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第255話 閑話―秘密を探りしは―

 冒険部上層部用に誂えられた場所にて、ティナがふざけ合うカイト達を懐かしげに眺めていた。シャワーを浴びる振りだけで、魔術で汗を流し終え、決勝戦で共に戦った仲間より一足先にカイトらのふざけ合いを見に来ていたのである。


「相変わらずじゃのう。死して尚、変わらぬか」


 ティナは懐かしげに目を細め、楽しそうにカイトたちが戯れる様子を眺めている。そんなティナを見て、瞬が問いかけた。


「やはりあれは本人そのもの、でいいんだな?」

「うむ。降霊術の最奥、死者の呼び戻しよ。さすがの余もあれは出来ぬな。一度だけ請われてあの力を模造品として再現してみたが……それでも全くの出来損ないよ。カイトにしか出来ぬ、秘中の秘。自らの知らぬ対象の出来事まで全てを網羅し、尚且つ知性や身体的特徴も全て再現する、という技よ」

「そんな物、使って良かったのか?」


 明らかに、並大抵の魔力消費では使用できないであろう秘奥に、瞬が眉を顰めた。


「知らぬよ。アヤツがポンポン使いおるから忘れがちじゃが、本来ならば禁呪の領域よ。それも、余を含めた当時の学者達が全員で匙を投げる様な、理解及ばぬ術式じゃ。どの程度の魔力を消費し、どのような原理で動作しておるのか、全てが謎に包まれておる。恐らくソレは今でも変わらんじゃろうな。」


 自身がカイトにつきっきりで15年程度掛かりでさえ、1%ほどしか解明出来なかった術式である。カイトという実物が居ない此方で、解き明かせているとは思えない。とはいえ、さすがにティナは表層を引っ掻いた程度の理解が出来ており、カイトの正体を僅かながらに知る切っ掛けとなっていた。


「ユスティーナで不可能、か……」


 ぞっとする話だと瞬は心の底からそう思う。少し離れた場所では、漸く理解できたらしい学園生達が無邪気に驚き、歓声を上げているが、瞬は驚きよりも、畏怖を得た。そうしてカイトは一体何なのか、瞬は疑問を覚えた。


「どうしたんっすか、先輩?」


 少しだけおかしな様子の瞬に気付いたのか、ソラが瞬へと問いかける。


「ああ、いや……なあ、ソラ。お前カイトについて、カイトから聞いた事はあるか?」

「? わけわかんないっすけど……天桜学園2年A組出席番号5番。所属は冒険部、創設時より部長。その前は帰宅部。誕生日は12月24日。出身は大阪北部で確か小5、あれ?小4?……あれ?小3かも……すんません。忘れました。まあ、そん時に転校し、天神市に引っ越す。その後……」

「いや、スマン、違う。あいつの正体、というより、来歴……力の源の様な物だ」


 ソラが真顔でカイトのプロフィールを上げ始めたので、瞬が笑いを堪えて問いなおした。尚、聞いていた他の面子も、笑いを堪えていた。まさかこんな答えが帰って来るとは思ってもいなかったのだ。


「そりゃ、龍族の血に覚醒した、とかなんとか言う勇者じゃないんっすか?」

「ソレは本当だと思うか?」


 カイトに聞いたまま、ソラが答えたが、瞬は更に問い返す。しかし、それを即座にティナが否定した。


「恐らく、嘘じゃろうな。それが最も確かに感じれる嘘であるが故に、誰もがそれを信じるのじゃ」


 恐らく、と前置きする割に、断言しきったティナに、ソラが首を傾げた。


「へ?」

「違うんですか?」


 会話を聞いていた桜も、ティナの言葉に驚きを隠せなかった。


「いや、アヤツが龍族の因子を持ちあわせておる事は事実じゃ。それは余も確認しておる。しかし、あれは龍というよりもっと高位……族長クラスか姉上達と同クラスの格を持った存在じゃろうな」


 これはティナでしか断言できない。何故、ティナしか断言できないのか、というと、ティナがカイトの家族と共に起居するからである。カイトの両親にしろ、弟妹にしろ、カイト程の龍の因子を感じなかったのだ。

 それどころか、地球に渡ったことで、地球にいる並どころか高位の龍族以上の力を持ち合わせていることがわかったのであった。そんな物が祖先の血に目覚めてなんとかなるはずがなかった。そもそもそれでも祖先よりも圧倒的に強いのは可怪しいだろう。


「覚醒して、そんなことが有り得るのか?」


 ティナの言葉に、瞬が眉間に皺を寄せて疑問を呈する。元々、瞬にはこの覚醒、という点が疑問であったのだ。それ故に、疑問を呈したのである。


「……ありえんじゃろうな。あのクラスの龍ともなると、何処からでも理解出来る。じゃが、そんな存在は地球にはおらなんだ。それに覚醒するなぞ、有り得るはずがあるまいよ。そも、アヤツは一族の中でも末端じゃろう。それが覚醒するなら、桜やソラなぞとうに覚醒しておってもおかしく有るまい」

「じゃあ、どうして嘘をつかれているんですの?」


 瑞樹の疑問に、ティナが更に推察を開陳する。とは言え、開陳した内容はわからない、という事だったのだが。


「それはわからん。ソレを知る姉上やユリィを含め、真相を知る者は全員口を塞ぎおる。それが原因なのじゃろうが……姉上方全員が口を塞ぐ? いや、待て……そも、何故騎龍たる姉上を除いて、グライア姉様方に依頼できておるのだ?」


 ソラ達に自分の推察を説明していて、その違和感に気付いた。そうして、一度違和感に気付けば、数多の違和感にも気付く。


「……何故、全員と知己を得られておるのじゃ?」


 今までティナはその力量を見込んで、自身の救出を姉であるティアが依頼し、知己を得ていたと考えていた。

 しかし、それではソレ以外の面子と知己を得ている理由が説明できなかった。カイトと共に居ることで忘れがちだが、古龍(エルダー・ドラゴン)は歴代最高の魔王を救出した程度では、おいそれと願い出られる様な存在ではないのだ。それこそ、今の様にぽんぽんと呼び出したりふざけ合うなど不可能だ。

 まだ自身の面倒をよく見ていたグライアやグインはまだしも、その他の面子の説明ができなかった。彼女がまだ封印される前の情報を思い出せば、古龍(エルダー・ドラゴン)とはそこまで横のつながりがあるわけでは無いのだ。


「グイン姉様と会った時には、ありがとう、と礼をグイン姉様が述べておられた……余を救った礼と思っておったが……」


 ティアがティナの救出を依頼し、他の面子と出会ったと考えていたティナだが、逆であると気付いた。


「そうじゃ。確か、龍を倒した後に仁の爺さまに治癒を依頼しておったと言っておったではないか。フリオ兄様が戦いの傷の治癒に治癒術を使用しておったとも聞く。全て余と出会う前ではないか」


 何故、今まで気付かなかったのか、ティナは自身の不明に苦笑を隠せない。全て自分の既知であったが故に、そしてティアから依頼を受けていたが故にカイトが知己を得ていても不思議では無い、と思ってしまっていたのだ。だが、それはどう考えても、可怪しかった。

 そうして、思考を更に深めようとして、強大な力で強引にその思考に横槍が入れられた。


「そこまでにしておきなさい」


 静かに、水が流れるせせらぎの様な澄んだ声が響いてきた。テントの中に入ってきたのは、青色の服を着た、清楚な美女。声の主は水の大精霊こと、ディーネであった。


「くっ……」


 圧倒的な暴威を前に、震えて真っ青となりティナが思わず膝をつく。自身でさえ抗いようの無い大自然の圧倒的な力を感じ、ティナでさえ屈したのだ。これに抗いきれるのは、ただ一人。カイトだけであった。


「あまり、他人が秘密にしていることを探るべきではありませんよ」


 諭すような口調であるが、その言葉に秘められた力は、有無を言わせぬだけの力が込められていた。


「も、申し訳有りませぬ……」


 ガタガタと震えながら、ティナが謝罪する。確かに、道義的にも褒められたものではない。なので、ディーネの言は正しいのだが、まさか彼女ら大精霊が見張る程の物だとは、思わなかった。

 そうして膝を屈して震え上がる一同を前に、ディーネは有無を言わさぬ圧力で諭すように告げた。


「ティナ……貴方やクズハ、アウラならば、別に知っても問題はありません。貴方達は我らが口を塞ぐ理由に思い至れる人物だと、我らも認めています。カイトが言わないのは、単に義理立てしているからに過ぎません。貴方が推測や結論を口に出さなければ、知ろうとする事は別に構いません。ですが、それを他人にまで開陳することは許可できることではありません。カイトは決して魔物や人に対して悪害を為す存在ではありませんが……同時に、この事は決して語ってはならぬ事です。我らが黙っているのもその為です。それと、気になるのは致し方がありませんが、他の方々は知るにはまだ早いと思われます。よろしいですね?」


 今にも気を失いそうになる意識を必死で繋ぎ止め、その場の全員が頷く。以前会った時の、おちゃらけた掛け合いが嘘の様な圧倒的な力を感じたのであった。

 喩え身体を許す関係であっても、まだ早い。そう言われる程に、カイトの正体は重要視されていたのだった。


「……ん? どうしたんっすか?先輩方」


 そこにカイトの許可を得て冒険部上層部用の場所での観戦を許可された夕陽が、シャワーを浴び終えてテントの中に入ってきた。横には例の詩織と、弥生達も一緒だ。

 彼らは一様にして真っ青になっている冒険部上層部の面々を見て、首を傾げていた。それに合せて、今までディーネが放出していた圧倒的な威圧感が掻き消える。


「いえ、何でもありませんよ。ああ、先ほどカイトと一緒に戦われていた皆さんですね?」

「あ、はい!……って、誰?」


 背を向けていたディーネが振り返り、その圧倒的な美貌に夕陽が思わず上ずった声で答える。そして、横の詩織に問いかけるが、首を傾げられた。


「カイトの友人の一人、です。既に埋まっていた席を見て、カイトから此方を薦められたのですよ。他にも数名、此方に来ますので、少々手狭になるかもしれませんが、構いませんか? 後、カイトは少々所用で此方には来ない、とのことです」


 他にも数名、つまりは全員が来ると言うことなので、その言葉にディーネの正体を知る全員が戦慄する。


「え? あ、はぁ……俺達も先輩に許可を貰ったんっす。文句は言えないんっすけど……一条先輩方は大丈夫っすか?」

「……ああ」


 見張る、言外にそう言われた気がした瞬は、震えそうになる身体を抑え、なんとか頷く。


「あ、他の先輩方やらは、他のクラスメートと見るってんで、来ないらしいっす。なんか、席取っておいてくれたらしいっすよ。」


 そういうわけで、今夕陽と一緒に入ってきたのは、エキシビジョンマッチ開始まで一緒に居ることを選んだ詩織と、弥生達三姉妹だけであった。


「そうか」

「ありがとうございます。じゃあ、全員呼んできますね?」


 清楚な容姿に見合った上品な一礼をして、ディーネは去っていった。


「……一体、あいつ何者なんだ……」


 ソラが震えながらそう言うが、瞬がその疑問をせき止める。


「やめろ……もう当分はこの話題に触れないでおこう……」


 瞬は首を振って切り上を提言するが、ソレが正解だと全員が全員、胸中で思いを一致させた。そうして全員で大精霊たちの監視の下、大人しくカイト達の戦いを観戦し、興奮で今の恐怖を拭うのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第255話『伝説の英雄達』

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