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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十二章 第2回トーナメント編
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第252話 第二回トーナメント―団体戦決勝戦・前編―

 カイト達は第二回戦を突破後、第三回戦を突破し、準決勝決定戦と昼食等を挟み、遂に決勝戦が開催される。そして、観客が固唾を飲む中、真琴の放送が始まる。


『さて、3日に渡る長い戦いも遂にこれが最終戦! この後にはエキシビションマッチがあるだけです!』

『既に対戦チームは隠すまでもない! 何故か!』

『この2つしか残っていないからだ! 片や魔導で一方的な試合運びを行っていったチーム魔導王!』

『片や幾つもの戦術を駆使して勝利をもぎ取ってきた神楽坂三姉妹と下僕チーム!』

『何方が勝つか! 戦場は既に全員の目の前に広がっている!』

『舞台は草原! 一切の小細工は無用となった! 既に賽は投げられたのだ!』

『後は只々ぶつかり合うのみ! この舞台は圧倒的な魔術師を抱えるチーム魔導王に有利か!?』

『しかーし! 気になるのはこの男! 今まで大した活躍を見せていないカイト!』

『今までは殆ど陣地防衛に努めていたが、遂に出て来る時が来るのか!』

『出て来たら出て来たで碌でもない事をしでかす予感しかない!』

『味方は既に知っているだろうが、敵にとっては悩みの種だ!』

『じゃあ、皆さんお待ちかね!』

『第二回トーナメント、最終戦!』

『団体戦決勝戦!』

『ファイ!』


 二人が同時に決勝戦の開戦を宣言し、ゴングが鳴り響いて、ついに第二回トーナメントの最終戦の幕が上がるのだった。




「さて、最悪ね。魔術師、しかも遠距離特化に対して、真っ向勝負。当然だけど、飽和攻撃してくるわよ」


 開始早々、皐月が溜め息を吐く。今はまだ準備中なのだろうが、魔術が飛んでくるのも時間の問題であった。


「げ、マジすか……」


 皐月の断言を聞いた夕陽がかなり嫌そうな顔をする。飽和攻撃の中を進軍するとなれば、非常に危険度が高かった。だが、相手が近接特化の此方に対して飽和攻撃を選ばない道理は無い。なぜなら、それが上策だからだ。


「ティナがソレを命じられない奴を指揮官として認める事はないだろうし、楓はそれを命ずるタイプだ。」

「て、事は……もしかして、私達狙い撃ち?」


 カイトの言葉に、暦も嫌そうな顔で尋ねる。


「一応、オレが相殺に回るが、期待はするな。さすがに2対1で本職相手だ。勝ち目は無い」

「ちょ! 先輩も行きましょう! 絶対まずいですって! 大丈夫ですよ! 某義賊の末裔みたいに先輩なら全部切り捨てられますって!」

「諦めろ」


 そう言ってカイトは暦の発言の方をバッサリと切って捨てる。


「姉さん、こいつら弾除けに使ってもいいから、指定ポイント迄移動お願い」

「ええ。睦月、行きましょ」

「え? あ、うん。二人共、そろそろ歩いた方が良いと思うんだけど……」


 弥生は嫌がる暦と夕陽へと布をまとわりつけて、強引に草原を進軍し始める。ティナ達には未だ動きはないが、フィールドは草原だ。此方が行動を開始したのは見えていないはずは無い。すぐに攻撃が始るだろう。


「さて、カイト。あんたの秘策、あてにしてるからね」

「ああ、任せろ。ティナにさえ、見せたことのない戦い方だ。おまけに、きちんと連携さえ取れれば効果がある事は実証済みだ」


 かつて自身も暦の立ち位置で参加した連携である。それ故、効果については自信を持っている。そして、久しぶりの連携に思わず笑みが浮かぶものであり、懐かしさが去来する物だった。


『ちょ! 先輩! 撃ってきましたよ! 早く援護ください!』


 暦の叫び声が響く。既に、何発もの火球に水球、岩が飛び交い始めていた。どうやら、此方の攻め手を潰してから、旗を攻撃する算段であったようだ。さすがに二人の学園でも上位に位置する魔術師相手に、およそ1キロほど進軍したところで弥生達は防戦一方となり、歩みを止められる。


「やってるよ!」


 カイトも何とか魔術で応戦しているが、それでも、手数が足りなかった。そうして、碌な応戦が出来ぬまま、時が無情に流れていった。




 一方、敵陣営では少しだけ残念さが滲んでいた。攻めあぐねる弥生達を見つつ、楓が口を開く。


「カイトの所に魔術師が居なかったのは幸運ね」


 遠距離から弥生達を狙い撃ちながら、楓が隣のティナへと話しかける。他の生徒も往々にして、遠距離から使える<<(スキル)>>で援護していた。


「うむ。さすがにこの構成ではカイトが遠距離をやらざるを得ん」


 編成の際のくじ運に恵まれなかった。ティナも楓も少し、カイトに同情する。もし、一人でも遠距離が出来る生徒がいれば、こうまで接近出来ない事は無かっただろう。それどころか、カイトを起点にして、一気に攻めこむ事さえ、可能かも知れなかった。


「興ざめよな」


 一方的ななぶり殺し。これがティナが得た感想である。最終戦までカイトが残った事は予想通りだが、まさかここまで近接に偏った編成となるとは、誰もが予想出来なかったのだ。それ故に、これまで戦った生徒たちが皆、カイトが魔術師役をこなしている事に疑問を覚えたのであった。


「一気に決める?」

「それしか無かろうて」

「全員、少しの間詠唱に入るから、援護! 一気に決めるわ!」

「了解!」


 楓の号令を聞いて、ティナを除く生徒たちが攻撃速度を一気に上げる。


「折角の秘策、使わねば損じゃ」

「じゃあ、やるわ」


 そうして、二人同時に、別々の詠唱を開始した。




「何をする気?」


 楓とティナが攻撃を停止し、詠唱に入った事に鞭で投石を防いだ皐月が疑問を呈する。


「……まずい。皐月! 全員に通達! 秘策を使う!」

「っ! 了解よ! 姉さん、プランD! 今すぐ準備して!」

『ええ!』


 何をするのかはわからないものの、どうやらまずい状況らしい事は把握した皐月が、大急ぎで進軍していた弥生達へと連絡を入れる。


「カイト! 頼むわよ!」

「ああ!」


 カイトは頷くと、どうやら前が開けられるようになっていたらしい黒いローブをマントの様に背ではためかせた。

 見えるカイトの身体には、傷だらけのブレストプレートが装着されていた。そして更に今までローブの中に隠していた右腕を使い、背中の荷物を掴んだ。ローブから垣間見えた右腕には、どこか鋭利な鈍く光る金色の手甲を装着しており、手甲で肩まで覆われていた。

 そうして、カイトは背負った大荷物の包を解いた。中に入っていたのは、カイトの身の丈程もある巨大な赤黒い大剣だ。大剣には漆黒の鎖が巻き付いており、どこか禍々しさがあった。その異様な姿に、全員――観客や敵である楓達、味方であるはずの皐月達まで――が目を見開いて驚く。


「ちょ! あんた何よそれ!」

「秘策を少しアップグレードしようとな。」


 皐月は包の中身は見せてもらっていたが、それは大剣だけだ。そこに巻き付いた鎖は知らないし、そもそもでローブの中身については一切把握してなかった。そんな皐月を放って、カイトは目を閉じた。


『一体何なんだー! ローブがいきなりマントになったかと思えば、中には近接戦闘用の武装が!これは天音選手、遂に打って出るのか! というか、まるで統一感の無い武装! まるで寄せ集めの様だ! これには何らかの意味があるのか!』

『統一されているのは、あのⅩとⅦが重なった様なマークだけ……杖にも鎧にもローブにも全部にありますけど……どこかで見たような……』


 カイトの異様な姿を見た詩織と真琴が、その意図を探ろうと必死に考えを巡らす。疑問を覚えないのは、カイトのこの姿を唯一――クズハやティナさえ知らないので、本当に唯一である――知るユリィだけだ。


『昔の、本当に昔の17の書き方だよ。あれは骨董品の寄せ集めだね』

『あ……』


 骨董品。ユリィは懐かしげに、そう語る。カイトのあの武装は、自分にとっても思い入れのある武装であった。


『ほう……昔の。骨董市ででも集めたんでしょうか?』

『さあね』


 真琴の推測を受け流し、ユリィはマイクに入らない様に小さく結界を張り巡らせ、カイトと同時に目を閉じ、言葉を紡いだのだった。




「我は鎖となりて、皆を繋ごう」


 そう言ってカイトは大剣に巻き付いた鎖に魔力を通す。それに呼応し、漆黒の鎖は光り輝く白銀の鎖へと変わる。そうして、光り輝いた白銀の鎖は、まるで自ら意思があるかの様にカイトの左腕に巻き付く。


「我は杖となりて、皆を助けよう」


 そう言ってカイトは左手の杖に魔力を通す。それに呼応し、杖の先端の魔石に光が灯る。


「我は大いなる剣となりて、敵を薙ぎ払おう」


 そう言ってカイトは右手の大剣に魔力を通す。それに呼応し、大剣はどこか禍々しく、勇ましい真紅のオーラを纏う。そうして、再びカイトは大剣を背負う。


「我は拳となりて、敵を打ち砕こう。」


 そう言ってカイトは右腕の手甲へと魔力を通す。それに呼応し、手甲は眩い金色の光を纏う。


 そうして、カイトは右手で剣帯の左腰部分に装着した刀を抜き放つ。


「我は刀となりて、敵を切り裂こう」

「我は翼となりて、皆を導こう」


 それに呼応し、刀には蒼みがかった虹色の光が宿る。最後の部分だけ異なるカイトとユリィの言葉は、同時に終わる。そうしてカイトが刀を鞘へと納刀し、二人は同時に目を開き、再び同時に同じ言葉を紡いだ。


「我ら皇国第十七特務小隊也。誰一人失うこと無く、誰一人逃げること無く、戦い抜く者也」


 そうして、二人は再び、違う言葉を紡ぐ。


「さあて、行こうじゃねえか!」

「さて、行くよ!」


 そう言って、カイトは獰猛な笑みを、ユリィは快活な笑みを浮かべる。二人共、思い浮かべるのは同じ人物。ただ、思い浮かべた思い出が違うだけだ。そうして、カイトはティナと楓を見定め、意識を集中した。


「……何をするつもりじゃ?」


 口決を唱えを終え、後は魔法陣を展開しタイミングを合わせるだけとなったティナが、訝しげにカイトの行動を眺める。カイトとの付き合いも15年以上になるが、カイトの装備も、この行動も、そしてその顔に浮かぶ懐かしげな見知らぬ笑みも、それら全てが一度たりとも、見たことがなかった。


「わからないけど、こっちは準備できたわ」

「うむ……では、タイミングは?」

「ええ、合わせるわ」


 そうして、二人が展開した魔法陣は一つへと混じり合い、新たな魔法陣へと変わる。


「では!」

「ええ!」


 そうして、楓とティナは、同時に魔術を始動する。


「<<魔神撃(まじんげき)>>!」


 同時に叫び、二人は二つで一つの魔術を使用した。そうして、魔法陣から現れたのは、巨大な魔力の塊であった。その大きさは50メートル程もあり、威力もそれに見合った物となるだろう。

 そうして、二人は同時に杖を振り下ろした。目標は進軍してきている敵。仲間が遠距離から足止めをしているので、動くことは出来ず、単なる的となっていた。


「これで、終わりね。」


 楓はそう思うが、ティナはそう思わない。カイトの姿が、あまりに自信に満ちあふれていたのだ。そうして、これから何をしてくるのか、とティナは子供の様に瞳を輝かせ、笑みを浮かべたのであった。



「ヘクセンさん、あなたの切り札、使わせてもらいます」


 そう言ってカイトは左手を振るい、漆黒の鎖を伸ばし、弥生達の周囲を覆う。そうして、次の瞬間には、真っ白な光とともに、爆発が起きる。


「<<縛鎖の鎖(ばくさのくさり)>>よ! 仲間を我が前へと来たらせよ!」


 真っ白な光に包まれる中、カイトは更に鎖に命ずる。あの攻撃は、自分には意味が無い。そう思っているが故に、鎖に命じたのだ。


「やった!……はぁ!?」


 光が収まり、弥生達4人が確実に避けられていなかったと判断した男子生徒が歓声を上げる。しかし、光が消えた後、ごっそりとえぐれた地面に弥生達の姿は無く、驚愕の声に代わる。


「頼むぜ、アンリ……はぁあああ!」


 カイトは気合一発、右腕の手甲で地面を殴り、1キロ四方の岩盤を粉々にして、打ち上げる。


「次は爺さんだ!」


 カイトは杖を奔らせ、打ち上がった岩盤へと魔術を使用し、最高で高さ100メートル程までの様々な高さで、ティナ達の旗の近くまで道となるように滞空させる。


「ちぃ! 避けられてたか! どうやってだ!」


 ティナ側の生徒が、思わず声を上げる。爆発後に弥生達4人の姿が無く、周囲を見渡してみれば、カイトの横に4人の姿があったのだ。どうやって一瞬のうちに移動したのか、避けることが出来たのか、疑問に包まれる楓達だが、それを尻目にカイト達は行動に移った。


「総員! 手筈通りに一気に上から攻め入るわ! カイト、後はよろしく!」

「おう!」


 そう言ってカイトを除く全員が、打ち上げられた岩盤へと飛び上がる。


「って! ちょっと! これかなり間隔あるわよ! 私はともかく、姉さん達じゃ飛び移れないわよ!」

 岩盤上へと上った皐月が、岩盤の間隔を見てカイトに文句を言う。


「んにゃ、秘策プランBへ変更だ。道を更に伸ばすぞ! <<縛鎖の鎖(ばくさのくさり)>>よ、道を創れ!」


 そう言って、カイトは岩盤の間に光り輝く白銀の鎖を走らせる。鎖はまるで蜘蛛の巣の様に、岩盤の間に張り巡らされた。


「は!? 何よそれ! プランBなんて聞いてないわよ!」

「オレも行くってことだ!」


 そうして、驚く皐月を尻目に、カイトもまた、跳び上がったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第253話『第二回トーナメント』

 明日でトーナメントは全て終了します。トーナメントは。


 2015年11月1日 追記

・誤字修正

誤『~防戦一方となり、歩きを止められる。』

正『~防戦一方となり、歩みを止められる。』

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