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第271話 墓参り ――最愛の家族達――

 地球の実家の現状を把握したカイトは、ここ100年もの間引きこもっていたアウラと情報のすり合わせを行っていた。


「と、いうわけなんだよ。何かわかるか?」


 カイトは転移時に見た、奇妙な魔法陣の様な物体についてを問いかける。が、詳しい状況の説明を聞いて、アウラは首を横に振った。


「……わからない。実物を見たわけじゃないけど、規則性が無いなら、転移陣とかじゃ、無いはず」

「そうか……いや、転移陣で無い、とわかっただけ助かる」


 この分野における第一人者にして、異世界から特定の高位の力の持ち主だけを召喚させる術式を編めるアウラが転移陣で無い、と言うなら確かである。さすがのカイトもティナも、専門ではない分野に確証が持てなかったのだ。


「でだ、その後なんだが……」


 とりあえず最も重要な事が聞けたので、カイトは今度は転移してからの話を始める。そうして、昨日までの全てを聞き終えて、アウラがある事に気付いた。


「……ということは……昨日術式に干渉があったのは、カイトの所為」

「? どういうことだ?オレを召喚する術式のことか?」

「うん、カイトを召喚しようと召喚の魔法陣を展開して、術式を展開中に、外から膨大な力の干渉があった。危うく失敗仕掛けた。あの出力だと、カイトぐらいしか出せる人居ない」

「ぞっとしねえな!」


 アウラの平然とした台詞に、その危険性を把握するカイトがぞっとする。もし、召喚が失敗していれば、どこか別の空間に飛ばされたり、下手をすれば全く別の世界に飛ばされている可能性がある。良くて、別の人物か魔物等が召喚されるぐらいであった。


「気絶で済んだのは幸いだったのか……」


 そのせいで満足に身動きが取れず、アウラのなすがままに成りかけたのだが、どうやら不幸中の幸いであったらしい。下手すれば、手足の一本が損失していてもおかしくなかった。まあ、無くなった所でアウラが居るので即座に復元されただろうが。


「おー、さすがに慌てたけど、なんとか修正した」

「すげえな、おい」


 ビシッ、とVサインをして胸を張るアウラに、カイトが呆れながらも称賛を送る。カイト自身でもわかるぐらい高い出力の魔力を放出していたのだが、なんとか持ちこたえたのだ。十分に褒められるべきことであった。そうして義弟から賞賛を受けて無表情の中に照れを見せて喜んでいたアウラだがそんな彼女に、カイトが問いかける。


「で、結局100年間ずっとここに引きこもってたわけか?」

「おー、まさか100年経ってるとは思ってなかった」


 熱中すればとことんまでやりぬく彼女の事。多少はありうるかも、と思ってしまうのが、カイトとしては悲しかった。そしてアウラを知る全員が、同様にありえる、と納得するし、事実、この後それを知って、納得した。


「で、ここ何処なんだ? さっきの話しだと、公爵領にある見たいだが……」

「? 公爵邸だよ?」

「はい?」

「私の空中庭園。中の異常が外に出ない様に、空間は隔離してる」


 カイトの怪訝な顔に、アウラが昨夜も告げたマナーを説く。異世界から召喚する研究をしている以上、何らかの要因で、意図せぬ召喚が行われる可能性は有る。召喚術の研究をしている術者がまず始めに対策を取るのが、この、もしもの場合であった。最悪、召喚者ごと異空間に隔離できる空間で研究するのが、ある種の不文律となっているのである。


「て、事は……昨日オレが見たのってやっぱり空中庭園だったのか。って、ちょっと待て。じゃあ、なんでクズハが居場所しらねえんだ?」


 カイトが魔導機で飛翔中、ふと横に見えた庭園らしき景色はアウラの空中庭園であったようだ。それ故に、今度は逆にアウラがここにいる事をクズハが把握していない事を疑問に思うのは当たり前だった。が、そんなカイトの言葉に、アウラが首を傾げた。


「? あとよろしく、って手紙出したよ?」

「知ってる……居場所ぐらい書いとけ……」

「私の研究室はここだよ? クズハも知ってるはず」

「空間隔離する、って書いたか? お陰でお前、ずっとこれ持ってどっか行ってると思われてるぞ」

「……おー、忘れてた」


 アウラはぽむ、と手を叩いて今思い出した、という顔をする。それが、今まで行方不明の原因であった。つまりは単純な連絡ミスだったのである。


「そういうわけか……って、事は、昔から場所は変わってないんだな?」


 カイトやティナでさえ、その知識や力量を頼るアウラが、何も手掛かり無く空間を隔離すれば、誰も見つけることは出来ないだろう。カイトやティナでさえ、厳重に隔離された空中庭園を発見できなかったのだ。それより遥かに実力の劣るクズハや古龍(エルダー・ドラゴン)達では見つけることは不可能であった。

 まあ、まさか元々の位置から移動していないとは思わず、灯台下暗しでこの街の探索が疎かになっていたかも、とは後のクズハの言である。一応念のために調査もしていたのだが、その当時の力量では気付けなかったのである。


「多分、そう」

「にしても、アウラクラスに隔離された空間を強引に切り裂いたわけか……そりゃ失敗しかかるわ」


 自分が為した事とは言え、あまりのぶっ飛び具合にカイトが溜め息を吐いた。本来ならば、アウラクラスが行う空間隔離であれば、力で強引に引きずり出すなどということは不可能である。ティナであっても難しいだろう。これは純粋に空間系統の魔術において、それだけアウラの実力が高い、ということの証明に他ならなかった。

 どうやらカイトという馬鹿みたいに高出力の使い手と、ティナが作った魔導機、コアユニットに宿った謎の存在という奇跡的な組み合わせによって莫大な力が生まれ、空間をも切り裂ける魔刃が生まれたようだ。

 そうして、そんな空間を切り裂けた理由には、当然、アウラも興味があったらしい。なので、カイトに問いかける。


「……一体、どんな武器を使ったの?」

「あー、まあ、ティナの新作。飛翔試験の余波。」

「ふーん……余波?」


 カイトの説明に納得しかけ、アウラはふとありえない言葉に気付いて、無表情の中に僅かな驚きが生まれる。が、そんなアウラに、カイトは平然と認めた。


「うん、余波。ホントは単なる飛翔機の試験だったんだが……途中色々あって、魔刃が生まれた」

武器技(アーツ)じゃないの?」


 空間を切り裂く様な力を持つ武器技(アーツ)であればその様な事が起きても不思議ではないので、アウラも危うくスルーしかけたのだが、はっきりと余波、と言われて一瞬呆然とする。が、さらなる問い直しに、カイトは平然ともう一度同じ答えを発した。


「単なる飛翔の余波」

「飛んだだけ?」

「飛んだだけ」


 目を瞬かせるアウラの疑問に、カイトが頷く。後にティナの調査で分かったことだが、魔導機の最大出力時に魔刃が生まれるのは、翼に武器となる大剣を使用している以上、不可避であったらしい。更に応用して最大出力時で無くても出来るように改良を加える、と言っていた。


「……ま、いっか」


 カイトの答えから1秒ほど考えていたアウラだったが、深く考えても無駄と知る姉は、弟のぶっ飛びっぷりをスルーすることとする。そうしないと、やってられなかった。まあ、そもそもでこの姉も色々とぶっ飛んでいるので、血は繋がらなくとも、似たもの姉弟なのだろう。そうして流すことにしたアウラに対して、カイトは少しだけ真剣な眼で問いかける。


「でだ……空中庭園ってことは、墓、あんだろ?」

「……うん」

「ちょっと行ってくる」

「……一緒に」


 立ち上がったカイトの手を、アウラが握る。カイトはそれに頷き、そうして、二人は外に出る。外には、庭の外が空の色に覆われた小さな庭園が広がっていた。その中心に、ポツン、と岩で出来た石碑があった。石碑には、数人の名前が刻まれており、きちんと手入れされていた。


「おう、爺さん。300年ぶりに帰って来たぞ」


 カイトはそう言うと中腰になって手を合わせる。アウラも、それに倣って隣で手を合わせる。この石碑は、死体さえ無いかつての家族達の墓だった。飛翔試験中にカイトが言った墓とは、この事だったのである。


「姉貴、ヘクセンさん、アンリ。久々に武器使わせてもらった。あんた達のお陰で、魔王に一泡吹かせられたよ」


 そう言って微笑み、カイトは日本から持ち帰った酒を石碑に掛ける。


「オレの故郷で手に入れた、一番高価な酒だ。飲んでくれ」

「お爺ちゃん……カイト、帰って来たよ」


 一本数十万という酒を、カイトはなんら躊躇いなく墓に浴びせる。彼らは、自らの命の恩人にして、最愛の家族だ。この程度の酒では返せぬ程の恩があった。

 そんなカイトのその隣で、アウラは只静かに亡き祖父を偲ぶ。ここは、かつてのカイトが所属していた皇国軍第十七特務小隊が眠る墓なのであった。そうして、暫しの間、二人は故人を偲ぶ。


「よし、とりあえずは今日はこれで良いか。ま、ここが何処かわかったから、何時でも来れるしな」

「うん」


 カイトの言葉に、アウラも頷く。ここは二人と、そしてユリィにとって大切な場所だ。何時でも来れることは重要だったし、公爵邸の上空に位置する空中庭園であるので、簡単に来れるのであった。

 まあ本当はまだアウラの実家――実はアウラの実家は皇都にある――住まいだった頃にそこの庭園にあったのだが、マクダウェル公爵家立ち上げに伴って此方に持って来たのだ。それなのに今まで来れなかったのは、アウラによる隠蔽と空間隔離の結果であった。


「良し、じゃあ下りるぞ……さっさと隔離解け」

「? ここに当分二人で居よ?部屋作ったし。」


 さも当然とばかりにアウラはカイトに抱きつく。が、そんなアウラに対して、カイトは笑いながら告げることにした。

 そもそも一日消えただけでも大騒ぎになっているだろうことはわかるのだ。本来は今すぐにでも連絡を入れたかったのだが、アウラの為にもう少しだけ、と先延ばしにしていたのである。とは言え、そろそろ連絡を入れないと拙かった。


「いや、さっき言っただろ? オレ、今下で忙しいんだって」

「おー、そういえば……」


 どうやら忘れ去られていたらしく、アウラはポム、と手を叩いた。カイトにとって、この忘れっぽさは懐かしくはあった。が、一向に解除されない隔離を見て、カイトがゆっくりと、首を傾げる。


「……で、何故解かん?」


 一向に解除されない隔離に、カイトが首を傾げたまま、問いかける。尚、カイトならば力技で解除可能ではあるが、それをすれば下の街に多大な被害が出るので出来ないのであった。流石に姉の作った隔離から脱出する為に街一つ吹き飛ばしました、は笑い話にならなかった。が、そんなカイトに対して、同じくアウラも首を傾げながら告げる。


「? 今解いてる所。ただ、ちょっと時間が掛かってるだけ。後は待ってるだけだよ」

「そうか……じゃあ、何時頃終わる?それまで漫画でも読んでるわ」


 確かに、思い直せば強力な結界なのにことを急かしすぎた、と思ったらしい。なのでカイトはアウラに解除の終わる時間を尋ねる。しかし、彼女から返って来た答えは、予想を遥かに超えるものであった。


「んー……多分、明日の朝には出来る」

「は!?」

「一応、そんじょそこらの神族クラスに解除されないような強度にしてる」

「せめて、念話が使える様になるのは!?」


 アウラの言葉はカイトにとって予想を遥かに上回る物だった。それ故に、問いかける声にはかなりの焦りが滲んでいた。

 このまま連絡が取れない状態が続くのは、非常にまずかった。トップがいきなり行方不明になったのだ。しかも、状況が学園が転移した時に酷似していると見られてもおかしくはない。最悪、冒険部がパニックになっている可能性も考えられた。なので、カイトはかなり慌て気味で問いかけたのである。


「……多分、一緒」

「飯とかどうしてるんだ?」


 引き攣った顔で、カイトが問いかける。ここには食料を蓄える機能はあるものの、自給自足を可能とするスペースは存在していないし、そんな環境でもない。どこからか、食料を調達してきているはずなのだ。そこからなら、なんとか脱出出来るのではないか、と思ったのである。最悪多少の荒業なら、許容するつもりだった。


「週一回、使い魔に送らせてる。ちゃんと、公爵家とは別の自分の貯蓄を使ってるよ?」

「んなこと気にしてねえよ! ってことは、そっから帰れんじゃないのか!?」

「一週間に一回だけ、弱まるようにしてるだけ。それ以外は、完全に出られないように隔離してる」

「最後に弱まったのは!?」

「昨日」

「な……」


 アウラの答えに、カイトは絶句する。そう、実はアウラはなるべく長く二人だけでいられるように、と完全に用意が整った段階でカイトの召喚を行ったのである。そうして、二人は強制的に明日の朝まで、空中庭園へと閉じ込められる事になるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第272話『危急の策』

 まあ、事情知らないんだから、しょうがないですよね。


 2015年11月20日追記

・表記を少しだけ見直しました。

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