第17話 生徒総会
カイト達とクズハが再会を果たした翌日。
桜以外の面子は呼ばれなかったが、予想通りに学園側から冒険者としての提案がなされたものの、学園側の予想に反して―カイトからの根回しがあったため―ルキウスらの反対が少なく、更には戦闘訓練などへの協力提案があったため、一部の教員は訝しんだものの、概ねスムーズに話し合いは行われた。そこで決定されたことは主なもので
1.準備などに時間が必要なため、生徒たちへの通達は一週間後に実施する生徒会総会とする。
2.その間は、エネフィアの現状や皇国法などへの習熟期間とする。
3.生徒たちへの、一部グラウンドの施設の使用許可。
4.冒険者協会マクスウェル支部派遣員(冒険者となるには協会への登録が必要)
からの講習を受ける。
5.冒険者協会への登録は、魔力測定で所有する魔力量が規定以上、かつ登録の意思がある上位50名を登録第一陣の上限とする。4の講習はこの50名に関してはマクスウェルにて2泊3日の泊り掛けで行う。
6.ルキウスらからの戦闘術訓練は上記50名のみとし、以降は冒険者として登録した学園生によって行うこと。
7.今回の返礼として、カイトらアルと一番初めにあった面子と校長、カイトらの担任雨宮に加えて生徒会から若干名がクズハへの挨拶に伺う。日程は公爵家の都合で、マクスウェルでの講習の1日目の夜とする。
であった。7つ目はクズハがカイトとティナと会うための隠れ蓑である。
―――――そして一週間が経過した。
この一週間、あるときはソラとティナを通じて学園生が必要としている物資の情報を入手し、桜へ伝えて感謝され、さらにアルらに伝えて何とかならないか、と伝えた、としつつ自分で裏から手配しては感謝され、またあるときは、学校に魔術で製作した分身を残して中津国へ食料の援助を頼みに行っては絡み酒の雌狐と戦闘狂の鬼に絡まれて旧友達との再会に涙した。
更に別の時には浮遊大陸へ向かいティアからの天族の治癒術者の協力を頼みに行って歓待されて苦笑し、と精力的に動いていたカイトであったが、生徒総会の実施されるこの日は戻ってきていたのであった。
「結局総会まで俺らにはなんの通達はなかったなぁ。少しぐらい教えてくれたっていいのに、なぁ?」
初日こそ会議への同席を許されたものの以降は一切呼ばれなかったため、情報が更新されずやきもきしていたソラであった。
多少情報を持っている桜から何とか、今日の生徒会総会で冒険者の情報が開示される、とだけ教えてもらい我慢していたのだ。
「あのなぁ、仕方ないだろ。どっちかというと桜のほうが大変だ。生徒会長として会議に出席して、今や学園生の命を預かる身となったんだからな。」
実際には副会長や一部生徒会面子にも出席が要請されているが、預かっているのは事実なため、呆れた様子でカイトはそう言う。
「だけどなぁ、ティナちゃんだって知りたいって思うだろ?」
水を向けられたものの公爵家家臣の中でも高位に入るため、学園側以上の情報を得ているティナは
「知りたいのは山々じゃが、焦ることではあるまい。」
全てを知っているティナはそっけなく反応するしかない。二人からそっけない反応しか得られなかったためソラが首を傾げて、疑問を呈した。
「うーん。オレだけか。なぁ、翔、お前この生徒総会の内容気になんね?」
近くにいたクラスメイトの山岸 翔と話を始めたソラ。彼も何も教えてくれない学園上層部にやきもきしているらしく同じような愚痴を言い出す。
「ああ。そりゃな。でもよお前らはまだいいだろ。アルやルキウスさんと仲良くなってるからな。少しぐらいは情報無いか?」
この一週間の間であった女子風呂覗き未遂事件によってアルと仲良くなった生徒の一人である翔が親しげにアルのことを名前で呼んでいる。
この一件、ソラ達一部学園男子生徒が女子風呂を覗こうとして起こした一件だが、アルは見回り中にソラらを発見するも、何故自分も誘わなかったのか、と憤慨し、同行したらしい。結局はティナに見つかっていた為、未遂で終わる。ティナはリィルへ念話で通報して彼らを捕縛させ、処罰として、アルはティナによる特別訓練メニューを課され、ソラらは三時間の正座の刑に処されたのである。
「一応口止めされてたけど、もういいか。この生徒総会で冒険者としてやっていく可能性について説明されるらしいな。」
それを聞いていた他のクラスの男子生徒も興味を引いたらしく、小声で話しかけてくる。
「それってあれか?よくゲームで出てくるやつか?」
「ああ。こっちの世界だと魔法も普通にあるからな。モンスターなんかもいるだろ?ヘタしたら戦うかも、ってことでかなり揉めたらしい。」
「ってことは俺らも魔法とか使えたりすんのかよ!」
まじかよ、と聞いていた周囲も若干騒がしくなるが、翔がソラに確認をとる。
「で、どうなんだ?使えるようになんのか?」
「ああ。昔三百年ぐらい前、っだったっけ?」
カイトに確認を取るソラ。カイトはそれに頷いた。
「昔この世界に日本からやって来た、と言われている勇者のことか?だったら三百年前だ。」
「その勇者ってやつのお陰で今オレたちはアル達に守ってもらえてんだけどよ。その勇者ってやつは日本から来てものすげー強かったらしい。当然魔法も使えたんだってよ。」
転移魔法で帰還したことは伝えないように桜や校長からきつく言い渡されたため、口にしないソラ。
「それじゃ俺も使えるようになんのか?」
「アル曰く、魔力は誰でも持っているもの、らしいから、出来るんじゃね?」
おぉー、とテンションの上がる男子生徒一同と一部の女子生徒。そうしているうちに生徒総会が開始された。
「……ですから……というわけで……」
桜―桜によって説明がなされているのは一応生徒総会の形をとっているため―による説明が続くなか遂に冒険者への説明へ話が移り、志願制とする旨が通達された時、一人の生徒が志願の声を上げた。
「志願制であれば三年がまず志願すべきだろう。まず俺が志願させてもらう。」
そう言って立ち上がった生徒は野性的な顔つきの中に若干の気品を感じさせる生徒であった。発言からすると三年生らしい。
「あれは、運動部部活連合会会頭の一条会頭か。すげぇな。こんな場所で真っ先に名乗りを上げれるなんて。」
志願制とされて誰も何も言えない雰囲気の中で真っ先に名乗りを上げた一条に尊敬の眼差しを向けているソラがそう言う。
「他に聞くぞ。誰か俺に続くものはないか!」
誰も後に続かない中、ここにも立ち上がり名乗りを上げる生徒が一人。
「一条会頭!俺も志願します!」
一条の名乗りに触発されたソラだった。カイト、ティナはソラが立ち上がった時点で頭を抱え、総会に公爵側の一人として出席していたアルやリィルらは苦笑している。
「二年か。お前は?」
そう一条に問われ名乗っていなかったことを思い出したソラは全校生徒に聞こえるような大声で名乗りを上げた。
「あ、すんません!二年A組の天城空です!」
その名乗りを聞いた一条は落ち着いた歩きでソラの方へと歩いてくると、ソラの手を取り感謝した。
「天城空か、ありがとう。他に志願するものはないか!」
そう全校生徒に問いかける一条だが反応はない。少し残念そうにするもどうやら彼にはいまいち関係がなかったらしく、ドアへと一直線に歩いて行く。
「ない、か。まあいい、では行くぞ!天城、ついてこい!」
「はい!」
そう掛け合っている二人に更に立ち上がる者が一人。それに気づいたソラが嬉しそうに声を上げた。
「おお!カイト、お前もきてくれんのか!さすが親友!」
今にも肩を組み出しそうなソラ。確かに、カイトは立ち上がっているが、頭が痛そうにこめかみを抑えていた。
「失礼します、先輩。」
ふぅ、と一息つくと一瞬力を抜いて、次の瞬間、手刀を二人の頭へと繰り出した。ズドム、という音と共に頭を抑えて蹲る二人。頭に当たる一瞬だけ魔術を発動させ、痛みだけを増強した、見るものが見れば感動するであろう無駄に洗練された一撃だった。気づいたのはアルらカイトの正体を知る者だけであったのが残念だ。
「聞いていいか、ソラも先輩も。」
そう青筋を浮かべて二人に問いかけるカイトは更に続けて言う。
「一体、どこで冒険者登録を行い、どんな活動し、どんなものが必要か、などがわかっているんでしょうね!?」
カイトはそう一喝した。それを聞いた一条は少し急ぎすぎたか、と反省して照れて頬を掻いた。
「む、すまん。」
一条は少し恥ずかしげにして、ソラと二人でそのまま腰をおろした。それを見てカイトは大きく溜め息を吐いて、桜に謝罪した。
「すまない、桜。続けてくれ。二人はオレが見張っている。」
「あはは……。カイトさんありがとうございます。では続けます。冒険者が志願制であることは述べましたが、まずは魔力測定をしていただくことになります。此方も志願制ですが、冒険者となることとセットではありません。……」
そう言って話を続ける桜であった。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年1月11日
・誤字修正
『中つ国』を『中津国』に修正しました。『の』が『n』になっていた所を修正しました。