第263話 日本の裏歴史 ――彼らの根源・魔王の冷酷――
すいません。今回ちょっと調子に乗りすぎました。最後の方と次回の頭は桜達の実家のバックボーンを語る内容ですので、全部を頭に入れる必要は無いです。今後はもう少し、短く纏めれる様に頑張ります。
マッサージチェアに揺られながら、至福の一時を味わっていた元皇帝ウィル。そうしてマッサージチェアを延々と楽しんでいたのだが、ふと、思い出したことがあった。
「そういえば、カイトと日本から来たお客人方。日本には異族は居なかったのか?」
もともと、世界自体は文化や文明に差こそあれど、生存している種族にそこまで違いはない、というのが皇国での研究で得られた結論である。
それ故、一番初めはカイトが異族を知らなかった事に驚いたのだが、もしかしたらカイトが無知なだけなのかも、と思っていたらしい。それに、カイトが帰ってから得られた情報を開陳する。
「いや、調べたら居るには居る。只、隠れていたらしい」
「ほう、やはりそうか」
どうやら、隠れている、というのも推察の一つにあったらしい。ウィルは納得した様に頷いていた。それを見て、カイトは更に情報を開陳する。
「ああ、現に、こいつらも異族の血を引いている」
「何?……確かに……これは、龍族と鬼族、それに幾つかの種族を感じるな。正確な物はわからんが」
目を瞑り、ウィルはソラ達の気配に集中し始める。そうして、彼は感じた事を述べる。それにカイトが少し前の記憶から、うっかり忘れていた事を思い出した。ちなみに、忘れていたのは特殊な力の方では無く、彼が皇族である、という方である。
「ああ、そういえば皇族はわかるんだったな」
カイトが苦笑しながら呟いた。実はエンテシア皇国の皇族には特殊な力が幾つか備わっているのであった。これは皇国の皇族ならば力の強弱はあれど誰でも有している力で、この力の有無が皇族の証、と呼んでも良かった程である。
「まあな。初代陛下の血が流れている左証だ」
皇族が皇族として特別視される理由の一つには、当然何らかの特異性が必要だ。その特異性は、エンテシア皇国の場合はこれだった。
異族やある一定以上の力を持つ者の由来や力量を大凡だが判別できるという、特殊能力なのである。カイトやティナでも多種族と混じっていない者やかなり高位の存在であれば、混じっていても大凡は掴める。
対して、ウィルの場合は混じっていて尚且つ力が弱くても、大凡の種族、どの程度その血が表に出ているかが判別できるのであった。
「ふむ……こっちのお嬢さんと少年は龍族。此方のお嬢さんは獣人族か獣族……恐らく、高位の狐系だな。他には……ふむ、そちらの少年は確実に鬼族だ。横の少女は何らかの妖族の血筋、二人共かなり高位だな。どこか似た気配があるから、もしかしたら同系なのかもな……ふむ……そちらのお淑やかなお嬢さんも妖族だが、多分先のお嬢さんとは違う……今判るのは、ここまでか。初代陛下ならばもう少し詳しことが判別できたのだろうが……流石にこれ以上は俺にはわからんな」
「え? 私、狐の獣人族なんですの?」
「俺が……鬼族?」
「私は妖族?」
「私も?」
既にカイトと同じ血筋である桜とソラは龍族であると言うことを知っていたので大して驚きはないが、指差された瑞樹と一条兄妹、そしてお淑やかな、と茶化された魅衣が目を見開いた。そうして揃ってカイトの顔を見るが、彼はウィルの言葉に全幅の信頼を置いているらしく、それに一つ頷いた。
「そうか、一条先輩は鬼族……ということは、一条家は鬼族の家系なわけか」
「え、私もですか?」
「おいおい……兄妹で血が繋がっていないとか無いよな?」
「こいつがおねしょしている時から知っているぞ」
「ちょっとお兄ちゃん!」
カイトの言葉に答えた瞬の答えに、凛が真っ赤になって頭をひっぱたいた。そんな兄妹にカイトは笑いながら、ウィルの力について言及する。
「まあ、おねしょはとりあえず……こいつの見立なら確かだろうな」
「ふむ……後は……わからん。まあ、わかるのはこんな所か」
「ああ、助かる」
そう言って、ウィルは眼を開く。この情報はカイトにとっても有益なものであったので、彼は頭を下げて礼を言った。
「何、気にするな。俺が勝手に調べただけだ」
「いや、それでも助かる。今度の事を考えれば、こいつらの血筋がわかるのは重要だ」
「そうか……そういえば、隠れ住んでいる、と言ったな。ならば、天桜学園とは隠れ里か何かにある学園なのか?まあ、貴様の事だ。そういった異族を探して、とありえそうなことだが……」
「ああ、いや、そうじゃない」
流石に変な誤解を与えたままはダメか、と思ったらしい。カイトは苦笑しながら、地球での異族事情を説明する。
「成る程……それでカイトが初めて異族を見て時に、あれだけ驚いてたわけだ……懐かしいなー。あの時は顔を真っ青にしてたのに」
「やめろ。思い出すな」
「えー、まあ、分からなくもないよ? 僕だって君みたいな弱い少年だったら、誰だって泡を吹いて倒れると思うんだ」
「よっし、黙らせる!」
「きゃあ! 急に動かないでよー!」
途中で一度ダメ出しを切り上げ、カイトの解説に参加したルクス。カイトと初めて会った時の事を思い出し、漸く合点がいったようだ。そんなルクスに対して、カイトは今にも殴りかからんばかりの視線を送っていたが、更に口を続けたので強引に黙らせる事にした。
ちなみに、実はカイトの異世界ファースト・コンタクトはなんと偶然皇国に遠征していたルクスなのであった。それ故、初めて見る異族達を見たカイトの表情を知っていたのである。
とは言え、そんなお巫山戯をしていた二人に対して、為政者として、どのぐらい非道な事になったであろうか想像が出来たウィルは少しだけ、顔を顰めていた。
「魔女狩り、か。話には聞いていたが、そこまでひどい物だったとはな……」
異種族融和を薦めた者の一人であるウィルはかなり沈痛な表情だった。さすがに中学2年までなると、魔女狩りについても知っていたので知識として伝えたが、実情を知ったのは帰還後なので、どの程度ひどいものだったのかは伝えられなかったのである。それを改めて聞かされて、その中で息絶えたであろう見知らぬ民草の為、沈痛な表情を浮かべたのだった。
「はぁ……俺としちゃ、逆に逃げ込めた場所が有った事に感謝したほうがいいな」
だが、それは為政者であるが故の悼みだった。元脱走奴隷であるバランタインは、排斥され、追われる者の辛さをよく知っていたため、彼等に同情心と同族意識を抱いていた。
「まあ、そういうわけで、子供達にも自身の血脈を伝えなかったらしいな。異族の血が表に出ないことと、弱いのはその為だろうな。異族の力を使いこなすのにも訓練がいるからな」
「そうだな……君は天道、だったか?そちらの君は神宮寺だったな?」
「あ、はい。天道 桜と申します」
「はい、神宮寺 瑞樹ですわ、皇帝陛下」
カイトの言葉にとりあえずの納得を示したウィルに話しかけられた桜と瑞樹が答える。が、そんな丁寧な答え方に、ウィルは苦笑した。まあ、彼が――相も変わらずマッサージチェアの上だというのに――偉そうだから、何故か畏まらないといけない様な気がしたのである。
「別に皇帝陛下でなくて良いが……まあ良い。君達の祖父や父は地球でも有数の資産家、かつ古い名家と聞いた。何も聞いていなかったのか?」
「はい……私もカイ……公爵閣下から聞いて初めて知りました」
カイト、と言おうとして、不適切と言い直した桜。しかし、そんな彼女にウィルが苦笑する。
「ああ、カイトで構わん。どうせ身内の集まりだ」
「はい……お祖父様からは何も聞かされてません。もしかしたら、お父様や嫡男であるお兄様、各分家の長方はご存知かもしれませんが……」
「私も同じですわ……あ、いえ、そういえば、フィルマの家は古くは魔術師だったと聞いたことがあります。もしかしたら、その縁なのかもしれません」
「フィルマ?」
瑞樹はかなり有名な貴族の名前なのでうっかり名前を出したが、いくらなんでも異世界にまで有名になっているはずも無い。ウィルが首を傾げたのを見て、瑞樹が謝罪して、詳細を語った。
「あ、申し訳ありません。私の祖母の家系は外国の血を引いているのですが、それが遠くの国、英国の古くからある貴族なんですの」
「ふむ、婚姻統制か。カイト、フィルマの調査は?」
「確かに魔術と関連の有る家系の一つにフィルマが有ったな。英国の魔術師の一つだ。何度かオレも会っている」
かつて瑞樹の前で語った様に、カイト――と言っても異族達の長としてだが――とフィルマの当主の間には知己がある。それ故に、フィルマの事も調査をしていたのであった。
「確か、日本には親同士が決めた許嫁がかなり有力だったんだっけ?」
「ああ。それに紛れ込ませれば、当人たちにも殆ど露呈しないはずだ」
「そうか、十分に有り得る話だな……そっちの君は天城だったな。君の父は日本の長なのだろう?聞いたことは?」
ルクスの問いかけを認めたカイトの言葉に、ウィルがさらなる問いかけを飛ばす。
「あ、いえ、俺はあんまり親父と仲が良くなかったんで……多分、知ってても知らされてなかったと思います」
「そうか……では、問うが、天城と天道に婚姻統制等があった、という話は? もしくは、天道の一族と神宮寺の一族には?」
「天道と天城ですか?……はぁ、第二次大戦まではそれなりにあった、と言う風には聞いていますが……」
ウィルの問いかけに、桜が少し思い出してから、肯定する。これは名家として分家と本家に許嫁等の婚姻統制が有っても、おかしい話ではない。
「我が神宮寺家と天道に、ですか……それはありえないと思いますが……」
瑞樹は父や親族の天道への感情を考え、否定する。しかし、その否定にカイトから否定が入った。
「いや、実は大戦前まではあったらしい。それが無くなったのは、此方も大戦後だな。もともと、両家の間にはそれなりに婚姻関係があったようだ。何故仲が悪くなったのかは、さすがに分からないが」
「そうなんですの?」
父たちの敵視っぷりに、かなり長い因縁が有ると思っていたのだが、それほど長いものでも無かったことに、桜も瑞樹も驚いていた。それにティナが頷いて、彼女らさえ知らない情報を開示することにした。
「これは余とカイトで得た資料や知識、当時を生きていた異族達の話を聞いて出した推論じゃが……」
そう言ってティナが推測と前置きをして、話し始める。
「当時、日本は余力が無くなって敗北した、と教えられておるな? それは、天道と神宮寺の本家でも同じか?」
「? はい。私も教科書程度の知識しか知らされておりませんわ。現に、当時の資料等を覗いても、そのような印象が得られましたが……」
「天道も同じです。あ、でも見せてもらったひいお祖父様の手記には多少余力があった、とは書かれていましたが……まあ、それは天道が国の薦めで戦中も内需を中心に商いをしていたからだと思います」
「それが間違いである可能性があるのよ。実際には数年……そうじゃな5年まではならぬまでも、2年は十分に戦えるだけの備蓄が有った。これはとある南西諸島の島で資材隠しに協力しておった異族の協力者の証言から確実じゃ。まあ、終戦後に半分近くが連合国側に接収されたらしいがの。資材を魔術で隠匿しておったらしい。異族や魔術をなるべく排した西側諸国を中心とする連合国側に、見つかるはずもなかったわけじゃな」
物理的なアプローチだけでは、魔術的に隠匿された資材を見つけられることは出来ない。それ故、魔術知識が豊富な異族の生き残りに協力してもらったのである。これは今となれば、桜達にも分かる話だった。
そうして、一同の理解を得られた所で、再びティナが口を開いた。
「そして当時の部隊長を努めておった男からの話じゃが、異族を中心とした秘匿戦力は劣勢となった時点で本土決戦を考えての最後の守りとして秘匿されたらしい。これらを見れば、最悪本土に乗り込まれても少なくとも5年は決着が着かなかったろうよ」
「ですが、当時は餓死者が出るほどの困窮度合いであった、と聞きますし、闇市などもそれ故に発展した筈ですが……」
教科書で得た知識で答える桜に、ティナはそれも一理ある、と認めた。
「敗北の決断は、本土でのこれ以上の核の使用での国力の減少など今後の国体を考えれば、妥当……否、遅すぎる判断ではあった。それにまあ、無条件降伏とは言われておるが、あれは軍部に対してで日本国にはそもそもで微妙に異なるからのう……っと、ここらの揉めておる論争はどうでも良いな。とりあえず、続けるぞ」
ティナは脱線した事に気づくと、少し照れた様子で備え付けのホワイトボードに記述を始める。どうしても彼女は学者肌だ。それ故に、話し始めると脱線しやすかったのである。
「可怪しいとは思わんか? あの大戦の後、連合国の持つ植民地は軒並み独立が始まる。もし、連合国側が圧倒的であれば、本国から援軍が向かって仕舞いよ。じゃが、そうはならんかった。あの時点で日本で本土決戦を行えば、秘匿されていた異族部隊が出て来おる。必死となって抵抗するじゃろうな。核兵器さえも効かぬ者共に、どれだけの人員が割かれることやら。全てを駆逐するとなれば、陸戦兵力だけで、数十万の命が失われるじゃろうな。それを察した時点で、連合国側は条件降伏を持ちかけた。知っておるか? ルーズベルトは暗殺じゃぞ? これ以上の日本相手を続けたくない、という軍部と、金蔓を逃がさんとする企業連合のな」
悪辣な顔で得た情報を開陳していくティナだが、ここまでの段階で誰も理解出来ていない。調子に乗った所為で勢いづいて、理解出来ているかの確認がおろそかになっていたのだ。これもまた、彼女の悪い癖だった。
「誰が好き好んで金づるを逃がすものか。まあ、東西冷戦の起こりも影響しておるが……そもそも、あの時点で連合国側は毎月のように大型空母を就航させる等、軍拡まっただ中じゃぞ? 何故、独立運動が発展するのよ。しかも、日本の大義名分は大東亜共栄圏の確立。独立運動なぞ、最も警戒されておる筈じゃぞ?」
そうしてティナは、正しく魔王と呼ぶに相応しい傲慢で、悪辣な笑みを浮かべる。その笑みに、ティナの本質を未だ理解しきらぬ面子がゾクリ、と震えるが、ティナは無視して断言する。
「人道? 非暴力不服従であれば撃たれぬ? くだらぬ。真の軍人であれば、人であると同時に軍の犬よ。喩え相手が非武装でも撃てと命ぜられれば撃つじゃろうな。現にインドのガンジーは非武装でも、撃たれておる。当時の人種差別はひどい物じゃろう。他人種をヒトとも思わぬ軍人に命ずれば、喜んで工作をやるじゃろうな。暴動を起こすことなど簡単よ。そんな独立運動なぞ、格好の演習場ではないか。まあ、さすがに徴兵された兵士では戦後にPTSD等危ないじゃろうがの、金にがめつい企業家共が気にするはずもあるまい。それが出来ぬ、ということは裏返せば言うほど余力が無い、という事じゃ」
ククク、と意地悪く笑うティナ。この点は、政治家としての冷酷さであった。
「そも、あの大戦自体がほぼ回避可能じゃった。ソレが出来なんだのは、一つは、企業連合体が新たなる利権を欲したが故よ。まあ、まさか連合国側の企業達も、日本が異族抜きでよもや十年近くも戦い抜くとは思うておらんかったようでな。広まる厭戦雰囲気と高まる独立の機運。日本という新たな、しかしちっぽけな金づるを手に入れるため、今まで投資した金づるを失うのは何よりも避けたかった。そこで、多少の余力は認める事にしたのよ。とはいえ、単騎でも十分な力を持つ異族達の力を削ぐことはさせたがの。それ故に、婚姻統制が無くなったのじゃ。神宮寺と天道の婚姻関係が無くなったのも、この為じゃろうな」
ティナは天道や神宮寺、各分家をつないでいた矢印に、バツ印を付ける。そして、次に各家の後ろに企業と書いた。
「これは、大凡正解じゃろうな。例えば、桜、お主の天道家。第二次大戦前から有る日本有数の企業じゃったじゃろう。何故財閥解体で解体されぬのよ。もともと、取引は終わっておったのよ。日本は名家の天道家やその他異族達が率いる企業に事後を託しておった様じゃな。各家の後ろに居る異族の重鎮たちは戦力としても指導者としても十分、中には神々とのつながりも有る。それ故、戦には関わらせず、軍事には関わっておらぬが故に、責任は無い、とな。それの存続と引き換えに、財閥解体を飲んだのじゃな。解体された財閥は天道や神宮寺に吸収されておるか、魅衣の三枝の様に名を変えて独立しておる。」
そうして大財閥の部分にバツを付け、更に三枝などと幾つもと分離させ、各家に矢印を引き、吸収と書き示す。
「同じように神宮寺家。そちらは大戦後に企業を起こし、成長しておるが、そもそもが官民一体の内需向け民生品製造会社の代表として、が起こりじゃ。国民に余力がないにしては、成長が早うは無かったか?」
「はぁ……ですが、それは半島での戦争の勃発が影響し、補給線を求めた西側諸国の影響で好景気となって、ではないのですの? 現に西側諸国への受注は大半が神宮寺家になされております。これは土木事業などの公的事業を主としていた天道家に対して、民生品等の必需品に特化していた神宮寺家に白羽の矢が立ったからと言われておりますわ」
家で聞いた通りの答えを、瑞樹が答える。しかし、ティナはソレが完全な正解ではないと論ずる。
「それにしても、土台がなければ無理じゃ。補給は余力があって出来るのよ。そもそもが大戦が終わって数年。未だ復興ままならぬ国に、補給線となる力があるまい。先の隠しておった資材を復興の礎としたんじゃろうな。それを取り仕切ったのが、神宮寺家じゃ。では、何故これが神宮寺家でなければならなかったのか、というと、コレも大凡の推測は付いておる。フィルマ……お主従姉妹とやらの家系についてはどの程度知っておる?」
「はぁ……えーと、フィルマ家は英国建国時からある名家の一つですわ。英国内ではそれなりの影響力を有しており、歴史から親日的な家系として有名ですわ。華族に端を発する神宮寺家とは日露戦争における英国との同盟の折、友好関係の証として、神宮寺にフィルマの当主の子の一人が婿入りし、神宮寺の当主の娘が先方に嫁ぎました。一説には、第二次大戦の折、日本の華族等の完全な解体と完全な植民地化を望んだ当時の首相に対し、当時の当主が乗り込み、フィルマの娘を一般市民や奴隷の妻とする気か、と怒鳴ったことで断念した、との諸説が有るくらい一族の繋がりを大切にしていますわ」
一応は当主の娘なので、瑞樹にはそれなりに裏事情も伝えられている。それ故に、知る部分だけではあるが、事情を語った瑞樹に、ティナが頷く。
「うむ。つまりは、フィルマ家が望んだのよ。もとより新たな金づるとしては諦めておる。それより、これ以上共産主義の東進を避けたかったことで、日本には是が非でも国力を回復させる必要があった。ならば、神宮寺家に主導させれば英国のフィルマ家に面子を立たせる事もできる、と白羽の矢が立ったわけじゃ。何も知らぬ者共には英国貴族の親戚筋であれば裏から操れる、と言えるしの」
そう言って、2つの家の部分に、大戦での影響を書き込んでいく。そして、書き終えて、続ける。
「とは言え、さすがにその後の発展は両家の当主達の力量よ。その点は誇って良いじゃろうな。そうして、日本を諦めた企業連合体じゃが、やはり少々疲弊しすぎた様じゃ。軍拡のお陰で、東側諸国の進軍を食い止めれたものの、東側諸国が予想以上に余力を残しておった事で、独立運動に対しては戦力を割けなくなってしもうた。欲をかき過ぎたが故の失態じゃな。結果、独立を認めることとなってしもうたわけよ」
強欲は身を滅ぼす、そのよい例えじゃな、悪辣に笑うティナであった。
「これが大凡の真相じゃろうな。ま、全ては推測よ。真実は、お主ら一族の長達に聞かねばなるまい」
そうして、ティナは普段の笑みに戻り、ホワイトボードへの記述を終えたのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第264話『過去と今の交わる時』
2015年11月14日 追記
・紛らわしい表記があったので、そこを修正させていただきました。