第257話 伝説の英雄達 ――強者達の宴――
両翼で戦いを繰り広げる親友達が戦っていた頃。当たり前だがカイトはクズハの一斉射撃に対し、双銃で応戦していた。そんな彼の顔には獰猛な笑みが浮かび、全方向へと銃撃を行っていた。
「これ、楽しすぎんぜ!」
『お前は何処かの悪魔狩人かー! と、言いたくなるような双銃の連射! まさにマシンガンをも上回る銃撃です! と言うかマジでこれマシンガン超えてない!?』
「超えてたらすごいな!」
『と言うか、双銃ってことはやっぱりあんたは300年前の生まれじゃないのかー!?』
「さあな! つーか、お前ら後の年代の奴だろ!? オレにそんなの分かるか!?」
『あ、拳銃は戦国時代には日本に輸入されていたので、300年前の人でも間違いじゃないです』
なおも繰り出される魔術を全て双銃で迎撃しながら、カイトは真琴の軽口に応じる。その顔にはまだまだ余裕がある。いや、まあそもそもで軽口の応酬が出来る時点で余裕綽々なのだが。
ちなみに、最後の補足は詩織だ。真琴が言いたい放題言っているだけなので、念のために補足しているのである。戦国時代に懐に隠し持てる拳銃は流石になかったらしいのだが、それでも小型の拳銃はあったらしい。それを言っているのであった。
「じゃあ、まあ、悪魔狩人とかいうお話があったので」
カイトは小声でそう言うと、上から迫り来る魔術に対して集中的に双銃を掃射し、包囲網に穴を空ける。
「はっ」
カイトは小さく息を吐いて、一気に空へと舞い上がる。そうして、カイトが包囲網から出た瞬間、包囲網は一気に狭まり、魔術同士の衝突により爆発が起こり、土煙が舞い上がる。
「総員、残る術式は即座に上方へ目標修正! 追撃なさい!」
上へ舞い上がり、飛空術を使用せずそのまま落下していくカイトへとクズハが追撃を命じる。号令を受けてすぐ、残る魔術はカイトを狙い、一気に上へ向けて進軍する。
「これ、一回やってみたかったんだよなー」
カイトは言って笑うと足を上に向けて逆立ちの状態となり、双銃を地面に向け連射する。そうして双銃の反動だけで滞空する。地面の一方方向からのみ攻撃が来るから出来る技だった。
『だから何処の悪魔狩人だ! 大剣は!? 変身するのか!?』
「意味わかんねーよ! つーか、変身は出来ねーよ! おっさんに言え!」
「上下左右からも包囲なさい! 今度は全方向から狙えます! 遠慮無く行きなさい!」
「おっと、こりゃまずいな」
真琴の軽口に隠蔽の意味を含めて応じたカイト――当然、真琴の発言の意味は全て理解している――は全周囲から迫り来る魔術を見て、双銃の反動を魔術で打ち消して連射を更に速め、地面へ向けて降下する。そして着地の瞬間、くるり、と半回転して、綺麗に着地する。
「さて、そろそろ行くぞ!」
そう言ってカイトは一気に息を吸い込む。カイトの意図を読んだクズハが、目を見開いて危機感を露わにし、戦場全域に警戒を促す。
「総員、対轟音防御障壁を展開!私の麾下の者は展開後、近接戦闘用意! お兄様が来られます!」
「がぁああああ!」
全員が防御障壁を展開した直後、クズハが危惧した轟音が鳴り響いた。そうして、自身を包囲しようとする全ての魔術を吹き飛ばし、カイトは数多の武具を顕現させ、一気に突撃したのであった。
「うおー! 相変わらずでけえ声!」
既に聞き慣れているバランタインは、特に何ら影響もなく普段から展開している防御障壁だけで対処する。そうして、相手側の隊員たちが全員動きを止められたのを見て、呆れた笑みを浮かべる。
「てめえら、この程度で動きとめられてんじゃねえ!」
防御に集中し、動きを止められた隊員たちへバランタインが容赦無く攻撃を加える。攻撃は数人の隊員へと直撃し、防御の上から難なく吹き飛ばした。
「一応、手加減はしてやった……この程度で戦闘不能なんて判定でんなよ?」
「さすがに始祖様はなれていらっしゃる! 飛ばされた面子は問題ありませんね!?」
起き上がり、なんとか隊列に加わった隊員たちを見て、ブラスが命令を下した。
「これ以上攻撃力を強化されては我々では受け切れません! 総員、防御は捨てて、回避に専念しなさい! 合間合間で連携し、攻撃を叩き込むのです!」
ブラスは慌てる事も無く、声を張り上げる。今のバランタインの攻撃がかなり手加減されていることぐらい、バランタインの顔を見れば誰にでもすぐに分かった。もし、これが本気であれば、一瞬で戦闘不能に陥っていたのだ。防御をしても一緒ならば、防御は捨てるべきだ、そう判断したのである。
「ほう、思い切りがいいな。俺好みだ」
ニィ、と笑みを浮かべると、バランタインは一気に速度を上げた隊員たちを嬉しそうに観察する。だが、それだけで此方から向かおうとはしない。
「ほれ、どうした? 俺は動いてねえぞ?」
バランタインは下半身を一切動かさず、上半身と武器捌きのみで隊員たちの攻撃を受け流し、射程が足りないのなら、炎を操ってまで反撃まで繰り出していた。
「まさか……パワーファイターじゃないのか!?」
ある隊員がバランタインのあまりに洗練された動きに、驚きの声を上げる。まるで彼が防御する先に攻撃させられている様な感覚があったのだ。
「おいおい、俺様が何時パワーファイターだなんて言った? おらぁ!」
そういうバランタインだが再び力強い攻撃を繰り出し、攻撃の余波だけで一気に周囲の隊員を吹き飛ばす。テクニカル・ファイターなのかパワー・ファイターなのか、一切悟らせぬ攻防変幻自在の戦い方だった。
「はん、この程度かよ?」
「リィル! 貴方が中心となって突破口を開きなさい! 他の皆は牽制へ回りなさい!」
「はい!」
ブラスの命を受け、リィルが一気に攻撃を敢行する。
「ほう、こりゃ……少しはやる奴が居たもんじゃねえか。てめえは?」
今までとは一段上の攻撃を繰り出すリィルに、バランタインが嬉しそうに尋ねる。
「現当主ブラスの子のリィルです!」
攻撃を応酬しながら、リィルはバランタインの質問に答える。彼女だけは、今もまだ<<炎武>>を使用していなかった。
「ん?お前は<<炎武>>は使えないのか?別に女だからって、使えねえわけじゃないだろ?」
これだけの実力があり、直系であるのなら使えても不思議ではなかったので、バランタインが意外そうに問いかけた。それに、リィルは全力で応じながら答えた。
「いえ、今はまだ使っていないだけです!」
「……ほう」
そこになんらかの意図を見たバランタインは、片眉を上げて少し嬉しそうにする。
「<<炎武>>を使わねえでその実力か……いいぜ、ここまで食い下がれんなら、少しだけ俺も本気みせてやらねえとな!」
他の隊員からの援護を受けつつだが、一歩も引かずに応戦に対応してみせるリィルにバランタインが少しだけ熟達の業を披露する。
「おらよ!」
大声と共にバランタインは横薙ぎにハルバートを振るう。振るわれた方向にいる隊員たちは大きく跳び下がって避けようとするが、その瞬間。
「甘えよ!」
バランタインの持つハルバートの先端、斧状となっている部分が分離し、まるでブーメランの様に隊員たちへ向けて放たれる。
「ブーメランに、槍!?」
なんとかバランタインの投擲を防ぎきった隊員たちが、驚きの声を上げる。斧状の部分が分離したハルバートは、さながら槍の様であった。
「俺たちゃ全員、武器が一つじゃねえんだよ!」
そう言ってリィルの槍に自身も槍で応じるが、そんなバランタインの言葉に、上で飛んで応戦しているルクスが軽口を叩く。
「ウィルが泣くよ?」
「あん? あの皇子様は……あ、剣と魔術だけか。ま、頭でっかちだからな。しゃーない、しゃーない」
勇者面子の中で最弱であったウィルは、指揮官としての性能は最高峰どころか、ティナと同クラスという破格中の破格、エネフィア有史上三本の指の戦略家に入るが、代わりに戦闘能力がいまいちなのだ。
尚、それは当然彼等基準でであって、一般将校などと比べると十分にどころか十二分に破格の戦闘能力も持ち合わせていたが。
「おーい、お前ら! 一応あいつ普通に銃使ってたの忘れてやんなよ!」
「あ……あはは! そうだったね! いや、ごめんごめん!」
「お、そうだったそうだった! がはは! いや、ワリィワリィ!」
カイトの指摘を受けて二人は戦闘を繰り広げながら笑い、貴賓席へと謝罪を送る。二人が見るとそこにはかなりむすっ、とした様子の一人の青年の姿があった。彼に向けての謝罪だったのである。とは言え、そんなおふざけをしている場合でもない。なので、バランタインは気を取り直した。
「俺を一歩でも動かせりゃ、ご褒美見せてやる!」
「はい!」
バランタインの言葉に、リィルが応じる。そうして、リィルを中心として、バランタインへの反撃が開始されたのだった。
時は少しだけ遡り、カイトが咆哮を行った直後。ルクスも動きを止められた隊員たちに呆れていた。
「はぁ……この程度で動きを止められてどうするんだい?」
バランタインとは異なり、ルクスは騎士道として呆けている敵に攻撃を加える事は無かったが、呆れを隠すことはしなかった。それぐらいは祖先として、騎士の先達として許されるだろう。
「この程度なら、それなりに力を有する龍族の方なら普通の咆哮だよ?」
「くっ……これで普通ですか」
耳を押さえながら、エルロードがルクスの言葉に戦慄する。
「普通も普通。かつての大戦の時には、グライアさんやティアさんも戦列に加わったりしてたんだからね。この程度で誰も怯えてられないよ」
そんな戦慄を浮かべる子孫達に対して、ルクスは平然と言い放った。敵と味方、という違いはあるが、この程度ならば難なく対処して欲しかった、というのがルクスの素直な感想である。
「……見たくありませんね、そんな戦場は」
「あはは、あの程度はいつもの事だったよ。さて、まさか今の失態を失態のまま終わらせておくなんて言わないよね?」
「御意に!」
ルクスの言葉にそう言って、エルロードが全員に指示を与える。
「アル! あれは使えるな!」
「うん!」
「ならば、やれ! 攻撃はルキウス! お前が担え!」
「はっ!」
「他の全員は俺と共に援護に回るぞ!」
そう言ってエルロードは率先して息子二人の援護に回る。
「<<氷海>>!」
アルは武器に命じて、周囲に冷気を漂わせる。
「氷よ、我が鎧となれ!」
アルが周囲の冷気を更に操作し、自らの身体に纏わり付かせ、氷の鎧を創り出した。これがかつて自身の武器を紹介する時に瞬達の前で隠されたアルの武器の本来の使い方、氷の操作なのであった。今回はそれを応用して、圧倒的な防御力を持つ氷の鎧として顕現させたのである。
「はぁああ!」
氷が周囲を覆ったことで、一回り大きくなった片手剣と盾を振りかざし、ルクスへと攻撃を仕掛ける。
「おっと!……ちょっと遅くなったね」
先ほどより若干遅くなった攻撃を前に、ルクスが悠々と回避する。
「此方もお忘れなく!」
「忘れてないよ。その程度は余裕なだけで」
ルクスはそう言って、振り返ること無く、只右手の片手剣のみでルキウスの攻撃を捌いていく。
「なっ……」
一切此方を見ることもなく、只アルの方を向いて捌かれていく攻撃に、ルキウスが愕然とする。確かに、自分達でも子供などを相手になら出来なくはない。だが、それでも曲がりなりにも一国の特殊部隊を相手に出来るはずは無いのだった。
「ふふ、攻撃に殺気が駄々漏れだよ。殺気は一瞬だけ、ほんの僅かな時間に留めるんだ。ソレ以外だと何処に攻撃しますよ、って相手に教えている様な物だからね」
「ちぃ……さすがはルクス様か。総員、一気に総掛かりだ!」
エルロードの言葉に、ルクスは只笑うのみ。一切アクションを起こそうとはしない。そうして、更に幾人もから攻撃を仕掛けられるが、それら全てがルクスによって受け流され、躱される。その上。
「はっ!」
「ぐあああ!」
時折防御の合間に繰り出される蹴りで、数人の隊員が墜落する。立ち上がれない所を見ると、そのまま気絶した様だ。尚、墜落時の安全装置のおかげで、安全に着陸出来ているので、怪我はしていない。
「さて、バランさんも下でちょっと本気になったみたいだし、僕も少しだけギアを上げるよ。」
下の方でバランタインが槍を持ちだしたのを見て、ルクスが笑う。何をしてくるのか、エルロード達が警戒していると、ルクスの両腕が光り輝く。その右腕は白い、左腕は黒い光が宿っていた。
「さて、講義の時間だよ。一般的に光と闇は最弱の加護、って言われてるけど、どうしてかな?……あ、ちなみに、今の時代でもそう?」
ルクスは戦闘の最中に、出来た間を利用し、エルロードに問いかける。さすがに、この最中に攻撃を仕掛けるのは騎士道に反しすぎるので、お互いに攻撃はしない。
「はぁ、今の時代もそうですが……物を収納するという他愛ない力だから、でしたか。それ故大規模な輸送などには重宝されますが、数も少ないことから、滅多に戦場に出ることはありませんが……」
ルクスの問いかけに、エルロードは怪訝そうな顔で答えた。一応身体能力に対するブーストはあるものの加護の使い方としては、敵弾を吸収―一応、近接攻撃も吸収出来るが、かなり困難――して、そのまま放出するぐらいしか出来ない光と闇の両加護は、その戦闘能力の無さから、最弱の加護と呼ばれていたのである。
「うん。そうだね。でもね、実は、これは片方だけだから、あまり使い道が無いんだ。光と闇は双子。何方か一方では、意味が無い。揃ってこそ、本当の力を発揮出来る。そして、双子、ということは、別の人とも連携可能なんだ。つまりは、どういうことか、わかるかな?」
「……まさか!」
飛躍しすぎだ、答えに辿り着いて、そう思ったエルロードだが、その顔を見たルクスは笑みを深めた。
「当たり、だよ。カイト!」
「あん? あ! <<光への扉>>!」
カイトはルクスの呼び掛けに、自身の周囲に光の穴が出来ている事に気付いた。
「<<光への道>>!」
「あ! てっめ! 人の武器を戦闘中にパクんじゃねえ! お前やっぱ騎士じゃなくて盗賊だろ!」
クズハの陣営に切り込み、武器を持ち替えながら戦っていたカイトが自身の周囲にある幾つもの武器が光で出来た穴に飲み込まれたのに気付いて、抗議の声を上げる。だが、そんなカイトにルクスは笑うだけだ。
「総員、回避!」
「あはは! ごめんごめん! <<闇への道>>!」
何が起きるかを予想したエルロードは、即座に全員に回避を命じる。だが、それは下策だった。何処から来るかわからない攻撃は回避が出来ず、円陣を組んで防御する方が良かったのである。
そうして回避行動を取ろうとした彼らの周囲に、ルクスは闇で出来た穴を幾つも創り出す。そして、その穴から出て来たのは、カイトから拝借した武器達であった。そうして、現れた無数の武具を必死に回避する隊員たちを前に、ルクスはもう一度、光の穴を創り出した。
「じゃあ、お礼だよ! カイト、<<光への道>>!」
「ちっ、こっちも返礼だ! <<闇への扉>>!」
二人は同時に、自分で創った穴へと手に持っていた武器――カイトが刀、ルクスが片手剣と盾のセット――を送り込み、同時に武器を持ち替えた。
「悪いね! 君のは少し硬いみたいだからね!」
そう言ってルクスは腰溜めとなり、放たれた武器を氷の盾で受け止めていた仲間を守っていたアルへと向かって、居合い斬りを放った。放たれた斬撃は、アルの盾と鎧を覆っていた氷を悠々と砕き、そのままアルに直撃した。
「くっ……がは」
「言ったよね? 僕らは皆、幾つもの武器を使えるんだ……銃と剣だけのウィルを除いてね」
意識こそ失わなかったものの、一撃でふらふらになりながら墜落していくアルに、ルクスが笑顔でそう言った。
「アル! ちぃ!」
墜落していく弟を見て、ルキウスが忌々しげに舌打ちする。まさか、ここまで簡単に防御が打ち砕かれるとは思わなかったのだ。さすが、自分たちの祖先にして、大英雄であった。
「さて、これからが、第二幕だよ? そっちも、第二幕に相応しい戦いをしてくれるかな?」
そうして、アルという防御特化要員を欠いた彼等の、絶望的な戦いが再開された。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第257話『伝説の英雄達』