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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二章 異世界転移編 
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第20話 街へと

 全ての魔力測定希望者の測定を終えて、志願する者が申請書を提出し終えた。結果、測定を受けた学生と教員の内、学園側の規定した基準値を超える人員は全ての関係者の予想に反して100名弱に上るものであった。

 また、当初測定だけ、と考えていた学生も、各々の予想以上の測定結果から冒険者として志願するものが多くなり、大方の予想に反して一週間掛ける必要も無く、容易に50名の人員を集める事ができた。

 尚、人員の選定の際、教師陣からも冒険者として登録希望者が多かったものの、教師陣は基準を満たせるものがおらず、今回は学生たちのサポートに徹する、ということとなった。




 そして一週間後、人員の選定や日程の調整などが着いたため、遂に天桜学園の冒険者第一陣が冒険者として登録する日がやって来た。


「では、これから馬車に乗って公都マクスウェルに向かい、そこで講習を受けます。マクスウェルでは公爵家の方や公都の方々にご迷惑をかけることの無いよう、気をつけてください。」


 冒険者としての講習を受けるため、マクスウェルへと向かう当日、桜をリーダーとした天桜学園出身冒険者第一陣へ向けて桜が注意を促していた。


「これより私達はマクスウェルへ到着後、2泊3日の予定で冒険者協会の方から冒険者としての注意事項などの説明を受けます。その後、再び学園へ帰った後、公爵軍の方による戦闘訓練を受け、それが終了次第、冒険者としての活動を開始します。我々第一陣は今後の天桜学園の未来を背負うものですが、まずは各々の安全を第一とし、必ず生還してください。」


 そう言って締めくくった桜に見送りに来た教師陣や生徒たちが拍手を送っていた。



「ようやくスタートラインだな。」


 そう言っているのは第一陣の中でも比較的高い値を出したソラであった。よほど冒険者として活動できることを心待ちにしていたのか、今から準備運動を行っている。


「その前に座学とアル達からの戦闘訓練を受けないといけないけどな。」


 カイトはソラの発言にそう返す。座学、と聞いてソラは嫌そうな顔をして


「うへぇ、結局勉強からは逃げられねぇのか……。体動かしてるほうが楽なんだけどよ……。」


 天桜学園でのソラの成績は悪くはないのだが、本人は椅子に座っているよりも体を動かす方が好みなのであった。


「まぁ、そう言うな。魔術とかだって使用するのには勉強が必要らしいからな。魔術を感覚的に行使できるのは一部天才達だけだそうだ。」


 カイトがそう言うのに続けて、ティナが言葉を引き継いだ。


「うむ。もともと余らは魔法が使用されていなかった地球から来たのじゃからな。一から魔術の基礎を学ばねばならんじゃろう。」


 ちなみに、当人はその一部天才の中でも更にずば抜けた天才なのだが。それを聞いたソラは少しだけ勉強をやる気になったらしい。


「そうか、魔法が使えるようになるのか。んじゃ、いっちょ本気でやりますか!」


 と言って頬を叩き、気合を入れ直した。しかし、今度は目の前の馬車を見て、少しだけ残念そうにする。


「でもよ、あんだけ飛空艇を見せてたんだから俺らの送迎も飛空艇にしてくれればいいのにな……。」


 それに対してティナが興奮した様子で反論した。


「何を言っておる!ゲームの初期で飛空艇が手に入っては面白くなかろう!ファンタジー系ゲームの移動は、始めのうちは徒歩と相場が決まっておる!馬車に乗れるだけ有難いものであろう!」


 ティナはゲーマ―としての拘りか、そう言う。ソラはどこか釈然としない様子で突っ込みを入れた。


「いや、一応これ現実だから。……まあ、飛空艇が普及してないなら乗車賃は高い……って考えりゃいいのか。そこまで面倒見てもらうのも悪いしな。楽しみは後にとっておくか。」


 ソラはそう言って諦めた。カイトも同じように納得したように、頷いた。


「そうだな。冒険者としての講習から戦闘訓練まで面倒を見てもらっているんだ。これ以上贅沢を言ったらバチが当たるだろう。」


 若干残念そうにそう言っているが、当人も大型の飛空艇に乗ったことが無いため楽しみにしていたのだろう。


「お、式典が終わったな。んじゃ、馬車に乗っていきますか。」


 そう言って三人はマクスウェルへ向かう馬車へと乗車した。




「馬車というからどれ程のものか、と思ったが、悪くないものだな。」


 かつての旅においてはおんぼろ、というのもおこがましいような天井はなし、騒音と振動は酷いという馬車に揺られて旅をすることも少なくなかったカイト。しかし、今揺られている馬車は音こそうるさいものの、振動はかつての旅で乗車した馬車と比べ物にならなかった。当然天井も付いている。


「ん?馬車ってこんなもんなんじゃないのか?」


 現代日本において馬車に乗ることなどなかったため、基準がわからずそう言うソラ。


「ああいや、振動がすごくて車酔いに似た症状がよく出る、と聞いていたからな。」


 そう言ってごまかしたカイト。カイトが馬車に乗った際は、常に飛空術で床から離れていないと車酔いになっていた。と言うか、その為だけに超高位の魔術であるはずの飛空術を習得した。そこへ話を聞いていた桜が公爵家から聞いた情報を話す。


「なんでも私達は馬車に乗り慣れていないだろうから、とわざわざ振動を軽減させる魔法を使用した馬車を用意してくださったらしいです。」


 実際はカイトが馬車で苦しんでいたことを知っているクズハが飛空艇を用意しようとしたのだが、フィーネに止められたため、妥協案として振動軽減の魔術を使用した馬車が用意されることになったのである。実はこの馬車も乗車しようとすればかなりの値段となるのだが、最近開発されたものであったので、カイトも知らなかった。


「そうか、それは本当にありがたいな。」


 馬車による車酔いは嫌というほど経験しているので、心の底からそう思うカイトである。


「桜、明日の公爵代行様への挨拶だけど、会談後に挨拶に伺った全員と会食を行いたい、と先方がおっしゃっているそうよ。どうやら日本について聞きたいらしいわね。どうする?」


 そう言って桜に話しかけたのは生徒会副会長、桜田楓である。桜田校長の孫で桜とは幼馴染の関係であった。若干切れ長の細い目をしたメガネを掛けたショートカットのクールな美人であった。


「そうですか、特段断る理由はありませんね。お受けします、とお伝えしておいてください。」


 特に断る理由がなかったためそう答える桜である。それより、公爵代行との親交を深められる方が利益が有ったので、受けることにしたらしい。楓は続けて補足を入れる。


「公爵家の予定次第では会談自体が夜遅くなる可能性もあるから、その場合は公爵邸に宿泊用の部屋を用意してくださるそうよ。」

「わかりました。お言葉に甘えましょう。その場合、翌日の講習場所までの移動は?」

「それも用意してくださるようね。朝がかなり早めになるけど、そこは我慢するしかないわね。」


 そう言って溜息をつく楓。朝は苦手らしい。そして、少し重要な話があるから、と桜と楓は集団から少し離れる。



「で、あの二人はどう?」


 小声で桜に話しかける楓。何故か生徒会総会の時よりも真剣な目をしていた。


「はい。噂通りかと。この間も二人で肩を組まれていました。それ以外にも興奮されたソラさんがカイトさんに抱きついていらっしゃいましたね。良いですね。非常に良いです。」


 抱き付く、と言うと変だが、カイトが冒険者として志願する、と知ったソラが感極まってハグしただけである。カイトはすぐにうぜぇ、と引き剥がしていた。どんな噂かはこの際考えない。桜の目も生徒総会で前に出ていた時より、真剣なものであった。ただ、口端には笑みを浮かべ、若干よだれが垂れそうな雰囲気があったが。傍から見ればかなり真面目なミーティングをしているだけに見える。


「そう。やっぱり……。いいわね、桜。今後もあの二人から目を離さずに観察を続けてネタを見つけること。」


 何がやっぱり、なのかは分からないが、二人の間には合意が取られているらしい。桜も頷いて答えた。


「ええ。楓ちゃんもC組の観察を。」

「わかっているわ。」


 そういう二人は誰にも悟られないように頷きあった。



―――――実はこの二人、誰にも―家族にさえ―知られないようにしているが、所謂BL愛好家なのであった。それも、妄想が現実の人間にも波及するぐらいのレベルである。もとは楓がとある縁でハマったのだが、それに桜が影響されたらしい。その内同人誌を描こう、そう約束しあっていた二人にとって、現在のカイトとソラは絶好の調査対象なのであった。



 桜と楓が話し合っている内容を知らないソラとカイト。知れば即座にお互いがお互いから距離を取ったであろうが、知らぬが花なのであろう。現在はカイトと二人で並んで壁際に腰掛けていた。ティナは友人たちと一緒に別の馬車に乗っている。


「移動中もミーティングか。生徒会の連中は忙しいな。確か全員が志願したんだっけ?」


 今回の冒険者志願において、生徒会はほぼすべての面子が志願していた。志願していない面子は単に魔力量が基準を満たさなかっただけであった。


「ああ。全員志願、だったはずだ。ただ、桜に聞いた話だと、実際に冒険者として活動するのは桜と桜田副会長、その他数名だけらしいな。」


 桜から出発までの間に生徒会の話を聞いていたカイトがそう答える。


「そうなのか?せっかく冒険者として登録しても活動しないんじゃ、別のやつに席を譲ったほうが良くなかったか?」


 今回の第一陣は上限である50名を超えていたため、ソラがそう疑問に思うのも無理は無い。


「どうやら残りの面子は学校の警護と後発の生徒への教育を行うらしい。まぁ、公爵家もいつまでも学園に駐留してくれるわけじゃないだろうしな。アル達がいるうちに、自衛のための戦力は整えておきたいらしい。」


 いくら大恩ある人物と同じ出身地であっても、それだけでいつまでも面倒を見て貰える訳ではない。何時かは独り立ちする必要があった。生徒会も教師陣もそれを見据えて行動していた。


「ってことはアルとも何時かは今みたいに会えなくなるのか。……せっかく仲良くなったのに残念だな。アル達には借りを作ってばっかだったな。」


 残念そうに言うソラに対してカイトが安心させるように慰める。


「もしオレ達が活躍していけば公爵家が後ろ盾となってくれることもあるだろう。そうなればまた会えるさ。それに、もし公爵領内で何か問題があったらオレ達冒険者にも公爵軍との共闘依頼が来るかもしれない。そうなった時は今度はこっちが恩を返すこともできるだろ。」

「……そうだな。そのためにはまずは冒険者にならないとな!いっちょ二人でトップ目指そうぜ!」

「ああ。目標は高い方がいい。」


 少ししんみりしていたソラだが、復活し気合を入れて、カイトに拳を突き出し、ニヤッと笑った。何故かカイトは一瞬悪寒を感じて身震いしたが、気のせいか、と思い直してソラの拳に自らの拳を突き合わせ同じように笑った。桜と楓はそれを見て密かにソラに対して不満を言いつつ、これはこれでよし、と賞賛も送っていた。

 そんな話をしつつ馬車に揺られること数時間、一行はマクダウェル公爵家公都マクスウェルに到着した。


 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年7月2日 追記

・誤字修正

『受けないと』とすべき所が『受けるないと』となっていた所を修正しました。

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