第251話 第二回トーナメント―団体戦2―
一回戦を終えたカイトは、取り敢えず控室に戻っていた。兎にも角にも全員の現状を話し合い、打ち合わせを行わなければ次の戦いに備えられないからだ。
「夕陽と暦、睦月は大丈夫か?」
弥生達攻めを引き受けていた面子が帰って早々に、カイトは状況を尋ねる。
「楽勝っす!」
夕陽はそう言ってパンッと腕を鳴らす。確かに、まだ余力が残っており、十分に連戦可能そうであった。
「私もまだまだ行けます!」
「あ、僕もまだ戦えます」
此方も元気そうに答える暦と、特に辛そうでは無い様子の睦月。確かに、まだまだ余裕そうだった。
「そうか……まさか、彼女に良いとこ見せようとして、張り切りすぎたわけじゃないよな?」
カイトはそう言ってニヤついた笑みを浮かべる。
「ちょ! そりゃないっすよ! そりゃ、まあ、無いとは言えないっすけど……」
そう言って、夕陽が照れる。顔が疲れや興奮とは別に赤くなっていた。カイトと皐月はそれをニヤニヤと眺めているが、カイトは一旦それを打ち切り、ミーティングへと戻る。
「まあ、それは置いておこう……それで、防衛はどうだった?」
「ええ、旗は簡単に落ちたわ。まるで、どうすればいいかわかってなかったみたいね。」
そうして弥生が旗の守りを告げていく。
「私達が奇襲をかけたら、あっという間に、よ。私が片方を縛り上げて、ゆーひくんと暦ちゃんで連携して旗をさっさとよ。」
「やはり、か……助かる。」
そうして、全てを聞き終えたカイトが、納得がいったかの様に頷く。それに、夕陽が尋ねた。
「やはり? なんすか?」
「ん? ああ……妙に早かったから、支援課の生徒が残ったのか、とな。」
「足手まといなら、そうするのが普通なんじゃ……」
カイトの話を聞いた暦が、納得しない様な顔で首を傾げる。それに、カイトが解説を開始した。
「ああ、そう考えたんだろうな……だが、これは逆に言えば司令官がいざ、という時に戦闘が得意でない部下へと指揮出来ない事になる。急な戦闘だとそれが顕著だ。そうなれば実戦経験の少ない兵士は誰も指示出来ず、ただただ右往左往するだけの無能な兵士が出来上がり、だ」
「あ……殆ど苦労せずに旗が落ちたのって……」
「ああ、多分な」
此方が旗に到達した時点で瞬が切り札を使用したことから、瞬は自身以外にも指揮を任せていたのだろうが、守りが薄い事を知るが故に、勝負を急いだのだろう。それを、カイトは聞いた話から推察した。
「こればかりは、方向性か。ウチの様に防衛を第一陣の二人にして、旗の守りを万全とするか、第一陣と第二陣の総力を持って旗を落としに掛かるか……どっちが良いとは言えん。もしくは、第一陣一人に第二陣と支援課から一人ないしは二人にするか……まあ指揮官の腕の見せ所と、状況判断次第だ」
ふーん、そんな感じで頷く一度を前に、カイトが一度言葉を区切り、皐月に尋ねる。
「で、次は市街地だが、どうするんだ?」
「さっきと同じよ。私とあんたで守り、姉さん達が攻める。桜華ちゃんには全体を俯瞰してもらう。それだけよ」
「あいよ」
そう言ってカイトが立ち上がるのに合わせ、全員が立ち上がり、再び戦場へと赴くのであった。
「やっぱり、視界が悪いわね。」
開始して数分。桜華の視点を借り受けた弥生がぼやいた。
「仕方がないだろ。それが狙いだ。」
当然ながら、市街地にはビルや一軒家等の建物が乱立し、隠れられる場所や視界を制限されやすい様になっている。
「……あ、ソラ発見。こっちに向かってきてるわ。姉さん、ソラが敵みたいだから、避けて」
『了解よ、場所は?』
「そこから南西へ100メートルの建物の近くよ。小さな路地に居るから、出逢えば戦闘は避けられないわ」
『わかったわ。少しだけ息を潜めるから、到着が少しだけ遅れるわ』
「ええ、お願い。こっちは持たせてみせるわ」
『頑張りなさい』
そうして皐月は通信を終了し、カイトは皐月へと問いかけた。
「ソラか……他には?」
「二人、ね。行動がまだ洗練されてないから、第二陣か支援課ね。」
今のソラならば、第二陣の生徒二人を守りながら戦う事ぐらいは出来るだろう。とは言え、相手が同じ第一陣の生徒二人掛かりであればあまり保ちはしないだろうが、それでも厄介であることには、変わりがない。
「ちっ、厄介か……」
カイト達は防御に特化した結果、攻め手に第一陣の二人を欠く結果となり、第一陣が一人でも防衛に回れば攻略に時間が掛りかねない。しかも、三人で守られれば、数の利もあまり無くなる。最悪、何方かが援軍に向かわねばならなくなる可能性があった。
「カイト、いざとなったら、あんた一人で守ってもらうわよ」
「ああ、任せろ」
どうやら皐月も同じ懸念を抱いたらしく防衛が一区切りついた段階で、皐月が出陣すると決定した。そうして、十数分後、予想通りにソラが現れる。横には生徒を二人伴っていた。
「お、やっぱ前情報通りか」
カイトの姿を目視したソラが、少しだけ笑みを浮かべて声をかける。カイトの姿を見て驚かない所を見ると、遠視か透視でカイトの姿を見たのだろう。それにカイトは答えず、取り敢えず雷撃を打ち込んでみた。
「っと! アブね!」
ソラはカイトの雷撃を即座に盾を構えて防御する。
「きちんと魔術師をやってるだろ?」
「疑うかよ」
「そりゃそうね」
カイトの問いかけにソラと皐月が苦笑し、わけがわからない第二陣の生徒が首を傾げる。
「さてと、問答は無用にしとこうぜ」
通信で受信した情報から弥生達の旗への到着はもう少し掛かりそうだと判断したカイトと皐月だが、どうやらソラ達も同じ判断をしたらしく、話もそこそこにソラが戦闘態勢を取る。
「時間稼ぎは無理、と……じゃあ、こっちから!」
そう言って皐月が鞭を振るい、攻撃を仕掛ける。それに合せて、横の生徒達も戦闘態勢を取り、戦闘を開始する。
「おっと! 甘いぜ!」
「あんたと喧嘩なんて初めてよ!」
じゃれあい程度の殴り合いの喧嘩ならばカイトと時々繰り広げる皐月だが、ソラとは初めてであった。
「そりゃそうだ……どうみても女だもんな……」
そう言ってソラがげんなりと肩を落とす。
「俺、未だに男と信じらんね……」
「え? こんなに可愛い子が女の子のはずがないだろ。お前、何言ってんだ?」
そう言って断言する男子生徒にソラとカイト、そして残りの一人の男子生徒が思い切り振り返った。その目は明らかに正気でなかった。
「男だぞ! 目を覚ませ!」
ソラは思い切り断言した男子生徒をガクガクと揺さぶる。どうやら色々と大混乱していると思ったらしい。そして案の定、大混乱している。
「え? でも穴はあるんだよな……」
「ええ、あるわよ。なんならカイトに聞いてみなさい。一緒にお風呂にも入ってるから」
「おいヤメロ。オレの株を下げるな。というか、お前が生物である限り穴はあるよな」
「今更下がんないわよ。その程度で」
「なん……だと……」
皐月の言葉に、カイトが信じられない、という顔で愕然とする。が、これに周囲の男子生徒が声を荒げた。
「お前は当たり前だ! 何人美少女を侍らせてやがる!」
「男の娘が入ると別だろうが!」
「え? お前、いけんじゃねえの?」
断言した生徒とは別の男子生徒の言葉に、カイトが怒鳴る。そんなカイトに、断言した男子生徒が目を見開いて驚く。どうやら老若男女関係なく食指を伸ばすと思っていたらしい。
「……わからん」
「断言しろ!」
断言出来なかった親友に、ソラが突っ込みを入れる。実はこの時点でカイトのペースに乗せられていると気づいていない。ここまで全てカイトの演技なのだ。これを見抜け、きちんと部下の暴走を抑えられるか、という昨日の申し出を受けたテストに近かった。が、この調子では合格点どころか及第点にも程遠かった。
「だって、なあ?」
「まあ、なあ?」
「ああ……」
そう言ってソラを除く男子生徒が顔を見合わせ、何故か小悪魔的なポーズをとっている皐月を注目する三人。そうして、三人は唱和した。
「「「これ、どう見ても女じゃね?」」」
「ありがと」
一回転してウインクする皐月。彼女はソラ以上にカイトの性格を熟知していた為、カイトの策略に乗ったのだ。そうして皐月が翻った瞬間、スカートがめくれ上がり下着が見えそうで見えなかった。それが尚更あざとかった。
それを見てカイトが拍手を、他の二人は口笛で歓声を贈る。尚、観客の生徒の半数以上も皐月に歓声を上げていたが、カイト達には聞こえなかった。
「「「さすが皐月ちゃん! 下手な女より可愛い!」」」
「そう? 照れるわね」
そして照れる皐月を前に、唱和した三人で握手。この時、敵味方関係ない友情が結ばれたのであった。
「だから、男だ! つーか、いい加減に戦闘にもどれ! 雷撃流し込まれるぞ!」
「……へ」
「うおあ! やっべ!」
握手した手から雷撃を流し込んで気絶させようとしたカイトだが、その前にソラの怒号で我に返り急いで手を離した。
「ち……勘の良い」
「はぁはぁ……なんで戦闘前にここまで疲れなきゃなんねえんだよ……」
「部下の統率を取るのも司令官の役割だ。それが新兵ならなおさらだな」
「ち……正論過ぎて何も言えねー」
そもそも、戦闘が開始されたのに部下に敵と馴れ合わせる時点で落第点である。それを放置するどころか、自ら喋り始め切っ掛けを作ったソラは、まだ及第点にも達していなかった。
「はぁ……気を取り直して! うおりゃ!」
そう言ってソラが横薙ぎに片手剣を振るう。
「ち!」
カイトはソラの攻撃を、杖に障壁を張り巡らして受け止める。木製の杖と剣が衝突し、金属の様な澄んだ音が鳴り響いた。更に続くソラの攻撃をカイトは全て杖で防ぐ。
「ちょ! おま! 魔術師が近接戦闘ってありかよ!」
「最近の魔術師は体術も必修なんだよ!」
まさか魔術師として役に入っているのに近接戦を平然と行うとは想定していなかったソラが大焦りで問いかけるが、カイトはそう言って蹴りを繰り出し、間合いを離す。
「ち! マルチファイターだ! 気を付けろ!」
「おう!」
「こっちも居るの忘れちゃダメよ!」
そう言ってカイトに掛り切りになるソラを尻目に、皐月がその他の生徒へと鞭で攻撃を仕掛ける。
「っと! やべ! <<巨大盾>>!」
ソラは皐月の攻撃を盾の巨大化で防ぐ。盾にあたった鞭は、パシン、と乾いた音を出して弾かれる。
「オレも居るんだがな!」
更に皐月に続けてカイトが雷撃を繰り出す。
「ちょ! お前ら容赦無いな!」
繰り出される波状攻撃に、ソラが防戦一方に持ち込まれ、他の二人の生徒も手を出せない。下手に動けば、攻撃を受ける可能性があるからだ。
「当たり前よ!」
「ちぃ! ちったあ容赦してくれよ! こっちは第二陣連れてんだぞ!」
「アホか! そんなの連れてきてカバーしきれると思ったんだろ!? ならそっちの責任だ!」
「攻めの一手か俺も守りに出るべきだったか!」
どうやら瞬と同じく戦闘専門が全員で出る、という策と、ソラ自身が守りに就くという策は有ったらしい。ソラは攻撃能力の低下と、先陣で第二陣を守りきれる可能性が高いのが自身であるという結論からこの構成としたのだが、カイトが守りに就いていることだけが、誤算であった。
「ぐあ!」
そうして、ソラが守りつつ、第二陣の生徒がところどころで攻撃を繰り出す、という繰り返しが続いていたのだが、ある時、ソラの後ろで苦悶に呻く声が上がる。
「何!」
ソラがその声に振り返れば、そこには倒れこんだ男子生徒が居た。一切気付かれること無く、倒されていたのだ。
「オレが雷撃だけだと何時言った?」
「一体何したんだ!?」
横に居た男子生徒も何が起こったのか理解できなかったらしく、停止して目を見開いて驚いていた。その隙が見逃されるはずはなかった。
「こっちよ!」
そう言ってソラが振り返った隙に、皐月が驚き、動きを止めた男子生徒へと向けて鞭を繰り出す。
「ちぃ! アブねえ! 考えんのは後だ! ぼさっとすんなよ!」
「スマン!」
ソラは間一髪に皐月の攻撃を防ぐ。これ以上は敗北に繋がるので、完全に攻撃を捨てる。
「あー、くっそ! <<球盾>>! 危なくなったら俺の後ろに入れ!」
「助かる!」
このままでは全滅する。繰り返される波状攻撃と不可解な攻撃を前にソラはそう判断すると、自身の前面を覆い尽くす様な半透明の膜を創り出す。
<<球盾>>は前面に半透明の半球状の障壁を創り出す技だった。不可解な攻撃が喩え不可視であっても、これで前面からの攻撃は完全に防ぎきれる様になった。永続的に作り続ければかなりの魔力消費になるが、守りきれなくなるよりはマシだ、と判断したのである。
「……種明かしだ」
しかしカイトはそれを嘲笑うかの様に呟くと、男子生徒の後ろ側から衝撃を加え、脳を揺らす。
「ぐはっ!」
「何!」
警戒はしていたはずだ、そう後悔するソラだが、既に男子生徒には戦闘不能の判定が下されていた。
「お前らはいつもド派手な技にばかり拘る……まあ、仕方が無いがな。オレも昔はそうだった」
苦笑したカイトは、少しだけ自身の若かりし頃を思い出す。カイトも、かつてはド派手な名前や見栄えの技を多様した経験があったのだ。特に年齢が中二病真っ盛りの中学二年生なので、仕方がなかった。
とは言え、学園全体に言えることなのだが、実は学園生も現在訓練中の教師たちにしても、見栄えのする技を選ぶ傾向が散見されていた。元々魔術の一般化していない地球で生まれ育った以上、どうしても憧れや期待があり、見栄えが良い技を選んでしまっているのである。
これは、カイトとティナの悩みの一つでもあった。見栄えが良いからと言って、全ての技が効果が高いわけではないのである。いや、それどころか見栄えが良いことこそが、デメリットとなる場合も往々にして存在しているのだった。今回も、その一つであった。
「皐月! 頼んだ!」
「じゃ、そっちも頼んだわよ!」
皐月はカイトの言葉に応じて、ソラの横を一気に駆け抜ける。残るはカイトとソラだけである。
「ほう……この程度の判断力はあるか」
ソラは一切皐月の方を見ること無く、カイトを注目し続ける。
「お前相手に後ろみせるつもりはねえよ。」
二人して、獰猛な笑みを浮かべる。カイトはソラを防ぎきれば、ソラはカイトを攻め切れば、勝ちなのだ。お互い、本来は逆の立ち位置であるが、その偶然が面白かった。
「ちっ、講義は後で受けるか……後は全力だ! <<風よ>>!」
そう言ってソラは風の加護を展開すると、全力でカイトへと連撃を仕掛ける。今までは防御に回す為、無駄な魔力の消耗を厭って使わなかったのだ。だが、事ここに至り最早温存は不要だと決めたのである。
しかし、攻撃特化の瞬と更に数人の連携攻撃を防ぎきったカイトの防御を防御特化でカウンター狙いのソラが簡単に攻めきれるはずはない。そして、十分程経過した所で、遂にゴングがなった。
『勝負あり! 勝者、神楽坂三姉妹と下僕チーム!』
「定着させる気か……」
真琴が相変わらずのチーム名を言う事に、カイトが少しだけ呆れ気味で呟いた。
「あー、やっぱ攻めきれなかったか……」
「当たり前だ」
「結局、お前何したんだ? 俺も一応気をつけてたんだけどよ……」
「ああ、あれか……あれは」
そうしてカイトが解説する前に、ユリィの声が響いてきた。その声には何処かお株を奪われてなるものか、という執念が滲んでいた。
『ちょっと待ったー! それは私の役目! カイトが何をしたのか、については私が解説するよー!』
大慌てで止めたユリィは大声で解説の役割をアピールして、一度声のトーンを落として真面目に解説を始める。
『では、カイトが何をしたのか、ですが……これは闇を操って、密かに後ろから攻撃してたんだよ。カイトが多様していた雷撃は実はあまり威力が無くて、その代わりに見栄えがするように構成されていた。ソラの盾にぶつかってド派手に稲光が散っていた様に見えたけど、あれは全部見せかけ。ソラも稲光がすごかったし、体術の威力はそれなりにあったから気づいていないみたいだったね。そして、カイトの攻撃が体術と雷撃である、と印象づけておいて、明るい雷撃を囮に、地面に貼り付けた闇を這い寄らせる。そうして、ゆっくりと忍び寄って影に同化。後は残りの二人の視線が仲間から同時に離れた瞬間を狙って、後ろに闇を実体化、脳に衝撃を加えて、昏倒させる。それが、今の一戦の答えだよ』
「げ……ってことは、最初の問答無用の一撃って……」
ユリィの割り込みの解説を聞いたソラが、目端を引き攣らせる。完全にカイトが雷撃と体術をメインに戦っていると思い込んでいたのだ。
「まあ、刷り込みの一種だな」
そう言って、カイトは口端を歪める。ソラはカイトが見栄えにも拘ると誤解している――以前にティナが言った圧倒的な勝利という理由――ので、勇者=雷撃というある有名なRPGゲームの刷り込みによって誤解してしまっていたのだ。
「うが……まじかよ……」
ソラはそう言って呆然とする。
「ちなみに、オレがそこの二人を倒したのは……こいつだ」
カイトは自身の真横に、影で出来た狼を出現させる。全身が闇で出来ており、ところどころで火の粉の様に闇が舞い上がり、水滴の様に闇が垂れ落ちていた。
『……あ! ちょっと待ってください!……あの、その黒い狼って天音先輩独自のモノですか?』
戦闘中に使用されていた技の解説をしていた詩織が、説明途中でカイトに問いかけた。それに、カイトは頷いた。
「ああ、夜襲用に開発した<<影狼>>だ。意外と便利でな。ほれ」
そう言ってカイトは狼を闇に沈め、泥の様な闇がカイトの影と同化する。
「これで後ろを敢えて取らせて下からズブリ、更に自分でザシュ、というのも応用として使える。もともと不定形だからな。どんな形でも可能だ」
「容赦ねえな……」
イメージで背後から忍び寄る敵を創り出し、下から闇の槍で串刺しにした挙句に自身で切り捨てるという流れを示したカイトに、ソラが呆れる。
『えーと、それって簡単なんですか?』
「<<影狼>>か?」
『はい』
「<<影狼>>は単に闇を操っているだけだ。別に難しくはない。構成こそ自分でやったが、簡易な術式だ」
そう言うカイトだが、カイトとてそうでもないとこんな所で使うつもりはない。調べられて上位魔術であるがバレると、碌な事にならないからだ。
尚、本来の<<影狼>>はもっと高位の術式だが、これはその劣化版であった。本来ならば擬似的な使い魔みたく、勝手に行動し、変形も可能という厄介な狩人なのである。
『そうですか……ありがとうございます』
カイトの問いかけに納得した詩織は更に解説を続け、カイトはそれを背にその場を後にするのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第252話『第二回トーナメント』
・2018年12月10日 追記
作中『こんなに可愛い子が女の子のはずがない』という文言がありますが、これは誤表記ではなくこういう言い回しが一部の界隈で本当に存在するそうです。『男』ではなく『女』で正解だそうです。
生徒が大混乱している事を表す為に使っているのですが、逆に読者の皆様にも混乱を招いた様子で申し訳ありません。ここで補足しておいて表記を修正するのも可怪しいですのでこのままにさせて頂きます。