第18話 一条の見たモノ
全校生徒の爆笑を―一部桜ファンの男子生徒から桜と親しげにしていたと嫉妬も一緒に―買いながら着席したカイトだが、今度はソラと一条が暴走しないように注意する。そこで一条が話しかけてきた。
「すまんな。えーっと。」
「あ、2年A組の天音 カイトです。先程は申し訳ありませんでした。」
「天音か。いや、さっきは俺こそすまん。少しあってな、どうしても興奮が抑えられなかったんだ。」
そう言って恥ずかしげにしている一条の発言に、気になるものを気づきカイトが質問した。
「少しあった、とは何かあったんですか?」
「ああ、いや、黙っているように言われてるんだが……。それと普通の口調でいいぞ。」
「いえ、そういうわけには。」
「先輩がいい、と言っているんだ。従っておけ。」
それでも断ろうとしたカイトだが、アル達との一件を思い出したため黙って従うことにした。
「わかった。で、黙っているように言われた、とは?」
もしかしたら密偵が入り込んでいるかも、と少し食い下がってみるカイトに一条は若干考えて別に固く口止めされているわけではないか、と呟いた。
「……はぁ、まあいいか。ここへ飛ばされた夜、屋上で自主トレしようとした時のことなんだが。」
そう言って話を続ける一条だが、カイトは、飛ばされた初日にトレーニング……彼も大物か、と戦慄していた。
「金髪の美女が屋上のソーラーパネルの上にいたから誰だ、と思いつつも落ちたら危ないと思ったからな。話しかけてみたんだ。するとその女はなんて言ったと思う?」
そう二人へ問いかける一条。
「さぁ。自分は大丈夫だ、とでも言ったんじゃねぇんっすか?」
「実際には、今良い所だ。邪魔するな、だった。だが、彼女の見ている先にはルキウスさんらの陣地以外何もない。それで、俺は何も見えないじゃないか、と聞くと彼女は、当たり前だろう、自分が見えなくしているんだから、と笑っていったんだ。」
「もしかして、その女の人って魔術師ってやつなんすかね。」
「今思えばそうだったんだろう。そこで、俺にも見せてくれ、と言うと、その女は少し考える素振りを見せて、どこからか杖を取り出して地面を一突。するといきなり爆音が轟いた。」
思い出して興奮しているのか一条は楽しそうにしていた。
「するとどうしたもんか。そこのアルフォンスってやつと黒いローブを纏って槍を持った男が空中戦をやってやがった。」
アルを密かに指さしながらそう言う一条。アルが戦っていたことを知ってソラは驚いたが小声で一条に補足した。
「アルフォンスって、アルか!そりゃ相手は残念だったな。あいつ公爵軍最強らしいっすよ?」
そう言うソラに一条は怪訝として、眉の根を寄せていた。
「そうなのか?素人見だが、黒いローブの奴はそのアルってやつを圧倒してたぞ。」
なっ、と絶句するソラ。一条はそれに斟酌せず話を続ける。
「まぁ、俺が見ていることに気づいたらしい黒いローブが一瞬動きを止めたかと思うと、次の瞬間には地面に真っ逆さまに落ちていってな。どうやらそのアルフォンスが攻撃していたらしい。」
なんとかアルが勝ったらしい、そう思って安心したソラ。
「それでな、その黒いローブが落ちる瞬間に持っていたのが剣と盾で、気になったんだが、そこで女が、あいつ、手加減しているな、そんなこといったんだ。それで女に話を聞こう、そう思った次の瞬間黒いローブが落ちた場所から轟音と、何かがアルフォンスに飛んで行くのが見えた。見覚えあった形状のお陰でなんとか、やり投げ用の槍の一種と思ったんだが、一瞬で自信はないな。」
そう言って自信なさげに首を横へふる一条。ソラは完全に聞き入っている。カイトは無表情に、終わったらティナにはお仕置きだな、と決めた。ティナはカイトが話を聞いているため若干震えている。彼女が勝手に見せたことであった。
「その飛んでいった槍を、今度は一瞬で盾を巨大にしたアルフォンスが槍の射線を逸らして躱した。それで背中の筒?みたいな奴が光ったかと思うとアルフォンスが黒いローブに突っ込もうとして……後ろからいきなりやって来た槍に当たって落ちていった。」
アルが槍に刺された、と聞いて顔を青ざめるソラだが、その様子を見た一条が落ち着け、と言って宥めた。
「どうやら、黒いローブに殺す気はなかったんだろうな。貫通はしていない様子だった。実際アルフォンスも空中で立て直して地面に着地して、そこで二人の姿が消えた。」
アルが無事であったと聞いて安心したソラだが、今度は消えた、と聞いて
「消えた、ってどういうことっすか?」
「ああ。俺も疑問に思った。が、そこで女が、アルのやつはまだまだだな、と言うんだ。俺は愕然となったが、聞いてみた。何故消したのか、あれで終わりではないだろう、と。すると女は終わりだ、アルの奴は全力に近いだろうが、黒いローブにとってあれは試験にすぎない、といった。そこで今度は俺もあんな風になれるのか、と聞いた。すると女は初めてこっちを向いて金色の眼をこっちに向けて、今のを見てまだ戦意を失わないのなら、可能性があるかもしれない、と言って笑った。次の瞬間、一瞬で女の姿は掻き消えた。夢かとも思ったが、あまりにもはっきりと覚えている。それ以来、どうにも血が滾ったような感覚が冷めん。それ以来こう思うんだ。何時かは彼らに並び立ちたいと。戦ってみたいと。」
そう言って獰猛な笑みを浮かべる一条。彼はもしかしたら、生粋の戦士となる可能性を秘めているのかもしれなかった。
「でも、結局アルを襲った奴って何者なんっすかね。」
話が終わって興奮が冷めてきた二人は冷静に考える。
「わからん。だが、どうやら問題はなかったようだな。」
もしくは俺達に気付かせていないだけか、という一条。
「アルより強いやつか、想像つかねー。もしかして伝説の勇者ってやつっすかね?」
転移こそ伏されたものの、勇者については説明があったため、普通に言うソラ。しかし一条はそれを一笑に付して否定する。
「まさか、三百年も前の奴なんだろ?生きているわけ無いだろ。」
「そうっすね。でも、そんぐらい強いやつがいるってことか。ワクワクしますね。その美女ってやつも気になるし。」
そう言われて襲撃者本人かつ勇者本人であるカイトは苦笑するしかない。
「ああ、そうだな。何時かは戦ってみたいものだ。」
その後、全部の伝達事項が終わり、一同に皇国からの支給品として通訳用のイヤリングが配られ、解散となった。
尚、その夜、ティナの許しを請う声がどこかの異空間で響いていたというが、本人がそれを一切語らなかったため、真偽の程を含めて、詳細は全くわからない。
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