカイトは阿吽の呼吸で日向が<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の脳天を叩きつけるのに合わせて、下からアッパーカットの要領で急速に落下した<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の顔面をかち上げる。


「どうだ! 流石に脳みそ揺らされりゃ、幾らてめえでも意識保てないだろ!」


 カイトは脳みそを揺らされて昏倒する<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>に対して、獰猛に吼える。

 如何に魔物とて、肉体を持つ以上完全に生物学の法則から逃げられるわけではない。なので如何に巨体を誇る<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>とて、脳みそを揺らされれば昏倒もするのである。


「今だ!」

『衝角打撃船! 全船一気に突進しろ!』


 カイトの号令に合わせて、副長が全艦隊に向けて号令を飛ばす。衝角打撃船とは、こういった戦いにおいて体当たりして強引に魔物を押し戻す船の事だ。これを繰り返して、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の様な魔物を街から遠ざけるのである。

 そうして、幾度も衝突音が響いて、衝撃で<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の巨体が500メートル程吹き飛んだ。


「日向、足場を頼む!」

「がう!」


 巨体を吹き飛ばして戦線を押し戻して、カイトは一度補給の為に日向の上に着地する。そしてその次の瞬間、カイトの横を巨体が通り過ぎた。

 カイトを通り越して更に加速する巨体は、先の大型魔導鎧の編隊だった。そうして通り過ぎた直後、指揮官機らしい機体から声が響いた。


『よくやってくれた、少年! ここからの前線は我々が引き継ごう!』


 声と同時に、二撃の打撃音が響く。先に通りすぎた大型魔導鎧が<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の巨体を殴りつけたのだ。


『全員! 今のうちに押し戻すぞ!』

『了解!』

「自分もアンプルある限り援護します! 日向! 行くぞ!」

「がう!」

『……すまん! 頼んだ!』


 少しでも手がほしいのは事実だ。なのでこの指揮官はカイトの申し出を受け入れる事にして、先行を始める。そうして、総勢10体の大型魔導鎧と魔導鎧の原型の大出力で、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の巨体を更に押し戻していく。

 が、流石に何時迄も<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>とて昏倒していてくれない。なので更に500メートル程押し戻せた所で、<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>の総身から魔力が放出されて、カイト達は一気に弾け飛ばされる。


「ちぃ! とりあえずこれで追加1キロ! 後10キロ強で安全圏!」

『少年! 君はもう次でアンプルが切れるはずだ! ここで撤退するか、補給にもどれ! 君は英雄だ! 生きなければならない!』


 残り1つのアラームが鳴り響いたのを聞いたらしい。指揮官の男性が声を荒げてカイトに命ずる。

 今回の防衛戦の立役者は、誰がどう見てもカイトだ。なので、カイトの身だけは生き残らさねばならなかった。復興に際して英雄を欲する民衆の為、カイトを生き残らせるのは当然の判断だった。


「すいません……ちぃ! ティナ! 何やってんだよ!」


 ここで一気に押し切るのが上策。カイトは戦場を駆け抜けているが故に、それを把握していた。

 だが、身バレを防ぐのなら、戻らなければならない。それに、カイトは街に戻りながら忌々しげに声を荒げる。補給の誘導灯を上げる船はあまりに敵に囲まれすぎていて、突入出来ないのだ。そんな時だ。カイトの下に、念話が届いた。


『ふむ。苛立つでない、と言うたじゃろう?』

『ティナか! 今どこだ!?』

『ふん。街を見よ。今、ステルスを解除する』


 その声と共に、街の上に4隻の飛空艇の船団が現れる。それは明らかに、ティナの設計の飛空艇だった。


『魔導機も出撃準備が整っておる。急いで戻ってこい』

『早いな! どうやったんだ!』


 苛立ちが消えて、カイトの顔に喜色が浮かぶ。魔導機さえ到着すれば、軍属としての自らの偽りの身分を使えるので、隠蔽については気にする必要がなくなるのだ。が、続いた言葉に、カイトは思わず耳を疑った。


『何、ちょっと<<転移門(ゲート)>>の技術を応用した移動術を開発しただけじゃ』

『……すまん、もう一度頼めるか?』

『うむ! <<転移門(ゲート)>>じゃ!』


 何故か満足気なティナの声が響く。まあ、色々と思う所はあるのだろうが、実験に成功した、というのは嬉しなことなのだろう。が、喜べるのは彼女ぐらいだ。なのでカイトはそれに怒号を飛ばした。


『お・ま・え・は! あれほど<<転移門(ゲート)>>の技術を安易に使うな言うとろーに!』

『安心せい! これは<<転移門(ゲート)>>であって<<転移門(ゲート)>>ではない! というか、こんなのでも金剛級4隻の力が必要なんじゃぞ! 余でも普及出来るものか!』


 カイトの脳裏に、ティナの不満気な声が響いてきた。あちらは本当に数メートルサイズで<<転移門(ゲート)>>を作り上げる事が出来たのだ。それに対して、ティナは戦艦4隻を必要としていた。小型化等の分野で見れば、圧倒的にティナの方が劣っていたのである。

 とは言え、巨大な施設や制御ユニットを必要としていた<<転移門(ゲート)>>に比べ、金剛級の持つ<<転移門(ゲート)>>は4隻あれば何処ででも、何時でも何処にでも使用可能なのだ。下手すれば、古代文明の<<転移門(ゲート)>>よりも進んでいると言えた。


『金剛級って……高速艦か?』


 完全にオタク趣味で色々な事をやっているティナにとって、金剛級で指す船となれば一つしか無い。旧日本帝国海軍の金剛級戦艦であった。

 となれば、拘るティナのこと。由来に則って高速戦艦として建造しているのだろう。まあ、ネーミングからすれば趣味の作品――これがきちんとした軍属ならば、皇国で使えるネーミングにしていた――のようなので、彼女としても軍事転用は考えていなかったのだろう。


『うむ。まあ、さすがに速度には限度があるからどうしたものか、と考えておったらの。いっそ<<転移門(ゲート)>>で一瞬で転移できる様にすれば高速なのでは、と思ってのう。アウラの力も借りて、<<転移門(ゲート)>>の技術を余なりに完成させたのじゃ。後はこれのコントロールユニットに女性形の意思を宿せば、完成じゃな。姿はすでに出来ておる。まあ、あれじゃが』


 ティナは何処か満足気にカイトの問い掛けを認める。確かに、高速ではある。距離を無視した転移による移動を高速と言えるのなら、だが。

 ちなみに、ステルスを起動したのは転移術を使える飛空艇がある事を知られたくないが為だ。なので更に念のために街の少し遠い所に船団を出現させていた。


『アウラもか……』


 自分の婚約者と義姉は何をやっているのだ、とカイトは肩を落とす。が、とりあえず今回はありがたいのは事実だ。こんなものでもなければ、未だに到着していないのだ。あまり強くも出れなかった。


『おー。中々に面白かった』

『面白いでやばいもん復活させんな!』


 尻拭いをさせられるのはカイトなのだ。頭が痛かった。が、そんなカイトに対して、アウラもティナも不満気な声を漏らした。


『ぶーぶー』

『良いではないか。お陰で数時間は掛かる道のりを40分でこれたのじゃからの』

『いや、まあ、そりゃそうだが……それで? 例の物は?』

『中心に吊り下がっておる』


 ティナの言葉に、カイトは段々と大きくなる飛空艇船団の中心を確認する。すると、彼女の言葉通りに彼の愛機の姿が確認出来た。カイトは少しだけ軌道を修正して、魔導機を目指して再び飛翔し、念話を送った。


『良し! じゃあ、こっちは魔導機乗り込むから、お前はさっさとクイーンに乗り込んで主砲使え! あれなら、問題なくあの巨体をぶっ飛ばせる!』

『うむ、後5分程待て』

『は?』


 ティナの返答にカイトは何故この後に及んで5分も掛かるのか、とカイトが首を傾げる。それに、ティナが少し申し訳無さそうに返した。


『うむ、まあのう。新システムのテストを兼ねたのじゃが、どうやらシステムエラーが起きた様でな……5分ほど復旧に掛かる。まあ、すでに街と湾岸沿いの防衛メンバーは降下済みじゃから、街には問題なかろう』


 たはは、というティナの声がカイトの耳にひびいて、カイトはそれに思い切り頬を引き攣らせる。

 確かに街には問題無いだろうが、本丸である<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>討伐に問題が出てしまっていた。


『こっちに問題おおありだ!』


 カイトが怒鳴る。当たり前だが、飛空艇が来なければ、それに架橋されている魔導機も持ってこれないのであった。ということはつまり、カイトがこのまま向こうに行くしか無いのだ。途中で合流出来るだろう、と思っていた予定が台無しだった。

 まあ、そう言っても元々飛翔機を使えば1、2分の距離だ。なので、文句を言っている内に到着する。


『基本的な武装は持たせておる。名はアイギス。由来はわかっておると思うが、地球のイージスから、じゃ。お主という地球生まれの英雄の地の守り神には、良き名じゃろう?』

『アイギス? 名前を付けたのか?』

『いつまでも試作魔導機とコントロールユニットではかわいそうじゃろ。名前、付けてやったのじゃ。イージスでは名前として可愛さが無いしのう。中に宿る意思の名前がアイギス。外の機体はそのまま試作魔導機じゃ』


 魔導機の上に着地したカイトに対して、ティナが魔導機の中の意識についての解説を行う。中の意思はカイトの相棒なのだ。相棒の名前を知らないのはダメだろう、と思ったのだ。


「良し! コクピットブロックは変わりないな!」

『マスター! 準備出来ています!』


 コクピットに乗り込んだカイトが見たのは、自らと同じ蒼い髪と蒼い目を持つ美少女のホログラフだった。それに困惑するカイトだったが、そこに魔導機の通信機からティナの声が響いた。


『それが、アイギスじゃ。話せるようにした。相互に対話出来る方が、良いじゃろう?』

「確かに、な……良し! アイギス! 問題は無いな!?」

『イエス!』


 カイトは既に準備が整えられていたコクピットの中で即座に本来の姿に戻ると、全てのシステムをオンにして、アイギスに問いかける。


「アイギス! 全システムのチェックは任せた!」

『既に開始済みです!』

「良し! こっちは鎖を外す! 一気に飛ぶぞ!」


 アイギスの存在理由は、戦闘中にカイトがやっていられない細かな調整だ。なので既に戦闘が始まっている現状では、システム側の彼女に任せた方が良いと判断して、更にアイギスも同じ判断で既に開始していたのである。


『マスター! 全システムオールグリーン! 何時でも行けます!』

「良し! 通信機を繋げ!」

『イエス!』


 当たり前だが、この魔導機は公爵家の所有物で、更には後に量産される予定の魔導機の原型だ。なので、マクダウェル公爵家としての登録がされている。そうであるのなら、協同を取る為に艦隊の司令に伝達を行うのが、良策だった。

 なので通信を繋ぐ先は言うまでもなく、艦隊総司令たるクイーン・エメリアの艦橋だった。


「此方ソフィーティア・ミルディン少佐率いるマクダウェル公爵家中央実験部隊所属カイム・アマツ少尉。近くで飛空艇及び新型大型魔導鎧の試験中に襲撃を聞きつけて増援に来た。状況を教えてくれ」

『……此方皇国海軍大将クイーン・エメリア艦長カイエン・フジキド麾下のオペレーター・セルジアです。既に大型魔導鎧の部隊が先行して戦闘中。貴官はそれとの共同を行え』

「了解した」


 オペレーターの指示を受けて、カイトは一気に飛翔機の出力を最大にまで上げていく。

 そうして見た戦場は、どうやら既に更に多くの大型魔導鎧が到着しており、剣と魔法の世界なのに、近未来的な戦場の体を呈していた。それを見て、カイトは思わずとある作家の言葉を思い出した。


「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない……か。逆も然り、だな」


 これは有名なSF作家の言葉だった。それに、カイトがおもわず逆もまた言えたのだな、と笑う。

 現状をもし地球で見せれば、どこのSFなのだ、と笑われるだろう。だが、これを成しているのは科学ではなく、魔術だ。これは逆を言えば、充分に発達した魔法は、科学技術と見分けがつかない、とも言えたのである。

 だが、これはもしかしたら、必然なのかもしれない。科学も魔術も、等しく人の創り出した技術だ。ならば、最終的な到達点に近づけば近づくほど、似た者同士になるのは必然なのだろう。


「アイギスはAI、大型魔導鎧は巨大ロボット、魔導鎧は軍用アーマー、飛空艇は戦闘機……くくく……結局、地球もエネフィアも等しく『人』の世界……至る点は同じか。さあ、両方の世界の間の子である、我が愛機よ。いっちょ異世界で生まれた勇者は未だ健在だ、という事を見せてやろうじゃねえか」

『マスター! 出力最大! 行きましょう!』


 アイギスの言葉に、カイトは全ての準備が整った事を把握して、獰猛に笑う。


「了解だ! では、カイム・アマツ少尉!」

『オペレーター、アイギス!』

「『試作魔導機、出る!』」


 そうして、主従が同時に出陣を告げて、魔導機は轟音を轟かせて発進したのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第309話『魔導機』


 2015年12月28日 追記

・誤記修正

 クイーン・エメリア艦長カイエンの階級が大将なのに、その直後に『元帥』と誤表記されていたのを削除しました。


 2016年1月8日 追記

・誤字修正

 『起動』が『軌道』になっていたのを修正しました。

・誤表記修正

 ティナの台詞に『~テスト兼ねた~』となっていた部分を『~テストを兼ねた~』に修正しました。

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