表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十四章 それぞれの想い編
296/3869

第278話 残った彼らの日々 ――昇格試験――

 前回2話分の改訂版を上げさせていただいています。大幅な流れに変更はありませんが、お読みいただければ、幸いです。

 カイトが馬車に揺られて旅立っていった翌日にも、当たり前だがソラ達残る冒険部の面々は普通に仕事がある。なので、ソラは今日も今日とて冒険部1階に設置された掲示板の前に立っていた。


「うーん……やっぱランクDだともういい依頼ないなー……」

「だねー……」


 ソラと一緒に掲示板を確認していた由利もソラの言葉に同意する。ここ最近トーナメントの慣らし運転を兼ねてカイト達以外ともパーティを組む様になっていたので、安全策を取ってランクDの依頼を受けていたのだ。だが、やはり二人にとっては簡単な――もしくは簡単過ぎる――依頼にしかならなかった。


「やっぱランク昇格そろそろやっとかないとなー……」

「……え?ソラ、まだやってなかったのー?」


 ソラの言葉に由利がこてん、と首を傾げる。確かに、一ヶ月程前のミナド村への遠征の時はまだ昇格していなかった。実力が大丈夫、と絶対の自信を持って言えなかったからだ。

 だが、それもコラソンの言葉で大丈夫そうだ、と理解していた。なので由利はもうてっきり昇格している物だと思っていたのである。

 なお、そう言う由利は既に昇格を果たしており、ソラと離れて魅衣と行動する時などは普通にランクCの依頼を受けていた。


「あー……ここ当分忙しかったし、ランクCを第二陣の奴らとかの前で受けんのもなー、って思ってすっかり受けてない」

「もー……カイトからも早めに受けとけ、って言われてたじゃんー」


 何処か照れくさそうな笑みを浮かべたソラに対して、由利が何処か子供を叱る様な口調で告げる。帰って早々にカイトの方でも実力が大丈夫そうだ、と把握したこともあって、なるべく早い内に昇格試験を受けておけ、と言われていたのである。


「あー……うん。そういやそうだった」


 どうやらソラはそのことはすっかり忘れていたらしい。ボリボリと頭を掻いて、少しだけしまった、という顔をしていた。


「……じゃ、悪いけど、今日は一緒に来てくれっか?」

「しょうがないなー」


 ソラは少しだけ思考を巡らして今受けた方が良いと判断したらしい。それを受けて由利がにこやかに了承を示した。


「後、一個。言っておきたい事もあったし……」


 出掛けに、用意の最中に由利に聞こえない様にソラが小さく呟いた。出来れば、話の内容からして少しだけ二人になりたかったのである。

 そうして、二人は一度ユニオン支部――流石に昇格試験は冒険部の派出所では手続き出来ないので、ユニオン支部へ行く必要があった――へと向かい、昇格試験の情報を入手するのであった。




 二人がユニオン支部を出発してから約1時間後。やはりというべきだが、試験は開始早々にあっけなく終わりを迎えようとしていた。


「……よわ」


 あまりに軽い攻撃に、ソラが何処か嘆きの色さえ浮かべて呟いた。討伐対象であるラーズ・グリズリーは確かに、ランクDになりたての頃に出逢えば強敵となり得ただろう。だが、今のソラでは防御をしても殆ど反動を受けない程度の敵でしかなかった。

 ちなみに、ラーズ・グリズリーはグリズリーという様に熊の様な魔物で、大きさとしても大きめのグリズリー程度の大きさだ。ただ、体毛だけは灰色では無く、真っ赤な色をしていた。なお、凶暴性は比べるまでもなく、魔物であるラーズ・グリズリーの方が圧倒的に凶暴である。


「もっと早めに受けときゃ良かった」


 万が一がありえるかも、と更に数発受けたソラは、ため息と共に呟く。一応、試験だ。なので油断なくカウンターを叩き込める様に敵の動きと行動を把握して倒す事にしたソラであったのだが、かつて受付でライルから聞いた両腕の一撃を試しに受けてみた所、何度受けても何ら痛痒を感じなかった。

 それに、今まで申請をサボってきた事をようやくソラも把握する。喩え申請をサボっていても、鍛錬を怠った事はなかったのだ。その差が、こうして形として表れていたのである。


「こりゃ、速さは見るまでも無いよな」


 そう決めたソラは一気に攻勢に出て、勝負を終わらせる事にする。なにせ今の状況だと命がけの戦いである此方よりも、この後の方が本戦だと思えてきたのだ。こんな所で変に体力を使いたくはなかった。


「<<風よ>>!」


 ソラは目を見開いて口決を唱えると、一気に風の加護で自身の速度を増した。


「<<風天突(ふうてんとつ)>>!」


 ソラは増した速度で後ろに回りこむと、そのままラーズ・グリズリーの背に一太刀浴びせ、魔物が振り返ろうとしているのを確認して、更に今度は死角から前に回りこみ、首元を狙い一太刀浴びせる。それに驚いたラーズ・グリズリーが前を向こうとした時には、既にそこにソラの姿はなかった。


「熊串刺しいっちょあがり!」


 ラーズ・グリズリーの視界から消えたソラはその巨体の上に飛び上がり、その背中目掛けて片手剣で串刺しにする。全体重に加えて数十キロもある金属製の鎧、更に魔術による急加速での急降下を加えた片手剣での刺突を受けたラーズ・グリズリーはたまらず大の字になり、地面に倒れ伏す。そして、そのまま動かなくなった。


「……終わり、か?」


 一応倒せたはずだとはソラも思っているが、相手は魔物だ。なのでソラはラーズ・グリズリーを串刺しにした剣を地面から抜き放ち、ジャンプで間合いを取って、その後を確認する。だが、一向に動く気配は無く、そのまま絶命している様子だった。


「おっしゃ。これで終わりだな」

「ソラ、おめでとー」

「おう、サンキュ」


 そして真実動かない事を確認すると、ソラは血糊を振り払って納刀する。それと同時に、木々の上で周囲の偵察と試験の監督を行っていた由利が降りてきて、ソラに称賛を送る。


「いや、ごめん。監督来てもらって」


 確実に動かない事を確認して、ソラが改めて由利に礼を言う。実はランク昇格試験に際しては冒険部では既に昇格した誰かに監督をしてもらうことになっている。その為、ソラは由利に頼んだのだ。

 当たり前だが、こんな監督作業は本来冒険者ではやっていない。更に一歩上の段階に進むとして、カイトが命じて決して一人だけで試験に挑むことが無い様に厳命しているのである。なので冒険部では、必ず誰か一人は上のランクに昇格した者が試験の監督に参加するのであった。


「いいよー。それで、どうだったー?」

「サボりすぎた」


 風と共に魔素(マナ)の粒子として消え去ったラーズ・グリズリーを見ながら、ソラが照れた様に苦笑する。本来ならば、もっと強い相手だったのだろう。だが、今のソラから見れば、単なる雑魚にしか思えなかった。


「そうだけどねー……次の昇格試験はかなり上らしいよー」


 苦笑を浮かべていたソラに対して、由利が少し困った様子で告げる。そんな由利に、ソラが問いかけた。


「ん? どういうこと?」

「うーん、なんかねー……とりあえずカイトがこれから先はもう今までの様に強くはならないから、一気に駆け上がるのは無理、なんだってー」

「そんな駆け足だったかなぁ……」


 由利の言葉に、ソラが首を傾げる。学園が転移して、冒険者として活動を始めて今で約6ヶ月。初心者や新人冒険者と言われる段階がランクDまでらしいので、6ヶ月も集中して訓練を積めば十分だろう、とソラは考えていた。

 というのも、地球を基準とすれば、約6ヶ月と言うのは約半年ものかなりの期間だ。彼にはそこまで急ぎ足という感覚はなかったのである。

 が、これは大きな間違いだ。ソラ達が幸いにして才能に優れていた為ここまでの早さで昇格出来ているのであって、彼らよりも才能に乏しい生徒だとまだ第一陣でもランクDの中盤程度の実力で留まっている。

 ただ単に、彼らは本来のスペックを発揮するための修練を積んで、スペックだけで戦い抜いているだけだった。なので本来練度で見れば、冒険者達の中でもかなり最下層に位置しているのであった。

 だからこそ、遠からず頭打ちに到達する事になるだろう。それが近々訪れる、というのが、カイトの読みだった。


「ホントなら、ランクCに昇格するのだって早くて1年がかりだってさー」

「うえ、マジか」


 由利から実情を聞かされて、ソラが驚きを露わにする。と言うより、これは当たり前だった。本来は天桜学園の様に学園の上位10%という才能がある者だけが冒険者をやっているわけではない。普通に才能が無くても、冒険者として活動している者もいるのだ。

 おまけに、ソラ達の様に集中的に、それも本来ならば初心者向けの訓練を施してくれるはずも無い軍事機関から肝いりで鍛錬を施してもらえるわけでもない。本来それだけ時間が必要なのは当たり前だった。


「でも多分、ランクBになると一気に難しくなるんだってー。だから、試験の内容も実績が伴っていないから教えられない、だってさー」

「じゃあ、ユニオン行っても何も教えてくれないわけか……」


 ソラはここまで楽なら意外と次も行けるんじゃないか、と思っていたらしい。由利の言葉に少しだけ残念そうにしていた。

 だが、流石にここまでは初心者の出来る所、だ。なので冒険者ユニオンでは誰でも出来て当たり前、と捉えられている風潮があった。と言うより、冒険者達からしても、ここまでは誰でも出来て当たり前、と捉えている。

 ランクCまで上り詰めるのは、練習さえ積めば誰でも到達できる。だが、それから上が問題なのだ、と。現にこれ以降になると、一気に母数が減る。その割合は全冒険者の中の約2割強で、それ以上となると更に減って殆ど居ないに等しかった。ランクEXが歴史上数えられるぐらいだ、というのもうなずける話だった。


「10年やってもランクが上がらない事なんて良くある事、だってー。だからじゃないと思うけど、聞いても答えられない、だってさー」

「実績、ねぇ……村一つ救った、じゃダメなわけかな?」

「だぶんねー」


 そんな事を話ながら再びユニオン支部を目指して移動を始める二人は、その後殆ど戦闘も無くユニオン支部へとたどり着いて、試しにランクBへの昇格試験について聞いてみた。が、答えは言うまでもなく、拒否された。


「お答えできかねます。本件についてはまだソラさんの実力が不足している、とユニオンは判断致しました」

「えーっと……あの、一応ミドナ村、って所から二つ名も貰ってんだけど……」

「それでも、まだ不足していると判断されました」


 登録証を受け取り、更にソラの活動実績を確認していた受付の職員が素気無くそう告げる。ちなみに、これはソラの馴染みのライルであっても、同様の判断が下されたはずなので、何もこの受付の職員が特別規則に忠実だ、というわけでは無い。


「えっと、それだと、どれぐらいの実績があれば、認められるんっすか?」

「そうですね……」


 どうやら許可の下りる実績については秘匿されているわけでは無いらしい。まあ、これまで秘匿されていれば、最悪単なる専横だ、と言われかねないだろう。基準が公表されているのは、分からない話ではなかった。

 そうして、ソラの応対にあたっていたユニオンの職員はソラの問いかけに応じて数枚のプリントを確認して、口を開いた。


「まず、ランクCの魔物の中でもかなり上位の魔物の討伐実績が必要です。が、これは上位冒険者との共闘による討伐では無く、ソラさんが主体となった討伐実績となります。ソラさんの活動実績にあるトレントの討伐はマクダウェル公爵軍アルフォンス・ヴァイスリッター氏との共闘、及び風の大精霊様のご助力、という風に判断されています。なので、これは要件を満たしている事にはなりません」


 これについては、ソラも反論はない。あの時幸いにしてシルフィの助力があったからこそ満足に討伐が出来たのであって、それがなければ、と今でもソラはぞっとする。


「更に、活動期間についても最低3ヶ月は必要です。ですので、今からですと、ソラさんはどれだけ早くても夏の6月頃になると思われます」

「げっ! マジ!?」

「あ、そうなんだー」


 予想外の言葉に、ソラが思わず目を見開いて、由利が意外そうに頷いていた。由利は語れない、という事で納得してそのままで、二人共てっきりそのまま実績という条件さえ満たせば普通に受けられる、と思っていたのだ。ソラの場合はまさに、サボっていたツケが回ってきたのである。

 ちなみに、カイトもランク昇格からまだ3ヶ月経過していないが、偽造証の方にはこの期間設定が適応されず、堂々とランクBに昇格出来るのであった。これはそうでもしないと経歴を偽造した状況では内偵調査等の仕事上で必要とされても受ける事ができなくなるからであった。


「おや……カイトさんや瞬さんには既にお伝えしていたので、そこからお聞きかと思ったのですが……」

「あー……カイトは今長期遠征中なんっすよ」

「あぁ、そういえば紹介依頼がありましたね」


 ソラの言葉に、受付の職員は少し納得した様にうなずいた。どうやらメルが受付で聞いた職員だったらしい。その依頼が長期に渡る物だとは知らなかったのだが、ここでのセリフを聞いて、把握したのであった。


「まあ、とりあえず。少なくとも活動実績と経験実績を共に満たしていただかない事には、ランクBの試験内容についてをお知らせする事は出来ません。また、ランクB以上の冒険者様に致しましても緘口令を敷かせていただいておりますので、問いかけても無駄だと思われます……それは、カイト様も同様、とお考えください」


 ユニオンの職員が敢えて本来のカイトも、と言い含める所を見ると、どうやら何処からも無理そうだ、とソラは理解する。とは言え、流石に無理という一点張りでは少し悪いと思ったのか、ユニオンの職員は少しだけ表情をゆるめた。


「これらは皆様の安全の為、ですので、ご了承ください。そうしないとこれまでの試練の様に勢い余って流れで挑んでも命からがらでも逃げ帰れる、というのでは済まない試験となっておりますので……」

「うっす。ありがとうございます」


 柔和な表情でそう告げる職員にソラは苦笑して、受付の場所を後にしようとして、その前に何かに気付いた職員に止められた。


「あ、お待ち下さい、ソラさん」

「あ、はい。なんっすか?」

「この間のトレントの一件にて情報料がユニオンから支払われております。少々お待ち下さい」


 たたた、と少しだけ駆け足で職員は受付の裏に引っ込んで、何らかの手続を行って戻ってきた。


「先ごろのトレントの人質を取る行動について、ユニオンに無い情報だと判断されました。追跡調査の結果他の個体には見られませんでしたが、亜種や別の進化を辿る過程とも推測されています。情報、ありがとうございました」

「あ、まじっすか。ラッキー」


 冒険者にとって、魔物の情報は何より貴重だ。それ故、こういった新たな行動をユニオンにもたらした場合は情報料が支払われるのであった。

 今回、ソラが活躍したご褒美ということでもし情報料が払われればソラの好きにしてよい、と決定されたので、ソラはそれを有り難く懐にしまい込む。そうして、臨時収入を得たソラは結構ごきげんでユニオン支部を後にするのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第279話『ソラの告白・瞬の修練』


 2015年11月28日 追記

・誤字修正

 『以外といけるんじゃないか』となっていた所を、『意外と~』に修正しました。


・表記変更

 『学園が転移して、冒険者としての~』という一連の部分について、地球を基準としているのかエネフィアを基準としているのかわかりにくかったので、修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ